かわいいのはどっち?

「眠い…」

温かい陽気に誘われて、つい庭に下りて、人目のつかないお気に入りの場所へと転がって日向ぼっこをのんびりとする。
口を隠さずに思い切り、ふぁ~あ…と欠伸をすれば、穏やかな時間が自分を包んで眠気を漂わせてくる。殺伐とした日常はまるで嘘のように。

意識が遠くなっていく中、優しい声が聞こえた気がした。
穏やかな日常を僕にもたらしてくれる、大事な声。

夢?
夢でも彼女を求めるくらい、考えてしまっているのかな

そう思ったら、千鶴の顔が頭に浮かんでくる。
そういえば、今、何をしているんだろう?

開きそうになかった瞼がゆっくりと開かれた時、夢ではない千鶴の声がまた聞こえてきた。



「原田さんは本当に物知りなんですね!そんなこと知りませんでした」
「物知りってほどでもねえよ」

ははっと笑いながら頭をくしゅっと撫でる左之に千鶴も笑顔で返す。

「あ・・・でも私、赤い色って持ってないんですよね」
う~んと困ったように眉を寄せる千鶴に左之はおやっと目を見開いてから、見守るように微笑んで、

「なんだ?千鶴…赤い着物見せて決めたい相手でもいるのか」
「え!?あ・・・その…」

か~っと赤くなって頬を染めあげる千鶴に、赤ならここにあるじゃないか、とその頬を示す左之。
その一部始終を、運悪く目にした総司は顔を曇らせる。

別に何か特別な言葉を伝えたわけでもない。伝えられたわけでもない。
でも、最近は何となく、千鶴と自分と二人がいるのが当たり前のように感じられていた。傍にいていいのは自分だと思っていた。
でも目の前の光景はそれを否定している様だ。

「原田さん!からかわないでください~…そういえば…男の人にもあるんですか?これ!っていう決める時の色」
「ああ、男は紫だろ?」

ちょいちょいっと首元を指し、襟から少し見せるくらいでも違うもんだぞ?と説明してくれる左之に千鶴はへえっと頷き何やら考え込んでいるようだ。

「・・・紫・・・なんだか土方さんや斎藤さんが似合いそうですね」
「おいおい、目の前にいる男にも気を使えよ」
「原田さんは赤って感じがして・・・」

へへっと小さく笑う千鶴に、そんな風に笑われたら仕方ないと思えるから不思議だ、と左之も笑って。

・・・・・・・決め手の色、ねえ・・・・そういう話・・・
それにしたって、千鶴ちゃんもそこで僕の名前出さないってひどくないかな。
そりゃ、別に恋人とかそんなんじゃないけど、でも・・・・・・・

何も伝えてもいないのに、何故自分が傍にいるのが当然だと思っていたのだろうか?
これ以上ここにいたくない。見たくない。あんなの気にせずに向こうに…思うのに、焦燥の気持ちが目を二人に向けてしまう。
嫌でも目に飛び込んだものは、千鶴の耳元で何かを聶く左之と、それに顔を赤らめる千鶴だった。




「でも、おまえあんまりそういうこと言うなよ?」
「はい?」
「・・・赤い着物を見せたい相手、紫を着て見せてほしい相手、・・・総司だろ?」

耳元でそう聶かれて、心の中を完全に見透かされていたのが恥ずかしくて、言葉もなく頷く顔には熱が集まってる。
沖田さんもそういうことには疎いと思う。だからこそ、こっそり赤い着物を着て見せることも出来るかも…と考えていたから。
言わないでくださいね!とそう口を開こうとした千鶴の耳に「痛っ!!」と小さな叫び声が届いた。

「・・・おまえか、総司。何石なんか投げてんだよ!?千鶴に当たったらどうする…ったく」
「左之さんの背中狙ったから、大丈夫」
「大丈夫じゃない!」

気持ちも伝えてないくせに、嫉妬は一人前でしょうもねえなあ…
呆れながらも、いつもよりなんだか余裕のない総司を見ると怒る気も失せてくる。
そんな風に思われているなど全く思わずに、総司はふんと顔を背けて二人に近付く。

こちらに向かう総司に、今のを聞かれていたのだろうか…と恥ずかしさに焦る気持ちと、一方で背中に石を投げられた左之も気になって、大丈夫ですか?と背中をさすれば、自分を無視されたように感じた総司にその腕を引っ張られて、腰を抱かれる。

「あんまり近付かないでね、千鶴ちゃんすぐ反応するから・・・・勘違いに泣くよ?」

威嚇するような視線を自分に向けながら、顔はにこっと微笑むという芸当をする総司に、左之はつい苦笑いを浮かべてしまう。

「おまえは、勘違いじゃないのか?」

挑発するような笑みを向ければ、総司は、すっと目を細めてちらっと自分の腕の中にいる千鶴に視線を向ける。
顎を持って千鶴を上に向けると、その薄く開いた唇に自分のものを重ねる。

「お、沖、沖田さ「こういう関係だから」

言葉を放った後、唇を重ねたまま、目だけ左之に向けて愉悦に浸った瞳を覗かせた後、また深く口付けて、今度は甘い吐息聞かせるほどに。
お互いが苦しくなるくらいに口付けて、息を乱したまま漸く唇を離せば、傍に立っていた筈の左之はもういなくて。

「~~~~は、原田さんの前で・・・・ど、どうしてああいうこと…っ!」
「千鶴ちゃんは隙が多いよ、気をつけないと誰にでもされるよ」
「誰もこんなことしません!!」
「そうじゃないと、困る」

軽く頭を小突こうとするその仕草に、思わず目を一瞬瞑った時に、好きだよ、と小さく呟かれた言葉。

「え?」
「・・・・・言葉で伝えとかなきゃ、君飛んでいきそうだからね。」
「・・・・・・もう一度・・・「嫌」

・・・・子供っぽい・・・
くすっと笑ってしまうのは仕方ない。笑ってしまうのは、もちろんそれだけじゃなくて・・・

「両想い、ですよね?」

嬉しくて、つい緩んでしまう顔を隠さずに総司に向けて、私も好きですと言葉にすれば、そんなこと知ってるよ、と顔を逸らす。

「千鶴ちゃんわかりやすいしね」
言葉の終わりに軽く啄むように口付けを落とす総司に、それがなんだか照れているのをごまかしているように見えて、つい。

「私だって、沖田さんが私のこと好きなの、前から知ってます」

そんなこと言われるとは思っていなかったのか、動きを止めて千鶴を見つめる視線に、千鶴も逸らすことなく視線を絡めて。

「他の人と話してたら・・・今日みたいに邪魔しに来るし」
「・・・たまたまだよ」

なんだか居心地悪そうにしているのが、いつもと逆が楽しくて。

「私のこと、いつも見てるし」
「それも、たまたま」
「いいえ、たまたまじゃないです」

きっぱりと総司の言葉を否定して、だって、と言葉を繫げる。

「私はいつも、沖田さん見てるから、わかるんです」

沖田さんと同じくらい、ううん、それ以上に。
きっと想いを寄せたのは私が先。
だから、わかるんですよ、と嬉しそうに、満開の笑顔で言われて、どうして抱き締めないでいることができるだろう?

抱き締めて、腕の中に感じる優しい体温に、高揚する心もあるけれど、でもとても居心地がよくて離れられない。
こんな場所、他には知らない。
千鶴ちゃんの、傍だけだ・・・

君の言葉は全部が僕に響く。
胸の中に染み入り、言いようのない感情をもたらす言葉。
僕の言葉も、同じように響け、と願いながら、また愛の言葉を聶く。









おまけv

後日…

「ただいま~…あ~もう腹減った~」
「おう、遅かったな平助、巡察、何か問題あったのか?」
「ないけど!総司がさ~」
「総司が?」
「なんか帰りに呉服屋付き合えって…時間かかったんだよ」
「呉服屋?・・・何見てた?」
「あ?なんか・・・紫の・・・総司らしくない色だな~とは思ったんだけど・・・って何左之さん笑ってんの?」
「わ、悪い悪い・・・かわいいやつだなって思ってよ」
「何が!?」




END






沖千SS!短くまとめるのが課題です。いつもよりは短くできたかな??
似たような話がサイト内にごろごろしてると思うんですけど、好きなので…えへへ^^;
何か、こう…千鶴に言い竦められる総司さんを書きたくなったんです。

着物の話、わかりにくかったらすみません。。
ここぞ!という時の決め手の色。男は紫。女は赤。
これって京のほうでもあったのかはちょっとわからないんですけど、そんなのもあったようで。
紫でアクセントつけた総司さん、見てみたいな~

ここまで読んでくださりありがとうございました(^^)/