肝試し、千鶴の奮闘記!

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「おし!一番手は俺か〜!!ま、軽く回ってくらぁ!」

公正に順番を決めた結果、まわる順番は・・・
新八→平助→左之→斎藤→総司→土方という順番に。

屯所内には行灯も何もつけていなくて、本当に月明かりが微かな光を放っているだけで。
「つか、たかが暗くした屯所内歩く位、本当に怖くも何ともないのにな〜…本当に意味あるの?土方さん」
ぶしつけに問われた平助の問いに土方は眉間にしわを作って答える。

「今更言うなよ・・・近藤さんのことだ、何か考えがあるんだろう?」
「そうだよ、平助には考えつかないような考えがね」
「な、なんだよ〜俺だって説明してくれりゃ・・・千鶴は大丈夫かな?」
「雪村には説明した。今頃もう眠りについているのではないか?」
「そっか…ならいいんだけど」
「・・・平助ってやけに千鶴ちゃん気にかけるよね、もしかして・・・」
「な、何だよ!別に好きとかそんなんじゃないからな!」
「・・・・僕まだ何も言ってないけど」

にっと口の端をあげて微笑む総司に平助はぐっと言葉を詰まらせる。

「平助、あきらめろ、おまえじゃ総司の口には勝てねえよ」
左之にぽんぽんと肩を叩かれて、ぶつぶつ言いながら座り込む平助をよそに、一番手の新八が土方に手を差し出す。
「・・・・何だよ?」
「何って、蝋燭とかないのか?」
「んなもんあるか!真っ暗なままで行け!」
「蝋燭なし!?障子とか破っても怒らないでくれよ?」
「暗闇の中でも状況を察知できるくらいにならないと意味がない」
「・・・・・・・へいへい、じゃあぼちぼち行くか」
「一通り回った後、近藤さんの部屋からなんか目印とってこいとよ」
「目印?」
「行けばわかるって近藤さん言ってたぞ?」
「・・・?暗いのにか?」
「・・・そういやそうだな・・・」
「近藤さんのことだから、きっと何か考えてると思いますけど?」
「・・・まあ、そうだな」
「じゃあ、今度こそ行くぜ?」
「おう」

暗闇の中新八は屯所内の近藤の部屋を目指して足を進めた。





「・・・・・一通り回ったけど、やっぱり何もねえよな〜肝試しって言っても、これじゃ度胸もくそもつかないぜ」

面倒臭そうに頭の後ろに腕を組みながら、暗闇の中を歩いていく。
隊士は近くの墓場に肝試しで今は誰も邸内にいない。
ようやく近藤の部屋の前まで来て戸をすっと開ける。一瞬警戒したのは、最後にここに来るように仕向けられたからだろうか。その一瞬の警戒が、部屋にいないはずの人の気配を察知した。

・・・・・んん?誰かいるのか?近藤さんか?

わざわざ、この部屋に来いと言っていたし、何か仕掛けているのだろうか。
目をこらすのではなく、気配を探るように部屋の中に入ると・・・
何やら部屋の隅に置いてある布団がもぞっと動いた気がした。

新八は苦笑いを浮かべる。
・・・近藤さんもこんな子供っぽいこと好きだよな〜そう思いながらすっと布団の方へ近づくと、
思い切ったように飛び出したのは・・・

「う、うらめしや〜・・・」

一瞬部屋に沈黙が広がる。
うんともすんとも言わない新八に、白い布でくるまった何かはおろおろしだす。
そして、もう一度、今度は自信なさげに・・・

「う、うらめしや〜・・・?」
「いや、何で疑問になってるんだよ千鶴ちゃん!」

耐えかねてぷはっと新八が噴き出せば、暗闇に慣れた新八の目に、白い布を取り払ってがっかりした顔を浮かべている千鶴がうっすら見える。

「ど、どうして私ってわかったんですか?」
「どうしてって言われても千鶴ちゃんの声だしな〜」
「あっ!緊張しすぎてそのまま声出しちゃいました・・・」

見た目にわかるくらい激しく肩を落としてしょんぼりする千鶴に、新八は首をかしげる。

「ところで何でこんなことしてるんだ?斎藤に今日は肝試しって聞いたからか?」
「いえ・・・実は近藤さんが・・・・」
「近藤さんが?」
「はい、あの・・・・・・」




「なるほどな〜」
千鶴から簡単に説明受けて、新八はうんうんうなづいて。

「そりゃ千鶴ちゃんもやるしかないって思うよな」
「そうなんです・・・でも最初からこれじゃ・・・ちょっと甘くみてました。皆さんあまり怖がりそうにないですよね・・・」

しょぼんと肩を落とす千鶴にどうしたものかと思う。
きっと近藤さんは外出許可を最初から与えるつもりでいるのだろう。
きっとこの肝試しには他に意図が・・・
そう思い、俯いている千鶴に目を向ける。
軟禁状態にある千鶴だけど、自分たちに会う時にはいつも笑顔で、こんな風に思い詰めていたとは思わなかった。そんなことにも気がつかなかった自分が少し腹立たしい。
そこまで考えて、なるほど、と近藤の意図を理解した気がした。

「なあ、千鶴ちゃん。そんな風にふさぎこむ気持ちもわかるけど、まだ終わったわけじゃないし。」
ぽんぽんと頭を優しく叩いて、子供を慰めるように。
「そういうことなら、俺も協力してやるから!」
「ほ、本当ですか!?」
「おお!目印持って帰らなきゃいけないみたいだから、ここに残ることは出来ないんだが・・・」
「目印?それならこれです」

そう言って千鶴は机の上に置いてある筆をとり、

「掌に丸を書くんですよ」
「・・・・なるほど・・・しかし・・・・」

この目印だと千鶴と話さなきゃわからないよなあ・・・
どうやら近藤の意図は自分が考えたもので合っているようだ。
丸を書き込まれた掌をぐっと握りこむと、新八は千鶴に笑顔を向ける。

「次は平助なんだよ、さっきみたいにいきなり出てくるんじゃなくて・・・あいつはしないはずの物音とか、感覚とか、そういうのにびびりそうだけどな」
「物音・・・はわかりますけど、感覚っていうのはどんなのでしょう?」
「感覚って言ったら…何かに急に掴まれたりとか、ふっと風を感じたりとか・・・そういうのでいいんじゃないか?」
「なるほど!…わかりました!頑張ります!」
「それと・・・」
「?」
「次から、何か考え込む時には俺たちにも相談しろよ?頼りねえかもしれないけどよ!」
「そんな・・・」

千鶴はようやく笑顔になって、新八に深々と頭を下げる。
「じゃあ、これからはそうします。お願いしますね」
「おお!んじゃそろそろ戻るな」


新八がもといた部屋に戻る中、千鶴は平助を怖がらせるために必死で頭を巡らした。





3へ続く