私が想いを伝えたいのは、平助君。





平助君は最初からずっと優しかった。
明るくて、落ち込んだ時には和ませてくれる・・・
名前を呼び合うの、平助君だけだよね?
友達のような感じで、最初は呼んでいたんだけど・・・
今は、特別な意味も込めているんだよ?




「平助君?何してるの?」
「あ〜聞いてくれよ〜千鶴!土方さんがさ〜・・・」

たたたたっと廊下を水拭きで何往復もする平助に、何となくこんなことがあったんだろうな〜と想像出来るものの、一応平助に声をかけると、やっぱりそれは予想通りで・・・

「それで、罰として掃除しろってさ・・・あ〜何でオレばっかり〜」

そんな愚痴をこぼす平助に千鶴はくすっと笑を浮かべる。
一番仲がよくて、気さくに話しかけてくれて、話しかけられる。
そんな友達のような関係を、壊したくない。だけど・・・
それ以上に、特別な存在で、平助君の目に映りたい。
そのためには気持ちを伝えなくちゃだめだよね・・・

「・・・私も付き合うよ。二人ですれば早いしね」
「まじで!・・・いや、やっぱりいいよ」
「?どうして?」
「オレのしたことだし・・・千鶴には問題ないわけなんだしさ」

平助のその言葉に千鶴は虚を突かれたような顔をする。

「・・・・・どうしたの?」
「何が」
「だって、前はありがと〜って喜んでたよ?」
「そ、そんなことない!オレは前からこうだった!・・・と思うけど」

何だかそわそわしてる平助に、千鶴は何かあるのじゃないかと気になって、

「・・・平助君、なんかおかしい・・・」
「え!?別に何にも・・・」
「本当?」
「!?あんまり近づくなよ!」
「え?ご、ごめんね・・・」

近づくなと言われたのは初めてで、自分が何か怒らせてしまったのだろうか?としょぼんと落ち込む千鶴に、平助は慌てて、

「あっ・・・ち、違う!千鶴が嫌とかそんなんじゃなくて・・・ほら、オレ汚れてるからさ!」
「汚れ?」

そう言われてよくよく見れば顔や、手、足、出ているところは黒く汚れている。

「ったく、もっと小まめに掃除しとけっつ〜の!なあ?」
ぶつぶつ言いながら、雑巾を絞る平助に、千鶴は心の中でほっと安堵を覚えていた。

「・・・・やっぱり私も手伝う」
「え?で、でも・・・」
「私だって、屯所がきれいになるの嬉しいし、手伝わせて、ね?」
「・・・・そ、そこまで言うなら・・・じゃあ、お願いな!」
「うん!」



二人でせっせと掃除して、どうにか区切りがついた頃には平助も千鶴も肌を出していた所々に汚れが。

「・・・・終わったね!」
「あ〜終わった〜!ありがとな!千鶴」
「ううん!・・・ふふっ平助君真っ黒」
「なんだよ・・・そういう千鶴だって・・・」

平助が言いかけた時、千鶴が胸元からきれいな手ぬぐいを取り出して、そっと平助の顔を拭いてやる。

「お疲れ様」

にこっと微笑みながら、いつもより至近距離で言われて、平助は意識してしまって声が出ない。
一方千鶴も、平助が黙りこんで、顔が赤くなってきて、その戸惑ったような瞳でじっと見られているのを自覚してどんどん胸が高鳴っていって、気づかれないように・・・そっと距離を開ける。
お互いに、何となく言葉を発する機会が失われて、黙っていると、いつもとは少し違う、少し低い声で平助が千鶴に話かけてきた。

「なあ、千鶴・・・」
「・・・な、何?」
「その・・・オレじゃなくても・・・」
「?」
「もし、今、ここにいるのが、オレじゃなくても、そうやって拭いたりしてやったのかな」
「え?」
「・・・・そ、そうなら・・・なんか嫌だなって思ったんだ・・・」
「・・・・平助君」

ここで、顔を真っ黒にしていたのが平助じゃなかったら?どうしてたのだろう・・・それは多分、きっと・・・

「やっぱり・・・拭いてたと思う」
「そ、そっか・・・だよな!千鶴は優しいし・・・」
「で、でもね!」
「?」

他の人と一緒だと思ってほしくない。
私が平助君に向けてる気持ちは、特別な感情だよ?ってちゃんと伝えたい・・・

「その・・・見つめられて・・・ドキドキするのは、平助君だけだよ?さ、さっきも、ドキドキしたし」

そのとたん、平助の目が見開かれて、顔が真っ赤になって・・・

「ち、千鶴・・・その、オレ、今汚れてるけど・・・その」
「・・・・うん?私も真黒だよ」

ふふっと笑う千鶴に、平助も少しだけ顔を緩めて、それでも緊張は解かずに、千鶴にありったけの気持ちで放った言葉は、

「・・・・だ、抱き締めていいかな」
「・・・・うん」

初めて聞く平助の心音と千鶴の心音は同じくらい早くて。
ギュっとすがりつくように肩に顔を寄せてくれる平助が愛しくて。

「ずっと、好きだと思ってた、けど・・・」
「そういうの言って、今の関係が崩れるのは嫌だと思ってた」
「そのうち、自然に、千鶴がオレの方を向いてくれたら、どんなにいいだろうって・・・」
「・・・・む、向いてくれて・・・すっげー嬉しいから!」

抱きしめる力を一層強める平助に、千鶴もギュっと抱き返す。
「私も、私もずっとおんなじこと思ってたよ」


このふわふわとした温かい感情を込めて名前を呼ぶのは平助君だけ。
これからも見つめる先にいるのは、平助君だけだよ。




END