肝試し、千鶴の奮闘記!

3






「あ〜やっと戻ってきた!遅いよ新八っつぁん!」

新八は帰るなり、自分の出番はまだかまだかと待ちくたびれた平助の第一声に迎えられた。

「そんなに時間かかったか?」
「うん、ただ回るだけでしょう?・・・ちょっとかかりすぎだよね、何かあったのかな?」
探るような目つきで自分に視線を遠慮なくむけてくる総司に、新八は内心慌てながらも何とかごまかそうとする。

「あ〜…暗くてやっぱり歩きずれえからな〜」

目を泳がせるようにして部屋の奥へ行き座り込む新八の様子を、その場にいた全員が、

『怪しい・・・何かあったな』

と心の中でツッコんでいたのだけど、聞いても答えるような男ではないし、自分の番になればわかるだろう・・・そう思って黙っていたところ、土方だけがそんな新八に声をかける。

「で、おまえ目印はどうしたんだよ」
「あ?ああ、これだ」

言いながら皆の前に手をかざす。そこにはいびつな○が書かれていた。

「・・・自分で書いたのか?」
「ああ」
「・・・これ、本当に近藤さんが言っていた目印か?」
「土方さんも行けばわかるって」

にっと笑う新八に、まあそうだなと土方はうなづいて、

「よし、次は・・・平助か?さっさと行って来い」
「了解〜新八っつぁんより早く、ぱぱっと済ませてくるとするか〜!」

ばっと戸を開けて足早に歩みを進めてあっという間に見えなくなってしまい、再び静寂が訪れた矢先、、戸にでも当たったのだろうか、バン!という音と「痛っ!?」という声が微かに聞こえた。

「・・・・・落ち着きねえな、あいつ」
そんな土方のぼやく中、新八はこれから平助に起こるであろうことを考えて、笑いをこらえるのに必死だった。








「な〜んだ、結局何もなかったじゃん・・・オレらだけ集めてするっていうから、てっきり何かあると思ったんだけどな〜」
少しつまらなそうにぶつぶつ言いながら近藤の部屋の前まで来ると何も考えずに戸を開ける。

「筆〜筆〜新八っつぁんよくわかったな〜」と机のあたりを手探りで探していると、

フー・・・

微かに笛の音のような音がする。
・・・・・・?気のせいか?
周りを見渡しても特に何もない。

取り立てて気にすることなくまた筆を探していると、また、

フーフー・・・

何やら気味の悪い音が今度は確かに聞こえた。
・・・今の音・・・なんだ?
平助が疑問に思い始めるのと同時に、今度は笛の音とは別のカリカリカリ・・・と何かひっかくような音がする。

・・・・・これは・・・ネズミ?そう思っって音のする方へ足を向けたとたん、

「キャーッ!?」「どわっ!?な、何だ!?」

がたがたっと押入れの中から出てきたものに押し倒されて、平助は派手にゴチっと頭を畳にぶつけた。
頭にガンと衝撃と鈍い痛みが広がる中、それ以上に意識を持っていかれたのはやっぱり自分の上に覆いかぶさっている・・・

「その声…ち、千鶴か!?千鶴だろう?」
「へ、平助君!!ネズミ!ネズミが!」

さっきのカリカリという音はやっぱりネズミのようで。
なぜか押入れにいた千鶴はご対面でもしたのだろうか、かなり混乱していて。
今だに平助の体にしっかり寄りかかりながら震える指先を押入れに向けて、ネズミの存在を必死に訴えてくる。
だけど、平助にはそれどころじゃない。

「ち、千鶴!わかった、わかったから落ち着け!」
「え?・・・・あ、・・・ご、ごめんなさい!重かった?」

慌てて体を起こす千鶴に、平助は暗闇で顔が見えなくて本当によかったと、熱が集まる頬を自覚しながら、

「お、重くなんかないから気にするな!ネズミもあんだけ騒いだら逃げてるぞ、きっと」
「そ、そっか・・・ごめんね、取り乱しちゃって・・・体、痛くない?」
「そ、それは、全く。や、柔らかいし・・・・」
「え?」
「な、何でもない!・・・ところで、千鶴押入れなんかで何してたんだよ?・・あの笛の音はおまえか?」」
「・・・・・・ああ・・・そうだった・・また失敗した・・・・うまくいきそうだったのに」
「?何のこと言ってるんだ?」
「・・・あのね・・・・・・」






「そ〜いうことか!新八っつぁんのあの顔、今なら納得できるな〜」
「どんな顔?」
「ん?いやいや・・・ところでネズミが出てこなかったらどうやって俺を怖がらせるつもりだったんだ?」
「ん〜…平助君が音に怪しんで、押入れを開けた時に同時にガシって足を掴もうと思ってた」

・・・・・それをされたら自分は悲鳴をあげていたかもしれない・・・この時平助はネズミにこっそり感謝した。
千鶴のためを思うのなら自分が悲鳴をあげればよかったのだろうけど・・・でも・・・
そんなかっこ悪い姿を見られたくない。という気持ちもあって。

「・・・・その程度じゃダメだった?」

がっかりした様子の千鶴に、心の中で謝りながらもそうだな〜と言葉を返す。

「そっか・・・怖がらすのって難しいね・・・どうしたらいいのかな・・・」
落ち込むように肩をすぼめる千鶴に、平助は・・・

「千鶴!元気だせって!もし・・・もし、誰も怖がらすことができなくても、オレが土方さんにかけあってやるから!」
「本当?」
「ああ!任せとけよ!でも、まだ四人いるし、せっかくだからさ怖がらすのもがんばってみようぜ!」
「うん!・・・でも後の四人って・・・」
「左之さん、一君、総司に、土方さん、だな」
「・・・・・・・・無理なような気がしてきた」
「う〜ん、難しそうだけど、でも・・・あきらめたら何にもならないしな!」
「・・・そうだね、・・・平助君と話すと、気持ちが凄く前向きになるよ、ありがとう」

にこっと千鶴に微笑まれて平助の心臓がどくんっと騒ぎ出す。

・・・・何だこれ・・・な、何だ?

勝手に騒ぐ心臓を押さえつけるようにしながら、千鶴にはいつも通りに話しかけて。

「次は・・・左之さんだな」
「原田さん?・・・原田さんって怖いものなさそうだよね・・・」
「・・・だな〜・・・あっでも!」
「?」
「女には弱いから、そこで攻めたらいいんじゃないの?」
「女で攻めるって、例えばどんな風に?」
「ほら、有名な・・・いちま〜い、にま〜いっていう・・・」
「ああ・・・それを部屋の隅で雰囲気出してやってみようかな?」
「おし!決まりだな!じゃ、じゃあがんばれよ!」

いまだに騒ぐ心臓のせいで落ち着かない。
急いで部屋を出ようとする平助に千鶴は慌てて、

「平助君!目印!目印!」
「・・・あっ!そうだ・・・悪いぼ〜っとしてて」
「ううん、いいよ、手、出して?」
「え?ああ」

千鶴がそっと丸を描くのがくすぐったい。

「はい!気をつけて戻ってね」
「あ、ああ・・・じゃあ頑張れよ!」

赤くなった顔を月明かりで照らされて、千鶴に発見されないうちに急いで戻ろうと平助が走り去っていく中、

「う〜ん、お皿も用意したいけど・・・この部屋から動けそうにないしな・・・」

次に来る左之に対する策を必死で錬る千鶴だった。





4へ続く!