――見つけた、けれど隠れていて




〜芽吹〜




ガチャン!!

あっと思った時にはもう、それは畳に落ちて。
派手に割れるのではなく、二つに分かれるように割れて。

振り向いた視線の先にある、先ほどまで壺であった残骸に千鶴は顔を青ざめた。

「どうしよう…土方さんが大事にしていたものなのに…」

屯所内の決められた範囲内を歩くことを、漸く許してくれた矢先だった。
自分にあてがわれた部屋から出られることが嬉しくて。
体を動かしている方が、くよくよしなくていい。

そう思って手伝いを申し出たのに…結果は…

「・・・片付けて…それから報告しないと・・・」

こんなことなら、部屋をもう出るな。とでも言われるかもしれない。
自分の迂闊さに千鶴は顔を俯けながら、その場を片付けるための道具を取りに行ったのだった。

千鶴が部屋を飛び出して、廊下を抜けて行くと、反対側からひょこっと顔を出した男がいる。

「あ〜あ、やっちゃったみたいだね〜っと・・・」

廊下を歩いていれば、陶器の割れる音。
そっと気配を絶って、中の様子を覗えば…

てっきり土方が落ち込んでいると思ったのだが、中には落ち込む様子の千鶴がいた。

そういえば、最近はよくうろうろしてるっけ・・・
うろうろした挙句、あれじゃあねえ…

そんなことを思いながら、部屋を出て行く千鶴の背中をぼんやり見つめて。
自分には関係ない。とばかりにその場を去ろうとしたのだけど…

ふと、部屋に落ちたままの壺の残骸に目を向けて。
総司は黙ったまま、何かを思案するように。

「・・・・・・・・・・はあ、仕方ないか・・・」

そう呟くと、土方の許へと向かったのだった。




「・・・・・・・・・・で?」
「だから、壺が割れちゃいました。すみません」
「それは聞いた。・・・てめえ、悪いとはこれっぽっちも思っちゃいねえだろうが」

馬鹿にするような一本調子の声色に、土方はイライラしながら視線を向けた。
千鶴に、持って来いと頼んだものが中々来ないと思えば、何故か土方の許へ来たのは総司だった。

『僕が壺割っちゃって、千鶴ちゃん片付け中です。何か頼んでました?』

これが第一声であった。

「大体、てめえが割ったんなら、てめえで片付けろ!雪村に何でもやらせるんじゃねえ!」
「あれ、嫌だな〜あの子手伝いしたがって無駄にうろうろしてるでしょう?ちょうどいいじゃないですか」
「それとこれとは話が別だろ!!・・・雪村呼んで来い」

土方が総司にそう言い放った時に、「違います!」と慌てた叫び声が二人の耳を捉えた。

「あ、来たじゃないですか…じゃあ僕はこれで」
「総司!てめえは片付けを・・・」

総司を捕まえようとする土方の腕を遮るように、千鶴が二人の間に立ち、頭を下げたのだった。




・・・・・・・・・・・・・どうして?どうして沖田さんが謝っているんだろう?

届け物を優先して片付けは後で、と思いなおした千鶴が、誰かが訪れた時に怪我をしないように、簡単に片付けてから駆け付ければ
何故か総司が自分が割ったと言っていた。

いつも、何かしたら殺すよ?と本気のような、冗談のような、どちらともおぼつかないようなことを言われ・・
内心一番怖い。近づきにくい。近づきたくない。
そう思っていた人が、何故か自分をかばっている。

その事実にキョトンとしていた千鶴だったが、土方の鋭い声にはっとして漸く動いたのだった。


「壺は私が割ったんです。すみませんでした」
「・・・・・・・雪村が?」

土方は訝しむように千鶴を見やると、千鶴は頭を先ほどよりも深く下げて・・・

「頼まれたものを・・取ろうとして・・・落としたんです。私の不注意で・・・」
「本当にすみませんでした」

千鶴の謝り方はどう見ても総司をかばっている、というのではなく。
本当に本人が反省しているように見えた。

・・・・・・・なら、総司の奴がかばった、のか?

そんなことする男とは思えないが・・・と土方が総司に目を向けると、何やら面白くなさそうな顔。

「土方さんが何を考えてるかわかりますよ」
「雪村の言ってることは本当なのか?」
「はい、そうで「違いますよ。僕がかばう、とかそんなこと・・この子の為にする筈ないでしょう?」

はあ、と溜息をついてから、いつもの飄々とした顔を向けて。

「この子、勘違いしてるんですよ。僕が割ったのが先だったのに」
「・・・え・・・」

そんな筈ない、確かに自分が落としたのに、と総司を見上げれば。
何故か笑顔を張りつかせて、こちらを見ている。

「・・・まあいい。てめえがやったってんなら、早く片付けろ」
「え〜人遣い荒いですね、全く・・・」
「当然だろうが!行け!」

ビシっと部屋の入口を指差して、早く出ていけと言えば「はいはい」と手だけをひらひらさせて出て行く。
千鶴は慌てて総司の後を追いかけようとしたけど、その行動を声で制される。

「雪村。放っておけ」
「でも、違うんです。本当に私が・・・」
「総司がああ言ってんだ、やらせとけ。それより――」

土方に手伝いを申しつけられて、それを振り切ることが出来ずに。
それでも千鶴は何となく、今はもういない、土方の部屋に向かっているだろう総司の方…
背中の方向に意識を向けていた。


・・・・・・・どうしてかばってくれたのかな・・・・

怖い怖いと思っていたけど・・・

そうじゃなくて・・・優しい人なのかも。

終わったら、御礼を言いに行こう。

いつも怯えて、顔を強張らせていたと思う。
だけど、これからはもう少し、緊張をほぐして話せる気がした。

―― 一つ目のきっかけ。