かりん
注意!このお話はラストまでは、沖千斎の三角関係で進みますが、最終話では沖田さんとのEDを迎えることになります。
それでもよろしいと思われる方のみお読みください。
1
月明かりが雲間をぬって闇を照らす中、少女は声も出ない様子で震えていた。
目の前で起こる惨状に身を強張らせて。
先のことを考えれば、この少女はやっかいな存在となる。殺した方が・・・そう思うのに、
涙をうっすら浮かべ震えながらもじっとこちらをすがるように見つめるその目に、
刀を向けることなどできなかったのは・・・
「ほら、千鶴ちゃんまた遅れてる」
「す、すみません」
「ったく、ついてくるのはいいけど、これ以上迷惑かけないでよ?」
「はい!」
返事だけはしっかりするんだよね〜
そうぶつぶつ思いながら、今は屯所の居候となっている千鶴を市中の見回りに連れていく。
父親探しのために何かしたい。そういう彼女の気持ちをようやく土方さんが汲んだから。
手がかりは今も何も見つからない。それはそうだと思う。
新選組がずっと行方を追っていても見つからなかったのだ、そう簡単にはいかないだろう。
手がかりが何もみつからないまま月日はどんどん過ぎていくけど、千鶴はめげない。
総司は千鶴のそんなところを気に入っていた。
「じゃあ、この店にちょっと用があるから、大人しくここで待っててよ」
ある呉服屋の前で千鶴にそう指示を出すと、こくこくうなづいて。
総司と隊士がそれぞれ店に入っていくと、千鶴はぼんやり外を眺める。
行き交う人々でにぎわっている町。
問題など何もなさそうなこの町で、父は行方知れずになり、そしてあの日の夜は・・・
表と裏の顔を持つ京の町。
確かに治安が悪く怖いところもあるけれど、千鶴は今のこの活気づいた町が好きだった。
「キャッ!?やめてください!」
表の顔のその雰囲気を壊して、一変、裏の顔になったような雰囲気になる。
声のするほうを振りかえると、浪士が一人の女性に絡んでいる。
た、大変!
千鶴は急いで店の中に入り、店主と何やら話している総司に報告する。
「沖田さん!浪士が女性に絡んでいて困っているみたいなんです!助けに・・・」
「何で」
「何でって!連れて行かれでもしたら・・・」
「まだ連れて行かれもしてないし、けがとかさせられたわけじゃないんでしょ?」
「それは・・・」
「じゃあ、僕の出る幕じゃないよ」
何事もなかったかのように店主と話しだす総司に呆れながら
「私、見て見ぬふりできません!何かあってからじゃ遅いし!」
そう言い放って外へ出ようとした瞬間腕を引っ張られて、
「あ〜はいはい。君が勝手に動くともっとやっかいなことになるの、止めてね」
「じゃ、じゃあ沖田さんお願いします」
「・・・・・・・何で僕が君の指示に従うのさ」
総司がぼそぼそめんどくさそうに言うのを無視して、こっちです!と案内するように外に出ると、先ほどより状況は悪化していた。
「やめてください!それがなくなったら困るんです!」
「へっうるせえな〜言うこと聞いときゃいいんだよ!」
女性が大切そうに抱えている風呂敷包みを浪士が無理やり持っていこうとしてる。
「あ〜面倒くさい」
ちゃっと刀に手を添えて、誰もおびえて近づかないその騒ぎの中にスタスタと足を進めて、
「ねえ、面倒くさいことしないでくれる?斬るよ」
軽い言葉にのせて届いた声は、言葉ほど軽くなく、むしろ浪士が一瞬にしてひるむような威圧する声。
「なっなんだてめえ!」
「お、おい、この浅葱色の羽織は・・・・」
「!?新選組か!?チっ!!」
総司は慌てて立ち去る浪士を面白くなさそうに薄くにらむ。
「沖田さん大丈夫でしたか?」
遠巻きに様子を見ていた千鶴がそっと近づいて心配すると、
「誰に物言ってるのさ・・・は〜斬る価値もないってね、どうせやるならもっと強い奴じゃないと」
とても一番組の組長とは思えない発言・・・それでも言葉だけで退散させるなんてさすがだなと感心する。
「さ、行くよ」
「ま、待ってください!」
助けてあげた女性が慌てて総司を呼び止めて。
「ありがとうございました。今はお礼も何もないんですが、そのうちに」
「お礼なんて別にいいけど、この子に言ってくれる?僕は助ける気なかったし」
「お、沖田さん!」
「あの、助けていただきありがとうございました。」
その女性は私にも向き直って深々と頭を下げる。
「そんな!?私何もしてないです、顔をあげてください」
顔をあげた女性を見て一瞬見とれてしまった。
笑顔がとてもきれいで、女性らしくて・・・
「では、また」
去っていく女性をぼ〜っと眺めていると
「千鶴ちゃん、ほら行くよ。ぼ〜っとしない」
こつんと頭をこづかれて、はっと気がつけば何やら総司が苦笑いを浮かべていた。
「何、君・・・女性が好きなの」
「ち、違います!!ただきれいだな〜って・・・理想的な人で…」
「ちょっと見ただけなのに随分ベタ誉めだね」
「だって、こうなりたいっていう理想みたいな人でしたから」
言いながらも先ほどの笑顔を思い出して、思わずため息をもらしてしまう。自分はあのようにはなれないだろうな、と。
「ふうん、僕は千鶴ちゃんは今のままがいいと思うよ」
「今のまま…沖田さんってああいうきれいな人見て、何とも思わないんですか?」
「うん?きれいだな〜とは思うけど、それだけだよね」
「・・・・・きれいだなって思うだけで十分じゃないですか」
私は沖田さんにきれいだなんて一度も言われたことないのに・・・やっぱりうらやましい。
「千鶴ちゃんは、きれいって思われたら十分なの?」
なんとなくもやもやした気持ちに俯きがちになっていると、不意に尋ねられて、
「言われたことないから・・・やっぱり憧れます、そういうの」
お世辞にもきれいとは言えないから仕方ないんだけど。一度くらい聞いてみたい・・・
「・・・・・・はははっ君って本当に考えてることが顔に出るね」
「え!?」
「千鶴ちゃんは・・・・」
総司は歩んでいた進みを止めて、立ち止まって一呼吸つくと、
「思わずからかっちゃいたくなる子、かな」
「・・・・・・・あの、全く嬉しくありません。」
意味ありげに立ち止まるから思わず期待してしまっていた自分に情けなくなる。
「きれい、とかよりいいと思うけどな〜気になる子ってことじゃない?」
薄く微笑んで、ね?と同意を求める総司に
「思いません!」
きっぱり言ってそっぽを向く。大体気になる子の子がもう子供扱いされているみたいで悲しくなるのに。
「あはははっ!やっぱり千鶴ちゃんといると飽きないね」
本当に楽しそうに笑いながら、さ、屯所に戻ろうとそっと手を握って千鶴を引っ張っていく。
初めて出会った晩、力強く腕を掴まれて、笑顔ではあったけど逃げれば斬る。と言わんばかりにギュっと握られていた腕。
今では本当に楽しそうな笑顔で、優しく包み込むようにそっと添えられた手。。
そんな小さな変化が嬉しくて、拗ねていたことがどうでもよくなる。
「はい!戻りましょう]
千鶴は、つないだ手をぎゅっと握り返した。
2へ続く