かりん

16






「ふう…総司のやつ、疑い深いにも程があるぜ」

コキコキと肩を鳴らしながら、先ほどまで千鶴を探すと言い張り、自分たちをすごい力で押しのけようとした総司のことを思い出すとつい、笑みが浮かんでしまう。
あそこまで執着を示すというのもすごいものだ。総司と斎藤、二人の剣豪を虜にした千鶴にはそんなに魅力があるのだろうか…
確かにふとした時に見せる笑顔は本当に人を魅了する。あの二人に限ったことではない。
自分だって、この子を、千鶴を嫁さんに迎えることができたなら…と明るく楽しい未来を思い描いたことは少なくない。

・・・危ないな、俺も虜にされた一人かもな?

そんなことを考えながら廊下を歩いていると、今まさに頭の中にいた千鶴がこちらへ歩いてくる。
赤く染まった顔を両手で隠すようにしながら、急いで部屋に戻ろうとしているようだ。

あの顔見たら、総司の奴また勘ぐって苛々するだろうな…

そんなことを考えながら、自分に気がついて顔をあげた千鶴によっと声をかけた。

「あっ原田さん・・・」
「どうした、そんなに顔赤らめて。熱でもあるんじゃないのか?」

赤らめてる理由などとうに知っているけど。

「いえ!違います…そんなに赤いですか?」
「あ〜まるで林檎だな、何かあったのか?」
「!?いえ、何にも」
「そうか?男に迫られたりとかしたような顔だぞ」

にっと笑って頭に手をポンと置くと、とたんに千鶴は余計に赤くなって慌てだす。

「そっそんなことまでわかるものなんですか!」
「・・・・・おまえ、すごく顔赤いぞ?大丈夫か?」
「だ、だって!勝手になるんです・・・それよりわかるものなんですか?」
「わかる、と思うぞ、そこまで赤くなるなら」
「こ、困りますね・・・」
「まあ、惚れた女が自分のことでそこまで照れてくれるなら嬉しいだろうが・・・」
「・・・あきれたりしませんか?」
「嬉しいだろう」
「そうですか」

まだ顔は赤いまま、少しだけほっとしたように胸を撫でおろす千鶴。そんな千鶴を見て、

「でも、千鶴はすぐに赤くなるよな」
「え?」
「好きな男じゃなくても赤くなるだろう?それはどうかと思うぞ?」

少なくとも、平助や新八のような単純な奴らは間違いなく誤解するだろう・・・

「そう言われても、あの、今まで男の方と接することなんてなくて…」
「そうだよな〜・・・よし、ここらで免疫つけとけ」
「そうですね、新選組の皆さんと話すようになってだいぶついたと思います」
「甘い」
「?」
「全然ついてないぞ」
「そ、そうですか?」
「おお、たとえば…」

左之が千鶴と視線を合わせて見つめあうようにじ〜っと見れば、たちまち真っ赤になる。
そっと髪を撫でてやればもう目も合わさずに挙動不審。
軽く腕の中に閉じ込めれば・・・「キャ〜!?や、やりすぎです!!無理です!そんなの免疫つけられません!!」

千鶴が叫んだとたんに

ゴッ!!ガッ!!


鈍い音が響いたと思ったと同時に左之が崩れ落ちる。

「キャ〜!は、原田さん!ど、どうしたんですか!?」

崩れ落ちて見えた左之の背後には、沖田と、先ほどまで一緒だった斎藤の二人がものすごい殺気を放ちながら立っていた。

「・・・・やっぱり左之さんは危険だね、要注意しとかないと」
「総司がそれを言うのか」
「どういう意味?」
「そのままだが」
「僕は本気だからいいんだよ」
「・・・・・・・・・俺だって。
「は?何か言った?」
「いや、何も」

倒れてる左之を目の前に、何事もなかったかのように淡々と話す二人に千鶴の方が焦ってくる。

「あの・・・原田さんまだ気がつかないんですけど」
「放っておけば」「放っておけ」
「・・・・・・・(この意気の合いっぷりは何?)」
「大体千鶴ちゃんもされるがままになってたら駄目だよ?」
「嫌な時は突き放すか、俺を呼べ」
「・・・・・・うわあ何、出し抜く気満々だね」
「そんなつもりはない」

なんだかだんだんと不穏になっていく気配に怯えつつ、何とか意見を言ってみる。

「あの、原田さんは私のためによかれと思って・・・」
「「何のために」」
「え、えっと・・・私がすぐに赤くなるのはどうかと・・・」
「そこがかわいいのに」「別にいいと思うが」

なんだかものすごく恥ずかしいことを言われている気がする。

「で、でも…好きな人以外にそんな反応するのはどうかということで、免疫つけようって・・・」
「「・・・・・・(それはわかる気がする))・・・・・・・・」」

急に黙り込んだ二人に、納得してくれたのかと、ほっとして、左之を起こそうとした時、不意に総司が

「ところで、何でそんな話になったの」
「・・・・え?」
「なんの脈略もなくそんな話にはならないよね」
「そ、それは…え〜と、私が赤くなってたみたいで」
「どうして?」
「ええ!?」

千鶴がちらっと斎藤を見やれば斎藤も赤くなっている。
ど、どうしよう?何て言えば??

言葉には出さなくても千鶴と斎藤の二人が赤くなって黙りこめば答えは一目瞭然。

「・・・・そういうことか〜」

顔はへらっと笑っているけれど、言い終わる前に総司は抜刀していて風を斬るビュっと音が響いた。
斎藤は皮一枚のところで何とか交わすと総司をキっと見返す。

「いきなり何を・・」
「理由ならわかってるでしょ」
「・・・・・・・・・」
「いくけど、いいよね」
「・・・・来い」

その言葉が合図のように総司が足を踏み込んで、斎藤は一気に刀を抜く。
キンッキンッと刀が交わる音と、風を斬る音だけが屯所内に響く。

ど、どうしてこうなるの!?
いまだに倒れている左之も放っておけないし、この二人をどうにかするには・・・

そうだっ土方さん!!

ぱっと頭に睨みを利かすような顔をした土方が思い浮かぶ。

原田さんごめんなさい!少し待っててください!と心の中で呟きながら、千鶴は土方の部屋へと急いだ。





17へ続く