『Promised word』





誕生日。

家族に、友に、生まれたことを祝福される日。

もちろん、恋人にも――



目の前には、何が楽しいのか自分の事のようにプレゼントを並べていくルル。
一つ年を重ねることの何がそんなに嬉しいのか、しかも他人事なのに。

…今は嬉しいことでも、そのうち…「また年をとった」などと言うようになるだけだ。

軽く草原に寝転びながらルルを見上げれば、自分がプレゼントをもらったかのようにはしゃいでいる。
考えられないくらい能天気で、頭に花が咲いてるようなルルを見つめ、アルバロはふと苦笑いを漏らした。
何故だか、ルルはその「普通」に当てはまらない気がして、いつまでもこうして喜んではしゃいでいる気がしたから。

そんなルルに、俺はいつまで付き合っているのだろう――

そんな事を思っていた時に「もう!」と目の前で掌をひらひらと翳された。

「アルバロの誕生日で、みんなにもらったプレゼントでしょう?」
「これは俺がもらった訳じゃないよ。ルルちゃんが受け取ったんじゃなかったかな」
「屁理屈言わないの!ちゃんと後で御礼言わなきゃだめよ?」

この学園にいて、今まで誕生日プレゼントなんて貰ったことはない。
おおかた、ルルがこの日の準備を!と張り切っているのを見て彼らも何もせずにはいられなかった…ということだろう。

「はいはい。それでお姫様は何をお受け取りに?」
「うんっ見て!これはノエルからで…ええと、確か…つければアルバロの魔力に反応して、一番望むものに近い形に似た薬草を探しだす指輪だとか…」
「ノエル君らしいね、きっと得意気に渡してくれたんだろうけどね…」

見た感じがもう偽物っぽい。
しかもルルの説明では、一番に望むもの…ではなく、近い形に似たものだとか…効用や成分ではなく、形という時点でもう論外だ。
アルバロはルルが差し出した指輪を軽くつまむようにして、薄く微笑んでみせた。

「じゃあなくすといけないから、ルルちゃんが持っていてくれると助かるよ」
「・・・・・・そう言って押し付けるつもりじゃ…」
「ひどいなあ、そんなことしないよ。大事にしようと思うから預かってくれないか頼んでいるだけだよ」
「・・・・・・・・・・・本当に?」

半信半疑そうに指輪を受け取るルルに、そんな訳ない、と心の中で思いながら次のプレゼントに目を向けて。

「これはラギから!この間大通りに出来たパティスリーのバイキングのチケット!!すっごく甘くて美味しいらしいの!!今度お休みに行こうね!」
「・・・・明らかにこれは君向けだと思うのは、俺の気のせいかな」

甘いものなんて冗談じゃない。
痙った笑を浮かべながら、ルルのおでこにピタっとそのチケットを張り付ける。
覗いた瞳は嬉しそうにチケットに向けられている。

「ここのお店行ったことないし、お出かけするのは楽しいことじゃない」
「そりゃ君はね」
「アルバロだって、私と一緒にいられて楽しいでしょう?」
「…そうだね、君のことが大好きだからね」

はあ、と嘆息しながら相槌を打てば、ルルはふふっと微笑んでまた次のプレゼントを手に取った。
いやに大きい包みだが…

「これはユリウスからね。ええと何でも魔法薬学の権威でもある人が書いた著書がたくさん…」
「・・・へえ、それなら興味ないこともないかな・・・・・」
「そうなの?それならよかったじゃない!さすがユリウスね!」

よかった!とその包みを渡そうとするが、ピクリとも動かない。
んんん~~!!と力を込めて腕を震わせるがビクともしない。
・・・・どうやってここまで運んだのかが、むしろ気になるところでもある。

「いいよ、俺が包みをはがして分けて運ぶから」

包みを止めたテープをはがして見れば、中にある本には・・・・・・・図書館の書物である印が見えたような・・・・・・

「・・・?アルバロ?どうかしたの?」
「いや、後でユリウス君に御礼言いにいかなきゃね」

彼のことだから悪気はないのだろう。
多分「この本、中々貸出されてないし、アルバロにどうだろう!?」と目をキラキラさせながら言っていたに違いない。

いつも傍観して楽しんでいたメンバー達の中心に、自分がいるということがこんなに疲れることだとは思わなかった。
後、2つもある。

「これは…エストからね。小さい箱…何だろう?」
「・・・・・・・ネクタイだね」

ミルスクレア学院の一応制服であるネクタイ。
そんなもの付けてはいないのだが…

「つけていない人多いわよね。どうしてなのかな?」
「付けると、締めつけられているみたいで嫌なもんなんだよ。堅苦しいしね…」

何となく、エストのプレゼントに含めた意思が見えた気がした。
生活態度をもう少し何とかしろ…と遠まわしに言われたような気がする…

「確かにアルバロはその、胸を肌蹴すぎだと思うの!一度付けてみせて!」
「ルルちゃん、本気で言ってる…?」
「う・・・・・(笑顔が怖い…っ)・・でも、み、見てみたいって思うもの…」
「でもこれを付けたら…」

含んだ笑みを向けてからルルを引き寄せた。
肌蹴た胸に、直にその顔を引き寄せて抱きしめる。

「ほらね、この方が二人の距離が近くて、俺は好きだけど…?」
「・・・・・っ!?つ、次っ!!最後はビラールからのプレゼント!!」

・・・・・・・・最後?

急いで離れるルル、いつまで経ってもこういうことに慣れないルルを、いつもは面白がっているのだけど。
ふと浮かんだ疑問に、今日はあっさりと獲物を逃がしてしまうかの如く、話題を逸らされ逃げられてしまった。

「ビラールのは何かな、これも小さい…」
「へえ、装飾具だね。これは――…」

一見普通に服などにアクセントに付けるもののように見えるが、実用的なものだ。
小物などを持ち歩く時に、この装飾具に差し込めばいいようになっている。

「見た目もいいし、さすがは殿下ってところかな」
「うん!素敵なプレゼントだと思う!ビラールは香水を選んでくれるのも上手なのよ」
「・・・・・へえ」

無邪気に伝えるルルに、口元だけ微笑ませた。
ルルに興味を引かれてから、休日などはほとんど自分といたものだがいつの間に――?
さすが殿下、ともう一度口ずさんだ後、唇を引き結んだ。

そんなアルバロの様子をちらっと覗いながら、ルルがそわそわし始める。

「・・・・・・ルルちゃん、明らかに挙動不審だね」
「そ、そう!?」
「まあ、君が言いたくないのなら、このまま黙って待っててあげるよ」
「・・・・・・・あ、あのね。私からのプレゼント…」

ルルが珍しくしゅんとした声を出して俯いて。
小さい口は、その理由を吶々と語り出した。

これ、と決めていたプレゼントが日曜に出かけたらもうなかったこと。
探し回っても見つかることはなく。
それなら手作りのもので…と考えはしたのだが。
アミィにも手伝ってもらわずに作ったお菓子は黒こげで。

「とても渡せられるものじゃなかったから…」

ルルがそう言うのなら、よっぽどだったのだろうと思う。

「それで、考えて、半日で考えたんだけど…私の気持ちをプレゼントするっ!」
「・・・・・・それはプレゼントがルルちゃんってこと?いいね、大歓迎だよ」
「ち、違うっ!私じゃなくて、私の気持ち…」

気持ちなら、もう貰っている。
自分で言うのも何だが、ルルの気持ちはわかりやすいし、勘違いしようがない。
こんな自分と、鎖で繫っていること自体が、それを望んだこと自体がその証だ。

「マインドキャンディみたいなものなんだけど、私の気持ちを魔法で見せるの。光属性のコントロールが大事だけど…今なら出来ると思うっ」
「・・・・・・・・・・・」
「だ、だから見ててね」

杖を構えて集中するルルに、アルバロは言葉を返さないまま視線を向ける。
こんなことくだらない――そう思う気持ちは何故か起こらなくて。

これだけ自信たっぷりに、自分の気持ちをプレゼントすると言うのなら…見せてみろ

胸の内で呟いて、期待を込めて目を細めた。

ルルの手元が光だして、「レーナ・ルーメン…光よ、私の意思に応えて――」
ゆっくりと小さく詠唱していき、光は増して、そして杖を振りあげた途端――



――――
パッ――――

大気が静かになって、光ったと思えば何故か熱を浴びたように感じ…
光がおさまり目の前には…惨状。

「・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・」

ルルの顔は失敗した!という言葉を明瞭にしている。
当然だ。
熱のせいか、付近の草むらは…なくなって土のみになっていて。
自分の服や髪も焦げたのではないか―そう考えてしまうほどだった。

「・・・・・っ!アルバロ大丈夫!?火傷とかしてない?」
「・・・・・・・・・・・・見ればわかるだろう」

アルバロは、にこにこさせもしないでぶっきらぼうに呟いた。
低い声。感情のない声。
どうしよう、怒らせたとルルが必死になって言葉を続けようとした時。

「・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・?・・・これ、何?」

周囲に甘い香りが満ちて、一面に急速に花が咲き始めた。
土属性や水属性の魔法などは使っていないのに――
ルルがおろおろしながら周囲を見渡す。

終始無言だったアルバロに向かって、蕾が一斉に開いて――

「・・・・・・・・・・・・・・・・・っくっ・・」
「・・・・・・?アルバロ?・・ど、どうしたの?苦しいの?」

俯いて、肩を震わせるアルバロにルルが駆け寄った途端、アルバロが顔をあげ、堪え切れないように噴き出した。

「・・くっ!あっはっはっは…っ!!」
「あ、アルバロ!?気でも振れたの!?」

ひとしきり笑った後、アルバロはその咲いた花弁をつまみ、おかしそうに顔を歪めた。

「君の魔法は失敗…というか融合したというか。ノエル君にもらった指輪が魔力に反応したようだね」
「・・そ、そうなの?・・・・本当だ・・・ノエルの指輪が壊れてる・・」
「これも、あれも…見知った薬草だよ。…こんな花は咲かない。ルルちゃんの魔法の暴発と重なったからみたいだね」

立ち上がれば、他人が見たら恥ずかしいくらいルルの気持ちがわかるように…アルバロに向かって花が咲き誇っている。

「やってくれるね。すごいプレゼントだったよ」
「・・・・・怒って、ないの?」
「まあ…俺に被害はなかったし、面白いものみれたし、期待通りかな。笑いを堪えるのが大変だったのが、苦痛といえば苦痛だったように思うよ」
「き、期待通りって…っ!?それに、笑いを堪えていたからって…っ!!」

小馬鹿にするような視線をよこすアルバロにルルは思わず口を尖らせた。
失敗すると思われてたなら、それはそれで何か悔しいのだが。

「これから先ずっと、誕生日にはこういう騒動を起こしてくれるのかな、ルルちゃん」

ルルの魔法発動後の、表情七変化を思い出したのか、アルバロがふっと小さく笑いを漏らしながら、楽しみにしてるよ、と呟いたのだが…

「・・・・・・・・・アルバロ?」
「あれ、どうしたの。すごく呆けた顔してるよ」
「だって、アルバロが言ったんだもの」

思わず袖を掴んで、頬を紅潮させたルルに、アルバロは訝しむように目を細めた。

「・・・・何を?」
「『これから先、ずっと』って。…私と誕生日を…これから先ずっと一緒に過ごすってことでしょう?」
「・・・・・・・・・・」

自分の言葉を思い返したのか、押し黙るアルバロに、ルルは口を休めずに畳かけた。

「言った!聞いたもの!聞き間違える筈なんてない…っ!!」

飽きたら、この関係を絶つ為に、死すら手段に選ぶことを厭わないと言っているアルバロが。
確かに口にした、「これから先ずっと」

・・・・・今までずっと、どうなるかはわからない―そんな関係だったのに。
彼の言葉一つで、未来が約束されたように思って心が浮足立つ。

「アルバロの思い描く未来に、ちゃんと私が傍にいるんでしょう?」

真っ黒な死の世界じゃなくて、生の世界に。
嬉しくて、声を震わせるルルに、アルバロがようやく言葉を返した。

「生きているのなら、…だろう?」
「嘘、そんなこと考えてない。私といる未来しか考えてなかった…」

違うと言い張っても構わない。
私はさっきの言葉を嬉しいと思うし、それは変わらない。
そうだと認めるまで、傍にいるだけ――

ルルがアルバロの袖に縋りつき、頭をその腕に寄せた。
あなたは私を好きなんだから―自分にそうだから、と言い含めるように呟いて。

はあ、と頭上で溜息が洩れると共に、頬に手を添えられ顔をあげられる。
視線が絡みあったピンクの瞳は細められたまま、何を考えているかわからないけれど―

いつもより、柔らかく感じる。

そう思っていよう――

近づく気配に、躇うことなく瞳を閉じて唇を重ねた。
言葉よりも、態度よりも、何よりも気持ちが伝わるような気がする――

「・・・・・・・・だな」
「・・・・・え?」

離れ間際に、意地悪なキスをもう一度ルルに与えてから、
アルバロは柔らかい髪に手を差し込みながら挑発するような物言いで口を開いた。

「来年はもう少し、色気のあるものも期待したいよねって話だよ、ルルちゃん」
「・・・・・・・・・・来年ってところだけ受け取っとく」



「アルバロ、お誕生日おめでとう…来年も、その先も…一緒ね――」








END







…恥ずかしい…
書いてて恥ずかしかった。

でも楽しかったです!
みんな出てきてはないけど、名前だけは出したかったので!!

バロさんお誕生日おめでとう~!永遠の19歳ですよね!!