かりん

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「う〜ん、こんなもんか?いやでも季語も入れて季節を感じさせてみるのも・・・いやしかし・・・」

土方は忙しい激務の合間に少しだけ頭を休めようと、俳句帳を取り出して新しい一句を考えていた。
それが余計頭を疲れさせているのだけど、本人はそうは思っていない。
これだ!というものが中々思い浮かばなくて、仕事そっちのけで俳句に没頭し始めた時、何やらキン!キン!と微かに刀の交叉する金属音が聞こえる気がする。

・・・・何か問題でもあったのか?

いや、それならば自分にすぐに報告が来るだろう。
それに屯所内からは侵入者が入ったような不穏な気配は感じられない。
誰かが木刀ではなく刀で稽古でもしているのだろうか?それとも勘違いか?
何にしても、その音が気になりだし俳句に専念出来なくなってしまったので、仕方なく様子を見に、と腰を上げた時にバタバタバタ・・・と廊下を駆けてくる足音が聞こえる。

やっぱり何かあったのか!

そう判断して、鬼の副長の顔へとビシっと引き締めて土方が戸を開けようとするのと、千鶴が戸を開けるのは同時だった。

バン!!

「土方さん!よかった!すぐに来てください!」
「わかってる。一体何があったんだ!人数はそうはいないようだが」
「沖田さんと斎藤さんです!」
「総司と斎藤が相手してるのか、それなら心配はいらねえと思うが放っておくわけにもいかないしな、案内頼む」
「?(心配いらないの?)・・・はい!」

二人は千鶴を前に現場へと急ぐ。その途中土方は少しでも情報をと千鶴に問いただした。

「状況は?」
「はい、原田さんが倒れてて、一瞬のことで…私早く介抱しないと」
「左之が!?ちっよっぽど腕の立つ奴か・・・で、相手は何人だ」
「?だから沖田さんと斎藤さんが・・・」
「相手してるんだろ?二人ってことか?」
「え?そうです」

話がかみ合っていないのだけど、急がなければという気持ちのせいか、少しおかしいことに気がつかない。
そのまま急いで廊下を走り、突き当りを曲がったところで土方は、目に入ってきた光景に思わず足を止める。

・・・・・・・・・ど、どういうことだ!?

目の前に広がる視界にはどこにも敵は見当たらず、いるのは倒れている左之と、そして、本気でやりあっている二人、総司と斎藤で。
足を止めた土方に気づいた千鶴は、袖をクイクイっと引っ張るようにして、

「土方さんあそこです!早く止めてください!」
「は、はあ?」
「私原田さんを見ますから」
「て、敵はどうしたんだ?なんであいつらほっぽって斬り合ってんだよ!」
「敵?何のことですか?」
「・・・・・・・ちょっと待て、もう一度説明しろ」
「だ、だから、沖田さんと斎藤さんがけんかして、原田さんはお二人に気絶させられちゃって・・・」

・・・・・・・・頭が痛い・・・・・・・・・

「土方さん?どうしました?」
「・・・・ああ、いや何でもない」

土方はそう言うと自分が来たことにも気がつかないくらい、真剣にやりあう馬鹿二人の元へ足を進める。
途中倒れている左之をちらっと見る。・・・・・とんでもないこぶが・・・・あいつら後ろから殴りやがったな・・・

ただでさえ、問題の多い屯所内に、幹部が問題を増やしてどうしようというのか・・・土方の怒りは頂点に達して・・・・

「総司!斎藤!てめえら何してやがる!刀をしまえ!」

土方の怒号に二人の動きが瞬時に止まって、土方の方へ向き直る。

「ふ、副長・・・」「何しに来たの、土方さん」

片や申し訳なさそうに顔をそらして、片や何も問題なかったかのように、むしろ邪魔した土方を威嚇するように土方を見やる。

「何しに来たの、じゃねえ!私闘はご法度!それを幹部のお前らが率先して破るな!」
「申し訳ありませんでした」
「やだなあ、私闘なんて大袈裟だよ、ただの稽古です」
「総司・・・お前は・・・じゃあ左之は何で倒れてるんだ」
「千鶴ちゃん襲ってたから助けたんだよ」
「左之は自業自得です」
「・・・・・・・・・そうなのか?千鶴」
「え!?お、襲ってなんかは・・・いません」
「でも千鶴ちゃん抱きつかれて悲鳴あげたし、正当防衛でしょ?」
「左之のことに関しては間違っていないかと思いますが」

二人ともそこの意見は曲げる気がないようで、頑として意見を譲らない。
土方ははあと溜息一つ漏らしてから、

「とにかく話は俺の部屋で聞く。千鶴、左之の介抱頼む。そいつが気がついたら千鶴も俺の部屋に来い」
「わかりまし「あっそれだめ」「反対です」

千鶴の返事にかぶせるように総司と斎藤が否を唱える。

そんな二人にうんざりしたように土方は顔をしかめる。
なぜいけないのか、そんな理由も聞くのも面倒くさい。一層増える眉間のしわを伸ばすように手をあてながら

「千鶴いいから頼む」
「は「だめだってのに!違う人に頼んでくださいよ」「千鶴に任せるのは反対です」

・・・・・・・・こいつら〜!!

もう話を聞かなくても大体の理由はわかってしまった。いや、わかりやす過ぎるのだ。
こんな理由で新選組の幹部がやりあうなどと、外に漏れたらいい笑い物だ。

「・・・・・・・千鶴、誰か適当な奴呼んで看てもらえ、そのあと・・・一応俺の部屋に来い」
「わかりました」

今度こそ邪魔もなく千鶴の返答が聞こえてほっとする。
・・・こんなことでほっとするのも何か悲しいものがあるけれど・・・

「よし、お前らは俺の部屋まで来い」
「はいはい」「はっ」

自分の後ろを付いてくる二人をちらっと振り返りながら土方はまた溜息を吐く。
これから自分の部屋で話される内容は、きっと自分の予想の範疇内だろう・・・
そう考えるとますます頭痛がひどくなる気がするけれど、放っておくわけにもいかない。
自分のこういう性格を今ほど恨めしく思ったことはない。

何度目かわからない溜息を洩らしながら部屋に向かった。




18へ続く