私が想いを伝えたいのは斎藤さん。





誠実で、まっすぐな男の人。
心くすぐるような優しい言葉は紡がないけれど、
私のことを、私の気持ちを、私の立場を、全部を考えて、言葉をくれる。
率直な物言いに含まれてる斎藤さんの優しさが本当に心に温かくて。
いつからか、時折見せてくれる微笑みは私の宝物になった。






「千鶴」

愛しい人の声に振り向けば、少し申し訳なさそうに斎藤が眉を寄せていて。
何でしょう?と尋ねれば、言いにくそうに口を歪めた。

「・・・今度の休みには一緒に甘味処に行きたいと言っていたな」
「はい!斎藤さんが連れていってくださるんですよね」

少し前に、土方から幹部のものと行動するなら一日くらい息抜きで出かけてもいいと言われ、千鶴は真っ先に斎藤にお願いしていたのだった。

「・・・それがどうかしたんですか?」

先ほどの斎藤の表情を思い出して、何となく斎藤の言いたいことの意味がわかったけれど、それでも少しの希望にすがって言葉を続ける。

「・・・しばらく休みを取れそうにない。このところ任務要請が多い割に人手が足りないからな」

申し訳なさそうにしたのは少しだけ、ほんの一瞬だけで、後は淡々と業務報告のように言われて。
楽しみにしていたのは自分だけなのかな・・・と、残念だし、何より・・さみしい・・・そんな気持ちが隠せなくて、千鶴の表情に現れていく。
そんな千鶴の表情に気がついた斎藤は・・・

「千鶴」
「はい?」
「・・・俺以外の者なら休みも取れると思う。他の者に頼めばいい」
「・・・・・・いえ、皆さんも同じように忙しいでしょうし行くのは・・いいです。・・・また今度にします」

あっさりと、他の者と行けばいいと言われて、泣きそうになる気持ちをぐっと耐えて、斎藤の顔を見上げる。
俯いてしまったら、涙がこぼれ落ちそうだったから・・・

「だが・・・」
「いいんです。気にしないでください」

にこっと笑顔を作って、その場を離れようかとも思ったけれど、でも・・・
・・・・たまに見せてくれる笑顔は気まぐれですか?私だけじゃないんですか?

不安になってくる気持ちを押し隠すように、もう一度胸に秘めた期待を込めて。

じっと斎藤を見つめる。
言葉を交わすわけでもなく、ただ、じっと。
・・・お願い・・・何か反応見せてください・・・
そんな千鶴の願いはむなしく、その時間を終わらせたのは斎藤のたったひと言の言葉。

「・・・用件はそれだけだ。すまなかったな」

こちらを見たのはちらっとただ一度だけ。
決定的だと思った。その斎藤の声がすごく遠くに聞こえて・・・

「・・・千鶴?」

いつもは、それじゃあと微笑みを返してくれる千鶴の顔は無表情で。
そんな千鶴の様子に斎藤もばつが悪そうに少しだけ目を伏せて。
戸惑ったような、困ったような、押し黙ったままの空気に耐えられなくなったのは、千鶴だった。

・・・斎藤さんに、そんな顔させたいんじゃない。
仕方ないよね、私は、ただの居候だし・・・

ぎゅっと目を瞑って頭を軽く振った後、なんとかいつものように斎藤に微笑んで。

「すみません!気にしないでくださいって言いながら・・・思っってた以上に私、行きたかったみたいです」
「そうか・・・すまない」
「いいんです。・・・他の人と行くことにします。だから・・・斎藤さんは何にも気にしなくて大丈夫です!」
「・・・・・・・・・・」
「私こそ、最初に無理言ってすみませんでした」

ぺこっと頭を下げて、もう一度頭をあげる時には・・・笑顔を。
そのまま自分の部屋に戻る千鶴は泣きそうなのを必死にこらえていた。
・・・大丈夫、笑えてたよね?・・・大丈夫。大丈夫。
部屋に戻ってからこっそり泣けばいい。それなら誰にも迷惑かけないから・・・


自分の部屋まであと少しという時に不意に腕を引っ張られて、体が後ろに引っ張られた。
そのまま平衡を崩して倒れそうになった体を優しく受け止めてくれたのは・・・

「斎藤さん?・・・ど、どうかしました?」

泣きそうになっていた気持は、驚きで少しだけなりを潜める。
それに・・・泣きそうなのは私じゃなくて・・・

「・・・すまない」
「?あ、あの・・・気にしないで下さいね?本当に・・・大丈夫ですよ?」
「・・・違うんだ」
「?」

一番最初に話しかけられた時よりも、もっと話しずらそうに眉を顰める斎藤の顔の近さに、自分たちの距離が近いままだと急に認識して離れようとした千鶴を、そのままぐっと押さえたまま、

「嬉しかった」
「・・・・?」
「・・・おまえが、他の者とは行かないと言ってくれて、嬉しかった」
「・・・・・それは・・・」

どういう意味ですか?本当は言葉を続けて聞きたくてたまらないけれど、千鶴は斎藤が語ってくれるのをじっと待つ。

「千鶴が行きたがっているのはよくわかっていた。だから・・・」
「俺が嫌でも、千鶴がそうしたいなら仕方ないと思っていた。・・・なのに」
「行かないと言ってくれて、嬉しかった」

きゅっと千鶴の手を握ったまま、言葉を話し終えるたびに少しだけ力を込めるその手が愛しくて。

「・・・・・他の人と行くっていうのは嘘です」
「・・・・嘘?」
「・・・だって、そうでも言わないと、斎藤さんが気にしちゃうって思ったから」
「・・・・・・・・・・・」
「・・・どっちでも、気にしてくれました?」

黙ったままだけど、うっすら頬を染めてそっと目をそらすのだから、そうだと言っているようなもので。
一人よがりの恋じゃない・・・そう思えてとても嬉しくて。

「・・・・休みが次にとれた時に、必ず、連れて行く」
「・・・・はいっ!」

きゅっと握りあう手に力を込めれば、大好きな宝物の笑顔を向けてくれた。

「・・・・・ところで斎藤さん」
「なんだ」
「さっき、私がじ〜っと斎藤さん見た時、何も思いませんでした?」
「!?そ、それは・・・・」
「そっけない物言いで、ちらっとしか見てくれないし・・・嫌われているのかもって思いました」
「そんなことはない」
「じゃあどうして?」
「・・・・・・・・・・」
「・・・だんまり・・・・」
「俺は、千鶴が思っているような男じゃないんだ」
「?・・・ますますわからないです」
「・・・・そのうちわかる」

見つめられて、ドキドキして、あれ以上その場にいたらそのまま抱き締めて、何をしたかわからない。
早く切り上げなくては、と必死だったなんて言えない。
そんなことを考えて、困ったように頬を染めていく斎藤に、千鶴はそっと寄り添って呟く。

「そのうちわかるなら、・・・待ってます」

この先も見つめるのは、斎藤さん一人だけだから、
きっとそのうち、わかりますよね?




END