私が想いを伝えたいのは原田さん。





友達思いで情が深くて厚くて。
それは新選組預かりとなった私にも同じように向けてくれる。
女性として見てくれる目は優しくて、包容力に溢れていて。
落ち込んでしまった時にはしっかり抱えこんでくれる私にとっての優しい居場所。
だから私も・・・あなたの落ち着ける居場所でありたいと、願ってもいいですか?




「千鶴?どうした?ぼうっとして」

見つめるのが相手に気持ちを伝えるいい方法かもしれない…と考えこんでいたから原田がすぐ目の前に顔を寄せているのに全く気がつかなくて、急に視界いっぱいに広がる原田の顔に慌てて後ろに下がる。

「ななな・・なんでもないです!」
「・・・・・何でもないってことはないだろう・・・そこまで避けられると俺も傷つくぞ?」
「っ!?さ、避けてなんかいませんよ!?」
「そうか?」

にっと笑ってぽんぽんと軽く頭を叩いてから、くしゃっと髪をいじる。

・・・・・・・これって子供扱いみたい・・・・

そう思っていても、自分がお気に入りにされているような感じがして自然に微笑んでしまう。
そんな千鶴の微笑みを見て、左之は少し目を細めて小さく笑う。
その笑顔を見て、一層千鶴は嬉しくなって笑顔になる。
それは傍からみたら恋人同士の睦みあっているようにしか見えないのだけど・・・千鶴はそんなことに全く気が付いていない。

いつものじゃれあいに興じていてはいけない!
千鶴がはっと我に帰った時には、左之がそろそろ休憩終わりか〜と呟いた頃で。
このままの雰囲気で見つめるのはいくらなんでもおかしいと思う。
そんな話に持っていかなきゃ・・・

ない恋愛の技術を求められているようで千鶴にはかなりの難題だったけれど、間接的な問い方がどうしても思い浮かばなくて、普通に直球で話を振ってしまった。

「は、原田さんは・・・その・・・見つめられてドキドキとか・・・あるんですか?」
「あ?俺か?俺は・・・・ね〜な〜」

その言葉にちょっとだけほっとする。それなら特別好きな人はいないということだろうと思うから。

「見つめて、ドキッとさせたいやつはいるけどな?」
不意にとんでもない爆弾発言が飛び出して、千鶴は心臓が飛び出るかと思った。

・・・・それって、好きな人がいるってことじゃないですか!!
ん?でも・・・・・

「・・・・そのドキっとさせたい人は・・・ドキドキさせてくれないんですか?」

さっきの会話で出た矛盾に素直に聞き返してくる千鶴に、左之は苦笑いを浮かべながら、

「・・・そうだな〜いつもうまくはぐらかされて・・・見つめられたこともないしな・・・」

ぼんやり呟く原田の言葉は少し切なさを帯びていて。
そこまで想ってる人がいたということに・・・自分が入る隙間なんてないということに・・・
胸が痛い・・・・

「千鶴?」
「・・・あ、は、はい?」
「おまえが聞いてきたんだろうが、ぼけっとするんじゃね〜よ」

コツンとおでこを小突かれてすみませんと謝ればしょうがね〜なと薄く笑って、

「千鶴は・・・好いたやつとかいないのか?」
「・・・・・・わ、私ですか?」
「おお、おまえもいい年頃の娘だし・・・好いた男の一人や二人いるんだろう?」
「・・・・・二人はいないです」
「じゃあ一人はいるのか?意外な回答だったな」

なんだか誘導尋問にうまくひっかかった気がしてならない。
うっと詰まって、違います!と言えない自分が悲しい・・・・

・・・・だって・・・・原田さんに気持ちを伝えようと思ったのに。
伝える前にわかってしまったのは、好きな人がいるということ。
見つめるも何も、こんなことを知ってしまったら・・・何もできない。

そうふさぎこみそうになった時、横に座っていた左之がう〜んと伸びをしながら、ぽつっと一言、言葉を漏らす。

「そいつは・・・幸せだな、おまえに想われて」

・・・・・・・・・・・

「原田さん・・・」
「ん?何だ?」
「そんな、お世辞みたいなこと、言わなくていいです」
「お世辞?俺は本当にそう思ったから言ったんだがな・・」
「嘘・・・じゃあ、私に想われたら・・・原田さん嬉しいですか?」
「・・・そんなの当たり前だろ?」

てっきり答えに窮すると思っていたのに、あっさりと、迷うことなく紡がれた言葉は、自分の気持ちを嬉しいという言葉で。

「・・・・で、でも、原田さんには好きな人がいるのに・・・普通困るんじゃないんですか?」
「・・・・嬉しいっていう気持ちに変わりはないな」

・・・そんなこと、そんな風に言われたら。
そっと、原田さんの恋を応援するとか、そんなことできそうにないです・・・

一人心の中でそんな愚痴を左之に向けながら、そっと左之を見上げると。
いつの間にこちらを向いていたのだろうか、じっと、慈しむように見つめるその視線に、思わず千鶴も見つめ返す。

・・・やっぱり、やっぱり、気持ちを抑えることはできないと・・・
溢れ出てくる気持ちに正直に、目を見ながら言葉を漏らす。

「・・・・あの、私、私じゃ原田さんの好きな人みたいにドキドキはしないかもしれないけど、それでも・・・」
「・・・・何にも与えられるものがないけど、でも想う気持ちは誰にも負けません・・・だから・・・」
「わ、私じゃだめですか・・・」

そこまで言って、急に湧いてきた恥ずかしさが顔に一気に熱をもたらして、ぱっと顔を隠そうとした瞬間、千鶴は原田に抱きしめられていた。

「・・・・は、原田さん?」
「・・・・・・・馬鹿野郎」
「ば、馬鹿って・・・あの・・・」
「・・・俺が、おまえ以外…何を欲しがるって言うんだよ」
「・・・・・・え?」

向けられた言葉の意味がとっさに理解できなくて、腕の中にいる事態も理解できなくて、そっと離れようとした時に、ぐっと力を込められた。

「離さねえよ・・・」
「は、原田さん・・・あの・・・わ、私でいいんですか?」
「言っただろ?・・・おまえ以外、欲しいものなんてない」

信じたいけど信じられない言葉に、それでも二度も言われたその左之の言の葉に、
ようやく追い付いてきた嬉しさが、どんどん胸に津波のように押し寄せてくる・・・

「言っとくけど、俺が最初に言ってた女はおまえのことだからな?」
「・・・・ええ!?」
「・・・・まだわかってなかったのか?」
「・・・だ、だって・・・はぐらかすとかしたことないです私」
「・・・その天然っぷりにはぐらかされ続けてきてたんだよ・・・だけど・・・」

「もうはぐらかさせるつもりはないからな?」

その愛おしむ目に包まれて、頬は勝手に上気していく。
もうはぐらかすなんて絶対無理です・・・・

その慈しむ愛情に、ずっとずっと包まれていたい・・・・
これからも見つめる先にはたった一人、原田さんを。





END