かりん

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「大坂に?」
「ああ、そういう情報が入った。・・・だが確かな筋だ。放っておくわけにはいかない」
「それで、その浪士捕獲の任務は、僕が?」
「・・近藤さんからのお達しだ。総司が適任だと」
「ふふ、嬉しいですね。捕獲って生きてなきゃいけないんですか?」
「・・情報を聞き出さなきゃいけねえからな、殺さず連れて来い」
「はいはい」
「それと、同行者だが、腕の立つ隊士を自分で選んで連れて行け」
「はいはい」
「・・・・総司、おまえちゃんと真面目に・・・」
「してますよ、早く行って斬ってあげなきゃね」
「・・・・・・・殺すなよ?」
「・・・・わかってますよ、出発は明日ですか?」
「ああ、早い方がいい、今日のうちに準備済ませておいてくれ」
「はいはい・・・大坂行くならしばらく顔見られないな〜」
「・・・・・・・こんな時にまで千鶴のことか」
「あれ?千鶴ちゃんのことなんて一言も言ってませんよ?」
「ばればれなんだよ」
「そのばればれが、千鶴ちゃんにもうちょっと伝わると嬉しいんですけどね」

そう小さく笑いながら立ちあがり部屋を出ていく総司に土方は、「伝わりすぎて困ってるんじゃないのか?」と言葉を投げた。



「千鶴ちゃん入るよ〜」
「って沖田さん!いつもいつも…頼みますから返事確認してください」

言葉をかけられた時には大抵いつももう部屋の中に入っている総司に千鶴は毎度慌てる。
「・・・見られたら困ることでもしてるの?」
何か悪いことを思いついたような、にっと目を細めて顔を近づけてくる総司に、思わず下がり、距離を取りながら、
「ち、違いますけど!れ、礼儀でしょう?」
「・・・・礼儀、ねえ〜千鶴ちゃんは礼儀正しい人が好きなの?」
「そりゃ、悪い人よりは・・・いい人の方が好きです」
「ふうん…じゃあ、考えとく」

そう言いながら腰をおろして胡坐をかく総司に、

「沖田さんどうしたんですか?何か用事でも?」
「用事がなかったら、千鶴ちゃんに会いに来たらいけないの?」
「!?え、い、いけなくないですけど・・・」

真っ赤になっていく千鶴をうかがいながら、総司はそっと近づいて後ろから抱え込む。

「お、沖田さん〜!?」
「うん、ちょっと黙って聞いててね、大事な話だから」
「・・・大事な話?」
「うん」
「・・・・はい、大丈夫です、聞きます」

まだ心臓ははやって、ドキドキして、顔も熱いけれど、総司の真剣な声色に逆らえなくて、そのまま抱き締められたまま話を聞く。

「僕ねえ、大坂行くことになって、しばらくいないんだ」
「大坂?・・・お使いですか?」
「ううん、違う。浪士捕獲。・・・殺さないって難しいよね〜」
「浪士捕獲?それって、誰か一緒に?」
「うん、とりあえず僕の隊から4,5人連れていこうかな」
「・・幹部の皆様は誰も?」
「うん。」

千鶴は急に不安になって自分に回された総司の腕をキュと掴む。

「沖田さん・・・気をつけてくださいね」
「やだな〜千鶴ちゃん、僕に何かあると思うの?僕って信用ないな〜」
「沖田さんが強いのは知ってます!でも、それでも・・・顔が見えないから、不安になりそうです・・・気をつけて・・・」

言いながら、総司の腕にすがるように体重を預けてくる千鶴が、千鶴の気持が嬉しくて、かわいくて、後ろから抱き締める力を強めて。

「僕は・・・千鶴ちゃんの方が心配だよ」
「?私ですか?」
「うん、だってしばらく会えないし、その間に斎藤君に取られたらどうしようって」
「と、取られるってそんな・・・」
「千鶴ちゃんが、僕のことを心配してくれるように、僕も心配なんだよ」
「・・・・・・」
「だから、お互いが安心して、また会えるようにしたらいいと思わない?」
「お互いが安心して?それってどういう・・・??」

総司の言葉に千鶴がくるっと総司のほうを振り向けば、予想以上に顔が近くて慌てて前を向く。

「あっ傷つくなその態度」
「だ、だって・・・」
「・・・まあ、いいけど・・・千鶴ちゃん、お互いにお守り交換しない?」
「お守りですか?いいですね!でも私にお守りは必要ないんじゃ…?
「必要。」
「そ、そうですか・・・でもお守り今手元にないですよね・・・」
「うん、僕もない」
「じゃあ、作りましょうか?それくらいだったら夜までには作れます!」
「う〜ん、夜までそれで時間潰れるの嫌だな・・・せっかく二人なのに」
「・・・・じゃあ交換できないじゃないですか」

総司の方から言い出したのに・・・よくわからないといった様子で千鶴が首をかしげると、総司も同じように首をかしげながら微笑んで、

「お守りっぽいもの交換できればいいんだよ、僕は千鶴ちゃんに・・渡すんじゃなくて、残しておきたいんだよね」
「残す?」
「うん・・・いい?」
「?どうぞ?」

千鶴のどうぞという返事を聞いて、総司の表情がいたずらめいた笑みを満面に湛えて千鶴に近づいてくる。
あっ口づけされる!?と思ってとっさに目を瞑って唇を噛み締めると、ふいに訪れた感触は口ではなく。
ひやっとした総司の手が千鶴の着物の襟を少しずらして、首から肩にかけて冷たい空気と、温かい総司の吐息を同時に感じたと思ったら、そのまま首の根元に総司の頭が埋もれて一点にだけ感じるやわらかくて、熱い、じんとした感覚。

「お、沖田さん・・・沖田さん・・・」
とんとん、と力なく総司の背中をたたくも総司は反応がなくて、そのままどのくらいの時間が経ったのだろう?
胸の奥までじんとするような感覚に包まれて、体にうまく力が入らない。
やっと顔をあげた総司の顔は、千鶴ほどではないけれど、少し赤くなっていて。

「・・・・・お守り、あげたよ?」
「??あ、あげた??」
「うん、ここにいっぱい」
総司が指さしたところを見た千鶴はキャー!と悲鳴をあげそうになるのを総司がさっと手で口を押さえる。
「はいはい、誰か来ちゃうよ?また邪魔されたくないし」
「また?」
「うん?あ、何でもない。どう?いいでしょう、これ」
「こ、これのどこがお守りなんですか!」

千鶴の首の根元に散らされた赤い花。
それも一つどころではない・・・

「だって、これなら千鶴ちゃんみんなに見られないように警戒して動くでしょう?」
「そ、それはそうです!!は、恥ずかしい・・・」
「それが狙いだしね、千鶴ちゃんを守ってくれてるでしょう?あははは」
「笑い事じゃないです!!」

もう!と怒って総司を突き放し、後ろを向いてしまった千鶴に苦笑いしながら、

「僕のお守りはどうしようか?」
「・・・・・・・知らないです!」
「・・・・そっか、わかった・・・」
「!?っう、嘘です!渡したいです!」

千鶴は、総司が出ていくような気配を見せたので慌てて振り向けば、総司は出ていくそぶりも見せずに笑顔で立っていて。

「うん、そのほうが僕も嬉しい」
後ろの髪を結いあげている髪紐をほどいてそのまま髪紐を千鶴の首にくるっと巻いて。
「はい!これ持って僕のこと考えてて。そしたら絶対大丈夫だから」
「な、なんで首に巻くんですか!」
「僕のって感じでしょう」
「犬じゃないんですから・・・」

もう、と言いつつも千鶴はその髪紐を嬉しそうに首からほどいて持ち直すと、

「庭にある南天に結んでおいてもいいですか?厄除けって言われてるし・・・沖田さんが帰るまで・・・」
「千鶴ちゃんの首に巻く方が効き目ありそうだけど」
「お守りなんでしょう?私は南天のほうがご利益ありそうで安心です」

千鶴がきっぱり言い張ると、総司も微笑んで、

「うん、いいよ、ありがとう・・・待っててね」
「はい」
「・・・斎藤君にたぶらかされないでよ」
「・・・沖田さんの方がすることすごいと思うんですけど」
「・・・そうかな?」
「?」
「・・・ま、明日からは会えない分今日はここにいる」
「お仕事ないんですか?」
「だって、明日から大坂だよ?今日の仕事なんて・・・平助が喜んで代わってくれたよ」
「(へ、平助君・・・かわいそう)・・・明日からどれくらいかかるんですか?」
「う〜ん、相手の出方次第ってところもあるからね、いつとは言えないんだけど」
「・・・髪紐、今から一緒に結びにいきませんか?」
「うん、いいよ」

総司が大坂に行く前のほのぼのとした二人の雰囲気、
総司は、このままずっと続けばいいと、願わずにはいられない。
二人は寄り添って庭に下りて行った。








25へつづく