肝試し、千鶴の奮闘記!

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「ふう・・・・」

突き抜けるような青空を恨めしそうに見上げるのは、新選組の屯所内に軽く軟禁状態にある少女。
運悪く、新選組の内部の機密事項を目撃したために、ここで預かるという名目上、逃げられないように見張られている。
まだ、外に出ることは許されず、たまに部屋をそっと出て、こうして縁側から空を見上げる程度。
自分のそんな事態を仕方がない。とは思いつつも・・・・

「やっぱり、早く外に出たい…出ないと・・・」

見上げていた視線を足元に落として、うつむく。それとともに気持は下降気味になる。

「探しようもないのに・・・私だって、父様を探したい・・・」

そんな千鶴のぽつりと漏らした言葉を優しく拾い上げてくれたのは・・・

「雪村君、どうした、何か困ったことでもあったかな?」
「近藤さん!」

しばらく屯所を留守にしていた近藤がたまたま通りかかって、言葉を拾ってくれた。
これは、またとない機会だ!と千鶴は顔を上げて、胸の前で手を合わせてお願いするように、

「あの、私の外出許可、お願いできませんか?」
「外出許可?まだおりていないのかな?」
「はい・・・土方さん忙しそうでなかなか・・・もう少し待てと言われるばかりで、わかるんですけど、早く父様を探すのに私も動きたいんです」
「そうか・・・君の気持はよくわかるが・・・・」
「ずっと、とは言いません。1日でもいいんです。ずっと籠りきりになると悪いことばかり考えてしまって・・・」

言いながら悲しそうに睫毛を伏せる瞳にはうっすらともる涙の影。
千鶴のことは、もともと不憫に思っていた近藤は、そんな姿を見て放っておけるはずもなく。

「そうだな・・・うむ・・・こういうことはトシに任しているからな・・・・!そうだ、もうすぐあの時期か?」
「?あの時期って何のことですか?」
「ああ、毎年、肝試しをするんだ。この時期、武士としていかなる時も冷静に、対処できるように度胸をつけるという意味でな」
「・・・そんなことがあるんですね」

でも、その肝試しと外出許可と、何の関係があるのだろうか?話の流れが全くわからなくて、困っている千鶴に近藤はとんでもないことを言い出した。

「どうだ!雪村君、君も参加しないか?」
「・・・・ええ!?ど、どうして私が!?」
「肝試しといっても若い隊士ばかりで組長格は最近していないしな、君は隊士ではなく幹部のものと一緒に・・・」
「ちょ、ちょっと待ってください!肝試しなんて・・・私無理です!こ、怖いです」
「ああ・・・君は度胸をつけるほうではなく・・・怖がらせる方で頑張ってみないか?」
「こ、怖がらせる?」
「毎年、肝試しといっても、墓を渡り歩くだけでな…今回はこの邸内を暗く、明かりを消してしてみよう。墓じゃなければ大丈夫かな?」
「え、ええ・・・怖がらせ役って、毎年いるんですか?」
「いや、ただ歩くだけだから・・・だから君に少し頑張ってもらって、気を引き締めさせてもらいたい」
「・・・・・は、はあ・・・・」
「もし、誰か一人でも怖がらせることができたら、外出許可を認めるよう俺がなんとかする」
「ほ、本当ですか!?」
「ああ、男に二言はない!」
「あ、ありがとうございます!私頑張って怖がらせます!!」

ぐっと拳を握って張り切り出す千鶴を見て、近藤はうんうんとうなづいた。
千鶴に外出許可を出すのはそう難しいことではない。千鶴の屯所内での態度は取り立てて問題なし。
ただ、千鶴がこうしてふさぎこんでいる時にもう少し皆が気にかけてやらなければ・・・
このことで、千鶴と幹部が少しでも打ち解けるといい・・・そんなことを考えていた。



「はあ?肝試し、俺たちが?」
「ああ、今夜邸内で行う」
「隊士たちはいつもどおり墓でやるんでしょう?どうして僕たちは邸内なんですか?」
「知るか、近藤さんがそう言ったんだよ」
「それなら文句ないです」
「俺も副長のご命令なら」
「ただ歩くだけだろ?楽勝楽勝!」
「まあ、そんな余興につきあうのも一興ってな」
「だな!うし!幽霊どもが恐れをなして近づかないように練り歩いてやらあ!」

何はともあれ、近藤がそう言いだしたのなら決定事項ということ。
それなら楽しまなきゃ損々!!とばかりに騒ぎ出す皆を遮って、平助がふと疑問に思ったことを口に出す。

「ところで土方さん、千鶴はどうするんだ?」
「あ〜…あいつのことは何にも聞いてねえな」
「でも、あの子は別に武士でも何でもないんだから、そのまま部屋に放っておけばいいんじゃないんですか?」
「だが、肝試しをするということを伝えておくべきだと思います」
「そうだな、それは伝えとかなきゃまじいよな」
「何で?」「何でだ?」

平助と新八の同時の反応に、斎藤と左之ははあと溜息を洩らす。

「屯所内の明かりは灯らさずに真っ暗なままなんだぞ?何かで部屋の外にでも出てみろ、びっくりするだろうが」
「・・・いたずらに怯えさすのはよくない」
「斎藤君は優しいね〜じゃあ、斎藤君が説明しておいてよ」
「・・・・・・・」
「なるほどね、そんな理由か〜確かに!」
「おし!じゃあ千鶴ちゃんには斎藤が話すということで!」
「・・・・」


「じゃあ、そういうことで。おまえら、夜ちゃんと集まれよ」
「「「「了解」」」」


こうして肝試しは行われることになった。





2へ続く!