聖夜も相変わらず
(とっても長いです!!あと仕掛けがちょこちょこありますv)
これは25日を目前にした日曜日の話…
「あれ?見てノエル!あそこに見慣れない占い師さんがいるわ!」
「本当だ…しかしどうみてもインチキなように見えるが」
休日、待ちに待ったルルとのお出かけを満喫した帰り道、大通りに見るからに怪し気な占いをしている男がいた。
・・・占いと言えばヴァローナさんによくしてもらったけど…よく当たるし、助かったっけ。
ノエルとの最終試験を終えるまで、何度通ってアドバイスを受けただろう?
ヴァローナさんが特別とは言え、それでも占いには興味があった。
「ね、ちょっと占ってもらおうよ!」
「・・・僕は嫌だ。ああいうのはろくなこと言われたことがない…んじゃなくて、そういう迷信は信じないことにしているからな!」
「そんなこと言わずに、いいこと言われたら嬉しいし、いいことだけ信じればいいよ!ね?」
上目遣いでくいっと袖を引っ張られて、ううっろくな思い出がないのに。と思いつつも…頷いてしまう男の悲しい性…
「すみません!私たちも占ってください!!」
「はい、可愛らしいお嬢さん。是非…」
にっと笑う男の仕草が不気味でノエルは思わずルルを背に隠した。
「おや、ナイトの登場ですか?ふふっではそちらから占いましょうか…」
「な、ナイト!?何を言っているんだ…僕がナイトだなんて…」
「ノエル?顔が笑っているわよ?」
「わ、笑ってなんかないぞ!それに僕は別に占いは…「占いました」
「「早っ!!」」
ノエルとルルが驚いた表情をする中、その占い師はにっと口元を更に歪ませた。
「そちらのノエルさん。あなたには多大な受難の相があります」
「な・・・・」
「ありとあらゆる受難があなたを襲うでしょう。最大の苦しみは25日に…ふふっ・・・」
「う、嬉しそうに言うな~!!!!」
口では勢いあるけど、ノエルの顔は真っ青である。
・・・・占いは信じないんじゃなかったのかしら?そう思いながらルルは「私は?」と尋ねた。
占い師は一転、わざとらしい微笑みを浮かべる。
「可愛らしいお嬢さん…あなたにはよいことばかりが訪れるでしょう」
「本当?」
「はい、特に25日はいろんな男の人に言い寄られるのではないでしょうか…楽しみに…」
「え!?いろんな男の人?それは困るわ」
そんなに嬉しそうな顔をしないで、首を傾げる様子のルルに、ノエルはほっとしていた。
「ま、まあ…君にはいいことばかりだそうだから・・・信じればいいさ…ああ、僕のことは気にしないで「うん!信じるわ!」
全くノエルのことなど気にせず、うんうん!と頷くルルに、ノエルだけではなく、占い師もおやっと顔を歪める。
「だって、私にいいことばかりなら、一緒にいるノエルにだっていいことばかり起こるわ!きっと、ね!」
「ルル…き、君って人は…(じ~ん)」
落ち込んで下がっていたノエルの肩は、その言葉で自信をつけたのかいつものように胸張った状態に戻った。
仲良く並んでその場を去っていく二人の後ろ姿に、占い師は「へえ」と感嘆の声をあげた。
うまく飼いならしたものだと、そっと口の端をあげた。
「・・・・・・・あ、あの占い師の言ったことは本当だ…・」
夜、ノエルは一人机に頭をもたげながら…考えるのが恐ろしいけどそうせずにはいられないという感じで頭をかきむしっていた。
無理もない。
昼間占いをしてもらい学院に戻った後の数々の出来事が彼を不安にさせたのである。
最初はビラールだった。
「おや?ノエルにルル、二人でお出かけデスか?仲がいいデスね」
「ま、まあそうだな」「うん!」
「・・・丁度よかっタ。お茶をしようと思っていたんデス。ご一緒にいかがデスか?」
学院に戻ればすぐに寮の部屋にいつも戻る二人だったから、お茶でも飲めばもう少し一緒にいられる。
そんな思いが頭をもたげて…
「僕も飲みたいと思ってたところなんだ!ル、ルルはどうする?」「うん!じゃあ私も」
今日はもう少し、傍にいられる…少しの幸せに満たされていた彼を…
「ああっ!!すみまセン。ついうっかり…」
「わ~コーヒーの染みがくっきり。すぐに洗った方がいいわね!」
・・・・・・・コーヒーの零し方に何かわざとらしい違和感を感じたのは僕だけか?
「大丈夫、大丈夫デス。水の魔法できれいにしてあげましょう」
「そ、そんなことが出来るのか?」
「ハイ。では・・・・レーナ・アクア…」
ザバーーーー!!!!
「・・・・ビラールこれはやりすぎなんじゃ・・・」
「そうデスね、加減が難しいデス」
「ビ、ビラール!!わざとだろう!?」
顔を赤くしてムキになるノエルに、ビラールはまあまあ、とあくまで穏やかで。
「でも染みはとれまシタ。後は乾かせばいいだけデス」
「乾かすって…暖炉の傍にでも行こうか?ノエル」
「ああ、そうするしかなさそうだ…うう、寒い「ノエル、俺が乾かしてあげるよ」
爽やかな感じで口を挟んだのは…この声は…
「結構だ。無理だ。貴様に何をしてもらおうなどと、僕はこれっぽっちも思わない」
「ノエル、そんな言い方はよくないわ。ユリウスだって善意で言ってくれているのに」
「うん。そのまま暖炉に当たっていても風邪ひくよ、きっと。俺が風の魔法で早く乾かした方がいいと思う」
にこっと悪意のない無邪気な微笑みが、却って腹立たしいのに全く気付かない。
「いや、貴様に頼むとろくなことにならな・・・「レーナ・ベントゥス!!…風よまき上がれ、彼の者を覆う水を吹き飛ばせ!」
「ひ、人の話を聞け~~~ゴオオオオオオ・・・・・・
ノエルの叫びは風の轟音に呑み込まれてしまった。
もはや洗濯機のようにくるくる回されて…さすがのルルも「ゆ、ユリウス…止めて!!このままじゃノエルの目が回っちゃうわ!」
「あれ?失敗かな…いや、さっきソロ・モーンで手に入れた魔法具が確か魔力を増長させる効果があるって…そうか!その増長分を入れずに発動してしまったから・・・「ユリウス?ノエルが回されすぎて確認できまセンよ?」
ああ、そうか、と気づいたようにようやく風を止めたユリウスとルルとビラールの三人が見たものは…
わかめのような(ぴったりな表現)ノエル。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「た、大変!!こんなに顔色も悪いし、早く温めなきゃ!!」
「そうか、風だけだと体感温度が下がって寒くなっちゃうよね、火や光の魔法と融合させないといけなかったかな?」
「ユリウス、とりあえず暖炉の前に運びマスよ」
目をくるくる回しながらまだ気付かないノエルの手をルルがきゅっと握って覗きこむ。
ひどい目にはあっているのだけど、ビラールやユリウスから見たら、なかなか羨ましい状況で。
「あなたたちはまた問題を起こしたのですか?」
そこへはあっと溜息をつきながらエストがやって来た。伸びているノエルをちらっと横目で見ると仕方ないと言うように…
「レーナ・フラマ…」
暖炉の火の勢いを少しだけ強めて、ノエルを温めようとした。
「ありがとう、エスト」
「いえ、別にかまいません。早く気づいて大人しく部屋に戻ってくれればそれが一番です。それよりこれを…」
言いながら本を差し出すエストに、すごい勢いで人がぶつかって来た。
「!?な、何・・・・「だ~!!!!誰だっ!!エストか、わりー!!」
倒れこんだ二人。慌てて跳ね上がったラギの下から、不機嫌そうにエストがのっそり立ち上がった。
メラメラメラ…
「ん・・・何か熱くなってきたような…「…エストの持っていた本が燃えてますね」
「え…」
火の勢いが強くなる中、その中心には何かの本がどんどん焦げて紙が墨になっていく…
「大変!エスト、いつも持っている魔道書なの!?」
「いえ、違います。あれは…ノエルの忘れもので…」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「忘れる方が悪いってことでいーんじゃねえか?」
「何の本だったんだろう?気になるな。図書館でまだ読んでいない本かな」
「ユリウス、それなら先生に報告しなくちゃ!!エスト、何の本かわかる?」
「いえ、興味がなかったので見ていません。本人に聞くしかないと思いますが」
「でも一向に気がつきまセンね」
好き勝手言うな!!くそ…体が動かない…・うう…
う~ん・・・と黙りこんで五人がノエルを見下ろす中、無理やり起こせばいいだろ!とラギがその大剣をノエルに振ったのだった。
「くっ…あんな目にあわされて…大事な蔵書(…のように見えるように細工したただの本)は燃えてしまうし…おまけにこんなコブ…」
まだひりひりする頭を押さえてノエルは泣きそうになる。
占いが本当なら…25日、これ以上のことが起こるのだと…不安で胸が詰まる。
そういえば、ルルが言い寄られるとか何とか…
この日からノエルは何か思い詰めたように暗くなっていったのだけど、そんなことなど関係なく、25日は当然訪れるのである。
その日、朝から布団から出ずに陰気になっていたノエルとは対照的に、学院内はそわそわした感じがする。
クリスマスだから何だって言うんだ!!僕にはそんなもの関係ない。今日は一日大人しく…と決め込んだノエルの許にメサージュがひらひらと飛んでくる。
『湖のほとりに一人で来ること』
「・・・・・・・な、何だ!!何のことだ、これは。やはり何か悪いことが起きるのか?」
頭が混乱するノエルに、そういえば、と気にかかることが一つ浮かんだ。
最近ルルの姿を見ない。もしかしたら、これはルルから・・・??
微かな淡い希望を胸に秘め、ノエルはようやくのろのろと立ち上がり、支度をして…
いつものようにバッチリセットしてから、湖のほとりへと向かったのだった。
向かった先には…
「遅い!遅いぞ!何してんだ、肉がもう冷えてんじゃねーか!」
「冷えるどころか、焦げてマスよ。寒いからって火を強くしたのはラギデス。自業自得デス」
「まあ、確かに寒いよね、ルルちゃんはどうしてこの場所を選んだのかな」
「さあ、あの人のしようとすることは僕には理解しかねるので」
「そういえば、肝心のルルはどこ行ったのかな?」
何やらいつものメンバーが揃っている。
ぱっと見、ささやかな何かのパーティの準備が出来ているけど…まさか…
「こ、これは…もしかして、…・僕の…いや、クリスマスパーティか」
「いや、違うよ。ノエルの誕生日祝いだって」
「ユリウス!ここまで内緒にしてたのにさらっと言うな!!」
誕生日祝い?僕の?
俄かには信じ難いような視線を向けるノエルに、とにかく、とエストが包装された物を差し出す。
「これは誕生日プレゼントです。受け取ってください」
「君が…?(いつも我関せずなのに、やはり年相応のかわいいところもあるんだな)」
「…わかりやすい詮索は止めてください。早く受け取ってください。手が疲れます」
「あ、ああ!頂こう!…これは何かな?」
わりと重い包みに、ノエルが楽しそうに包みを開くと、燃えたはずの本があった。
「あの時燃えた本と同じ本に、よくわかりませんがあなたが施していた装飾をしました。これで貸し借りなしです」
「・・・・・・本の内容は知らなかったんじゃ…」
知らなかったと言い張る一同に、自分があれを大した魔道書のように語っていたことを思い出す。
エストは知っていて黙っていたのか。
「その質問に答えるのは僕ではありません。答えるとなると面倒なことになるので」
「そ、それじゃわからないぞ!ちゃんと説明を・・「まあまあ。次はワタシです」
はい、とビラールが差し出したのは…あの日ノエルが着ていた私服と似たようなデザインの服だった。
「染みはとれまシタけど、あんなにひどく扱ってはもう着ることはナイだろうと思ったのデスが…」
ちらっと、あの日と同じ服を着ているノエルを見る目に悪意はない。ないのだろうけど…こ、これだから王族は!!
「大丈夫、着心地はこちらの方がいいデスよ」
「余計なお世話だ!僕はこれが気に入って…「ギャンギャン喚くんじゃねーよ!おら、受け取れ」
ラギが差し出したのは…・肉?
「ミルス・クレアの中では一番うまいと思ってる肉だ」
「・・・・・・」
「オレが一番うまいと思っている肉は…残念ながらおまえに分ける気はない。わけるなら…あいつと…」
「・・・そのあいつが気になるんだが、まさか…「う、うるせー!いいからとっておけ!!」
とっておけと言われつつ、ぐっと骨付き肉を口の中にねじ込まれた。
文句も言えなくてモガモガ言っていると…
「じゃあ、俺からはこれ。ノエルがずっと探していたらしい本だよ」
「もが!!!!!(それは図書館の本だ!ユリウスの本じゃないだろう!!プレゼントとは言わないぞ!!!)」
「ルルに頼まれて探したんだけど、苦労したよ。何せ本の量がものすごくて、あの中から言われた本を探すのにこんなに時間かかるとは思わなかった。部屋を出るたびに崩された本に押しつぶされてさ、それをマシューから聞いたルルがもういいって気を遣ってくれたんだけど、うん、いい子だよね、優しくて可愛いし…「モガ!!!!!!(何の話をしているんだ貴様!!!)」
はいはい、とアルバロが間に入って何か袋を差し出した。
「これは俺から。ノエルくんにはプレゼントならこれしかないと思ったんだけど…でも手に入れるのは難しくて苦労したよ」
「ア、アルバロ…そんなに苦労したものを僕に」
「うん。でもノエルくんが協力してくれたから手に入ったんだ。開けてみて」
「す、すまないな(協力?何かしたかな)・・・・・・これは・・・・?」
何やらひからびた手のような…一体??
「あ、それ奇跡の手だね」
「おー確かにノエルに必要だな」
「それを持っていれバ、ソロ・モーンの店で必ず本物がもらえマスよ」
その言葉にノエルの瞳が輝く。「ほ、本当か!!すごい!そんなものどうやって…」
「ベターカードで15勝です。なかなか大変ですね…」
「いや、ノエルくんが勝たせてくれたからね」
微笑みながら言い放ったその言葉にノエルは一瞬動きを止めて、ふふっと軽く笑った。
・・・・・・・・あ、キレたな
皆がそう思った時、その空気を一瞬にして鎮めた声。
「ノエル!遅くなってごめんね!!もう始まってたよね!・・誕生日おめでとう!!」
ほっぺも、鼻の頭も、手も真っ赤にして、寒い中自分のもとへ駆け寄ってきたルルが、そっと首にマフラーをかけてくれた。
よくよく見れば(よくよく見なくても)少しいびつで、よれているけど、でもそれは…
「手編み?ルル、君が僕の為に?」
「うん!あと少しってところで間違えて…時間かかっちゃった。ごめんね!」
「いや…ありがとう」
先ほどまでのイライラどこへやら、顔が緩むのを隠すようにかけてくれたマフラーにノエルは顔を埋めた。
「ね、ドッキリどうだった!?嬉しかった!?」
「ドッキリ…?このパーティのことだろう?ああ、びっくりした「パーティだけじゃなくて…」
そのルルの言葉に、ノエルは?マークを頭に散らす。な、何のことだ?
「ん?まだ言ってないの?」
皆の顔を見回すルルに、皆もそうだとコクコク頷く。。
「ルル…ルル!ドッキリって何なんだ?このパーティのことじゃないのか?」
「うん、それもだけど…実はね?」
聞かされた事実は…嬉しいどころか、頭を痛めるような内容だった。
―――占い師はアルバロ。あの日起きた数々の出来事は全部計算通り。
そんなことがあっていいのか!!!!!!
「何でそんなことをする必要があるんだ!!」
「ルルがね、ノエルの誕生日祝いをしたいって言ったんだけど」
「普通じゃつまらねーって話になったんだよ」
「それでパーティを秘密裏に進めましょうって話になったんデスが」
「それでもつまらないと言い出したのが…」
「俺。ノエルくんを一度気分を下げさせといた方が喜びも大きいよってね」
それで、あんな…あ、あんな・・・・・
「いくら何でもやりすぎだろう!?」
「うん、私も正直びっくりしたの!でもみんな力の加減がわからなかったんですって」
絶対嘘だ!!
思い返せば何か個人的な恨みのようなものが込められていた気がしてならない。
そう、きっと横にいる少女が自分の傍にいることへの…
それを裏付けるようにビラールがにっこり口を開いた。
「まあ、ルルに手作りのマフラーなんてもらえるのハ、ノエルだけデスから。…あれくらい大丈夫デス」
「だな。頭にでかいたんこぶくらい、どーってことねーだろ」
「燃やした本は元通りにしました。文句はないはずです」
「うん。ちょっと目が回るくらい問題ないと思う。」
「そうそう、ノエルくんはルルちゃんが傍にいれば、すぐに元気になるよね」
五人は笑って話しているけど、こちらはとても笑えそうにない。
やっぱりわざとじゃないか!!!と言う叫びをぐっと堪えて、ふるふる怒りに堪えているとルルがあれ?っといった表情でノエルを見上げる。
「ノエル、あんまり嬉しくなかった?」
「いや…君の気持ちは嬉しいんだ。…ありがとう」
ルルだけは、純粋な好意なのだ、そうだ。それが一番だ。僕が一番欲しいものなんだから。
ようやく心の底から微笑んだノエルに、ルルも嬉しそうに微笑んだ。
かけたマフラーをそっと引っ張って…・
おしまい♥
長いっ!!長いけど、ワンドはオールでわいわいさせるの好きですv
みんなルルに矢印向いてます(笑)
アルバロの占い師、始めから気がついた方いるでしょうか?胡散臭さがすごかったと思いますよ!
とにもかくにも、ノエルお誕生日おめでとう!&メリークリスマス!!