愛し日記




6




七月△日


今日は朝から屯所内に土方さんの怒鳴り声が響いていて、とても煩かったです。
発句集が見当たらないからと言って、すぐに沖田さんを疑うのはどうかと思います。
大した才能もないのに書き続けるのは不憫すぎる――という彼の親切をどうしてわからないのでしょう。
結局そのまま沖田さんを拘束して、お説教。
沖田さんとの大事な時間を邪魔されてしまいました。
可哀想な沖田さんを、後でいっぱい慰めてあげようと思います。

朝から散々でしたが、沖田さんを大好きになって恋仲になってから……今日やっと。
みんなにもう深い関係ですと言えることができました。
これからはみんなの前でももっと沖田さんと、い




「沖田さん…っ!!!!!」

初めてではないだろうか。

千鶴がその可愛らしい声を精一杯張り上げて、その可愛らしい顔を怒りで真っ赤にして涙ぐんでいる。
その矛先である総司はピクッと一瞬身体を揺らすと、落胆したように肩を竦めた。

背中の、怒りやら情けなさやらで小刻みに震えているような気配に、総司は目いっぱい愛嬌を浮かべて笑顔で振り向く。

「あ〜あ、見つかっちゃった」
「見つかっちゃった……じゃありません!!何してるんですか。人の日記に……もう〜!!」

ぬかった。
日記を書くのに夢中で、千鶴の気配に気付かなかったことが最大の失敗だと心の中で舌打ちする。

総司の手元から千鶴は日記をバッっと取り上げると、むううっと非難をいっぱい涙目に込めて見上げる。
申し訳ないという気持ちは湧かずに、可愛いなあと暢気なことしか浮かばない。

「だって千鶴ちゃんが悪いんだよ。僕との逢瀬の時間に遅れてのんびりしてるから」
「遊んでいたんじゃありません。土方さんのお手伝いをしてて……っそれに、約束の刻限には戻って来ました」
「うん。僕が待ちきれなくて早く来ただけなんだけどね」

することがなくぼうっとしていたのだが。
土方の手伝いをしている千鶴が、そういえば前に筆の練習で何かを書きつけているというのを思い出し。

…ひょっとして、僕への恋文みたいなものだったりして。

などと頭のねじが緩んだような発想をし、机を探したらあっけなく見つかったのが日記だった。
恋文ではなくガッカリもしたのだが、これはこれで興味深いと遠慮なく広げるのが総司である。

へらっと、反省の欠片も浮かべずに。
何もなかっとように千鶴に向かって腕を広げる総司に、千鶴は近寄らずに一歩下がる。

「人の机を勝手に漁って、日記を見るなんていけないことですよ」
「見てたんじゃなくて、書いてたんだよ。千鶴ちゃんの今日の日記を」
「え――書いて……?」

千鶴は慌てて自分の日記を開いた。
日記はいつも夜、時間の空いた時に書くことにしているのだが――

目に入ったその内容に思わず、思わず頭がクラクラして眩暈がする。

「な、なんてこと書いているんですか!!」
「え、嘘は書いてないよ?今日は朝から土方さんに追い回されて――」
「だって、私こんなこと思いません!!」

今なら土方の気持ちがとてもわかる。
こっそり楽しみとなっていたこの日課を踏みにじられたような気がして、千鶴は今朝の土方同じく総司に向き直る。
だが、千鶴のその強い否定の言葉に、反省しなければいけない総司の態度が急変する。

「そんなこと言うの」

憮然とした表情を浮かべ、千鶴に向けられた視線はかすかに歪んでいる。
突き刺さるような視線に、正しいと思う言葉を飲み込まれそうになる。

「それは……朝、二人の時間が持てなかったのは寂しい、ですけど。でも、沖田さんの発句集を隠すのを親切とは――」
「・・・・・・・・・・」
「それに、皆さんには内緒にって事なのに、言うなんてこと……」

しどろもどろと、言葉を続けながらも引き下がらない千鶴に、総司はぷいっと顔を逸らした。

「本当のことしか書いてないって言ってるのに」

なんでわかってくれないの、とばかりに悲しいような苛立たしいような二面の色を言葉に滲ませて。
そういう態度を見ると、自分が何か見逃しているのだろうかという気になる。

少し、怒り過ぎただろうか――
日記は見てないんだし……

と考え直して、総司に和らげた声をかけようとした時、千鶴の怒声を聞きつけて部屋に様子を見に来たのか。
斎藤・平助・左之・新八の四人がどうした!?と息を荒げて集まってきた。
涙目ながらに困った様子の千鶴と、むすっとしてる総司を見比べ、何故だか一斉に溜息が折り重なる。

「なんだ、痴話喧嘩か?」

あっさり状況判断をした左之に、千鶴は「ええっ!?」と慌てふためく。

「どーせ総司がまた何かやったんだろ」
「総司が悪いに決まっている」
「にしても、千鶴ちゃんがあれだけ怒るって一体何したんだ?」

何故だか左之の『痴話喧嘩』という言葉に誰も反応を示さない。

……皆さん、痴話の意味、わかっていますか?これって、これってどういうことなの!?

当然のようにその言葉を受け入れ、親切なのか野次馬なのか、皆一向に部屋を出る気配はない。

「僕らのことに口を挟まないでくれる?迷惑だよ」
「放っておけば、また泣かすかもしれないだろう。謝れ」
「事情も知らないのに勝手なこと言わないでよ」
「どう見たって総司が千鶴を泣かしているんじゃん。千鶴、大丈夫か?」

泣いている方がどうしても弱く見える。
総司と千鶴の場合は特に、一方的に泣かされたのだろう――と皆が疑わない。

「出て行ってくれる――?」

心底機嫌の悪い、威嚇するような雰囲気を纏い凄ませる総司に、むしろ斎藤や左之は凄み返していた。

「大切にしろって言ってんだろ?」
「自分本位のことばかり考えていては、愛想を尽かされるぞ」
「あ、あの……」

もはや二人が恋仲であることは知っているかのように、話が進められ。
そのことを問いただすべきなのか、
たかが日記に書き足されたくらいで、自分が一方的に怒って泣いただけなのだと説明するべきなのか。

思考が追いつかないでいると、一人この場にまだ来ていなかった土方が「おい」と突然部屋に現れた。
千鶴の部屋の中を見渡し、さも面倒そうに眉間に手を添える。

「何でこの部屋に集まってる?さっきのてめえの声はありゃなんだ?」
「すみませんっ大声出して……あの、私が勝手に怒っただけです。ほ、本当に面目ありません」

どう聞いたって総司を庇っているようにしか聞こえない。
その庇われた本人は、何故か土方が来ると一層顔を不機嫌なものにさせた。

「お前が勝手に怒るって……どうせ総司が何かやらかしたんだろ?」

皆と同じ事を言って、今朝の発句集騒ぎのことを思い出したのか、厳しい視線を総司に向ける。
総司はそんな視線など気にしないように、表面だけの笑顔を浮かべて告げた。

「千鶴ちゃんの日記に、今日の出来事を書いただけですけど」
「日記……?おい、千鶴。そんなものつけてんのか」
「え、は、はい――」

何故か険しくなった土方の顔に、千鶴は恐る恐る返事をした。
土方が千鶴に何か呆れたような顔を向け、言葉を発しようとしたのを総司が遮る。

「大丈夫ですよ。新選組の内部事情なんて何っにも書いていませんでしたよ。みんなとお茶飲んだとか、土方さんのお手伝いをしたとか。そんなことばっかり」
「そうか――」

顔の緊張を解いた土方に、千鶴は自分が日記をつけるという意味をようやく理解した。
皆の態度が軟化して、大切にしてくれて、ここに居ることを楽しいとは思っていても……自分の存在は監視対象なのだ――

「きっと、僕のことを一番たくさん書いてくれてると思ったのに簡素すぎるし、挙句無駄に土方さんの名前は出張ってるし」

土方に向けた言葉は、いつの間にか千鶴に向けられていたのか。
先ほど言わなかった不満をここぞとばかりに羅列してくる。

……ん?ちょっと待って。それって、それって……

「沖田さん、日記やっぱり読んでるんじゃないですか!!」
「目の前にあるのに、見ないわけないじゃない。なんか事務的な内容ばっかり。もっとたくさん書くことあるでしょう?何で僕とのことをあんなに省略してるの」
「お、沖田さん。落ち着いて…っ」

開き直って箍が外れたのか、内緒だよと言っていた関係を、総司はまるで隠そうともせずにツラツラと話し出してしまった。
四人にはもう知られている気はするが、最後の砦を自分自身の口で壊そうとする総司に、またしても千鶴の怒りは意気消沈。
皆さんの前ですよ。土方さんの前ですよ――と不機嫌をその手で制そうとしたのだが。
反対にあっさり掴まれ引き寄せられた。

「もっと書いてよ。抱きしめられたとか、こういうところが好きだとか、葡萄の花のことだって書いてないし」
「それは、だって……」
「僕と君との思い出は曖昧にして。適当なことばかり列挙して君が書いているから……僕が書いちゃおうと思ったんだよ」

じいっと見つめてくる翡翠が、不機嫌を消して寂しそうに温かさを求めるように千鶴を捉えた。
その視線に浸りながら千鶴は総司の真意を知って、無意識にその距離を詰める。

一人部屋で自分を待ちながら、自分との思い出が省かれた日記を見て肩を落とす総司を想像して。
顔を染めながら、そっとその高い位置にある頭に手を伸ばす。
ゆっくり撫でられる感触に、総司の目が驚いたように見開いた。

「書きたかったんですけど、書けなかったんです」
「見られたら恥ずかしいから?」
「違います。その……どんな言葉を探しても、その時の気持ちにぴったりくる言葉がなくって――」
「僕が好き過ぎてってこと?」
「う……そういうことです。幸せ以上の、幸せって言葉なんて……知らないですし――」

真っ赤になって俯く千鶴に、「千鶴ちゃん――」と嬉しそうに総司がその腕に閉じ込めた。

そして千鶴は忘れていた。
皆がまだ、しっかり見ている前だということを―――

(ちなみに総司はわかってやっている)


「おい、てめえら……」

底冷えのするような鬼副長の声に、千鶴は一瞬で我に返った。
ひっと震わせて総司の腕の中から飛びのこうとしたのだが、一層抱きしめようとする総司の深みにどんどんはまっていくだけである。

「何ですか、土方さん。痴話喧嘩が終わって、今から痴話なんですから邪魔しないでください」
「何が痴話だっ!!!やっぱり痴話ぐるいになってんじゃねえか」

チッと忌々しそうに吐き捨てる土方の言葉に、千鶴は訳がわからない。

「痴話ぐるいになれないものの僻みですか?相手がいなくて可哀想ですね」
「やかましいっ!!」

総司の腕の外で繰り広げられる会話は、恥ずかしさも忘れて混乱する。
何とか腕の中でもぞもぞ動いて顔をあげると総司に「あの……?」とおずおずと問いかける。

「ん?……ああ、そっか。土方さん、僕と千鶴ちゃんのこといつから気付いてました?」
「それが人に物聞く態度か、ったく……つい最近だろ。もしやとは思っていたが、お前が使いに千鶴の同行許取ろうとした日にはっきりしたな」
「……それまで、わかってもいなかったのに無駄に僕と千鶴ちゃん引き離してませんでした?」
「当たり前だろうが!!あんな危ないこと言い出した奴の傍に、普通は置いておけるかと思うだろうが」

きっと千鶴に説明する為の会話なのだろうけれど、全くわからない。
わかっていないのは千鶴だけのようで、さきほどから目のやり場に困るように視線を背けていた平助が「確かになあ」と頷き会話に入る。

「今の総司見てると、土方さんのした事もわかるけどな、オレ」
「同感だな」
「くそぉ〜〜!!見せつけんなよ。いい加減離れたらどうなんだ!?」
「無理だろ。悔しがったら余計あいつ煽ってくんぞ」

皆の声をどこか遠くに聞きながら、腕の中に収まっていた千鶴はゆっくりと額を総司の胸に押し当てた。
「皆さん」と小さく震えた声は、この状況下でしっかりと伝わったのか、皆が千鶴に目を向ける。

「知って、いたんですか?土方さんはあの時からで……でもあれは私が悪いんですけど、他の方はいつから――」

内緒にと言われたのに、約束を守れなかった。
自分がすぐに態度に出してしまうから、きっと気付かれてしまったのだろう――

総司に申し訳ない気持ちでいっぱいになった千鶴に、斎藤がその罪悪感を一言で斬り捨ててくれた。

「恋仲になった日の夜に、告げられたな」
「・・・・・・・・・え――」
「そうそう、もういいっ聞きたくないからって言ってんのにさ〜うっれしそうにずっと自慢されて参ったよな」
「……沖田さんが?」
「おお、あ、でも土方さんには内緒にしろって釘刺されたからよお。俺らも気にしないフリはしてやってたんだけどな」
「土方さんだけ、ですか」
「ああ。総司と土方さん、お前らがそういう仲になる前の日の朝、口論しててよ。千鶴は知らねえだろうが……それが原因だろ?」
「口論って、何の――」

そういえば、土方と総司のさきほどの会話はその口論のことを指していたのだろうか。

「あの、土方さん。口論って……」

腕の中で身体を必死に捩って土方に説明を請う千鶴に、土方はあいつも被害者だな、と同情を込めて顔を和らげる。
二人に何かの仲間意識が芽生えたような瞬間に、総司はこら、と顎で千鶴の頭のてっぺんをつつく。

「何で土方さんに聞くの。普通僕でしょう」

そりゃあお前が色々千鶴に嘘吐いてるからだ――

皆は心の中で、千鶴を不憫に思う。

「最近仕事が忙しかっただろ」
「あ、そうですね。詰まっていましたね」
「おお、お前がいてくれて助かったんだが――「そういう余計なことは言わないで、さっさと説明したらどうですか」

早口でまくしたてるように茶々を入れる総司に、土方は一睨みしながら言葉を続けた。

「んでこいつが朝方から、千鶴を独占してずりぃだの何だのごちゃごちゃうるせえから、じゃあてめえが引き取れって言ったんだよ」

そういえば、ここに居ることが決まった時もそんな話をしていた――と千鶴が思いを巡らせてると、

「千鶴を小姓付けには絶対したくない、冗談じゃないって言うんでな」
「え……そうなん、ですか?」

それは少し、というかかなり悲しい事実だった。
いつも土方が仕事で千鶴を侍らせてずるい、と言っていたのに――とつい目を伏せてしまう

「あ、土方さんここからは僕に言わせてくださいよ」
「誰が言うか、さっさと言え」

千鶴には今の言葉が胸に痛すぎて、それ以上聞く気が少し萎えていたのだが。
総司はそんな気持ちを払拭させるように、ゆっくりと微笑んだ。

「小姓だからじゃなくて、好きだから僕の傍にいたい――って思ってくれないと意味がないって言ったんだよ、義務で傍にいて欲しくはないでしょう?」
「……えっ……」
「そしたら土方さんが、色情魔か!とか、しつこく付きまとうな!とか…グチグチ言って、僕が千鶴ちゃんに近付くのを警戒したみたいなんだよね――」
「てめえが傍にいてくれたら〜とか傍にいてもらえるように〜とか訳のわかんねえ妄想を具体的に語りだしたからだろうが!!」

その時二人はまだ恋仲ではなく。
そりゃお互いそういう気持ちはあったかもしれないけれど、男所帯の屯所を切り盛りする副長としては、勘弁してくれ―と思うようなことばかりを総司が言ったらしい。

それはそれで、嬉しいと思ってしまう辺り、千鶴は総司が大好きなのだが。
一方でいろんな事に配慮しなければならない土方の苦労もわかる。

「だから、土方さんに言ったら色々邪魔されそうで面倒臭いと思ったんだよね。結局ずっと邪魔されていたみたいだけど」
「……でも、沖田さん、私にみんなに内緒にって……あれは――」

土方以外にまで内緒だと思って、自分なりに気を配っていたつもりなのに――
恋仲になって初めてした約束を、軽く裏切られたような気分になる。

「だって千鶴ちゃん素直すぎるし、態度使い分けできそうになかったし。ほら、結局バレバレな演技だったでしょう?」

でもそこが君らしくて、必死になる姿が可愛かったよ――と満面の笑みで言う総司に、千鶴が固まった。


「総司の奴、馬鹿だろ?」
「幸せボケでもしてんじゃねえか?千鶴ちゃんに怒られりゃいいんだ」
「これは…痴話ではなく、喧嘩になるな」
「……ま、どうせ仲直りしたらまた痴話になるんだろ?」
「おら、戻るぞ。ったく――」


「沖田さんなんか知りません!!」



一日に二度も千鶴の怒号が響き渡る、珍しい一日となった。



***



痴話とは、愛し合う者同士が戯れてする話・または睦みあうこと――




「千鶴ちゃん」
「何ですか」

普段の可愛い声より、少し固い声がすぐに返る。
また騙されないように――と警戒心が小動物のようで、丸く大きな目をちらっと動かす。

「これ、あげる」
「?何ですか?これ……」

手のひらを少しはみ出る包みに、千鶴は小首を傾げる。
いいから開けて見て、と総司は千鶴に押し付けた。
戸惑いながらも、その包みを開けて見えた中身に、その手を一瞬止めた後、嬉しそうに笑顔を向ける。

「これ、袋綴じ……」
「土方さんがあげた方が質はいいけど……」

日記に勝手に書き足したことの侘びの気持ちだろうか。
さっきはまるで堪えていなかった様子だったのに、部屋を離れてこれを探しに行っていたのだろうか――

千鶴はふるふる、と首を振ると、その袋綴じを手に抱いたまま総司の胸へと擦り寄った。

「沖田さんのお気持ちが、とっても嬉しいです。……私こそ、可愛くない態度を取ってしまって……すみません――」
「……可愛くなかったら喧嘩になってなかったよ。可愛いから、つい――ごめんね」

どんなところも可愛いと思ってしまうから、自分でもタチが悪いと思うくらいに溺れているから。
ようやく導くままに身体を預けてくれる千鶴に、満たされる充足感。

あの後、ふい、と顔を逸らして背中を向けられる。
いつも自分がからかってしていたことなのに。
昔はそんな事もよくある事だったのに。

甘い甘い千鶴との蜜月日は、その態度を昔のように苛立たしいとも思わせず、ただ胸に穴を開けるばかり。
さっきまではあんなに幸せだったのに、不安に揺れて自分を保てなくなりそうに、目は千鶴を追いかけて。

戻った温もりが、幸せに揺れる――

「ねえ、それは何に使うの?」
「これ……も、日記にしたいです」
「二つも書くつもり?」

土方にもらったものは、自分が余計な事をしたからもう使わない気だろうか――
不思議そうに千鶴を見下ろす総司に、千鶴が袋綴じを掲げるようにして笑った。

「これは、沖田さんと私の日記にします」
「……僕と、君の?」
「はい。喧嘩したことも、仲直りしたことも……一生懸命書きます」

たとえ言葉がその時の気持ちを表しきれなかったとしても、その日記を読み返した時にその気持ちを自分はわかるから――

あどけない笑顔に、総司が参ってしまうような愛を込めて。
心ごと持っていかれたような感覚になり、惹かれるままにその笑顔に口付ける。

「……痴話も、今度は書いてくれる?」

艶を含んだ声で耳打ちするように囁いた言葉に、千鶴は瞬時に赤く染め上がった肌を隠すように頷いてくれる。

「じゃあ、もっとたくさん用意しとこうっと」


君とはまだ始まったばかり。

僕の幸せを、君にたくさん記してもらえるように……


「はい」と笑って、臆面なく飛び込んできてくれる君が愛しい――

決して手放さない、と強く抱きしめて、その頬に手を添える。
包み込んだ千鶴を上に向かせて、愛おしさを込めて唇を這わせる。

喧嘩の後の痴話は斯くも甘く、書くに難く――それでも……



「千鶴ちゃんがもう書けないって降参したって、知らないからね」




触れる幸せを、満たされる幸せを、君が傍に居る幸せを―――










END











30万打御礼のアンケートの結果が、沖千SSでした。
屯所時代の沖千に、幸せを――と思い、書きました。

これからある未来はせつなく甘く。
けれど、二人が二人でいないことは考えにくいです。

こんなに大好きなCPを書けて幸せです。
読んでくださった方、ありがとうございました!