レッツ苺狩り!!



後編



「すご〜い!!一面苺だらけ!!」
「…苺、といっても一種類ではないようですね。どうしてこんなにいろんな苺が?」

喜び飛び跳ねて、ぴょんぴょん野原の中で走り回るルルとは対照的に、エストが訝しんで野原を見渡す中。
まあまあエストくん、とアルバロにポンと肩を叩かれた。

「どうして、かはわからないけど。いいんじゃない?大したことじゃないよ」
「…こんな奥深くに強い魔力の地場に囲まれるように多種類の苺がある。それを大したことではないと?」
「我らがお姫様が喜んでいるみたいだし。それでいいんじゃない?」

掌を天に仰いでふくみ笑いを見せて、そのままその場を離れて、どこか人の輪から外れていくアルバロの背を冷たい視線で見送ると、エストは溜息をまた一つ。
それは…

「ルル喜んでるね。なんだかこういうところにいると…天使みたいに見えるかも」
「ハイ。私もそう思いマス。ユリウスとは意見が合いマスね」

こんな会話が横でなされていたからである。

「・・・ユリウス。薬草を探しに行こうと思うのですが」
「え?薬草?・・・・ああっ!そうだね!うん。じゃあ探しに・・・」

エストの声に、ユリウスは後ろ髪ひかれる思いながら、そうだ実験に必要なんだし…と思い野原と森の堺の方へ歩き出そうとするも。

「うわあ〜かわいいっ!これはっ!これラズベリーでしょう?すごいっ!たくさん!!」
「違うっ!違うぞ!!ルルっ!それは『へびいちご』だ!!毒があるんだぞ?危険だ!それは取ってはダメだ!」
「そ、そうなの?危なかった…教えてくれてありがとうノエル。物知りなのね!」
「い、いやあそれほどでも・・・」

照れながらも、決めポーズをとるノエルに、すぐに残念な視線と声が向けられた。

「ノエル。・・・蛇苺に毒はないぞ・・・・」
「ハイ。ただ味がありまセン。食べても美味しくはありまセンから・・・それはノエルの言う通り取らない方がいいデスね」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」

ガーン!と絵に描いたように顔色を変えるノエルの横でルルがその蛇苺を一つ手に取った。
「そうなの!でも…味がないって言われると…どんな風に味がないのか気になるかも」
「ルルもそう思うっ!?俺もそう思うんだ。味がないって本当に何も味がないのか…気になるよね!同じ様に思っていてくれて嬉しいよ!一緒に食べてみようよ」
「うんっ!毒はないんだし。食べてみよう!」

薬草を取りにいった筈のユリウスはいつの間にかルルの傍に。
キャッキャッとはしゃいで食べて…本当に味がない〜と笑いあってる二人。
く、くだらない。とは思いつつもそれが何だか羨ましくて、では僕も…とこっそり仲間入りするノエル。
ラギは呆れた視線を寄せて、ビラールは微笑んでいる。
なんて穏やかな光景。(アルバロがいないというのもふんだんにある)

エストは向けていた視線を足元に下ろすと、そのまま、振り返って薬草を探しに行こうとした。
その時、

「エストー!!どこ行くの!?」

ルルが駆け寄ってくる。その手には…
…あれはきっと蛇苺でしょうね・・・
苦々しい表情でルルを迎えるエストに、ルルはそれを跳ね返すような笑顔を向けた。

「ね、エストも食べて・・・「結構です」
「そんなこと言わずに本当に味がなくて・・・「それがわかっているなら尚更結構です」
「でも、自分で感じることも必要だと思「必要ありませんから」

ことごとく、言葉をはねつけるとエストは最後ににっこりと笑顔を浮かべた。

「もういいですか?僕は薬草を探しに来たので」
「あっそっか・・・あ、じゃあ!私も手伝う!」
「・・・・・・・あなたは・・・苺狩りに来たのでしょう?」
「うん、でも・・みんなでした方が楽しいもの。エスト一人どこか行っていないなんて、さみしいでしょう?」

小首を傾げて、決まりね!と微笑むルルに、エストは思わず声が詰まる。

「・・・さみしいなんて、僕は思いません。」
「私がさみしいの!えっとじゃあ・・・どこから・・・」

自然にエストの手を取って、森の方へ向かおうとするルルに、エストは慌てて手を振り切った。

「僕は子供じゃありません。あなたに引っ張られる覚えはありません」
「は〜い。だって繋いでないと後ろで違う方向に行きそうだったから」

・・・・・・・こんな時ばかり勘がいいのはどうにかしてほしい・・・・・

「・・・わかりました。もう、いいです」
「うん。探そうね」
「いえ、薬草は・・・苺狩りが済んでからにします。このままではゆっくり探せそうにないですから」
「苺狩り先にするのっ!いいの!?」
「誰がそうさせるんですか」

視線を合わせないまま、エストが皆の許に踵を返す。
それが嬉しくて、その後をひょこひょこついていくルル。
・・・そのルルの後ろをいつの間にかついてくるアルバロ。

「・・・・・・・・・・・・・・アルバロ!?いつの間にいたの!?」
「さあ、いつでしょう・・・それにしてもルルちゃんひどいよね。俺のこと嫌い?」
「ルル、アルバロに構わない方がいいと思います」

いつから、どこから見ていたのか。
自分を視界に入れるアルバロの瞳が普段より更に歪んで見えるのは気のせいじゃないだろう。

「え、え〜と…嫌いじゃない。嫌いなはずないけど」
「じゃあ、好きなんだよね?それなら俺のことも気にかけてよ。俺も一人だったのになあ」
「あ、ご、ごめんね「謝る必要はありません。気にかけてほしくて一人になったのではないでしょう?」
「え、え〜と・・・」

エストはいつもよりちょっと不機嫌みたい。
アルバロはにこにこしてるけど…何か圧力感じるっ!
楽しく苺狩りしなきゃ・・そう思っていたルルに救いの手を伸ばしてくれるのは…こんな時、空気をさわやかに一掃してくれるのは…やっぱり残りの四人でした。

「あっルル!見てこれ・・・ほらっブラックベリーまであるよ!すごいよね!どれだけいろんな種類があるのか・・・全部集めてみたいよね!」
「苺や木苺が一緒に群生しているなんて…不思議だな。ルル、君はどの苺が好きなのか教えてくれるだろうか?そ、それを・・摘もうと思うのだが」
「いいデスね。それでは私も…ノエル?どちらが多く取れるか勝負しマスか?」
「勝負って…おまえら・・」

ラギはついていけないとばかりに腰を下ろした。
ルルはノエルの提案が嬉しくて、え〜と、と辺りを見渡して。

「やっぱりラズベリーかな!苺のショートケーキも捨てがたいけど・・・」
「わ、わかるっ!わかるぞルル!ショートケーキは美味しいからな」
「いや、それ苺じゃなくて、おもにケーキだろ?」

ラギのツッコミに一瞬シンとなるも…

「ベリーのいっぱい乗せてあるタルトとか大好き!!やっぱりラズベリーがいいかなあ」
「おまえはケーキやタルトに変換しないとわからねーのか」
「もう〜ラギいいじゃない別に。」

むぅっとルルが頬を膨らましながら、ベリーはどこにいっぱいあるかなあ、と、ふと視線を移せば…

あった!!あそこにたくさんっ!!!

ルルの目にはもうそのベリーしか映っておらず。
そこに行こうと最短ルートで駆けだそうとした。
そして結果的に目の前にいたラギにぶつかり躓いて…まあ、いつものお約束、です。

「てめ〜〜〜〜!!!何考えてんだ!!!前見ろよ!!前!!!!」
「ご、ごめんね・・ラギ」
「ラギ、女性に怒鳴るのはよくナイ。わざとじゃないんデスから…大丈夫大丈夫。」
「わざとでたまるかっ!!!!・・・・・・くそっ腹減った・・・・・」

小さいドラゴンの体を、もっと小さく畳んでラギが丸まって・・・
それを見たルルがあっと何かを思い出したように駆けだした。

「・・・・・・ルルどうしたんだろう?もしかして落ち込んじゃったのかな。」
「いや、あれは何か思い出したような・・・そんな顔だったと思うぞ?」
「それにしてもラギ君は…何だろう。もうそういう運命なんだろうね。」
「そう、デスね。それは私もそう思います」

アルバロとビラールが、にこにこ、というよりはニヤニヤ、といった感じでラギを見下ろして。
それが気に入らない。何が運命って言うんだ、とラギがギロっと睨むと…

「一緒にいれば必ずぶつかって変身、ですね。気をつけているようではありますが・・・ある種、才能だと思います」

馬鹿にしてんのか!!どんな才能だ!!とキー!!と怒り狂って飛びまわれば余計お腹が空いて力がなくなった。

「え〜いいなあラギ。そんな才能俺も欲しかったな。ああでもドラゴンじゃないと駄目なのかな。そういうのもドラゴンの力から派生する運とかなのかな」
「ユリウスっ!変身していつもへたれているラギを見て、羨ましいとしか思わないのか!?そりゃ確かにそのたびにルルに気にかけてもらって…人一倍気にかけてもらって……あまつさえ抱き運んで貰っているが・・」
「いいデスね。特権デス」「いいねえラギ君」
「大変なのは、大変ですね。…同情します」

何だこれ、皆でオレをからかってんのか!?(一部本気で羨ましがっています。一部、無意識に羨んでいます。一部、本気でからかっています)

チビラギを囲む中、ルルがお待たせっ!とバスケットを持って来た。
ここに来るまでビラールが持っていたので、ビラールの荷物だと思っていたけど、どうやらルルの荷物だったらしい。
(当然デス。重い物は男性が運ぶのが常識デスよ)
もちろんルルは・・断ったのだけど、ここは殿下がガンとしてひかなかったということだろう。

そんなバスケットをラギの前に置くとルルは得意気に…

「苺狩り用のトッピングとか持ってきたの」
「・・・トッピング??」
「うん!チョコレートクリームとか、生クリームとか、クレープみたいに出来るように生地も…アミィが手伝って焼いてくれて」

ほらっ!と開けられた中身は…焦げつつも何とか食べられそうなクレープ生地と、あまり形をなしていないどろどろのクリームが…
(アミィは善処しました!これでも頑張ったんです!!)

「苺には…コンデンスミルクだと僕は思うのだが」
「そうかな、俺は砂糖を軽くまぶしたのが好きだけど」
「苺はそのままだろ?・・・つ〜か、ルル。これを持って来たってことは・・オレにこれを食えと・・・そーいうことか??」

てっきり、うん!と頷くと思われたルルは、へへ〜ともう言いたくてたまらないのを耐えるようにうずうずしながら…

「じゃ〜ん!!!!こんなこともあろうかと思って、サンドイッチも作ってきました!!」

バッと更に開けられたバスケット。
不気味な物体が垣間見える・・・・・・・・・・・・

「アミィは…お昼食べた後ならいらないんじゃなかしら?って言っていたんだけど…いっぱい歩くし、塩っけのあるものも食べたいかなって」

はい、どうぞ!とラギに差し出されたものは…どう言ったらいいのだろう。
サンドイッチ用ではなく、明らかに普通の食パンで挟んでいて。
中には…肉らしきもの、野菜、あまつさえキノコがはみ出ていて。
中にはソースらしきものがかかっているようだけど、よくわからない色とにおい。

「ルル・・・これは・・・な、何のサンドイッチなんだよ」
「これ?え〜とね・・・」

ルルはじっとサンドイッチを見た後、メンバーを見渡した。

「ラギはお肉が好きだから絶対入れなきゃって思って!エストは野菜が好きだから絶対入れなきゃってて思って!」
「ユリウスはメロンパンが好きだから、メロンパンの甘い生地みたいなのを上に置いてみて・・・」
「ノエルはジャムが挟んであるのが好きでしょう?だからジャムを塗って」
「ビラールは生のお魚嫌いだから・・・ちゃんとお魚グリルで焼いて、ちょっと辛目に味付けして」
「アルバロは何が好きかよくわからないから、スパイシーにしてみた!!どう!?」

このルルの言葉に、すごいっ!!意味がわからないよ!!と目を輝かせるもの。
困ったように目を逸らして考え込むもの。
何も言わずに、にこにこ微笑んでいるもの。
これは自分も食べさせられるのだろうか。ああ、でも断れる自信が・・と悩むもの。
爆笑しているもの。

そして…今、まさに差し出されたラギは…変な汗でいっぱいになっている。

「はい、どうぞ!ラギ。お腹空いたでしょう?私のもあげるから!」
「・・・おまえ、味見したか?」
「味見?ううん。してな「しろよっ!!!頼むから、しろっ!!!」

う、うん。わかった。今度から…と言いながら、はい、としつこくラギの口元にサンドイッチを差し出すルル。
ラギはお腹が超絶的に減っていたのもあって、泣く泣く口に運んだけれど、一口口にすると俯きながら無言で一気に入れた。
どうやら美味しいものではなかったらしい(当然)

「ラギ、お腹空いているんだよね。俺のも食べていいよ。じゃあ、俺は苺狩りしようかな。ルルっ珍しいもの見つけたら君にすぐ持ってくるからっ!!」
「お、おいっちょっと待てユリウス・・・」

今何かとんでもないことを言われた…、とラギが顔をあげれば・・・続け様に・・・

「ルル、君の作ったサンドイッチ・・・と、とても惜しいがここは人助けだ。ラギに譲るとしよう・・気を悪くしないでくれ」
「ううんっそんなこと!ユリウスもノエルも優しいのね!」

違〜〜〜う!!!!

「ラギ、早くお腹いっぱいになって、元に戻れるといいデスね。ではワタシは…ノエルと勝負、でシタね?」
「そうだったな!ルルっラズベリーをたくさん持って帰るのを楽しみに待っていてくれ!」
「うんっ二人とも頑張って!」

何が勝負だ!!こっちの勝負から逃げたんだろーが!!!!

「・・・僕は・・・苺だけで十分ですから・・・ラギ、僕もサンドイッチを譲ります。好きなだけどうぞ」
「エスト!約束だからね!ちゃんと苺摘もうね!薬草、一人で探しに行かないでね?行くなら一緒なんだから!」
「わかっています、ルル」

こら!ほのぼのするんじゃねー!!てめえまで押しつけんな!!

「・・・・・・・・・・」
何故かアルバロだけはじっとこっちを見たまま動かない。
何だ?アルバロのやつ、ひょっとして・・・残って食べるつもりなのか??
・・・案外、いいやつ?

少しでもそんなことを考えたラギに、アルバロがにっと笑ってヒソヒソっと小さい声で。

『ラギ君。これでルルちゃんと二人きりだね。よかったね〜二人きりになれるなら、サンドイッチくらい軽いもんだよね』
「なっ・・・!!ば、バカかてめーは!!」
「?どうかしたの?」
「いや、何でもない。じゃあ俺も・・・真面目に苺取ってこようかな。じゃあねルルちゃん」

結局オレ一人で食わす気か!!!!!

ラギは…死ぬ気で食べた。
7人分の大きなサンドイッチ。お腹は膨れた。膨れたけど…
元にも戻れたけど、暫く口も聞けないラギだった。


「ラ〜ギ、大丈夫?」
「・・・お〜・・・」
「やっぱり7人分は多かったかなあ…」

多いとかの問題じゃねー。などと、心優しいラギは言いません。

「でもね、嬉しかったよ?食べてくれて…ありがとう」
「いや、・・・・・・おまえも、作ってくれて・・・なんつーか・・・」

ありがとう、とここで言えればいいのだけど。つい口ごもって。出た言葉は違うこと。

「それよりルルっ!ここはいーから…おまえも苺摘みに行けよ」
「え〜でも…ラギ動けないでしょう?一人になっちゃうし・・・」
「オレはガキか!!大丈夫だから・・・た、楽しみにしてたんだろー?」

だから、と視線を逸らすラギに、ルルは自分の背中の後ろにあった籠の中から苺を一つ取りだした。

「ほら、苺。こんなに周りにあるんだもん!十分摘めたよ!」
「・・・・・・・・・」
「みんなと一緒に・・・するのが楽しいの!だから・・・ほら、みんなたまにこっち見て手を振ってくれるし、見てて楽しいもの!」

実際、ルルを自分のところに誘いたいというのがあるけど、サンドイッチを一人食べたラギの手前、さすがにそれは不憫か、という皆の気遣いもあったりする。
まあ、ユリウスはルルに珍しいもの見せたくて必死で、そんなことを考えている、という訳ではなく。
アルバロも違うと思うけれど。

「はい、口直しにどうぞ」

ルルがラギに苺を口元に持っていけば、ラギはそれを手に取ると・・・反対にルルの口元に持って行く。

「・・・・・?」
「オレは、もーこれ以上食えねーんだよ。・・・おまえが食べろ」
「ふふっうん。じゃあ頂きます」

あ〜ん、とルルが口を開けた時。

「ルル〜!!見て!!同じバラ科とはいえ、さくらんぼがあったよ!!!信じられない!意味がわからないよねっ!?…あっラギずるいっ!!ルル!俺の。俺のも食べてみて!!」
「(くっユリウスに先を越されてなるものか!!)ルルっ!君の好きなラズベリーたくさん摘ん、で・・・っ!!??」
「ああ、ノエル・・残念デスね。前をちゃんと見ないと危ないデスよ?これで勝負は私の勝ち、デスね。ふふっルルに何かご褒美でももらえるでショウか」

「・・・・・・・ああ、あの人達は相変わらず騒々しい・・・・それにしてもこの苺・・・・」
言われたままに薬草探しもしないで、真面目に摘んでしまって…こんなにたくさん…
「ど、どうしたって僕はこんなに食べきれないのだから、彼女に渡すしか・・・」

何故か苺を渡すのが気恥ずかしくて、その場に足踏みするエストの後方では、アルバロが何かしていたのだけど、誰も気付かなかった・・・


「すごいのね!!こんなにたくさん!!!」
「うん、考えてみたんだけど、これって先生たちの作ったものじゃないかな。だって貴重な薬にある薬草が周りにちらほらあったんだ。まあ、結界みたいなものもないし…大丈夫だとは思うけど…目的のものもあったよね?エスト」
「え?そ、そうですね・・・(ユリウスでも薬草を気にかけていたのに・・・)…ルル、僕はこんなに食べきれないので・・責任持ってあなたが食べてください」
「私に?いいの?」
「あなた以外の誰も、そんなに食べないでしょう?」
「ありがとうエスト!」

ルルがエストの籠を受け取ると、エストから緊張した感じがすっと解けた。同時に、珍しく微笑みを向けてくれて。
それが嬉しくてルルも微笑みを返して。
そんなやり取りの中、ユリウスが俺のもどうぞ、と差し出して来た。

「ユリウスもいいの?食べないの?」
「うん。だって、君にいろんなものを食べてほしくて…一杯集めたんだ。えっとさくらんぼの下にもたくさん違う種類の入れてみたよ。だから食べてみて。それで感想聞かせてね。それを、その時間をすごく楽しみに待ってるから」
「うん、ありがとう!でも一緒に食べないの?」
「うん、いいんだ。君に食べて欲しくてって言ったよね?そのために頑張ったんだ。喜んでくれると嬉しい」

にこっと微笑まれて、さりげなく言われる甘い言葉に苺も顔負けである。
ルルも同じように笑顔を返して、ありがたく受け取ったのだった。

「ルル・・・摘んだんだ。たくさん摘んだんだが…」
「落としちゃったの?でもたくさん拾ったのわかる!ありがとう・・じゃあこれで・・・ノエルの好きなジャム作れないかな?」
「――ジャム?」
「私一人じゃ難しいかもだけど、頑張って作ったら・・貰ってくれる?ノエル」
「ああ、・・・も、もちろんだとも!ありがとうルル」

何て優しいんだろう…こんな僕に呆れもせずに…
嬉しくて頬染めるノエルから、ルルはまたもや苺を受け取って、嬉しそうに微笑んだ。
ケーキにした方が嬉しいのかなあ…と呟くルルに、それを僕にくれるのだろうか?と淡い期待を胸に抱き、ノエルはもっと赤くなる。


「ルルはもう苺たくさんデスね・・・もう、いりまセンか?」
「・・・っ!!すごいっ!!や、山盛り!!ビラールこれ一人で・・?」
「ハイ。ノエルとの勝負でしたシ…迷惑でなければこれはあなたニ」
「迷惑なんて…ありがとう!」

ビラールは苺をルルに手渡すのではなく、そのままルルの脇に置くと、ルルと視線を合わせた。

「ルル、頑張った私にご褒美・・・苺を一つ頂けマスか?」
「?うん。どうぞ!いくらでも…」

最後まで言い切る前に、ルルのおでこに触れる柔らかいもの。
一瞬体を揺らして、慌てて顔をあげれば満足そうなビラールの表情。

「これが、一番美味しい苺、デスね」
「ビラール!!!てめー!!な、何恥ずかしいことしてやがんだ!!!」
「ラギ、ずっとルルを一人占めしていたのに…足りないのデスか?」
「そ、そーいう問題じゃねー!!」

ラギが騒いでいる間に、じゃあ俺も苺一つ・・・と言いかけてるユリウスを貴様は馬鹿かと止めるノエル。
頭が痛いとこめかみを押さえるエストに、真っ赤になるルル。
そんなところに…

「じゃあ、ルルちゃん俺にも頑張ったご褒美一つ、くれるよね」
「え・・・アルバロ!どこにいたの?アルバロだけいつも姿が見えなかったけど・・・」
「あ、気にかけてくれてたの?嬉しいなあ」

にこにことルルに差し出した苺。籠の中にはそれほどの苺はない。

「アルバロ、ご褒美と言うが…これは一番少ないくらいだと思うが」
「ノエルくん、俺は量より質なんだよね。ルルちゃん食べてみて。すっごく甘いよ?ほら…赤いでしょう?真っ赤に熟れてて…」
「う、うん。じゃあ一つ・・・」

恐る恐る口に運んだ苺は…食べたことないような甘さ、というより…苺とは思えない甘さ…

「あ、甘〜い!!すごいっ何これ!!お砂糖みたい…」
「いや、それはもう苺の感想じゃねーだろ」

うっとりと苺を食べながら頬を押さえるルルに、アルバロは満足気。
他の五人は少々面白くない。

「一番美味しい苺摘んだんだから・・・俺に一番素敵なご褒美くれるよね?」
「ちょっと待って。そんなご褒美とか最初に言っていなかったよ。それにまだルルが食べていない中に一番美味しいのがあるかもしれない。今決めるのは不公平だと思うな」
「う〜んでも、殿下はご褒美もらっていたよね」
「あれはこいつが勝手にやったんだよ。てめー何が一番素敵なご褒美だよ」
「うう…僕が勝っていたら…」

アルバロに突っかかる中、ビラールとエストはアルバロの苺をじっと見つめている。
見たところ、他のも同じような色あいに見えるけど…

「アルバロ、ワタシも頂いてよろしいデスか?」
「ああ、みんなに食べて欲しいんだけど、これは俺がルルちゃんの為だけに特別に見つけた苺だから、遠慮して頂けると助かるんだけど」
「彼女の為に…調合した薬、の間違いではないですか?」
「・・・・・・・・・・・・・・」

し〜んと、皆がアルバロに視線を集中させる中、うん?何の事?と相変わらずしらじらしい。

「薬を使っていたってこと??それで甘さを増したってことかな。…でも切りもしてないのにそんなこと…」
「甘みを増すというより、酸味を消したのではないか?どちらにしてもこれは不正だ。そんなのは頂けないな」
「・・・確かに甘いデスね。これは・・・すごいデス」

いつの間にかちゃっかり一つ、口に入れた殿下がびっくりしている。

「・・・そんなに甘いのか?・・・・・・・あ、甘っ!!!ルル、おまえこれがうまいと思うのかよっ!?」
「う、うん…甘いなあって…」
「彼女の基準に僕らが合わせるのは無理だと思います…いないと思ったら・・・やっぱりろくでもないこと考えていたんですね」

食べるなんてとんでもない、と忌まわしいものを見るように苺を一瞥した後、エストが話すと、アルバロはあ〜あ、と大袈裟に溜息一つ。

「ねえ、ルルちゃん。確かに作られたものだけど、甘かったでしょう?」
「うん。とっても」
「別に、君を罠にかけようとか、ひどい目にあわせよう、とか考えたんじゃなくて、喜ばそうとしたんだよ」
「・・・・・・(それは、そうかも。甘い苺を作ってくれたってことだし)」

うんうん、と頷くルルに、アルバロはもう一度、見るからに大袈裟な溜息を。

「その薬、作るの結構大変なんだよね。君が喜ぶと思って…君と苺狩りして楽しむ時間を仕方なく削って作って…」
「そうだったの…」

いや、そうだったのじゃないだろ!!
ここでルルの返事に、ルルがアルバロにいいように動かされているのを見越して不安になる5人。

「だから、ご褒美、俺にもくれると嬉しいんだけどな。ああもちろん、殿下のはみんながうるさいからやめておくよ。本当に苺を…一度でいいよ」
「(…一度?)それでいいの?それじゃあ…私が摘んだ苺をどう「俺にとって、苺っていうのはこれだけ」

アルバロがルルの苺を…彼女自身のかわいい苺のような唇を奪おうとしたのを、察知した五人が全力で阻止したのは言うまでもない話。




END





後書きです〜
な、長かったですね!!多分…ああ、あの絵と繋がってるって思ってくれたと思うんですけど^^;
今回一番得なのは…殿下でしょうか?ラギ??
ラギは書いてないけど、二人きりの時、ずっとルルが傍にいたので…何だかんだ独占してたわけです(笑)
手でも繋いでいればいいのに^/^
さり気に間接くらいはしているかと思います。苺のあーんごっこのくだりで。
アルバロは…何だかんだ言っても阻止されちゃたし…(でもこの人は皆をからかうっていうのが主観っぽいし)
分岐にしようか悩んだんですが。
オールって書き始めたんだから、オールで終わろうと思いなおしました。

でも、帰り道くらいは…
ちょっと二人でおいしいことさせてもいいんじゃ…甘いことさせてもいいんじゃ…とか考えたり。
あ、でもこれでおしまいです!!
お付き合いくださりありがとうございました!!