私が想いを寄せるのは、沖田さん。




いつもからかわれてばかりで、意地悪ばっかり。
だけど、そんな言葉の中に自分を気遣ってくれるような言葉をくれたり。
落ち込んでいる時は、沖田さんと話したあとは気持ちが軽くなってる。
軽く、してくれているのだと気がついたのは最近で。
そんな意地悪な中の優しさに気が付いてから、どんどん惹かれていった。


沖田さん・・・どこにいるかな?
今の時間だと・・・午後の剣術指南とかかな?

いつもなら、稽古が終わるまで。と思うのに、今日は・・・気持ちを伝えたいっていう気持ちが強くて、足が道場の方に向かう。
木刀の合わせる音、隊士たちの掛け声などがだんだんと大きくなってくる中、中央寄りに隊士に稽古をつけている総司を見つけて。
初めて出会った時のような冷えた顔を見せて、隊士たちを軽くあしらっている。

・・・本当に強いんだ・・・
隊士が皆どんどん息を切らしていく中、総司は息を切らすことなく微動だにせずに太刀筋を描いていく。
・・・動きに無駄がなくてきれい・・・
そっと木蔭から覗いて、ドキドキしていると不意に総司がこちらを見た気がして。

!?み、見た?こっち見たかな?
慌てて、頭を引っ込めて。でもあんな距離で、しかも稽古中に自分に気がつくはずもない。
・・・自意識過剰だよね・・・
思い直して、またそ〜っと頭を出して覗いて見れば、やっぱりこちらを見ている気がする。
気じゃなくて、見てる・・・

・・・・・もしかして、稽古を覗きに来たこと怒っているのかな・・・
遠目で、総司の細かい表情がよくわからないから不安になって。

・・・・い、いけない。いけない。やっぱり夕餉の時にでも・・・
千鶴は慌てて踵を返して、邸内に戻っていく。そんな千鶴の姿を総司は笑って見ていたのだけど。



夕餉の時間、今度こそ!総司を見つめて自分の気持ちを!!と意気込んでいた千鶴は早々にその意思をくじかれる。
それは・・・

「いただきます!」
皆で食事を始めたその時に、よし!と気持ちを固めて総司の方へ視線を向けたとたんに総司と目が合ったから。

!?
あっ・・・目をそらしちゃった・・・だってあんなにばっちり目が合った後に見つめるなんて・・・は、恥ずかしくてできないよ・・・

もう少し時間が経ってから、また挑戦しよう・・・そう思い直したのはいいんだけど。
あんな風に目が合ったので、総司が明らかによそを向いてそうな時に視線を向けたい。そんな気持ちは総司にわかるはずもなく。

・・・なんだかずっと見られている気がする・・・

気になってちらっと顔をあげれば、やっぱり目が合ってにこっと微笑まれる。

・・・沖田さんのことを気にしているから、そんな気配を沖田さんが察知してこっちを見るのかな?
そ、それなら普通に、普通に・・・と横にいる斎藤に「ごはんおいしいですね」と何気ない会話をして、
沖田さんのことは気にしてませんよ〜違う方向向いてください!と必死に思っていたのだけど、

・・・き、気のせいか、さっきより視線を感じる・・・
しかもなんだか視線が痛い。。。

「さ、斎藤さん・・・私あっち向けないんですけど、沖田さんこっち見てますか?」
「・・・・・・・見ているな」
「目、逸らしたら教えてください」
「・・・逸らしそうにないが」

むしろ話すなと言わんばかりに睨みつけられる斎藤はたまったものではない。
一方千鶴も逸らしそうにないと言われて、どうしていいか悩む。
こ、このままじゃ沖田さんを見ることもできない。。。
急いで食べたご飯の味は全くわからない・・・私が見つめて、沖田さんに気持ち伝えて・・・反応も見たいのに・・・これじゃまるで逆・・・逆!?

自分が考えたことに自分でびっくりして、ちらっと総司の方を見ると、やっぱりこっちを見ていて。
今度は恥ずかしさに負けないように、じっと見ていると、総司は照れるどころか意地悪っぽい笑みを湛える。
・・・・・ドキドキって反応じゃないよね・・・いつもどおりだし。
沖田さんが私を好きなんて・・・あるわけないか・・・と、落ち込みながら千鶴は食器を片づけ、部屋を出た。
その姿を見送る総司の顔は昼間のように笑ってはなくて、むっとしていたのだけど。


部屋に戻った千鶴はどうしていいものか頭を悩めていた。
見つめるなんて回りくどいのがいけないのかな?でもそれすらもまともにできないのに、告白なんて絶対無理。
今夜は・・・沖田さん見回りだったよね・・・
今日はあまり話もできなかった。せめてお見送りくらいして、気をつけてください、くらいの声をかけたい。

・・・・うん、行こう。
千鶴はそのまま沖田の部屋へ向かった。


部屋の前まであと少しという廊下で、だんだら模様の羽織を着た沖田がぼうっと空を見上げているのが見えて。
思わずこそっと廊下に隠れてしまった自分が情けない・・・
それでもそっと頭を出して総司の様子をうかがおうとした瞬間、

「はい、捕まえた〜」
両手をがしっと掴まれて引き上げられる。

「!?沖田さん!・・・気付いていたんですか?」
「君の気配わかりやすいからね〜・・・何か言いたげに昼も見てたでしょう?」

・・・やっぱりばれてる・・・・

「夜も見てきたのに、そのあとずっと知らんぷり・・・あれには斬っちゃおうかと思ったけど」

あははと笑う総司に千鶴は全く笑えない。
・・・冗談に聞こえません。。。
顔が赤くなったり青くなったりする千鶴に、総司は満足そうに小さく笑いながら、

「それで?今もわざわざここに来て、それでまたこっそり覗こうとして、何企んでいるのかな?」
「企むだなんて!そんな、こと・・・・・(ないとは言えないんだけど)」
「何かあるからここにいるんでしょう?」

何でも見透かすようなな鋭い眼差しで顔を覗きこまれては言わないわけにはいかない。

「・・・沖田さんがいけないんです!せっかく・・・」
「せっかく、何?」

曖昧に話してごまかすのは難しくて、この場から逃げられそうにもなくて、仕方なく事の顛末を話そうと、千鶴は一気に話し出した。

「沖田さんに、私のき、気持ちをちょっとでも伝えられたら、と決心して、じっと見つめてたら気がついてくれるかな、とかドキドキしてくれるかな?とか思っていたのに・・・・」

そこまでまくしたてて千鶴は顔を一気に赤くする。

・・・・こ、これじゃあ丸っきり、こ、告白みたい!!

そのまま茹でダコみたいに真っ赤になってうつむいてしまった千鶴の頭の上から、黙ったまま話を聞いていた総司の声が降ってきた。

「・・・千鶴ちゃんってさ〜」

物事に聡い総司がさっきので自分の気持に気がつかないはずがない。
何を言われるのかとビクっとした時、続けて言われた言葉は、

「本当に鈍いね・・・」

気の抜けるような言葉で。
・・・ひ、人がせっかく勇気を出して言ったのに!や、やっぱり意地悪だ・・・
ギュっと袴を握って恥ずかしさに耐えていると、

「何で目が合うかわからないの?」

・・・・・・・?
総司の声色が少しだけ優しいものに変わる。千鶴の大好きな声。

「僕が、千鶴ちゃんを見つめていたからでしょう?」

!?

「・・・まあ、そんな鈍いところも、好きなんだけどね?」

少しだけ頭を下げておでこを合わせてくる総司の髪が千鶴の髪にそっと触れて。
その少しの質感がくすぐったくて、心地いい。
そのまま、瞳を覗きこまれて、総司の瞳に惹きつけられて動けない。

「・・・これから、その瞳に僕以外の男を映しちゃだめだよ」
口調は、柔らかい。きっと微笑んで言っている。けれど、目は真剣にその言葉の熱を帯びていて。
狂いそうなほどの愛情をこめた瞳に、狂気じみた言葉を添えて。


自分を縛って絡まってくる見えない鎖を今はただ、ただ、嬉しく思う。
・・・・・見つめる先には、ただ一人、沖田さんだけを。





END