かりん

19





昼間の喧噪が嘘のように静まり返った屯所内。
総司は一人部屋で布団に横になりながら、眠ろうとしているのだけれど、変に頭が冴えて眠れない。
寝よう寝ようとしても考えてしまうのは・・・

沖田さんといるとドキドキします・・・でも普通のドキドキじゃなくて、ずっと傍にいたいって思うような、ドキドキが私を温かく包んでくれるような・・・

千鶴の一言一句が思い出されて、胸が温かい。
自分のことを嫌ってはいない。むしろ憎からず思っていてくれているとは思っていたけど、自分が思っていた以上の気持ちを聞けて、本当に嬉しかったのだ。
胸が震えるとはこういうことをいうのだと、思い出してふふっと笑ってしまう自分がいる。
そんなことを考えているから目をつむっても胸がはやってとても眠れそうにない。

ただ、そのあとに紡がれた言葉も嫌でも聞こえたけれど。

斎藤さんといると、守ってあげたいって思うんです。かわいくて、愛しい・・・そんな感情がどんどん湧いてくるようで

特別な感情を持っているのは斎藤も一緒で。
自分とは違う特別な感情を持たれている男。
その言葉を聞いていた斎藤は部屋の中が見えるはずもないのに、襖越しにいる千鶴をじっと見るように前をずっと向いていて。
その表情は千鶴が語った言葉をにわかに信じられないような、まるで自分はそんな思慕を向けられていなかったと思っていたような表情で。
土方の部屋を退室した後に徐々に嬉しさがこみ上げてきたのだろうか、斎藤が無言で、だけど嬉しそうに顔を緩めていたのを総司は思い出す。


「愛しいか・・・守りたいとか言ってたし。それって母性愛みたいなのかな」

ぽつりと独り言を漏らして、その自分の言葉に急に不安になる。
千鶴にはそんな男が似合うかもしれない。彼女には母性愛が似合いそうだ。
・・・・・・・・・・・・・・

「だめだ、眠れない」

総司はそう言うなりガバっと跳ね起きて、そのままある部屋へと向かった。





「こんばんは~起きてる?入るよ」

返事がある前に戸を開けると、中にはごろっと布団に横たわりながらあんぐりした顔を総司に向ける左之。

「な、なんだよ!っつ~か、返事を聞いてから入れ!」
「ごめんごめん。頭大丈夫?」
「あ~大丈夫じゃねえよ!二人がかりで後ろから殴りやがって」
「あはは・・・でも自業自得だよね、千鶴ちゃんに手を出すからだよ?」
「・・・・・おまえと斎藤だけは敵に回したくねえな」
「そう思うなら千鶴ちゃんは好きにならないでよね」
「もう遅いって言ったらどうする?」
「・・・・・・・・・」
「だ~!そんな目するなよ!おまえ今なら視線で人を殺れるぞ、きっと・・・・」
「やだな~左之さん、そんなのいつものことだよ」

にこっと笑う総司が恐ろしい・・・
左之は頬をひきつらせながら何とかおおと返事を返して。

「それで、要件はそれだけか?」
「・・・いや、ちょっと左之さんに聞きたいことあって」
「聞きたいこと?まあいいけど・・・ただ話すってのもな、酒でも吞むか?」
「・・・そうだね、少しならつきあってもいいよ」

二人で杯を傾けながら場が温まってきたころ、ぽつりぽつりと総司が話し出す。

「あのさ、ドキドキするっていうのと、愛しいっていうの、何が違うのかな」
「・・・・・・・千鶴に言われたのか?」
「直接言われたわけじゃないんだけどね」
「そうだな~ドキドキっつうくらいなら恋じゃないのか?」
「恋?」
「ああ、愛しいっつうのはそのままだろ」
「愛・・・だよね?」
「そうなるんじゃないのか?」

左之の答えに黙りながらこくっと一口だけ酒を含んで、

「ずっと傍にいたいっていうのは、愛じゃないの?」
「あ?どうだろうな、一概にこれは恋、愛とか決めるものじゃないだろ?」
「う~ん、かわいいとか守りたいっていうのは?」
「それは完全に母性愛と言えるんじゃないか?」
「・・・千鶴ちゃんにはそっちの方が似合いそうだよね」
「総司・・・・」
「僕には恋で、斎藤君には愛かな。それって最後に選ぶのはきっと後者だよね」

淡々と話しながらも、どこか上の空で天井を見つめながら話す総司に、左之は子供をあやすように頭をぐしゃぐしゃと撫でまわしながら、

「総司!そんなしょげんな!お前らしくないぞ?まだ決まったわけじゃないしこれからだろ?」
「左之さん頭痛いよ」
「一番組の組長はそんな簡単にあきらめたりしね~よな?」

バンっと背中を叩かれて、総司は叩かれた背中を押さえながら、

「加減してよ・・・それに僕あきらめるなんて言ってないよ?そんな気これっぽっちもないしね」

飄々としたもの言いにいつもの笑みを浮かべる総司に左之も笑顔で返す。
まあ、今夜は飲もうぜ!と二人で盃に酒を足していると・・・

トントン
「左之、起きているだろうか」

その声に総司と左之は顔を合わせた。

「起きてるぞ、入れよ」

その声を聞いて戸を開けた斎藤は中にいる思わぬお客に一瞬目を見開く。

「総司も来ていたのか」
「うん・・・・ねえ左之さんの見舞いに来たの?」
「あ、ああ・・・」

(これは僕とおんなじ理由だな)(なんだかんだで似た者同士なのか?)

二人で心の中でツッコみながらもう一人のお客を迎えたのだった。




20へ続く