私が想いを伝えたいのは、土方さん。



責任感が強くて、いつも人一倍の仕事をこなして、
嫌われ役だって皆のためなら嫌な顔せず平気な顔で引き受けて。
これ以上仕事を抱え込むなんて無理だろうと思うのに、私のことを絶対おろそかにしない。
私が気づく前に、私より先に私のことに気づいてくれて。
そんな土方さんを支えたいと思った。私でも支えられるなら、なんでもしたいと思った・・・


・・・今日は何も仕事を手伝えとか言われていないけど・・・
ちょうど土方さんも休憩中かもしれないし、行ったら何か手伝えることもあるかもしれない。
行ってみよう・・・


疲れが少しでも取れるように・・・美味しいと思ってくれるように・・・
気持ちを込めてお茶を淹れる。
そのお茶を運びながら心臓がドキドキするのは抑えられなくて・・・

土方さん、どう思うだろう?感情あんまり外に出さないからな・・・わからないかも。
・・・嫌われていませんように。

祈るような気持ちで、土方の部屋の前に辿りつくと、勇気を出して口を開く。

「土方さん、千鶴です。お茶お持ちしました」
「ん?おお・・悪いな、入れ」
「は、はい」

いよいよかと思うと勝手に緊張して、普通に声が出ない。
部屋に入ったとたんに、こちらを見る土方の視線とぶつかって・・・
ばっと思い切り顔をそらしてしまった。

・・・・やっちゃった・・・
見つめるどころか見ることもできない。
どうして自分はこんなに意気地がないのか・・・
少し落ち込みながら、どうぞ、とお茶を出す。
土方はお茶を受け取ると、千鶴に目もくれずに、目の前の封書の束を次々確認しながら、

「・・・・悪いな、もう下がってもいいぞ」
「え?」
「今日は、おまえに手伝ってもらうこともねえしな、ま、一日好きなように休んでろ」
「・・・・・(どうしてこんな日に限って・・・)で、でも」
「うん?」
「何もしないで休むなんて・・・」
「おまえはいつもよくやってくれてる・・・たまには休めよ?身柄預かっといて体調崩したなんてことがあっちゃいけねえからな」
「頑丈だけが取り柄ですから、大丈夫です!」
「・・・頑丈だけが取り柄っておまえ・・・」

不意に土方がははっと軽く笑いを漏らして笑顔になる。
たまに見せるそんな表情が大好きで、緊張していた気持もどこへやら。
もっと、もっと、見ていたくて。
・・・今なら、恥ずかしくない。土方さんの笑顔、見ていたいから・・・
私の気持ち、届きますように・・・そんな想いを込めて、土方をじっと見つめていたのだけど。

そんな千鶴の視線に気がついて、土方が千鶴に目を向ければ・・・
鬼の副長と言われている自分を怖がるでもなく、いつも目をそらしてくるのに、今日はじっと幸せそうに見つめてきて。

「・・・・・千鶴」
「は、はい」
「・・・・・と、とにかく休め、部屋へ戻れ」

いつもと、何ら変わりないその言葉に、千鶴は内心がっかりする気持ちを抑えられない。

「・・・・ここにいたらいけないんですか?」
「何でこの部屋にいるんだよ、休むなら自分の部屋で・・・」
「休むつもりないですから」
「・・・・・・・・・」

・・・どうして、こんなに今日は部屋に帰そうとするのだろう?
私がいたら都合の悪いことでもあるのかな・・・それとも・・・

「・・・・・・・・もしかして、邪魔・・・ですか?」
「・・・・いや、いてもすることないしな?」
「でも、いたいんです。傍にいられるだけで・・・嬉しいので・・」

・・・・・・・こ、こいつ、自分の言っていることの意味わかっているのか!?

内心かなり動揺して土方は千鶴から目をそらす。
きっと自分が何を言っているのかよくわかっていないのだろう。
千鶴自身は気がついていないけど、そんな気持ちを漏らすような言葉をこれまでにも何回も聞いていて。
憎からず思っているこの少女に、そんなことを言われて、鬼の副長だろうがなんだろうが、平静を装うのも厳しいと思う時がある。

傍にいられるだけで、嬉しい。と、頬を染めて、上目づかいに瞳を覗きこまれて、素直にかわいいと思った。
千鶴が傍にいるのが最近当たり前になってきて、その空気の居心地の良さに浸っていた自分がいて。
このままでは手放せなくなる日が来るかもしれない・・・そう思って、遠ざけようかとも思っていたのだけど。

・・・・もう手遅れか?・・・

土方の苦悩など知るはずもなく、千鶴は土方の返事をずっと待っていた。
千鶴の言葉に照れる自分を隠そうとしていた土方の姿は、いつも以上に不機嫌そうに眉間にしわを寄せる、鬼の副長そのものの姿にしか千鶴には見えなくて。

・・・好かれては・・・いない・・かな・・・
嫌われてはいないとは思っていたけど、好かれてもいないのだと、そんな事実が胸に深く突き刺さってくる。
心のどこかで微かに期待していた気持があったことに気が付く。
新八のように、ドキドキしているような、気持ちが舞い上がるような土方は想像できないけど、少なくとも喜んでいるようには見えなくて。そんな姿を・・・見てみたかったけど、見られるのは、私じゃない。
それなら、せめて、嫌われないように・・・と土方の言うことに従おうと思った千鶴は、

「・・・あの、すみません。邪魔しちゃって・・・部屋に戻ります」

ぺこっと頭を下げて、部屋に入って来た時よりも、明らかに気落ちして出ていこうとする千鶴の腕を、土方は掴んで引きとめていた。
とっさのことで、自分でも体が先に動いていたという感じだったのだけど。

「?土方さん?」
「・・・邪魔だなんて言ってないだろうが」
「でも・・・」
「おまえがいたいって言うなら、断る理由はどこにもねえよ」
「・・・・ないんですか?」
「ああ」

千鶴の方を見ないで、書束に目を向けながらそっけなく言われた言葉。
だから千鶴はあんまり深く考えずに、今、この場にいるのは構わない。という解釈で受け取った。

「えっと、・・・ありがとうございます。じゃあお手伝いします」

そう返事をすれば、はあっと溜息をつかれてしまった。

「・・・土方さん・・・やっぱり私いない方がいいんじゃ・・・」
「・・・おまえな・・・俺にはっきり言わそうってのか」
「?はっきりって?」

本当にきょとんとした顔で土方を見上げてくる千鶴に、土方は頭が痛くなってきた。
何で俺はこんなガキに惚れてんだと思いたくもなる。けど・・・
惚れてはいないと自分をごまかせるような、そんな気持ちではないから・・・

「おまえがいたけりゃ、今わの際まででもいればいいって言ってんだよ」
「そ、それって・・・・」
「・・・・・・・・・」

黙ったまま、また徐に手もとの仕事に取り掛かる土方だけど、その頬は確かに少し赤く染められていて。
それが確かな答えだと、千鶴は胸がいっぱいになる。

嬉しくて、嬉しくて、愛しい気持ちを込めて。
私が見つめる先には、これからもただ一人、土方さんを。






END