かりん







「何あれ・・・・・」

呆然と、総司がぽつりと呟いたのは、今、目の前にある信じがたい光景を見たから。

「あの二人って、そんなに仲よかったっけ・・・」

視線の先から目が離せずに、じ~っと見つめる先にいるのは。






「あれ?あの人・・・」

昼間の空いた時間にお気に入りの場所で昼寝をして。
起きて、まだ夕餉には時間がある、どうしようかと思いながらも目は自然にキョロキョロして、常にからかいの対象にある子を探していた。
その時、門付近に見知らぬ女性が立っているので、訝しんでいたら、どうも見覚えが・・・瞬時にこの間助けた子だとわかる。

「何か用」

気配を立っていきなり背後から話しかけられて、吃驚しない人はいないだろう。
その女性も肩を揺らせてからゆっくり振り向く。総司の顔を見たとたんほっとした顔になった。

「あ、この間のお礼に参ったんですけど・・・彼女は?」
「彼女?」
「はい。先ほど少しお待ちくださいと言ったきりなかなか戻ってこないので・・・」

ひょっとしたら自分を探すのに手間取っているのかもしれない。
困りきった千鶴の顔を想像して少し笑みがこぼれそうになるけど・・・

「彼女って、どうして女だと思うの」

本人は一応男装していたのに。こんなにあっさりばれていたとわかったらまたへこみそうだ。
・・・・・それはそれで面白いけど。

「え?どう見ても女の子にしか…それに…貴方様が男の方と仲よく手をつないで帰るとは思いませんけど」

にっこり微笑んでさらっと言われたけど・・・・この間の帰り際の様子を見られていたのだろうか。
もう少し気をつけて接さないと、こりゃ土方さんに知られたらまた何か言われそうだ。

「まあ、それはおいといて。お礼って何?」
「はい。私が奉公しているお店に皆様をご招待しようと。主人も大事な荷物が助かって、是非に、とのことですし。」
「お店?」
「はい、新選組の皆様には日頃からよく御贔屓にさせていただいております、島原にある・・・という店なんですが」
「あ~あそこ」

大事な客を接待するのにも、息抜きに行くにもよく皆が行く店だった。

「じゃあ、今日行っていいかな」
「今日ですか?もちろんです」

土方もいないし、心おきなく騒げるかな、そう思いながら、話を続けようとすると、ふと視界の目の端に入ったのは、千鶴。

あっ僕を探すのあきらめたのかな、何か早くない?もうちょっと探してよ。

総司は千鶴にしたらとっても迷惑なことを平気で考える。
そんなことを考えていたら、なぜか千鶴はこちらに来ない。
それどころか、後ずさりしたと思うと部屋の方へ走っていってしまった。

「・・・・・あれ、どうしたのかな」
「?何が、ですか?」
「いや、さっき千鶴ちゃんがあそこに・・・」
「千鶴ちゃんって・・・あの彼女の名前ですか?」

隠すも何ももう彼女は女だと断言したような総司の言葉にくすくす笑いながら女性が答える。

「あ~・・・もう彼女でいいや。それでそこにいたのに、走って戻っちゃった、どうしたのかな?」

女性が全く気づいてないのに、すぐに千鶴の気配に気がついたのはさすがである。

「もしかしたら、嫉妬、かもしれませんよ」

ふふふっと意味ありげに笑われて、それでは今夜と女性が去っていったけど。
総司はそれどころではなくて。

・・・・嫉妬、嫉妬ねえ・・・・千鶴ちゃんが?
それって、僕のこと好き、とはいかなくても気に入ってるっていうことかな?
さっきちらっと目に入った千鶴の姿を思い出す。
少しいじけたような、拗ねたようなそんな顔を思い出して、に~っと笑ってしまう。
どうして笑ってしまうのかはよくわからないけど。

「しょうがない、機嫌取りにいってあげようかな~」

総司は千鶴の元へ小走りで向かったのだけど・・・・・・・・・・・・



「行かない、か~真面目だね・・・」

本当言うとそういいそうな気はしたけど。
皆が行くと言えば来ると思っていたのに。

「う~ん、行くの止めようかな・・・」

実はまだ他の人には教えてないので無理に行くことはないのだけど。
今日行くと言ってしまったので、撤回するのも面倒くさい。

・・・・・・・千鶴ちゃんにお酌してもらおうと思ったのにな、また今度にするか。
面倒くさいけど、やっぱり僕は顔出さないとまずいもんね・・・・

それにしても、断る時の千鶴の無理に作った笑顔。
でも千鶴がそんな態度をとればとるほど、なんだか自分は他の人より想われてる気がする。
他のことは面倒くさいと思うけど、なぜか千鶴のそんな態度にはそう思えなくて。
むしろ面倒を起こして、もっと心配してもらってもいいかな、などととんでもないことを考えて。

「よし、行ってすぐに帰って、お土産でも渡してあげよう」

千鶴は、自分が店に行ってなかなか帰らないだろうと思っているところに、帰ってきたらどう思うかな?
しかもお土産持って。
その時にきっと心からの笑顔を浮かべてくれると思っていたのだけど。
そんな子供のような発想をしたのがいけなかったのか・・・




何か嫌な気はしたんだよね・・・・




斎藤だけは店に来ていなくて、どうしたんだろう?と左之に問えば

「あ~千鶴の見張りするから、って言ってたぜ」
「一君は真面目君だからな~でも千鶴一人にするのはどうかと思うから、今回はよかったじゃん!!」
「そうそう!斎藤のおかげで、気兼ねなくゆっくりできるぜ!」

皆が嬉しそうに酒を浴びるように吞んでいる横で、何か心の中で警鐘が鳴っている気がしてならなかった。
見張りは総司も何度もしている。だが、千鶴と話すようなことはない。
何もあるがずがない。というか、何かあったって、別に僕には関係ないはずだし。

そう自分に言い聞かせていたけれど、そんな思いとは裏腹に、総司はすぐに店を出て屯所に足を向けていた。




今、二人は空を見上げながら楽しそうに話している。
ともすれば殺気と勘違いされそうな陰気をだしていることに総司は気がつかなくて。

そんな殺気のような気配に斎藤が気がつかないはずもなく。
斎藤は総司とは思わず、気配のある方を見ずに状況を把握しようとする。

相手は・・・一人か?
隠そうともしない気配に今度は体ごと向き直り、千鶴にそっと

「俺の後ろに下がってろ」

そう言い後ろに引っ張って守るようにしながら刀を向けた。

「誰だっ!!」





5へ続く