肝試し、千鶴の奮闘記!

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「た、ただいま〜!やっぱり怖くも何ともなかったよ!」

はは、と乾いた笑いをする平助に新八以外の皆は疑わしそうな目を向ける。

「・・・・平助、おまえ新八より時間かかってるぞ?」
「え!?そ、そうかな?」
「挙動不審だし、怖くて前に進めなかったんじゃないの?」
「ち、違う!そうじゃなくて!」
「・・・・・そうじゃないなら、何だ?」
「そ、そうじゃ〜なくて〜・・・」

左之と総司と斎藤に詰め寄られて、うっかり口を滑らしかねない平助に新八は思わず助け船を出してやった。

「まあまあ!平助は怖がってなんかいね〜よ!」
「なんでわかるんだよ?」
「なんでもかんでもだよ!絶対だ!(きっぱり)」

新八のその断言したような言い方に、平助は心の中で少し、千鶴が哀れになった。
・・・あいつも頑張って怖がらそうとはしてるんだろうけど・・・
ちらっと残りの4人を見渡して溜息を出す。

・・オレのことで、ますます肝試しになんか疑い持ってきたのか警戒しだしているような・・・
これではきっと怖がるどころか千鶴が登場する前に気配を察知してしまうだろう。

ご、ごめん!千鶴!
今頃きっと左之を怖がらせる為に頭を捻っているであろう千鶴に胸の内で手を合わせた。


「ま、じゃあ俺も行ってくるわ」
「おう、・・・そういや平助、目印はどうした?」
「え?あ、ああここに」
「・・・よし。左之、おまえも忘れず書いてこいよ」
「わかってるって、幽霊でもいたら捕まえて戻ってくるかな」

じゃあ〜と背中越しに片手を上げて暗闇の中に消えていく左之の後姿を見送りながら、新八と平助は二人目を合わせた。

・・・・あいつならやりかねないな・・・と、思いながら。






「・・・・・なんだ結局ここまで何もなし、と」

何があるわけでもなく、あっという間に近藤の部屋の前に着いてしまい、目の前にある戸をじっと見やる。
・・・あの二人の様子だと何かはあったんだよな?だとするとここか?

怖がっているわけではないけれど、何か仕掛けでも?と慎重に戸を開けると・・・・

いちま〜い・・・にま〜い・・・」

何だか暗い女の声がするけれど・・・

・・・・・・こ、怖いっつうより怪しすぎるだろ!?どう反応したらいいんだ?
普通なら暗くて何も見えないであろう部屋、だけど暗闇に慣れた目では少しは状況を確認できる。
それでも・・・人影は見当たらない。

「さんま〜い・・・よんま〜い・・・」

・・・・・声を変えてはいるけれど、どう考えても、・・・千鶴、それ以外考えられないだろう。
声をかけていいのだろうか?でも姿は見当たらない・・・

その間にもお皿の数は増えていき・・・

「・・・・いちまい足りない・・・」

悲壮感漂う声でそう言われても・・・これは、怖がってほしいのか?そもそもなぜ千鶴が幽霊役を?
・・・なんにしても・・・

広くはない部屋の中を見渡しても人影は・・・・・ん?あれは?
机の横らへんによく見れば黒い布をまとった丸っこい物体が。
黒い布のせいで闇と同化していたのか、ぱっと見気がつかなかった。

なるほど、よく考えてるじゃねえか。
・・・あんな風に縮こまって、いちま〜い、にま〜いと幽霊役を頑張っているのだろうか、そう考えると微笑ましすぎすぎる。

左之はそこへ近づいて、優しくぽんと手を置きながら、

「千鶴?お疲れ。近藤さんに頼まれたのか?おまえも頑張ってるよな、雰囲気出てたぞ?」

左之にしたら、千鶴を誉めたつもりだったのだけど。
黒い布のようなものから出てきた千鶴は・・・眉を八の字にして困りきったような顔で・・・

「・・・ど、どうしたんだよ?」
「・・・・・うまく隠れたし、今回は声も!と思ったのに・・・」
「声?・・ああ〜千鶴の声じゃないみたいだったよな、うまく幽霊できてたんじゃないか?」

その言葉に千鶴はばっと顔をあげて、左之に迫って来て、

「怖かったですか!?」
「・・・・は?こ、怖いっつうよりは・・・怪しいっていうか、おまえだってわかってからは頑張ってるな〜と感心したけど」
「・・・・・怖くなかったんですか・・・」

目に見えてがっかりする千鶴に左之は答えを誤ったと少し後悔する。

「怖かった!怪しいのと怖いは一緒だよな」
「・・・・・いいんです」

左之は肩を落とす千鶴の顔を覗き込むようにしてぽんと頭に手を置くと、

「近藤さんに頼まれたのか?そんなに責任感じなくていいんだぞ?」
「あ・・・ち、違うんです。頼まれたのはそうなんですけど、責任とかじゃなくて・・・すみません、自分のためなんです」
「?」
「あの、実は・・・」





「そういうことか、・・・あ〜悪いことしたな、おまえでもうまく幽霊してたぞ?」
「本当ですか?これ、続けたら・・・残りの、斎藤さん、沖田さん、土方さん・・・誰か怖がってくれるでしょうか?」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・」

二人しばしその光景を予想してみるけれど、怖がる様を想像できない。

「あの三人・・・はなあ・・・」
「・・・や、やっぱり無理ですよね」

どうしよう・・・とう〜んと頭を抱える千鶴に、左之はふと疑問に思ったことを千鶴に尋ねた。

「なあ、千鶴?」
「はい」
「・・・怖がるって、どう判断するんだ?」
「え?それは・・・」
「近藤さんこの場にいねえし」
「・・・そうですよね、後から口伝でいいんじゃないでしょうか?」
「いや、きっとどこかで様子探ってるんじゃねえか?」
「?どうしてそう思うんです?」
「どうしてって・・・・普通そうだろ」
「・・・・・・そう、なんですか?」
「だから、叫び声とか基準にしてるんじゃないのか?」
「叫び声?」
「ああ、怖がって、ギャ〜!みたいなの」
「なるほど・・・平助君のはダメだったのかな?」
「・・・・何、あいつ叫んだの?」
「いえ、叫んだというよりは、私が急に上に乗っかかってしまってびっくりでつい声を・・・でも私の声の方が大きかったし聞こえなかったかな・・・・」

う〜んと一人で悩む千鶴をよそに、左之はその様子を頭に思い浮かべて笑いを堪える。
平助の奴、それであんなに挙動不審だったのか・・・
でも・・・ということは・・・

「・・・千鶴、俺と平助と新八、みんな驚かせ方違うのか?」
「はい、みなさんが教えてくれた通りに頑張ってみてはいるんですけど・・・」
「そうか、じゃあ、俺も次の対策教えないとな」
「あっ!ぜひ!もう考えつかなくて・・・」
「次は〜斎藤だな」
「・・・・・・怖がることなんて、あるんでしょうか」
「怖がらせなくても・・・平助みたいに声あげさせたらいいんじゃねえ?斎藤の声だけ響きゃ充分だろ?」
「そ、そんな方法ありますか?」
「・・・・・・・・ある」
「ほ、本当に!?教えてください!」
「あるけど、その格好じゃ無理だな。千鶴、おまえ着物持ってるよな?」
「?はい・・部屋に・・・」
「よし、準備準備、行くぞ」




「・・・・・・・は、原田さん!なんでこんなことしてるんでしょうか?私、女の格好したらいけないんじゃ・・・」
「いいから黙れって、・・・・よし」

すっと千鶴の口に紅を差し、部屋の中に一つだけつけられた行灯に照らされた千鶴は、いつもの千鶴ではなくて。
とてもきれいで、女性らしい中に、艶しさが溢れている。

「か、肩とか・・・背中・・・開きすぎじゃないですか!?」
「これくらいしないとな〜・・・ま、頑張れよ?」
「・・・・ふ、不安です」

二人歩きながら近藤の部屋に戻る途中、ちらっと横にいる千鶴に目を向けた左之は・・・・

「・・・・斎藤がうらやましいよ、ったく、平助も気を利かせて、これくらいのことさせてくれたらよかったのにな」
「え?原田さんだったら声あげてます?」
「・・・・いや、俺だったら・・・」

少しだけ頬染めて下を向く左之に千鶴はきょとんとしている。

「今度、肝試しとかじゃない時に・・・俺のためだけにそういう格好してくれると嬉しいんだけどな」
「そうなんですか?じゃあ、機会があればぜひ」

左之の意図を汲むことなどまったくせずに、無邪気に微笑んでくる千鶴に苦笑いを浮かべつつも、かわいくてしょうがない。
部屋に着くなり左之は千鶴に目印を書いてもらい、皆が待つ部屋に戻るときは後ろ髪引かれる思いでいっぱいだった。

そして、千鶴は・・・斎藤が来る前に入念にすることを確認していた。




5へ続く!