かりん

10





「はあ…何で僕が?」
「つべこべ言わずにさっさと行け」

いきなり呼び出されたと思ったらこれだ・・・
今日は朝から忙しい。ようやく一息つけると思った所に土方からの呼び出しがかかって。
何のことはない、隊士を希望する人数がこのところ増えてきて、その新選組の象徴である羽織が足りないのだ。
それを反物屋に行き、取り急ぎ作ってもらうように、とのこと。それだけのことなんだけど・・・

「大体、足りなくなるなんていう事態がそもそもおかしいんですよ」

ちっとも腰を上げる素振りを見せずに、口を尖らせて文句を言う総司に、

「あ〜もうしゃべくってる間に動きやがれ!」

任務雑務執務、様々な仕事に埋もれそうな自分に比べりゃ楽だろうが!と言い返したいけど、そうなると長くなるのはもう知ってるので敢えて言わない。

「・・・もっと、他にいるでしょ、僕じゃなくても。そこらへんにくつろいでる隊士山ほどいますよ」
「あ〜おまえが稽古で容赦なくしごいて、使い物になりそうにないくらいへばったのがな」
「・・・あれくらいでへばるようじゃだめですよ、言えば動きますよ」
「動かせるものなら動かしてみろ」
「・・・・・・・・無理でしょうね」

ほらみろ、と言わんばかりの視線を向けられて、黙ってしまうような総司ではなく。

「土方さんが行けばいいじゃないですか」
「はあ?今おまえと話しながら必死に作業をこなす俺にどうしろっていうんだ」
「もともと土方さんが発注数を間違えたのがいけないんでしょ」
「・・・・・・・違う!なんでも俺のせいにすんな!ったく、いいから行け!!」
「嫌です」
「・・・・・・おまえな・・・・・・」
「でも行ってあげてもいいですよ」
「じゃあさっさと行け」
「その代り・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・」
「千鶴ちゃんも一緒でいいですか?」
「はあ?あいつは関係ねえだろ!連れていく必要ない」
「だってそんなにいっぱいの羽織、僕一人で持てないし」
「今日できるわけあるか!」
「作らせますから」

にっと笑いながらそう言われて、つい・・・

「出来るもんならやってみやがれ!」

と勢い返した土方がしまった!と思うのはあまりに遅くて・・・

「じゃあ、そうします」

土方に何か言われる前に総司はさっと腰を上げて部屋を出てしまって・・・・



「じゃあ行こうか」
「はい!」

こうして総司とともに千鶴も一緒にお出かけしたのだった。




「今日は羽織の受け取りに行くんですよね?私たち二人で大丈夫なんですか?」
「うん、注文だけだから大丈夫だよ」
「・・・・・・え?」
「何?」
「あの、沖田さん…確か荷物多くて大変だから手伝ってって・・・」
「あ〜でも今日注文するのに、無理だと思わない?」
「あ、あの、じゃあ私は・・・」

必要なかったんじゃ?そう言葉にする前に、

「すぐに終わらせて、二人でゆっくりしようね」
「・・・・ふ、二人でゆっくり!?」
「うん、屯所内だとどうしても邪魔が入るし、やっと二人っきりになれたかな」

背をかがめて、目の高さを千鶴に合わせて、嬉しそうに言う総司に、ドキっとしながら、

「で、でも・・・沖田さんまだお仕事残ってるんじゃ・・・」
「だって、副長命令の任務優先でしょう?いいんじゃない?」

悪びれもなくさらっと言う総司の態度に、角を生やした土方の姿が容易に想像できて・・・

「やっぱり、ダメです!すぐに終わるなら帰りますよ」
「・・・う〜ん、君は新選組預かりだよね」
「はい」
「それで今は僕と一緒に行動している」
「はい」
「じゃあ、僕のいうことちゃんと聞いてね、迷惑かけないって約束でしょ」
「で、でも」
「・・・そんなに僕と二人は嫌かな」」
「ええ!?そういうことを言ってるんじゃなくて!仕事をさぼるのは・・・」
「さぼってないよ、もう全部終わった」
「?もうないんですか?」
「うん、この副長命令だけ(嘘だけど)」

なんてことない顔して普通に言われたら、そう信じてしまうのが普通だろう。
そして例外なく千鶴もその言葉を信じてしまい・・・

「あの、じゃあちょっとだけなら・・・」
「ちょっとってどれくらい?」
「え?ちょっとはって、え〜と、」

まさかそんなこと聞き返されるとは思わなくて、どれくらい?と真剣に考える千鶴の様子を横目で見て、その素直なかわいらしさに、小さな笑みを浮かべながら

「僕にとって、近藤さんや千鶴ちゃんと過ごす時間は、どんなに長くてもちょっとだけど」

半分冗談のように、半分本気のように、そんなことを呟いた総司の声。
それだけ自分を受け入れてくれているのだと、純粋にうれしい気持ちと、なぜか勝手にあがる心拍数に焦るような気持ちと。
そんな思いを抱きながら、どう反応していいのか困ってると、

「じゃあ、ずっと一緒にいようか」

今度は間違いなくいつものからかう総司の声になっていて。
それに少しだけほっとして、でも、なぜかがっかりもしていて。

「もう!沖田さん!からか、わ、な・・・い・・・」

言いながら顔を上げてみれば、総司の顔は声とは全く違って・・・薄く笑をたたえているけど、目は真剣で。
そんな顔を見たら何も言えなくなる。
とたんに熱があつまる顔をどうしたらいいのか、千鶴は総司に気がつかれないように、そっと顔をそらしたけど。

耳まで赤くなっているのに総司が気がつかないはずもなく・・・

・・・よし、さっさと終わらせよう

「さ、ということで、急ぐよ千鶴ちゃん」

わざわざ赤くなった千鶴の顔の正面に回り込んで、目を合わせて言うと、さっと手をつないでどんどん歩みを速めた。




11へ続く