『exchange』




ハロウィンCZはレイ撫SS!!


甘いんだかよくわからないですが、とにかくレイ撫

最初本当にレイン出るのか不安でしょうけど、出ます出ます…っ

例によって不憫な子が出没します^^;







***



「これ、持っておいてください」

不躾に円が撫子の頭上から何かを掴んだ拳だけをチラつかせる。
撫子は円が緩めた拳から零れた、2つのカラフルで小さな包みを落とさないように手を添える。
半ば強制的にも渡されたことになった訳だが。

「…飴?」
「ええそうですよ。他に何に見えますか?」
「飴にしか見えないけれど、どうして私に?」

持っておけ、ということは自分にくれるわけではないのだろう。
素直な疑問をぶつけられた円は、その白いモフモフを煩わしげに揺らす。

「どうしてって…あなたに意味のないことを始めるのが誰かだなんて…決まりきっていますよね」
「…鷹斗が?私に持っていてってあなたに言付けたの?」
「いいえ。違います」

相変わらずキングに悩まされて、苦労している筈の円は何故かにやっとその口角をあげる。
頭の位置が少しずつ下りて、撫子に近付いたような気がしたのは気のせいではないのか。

トン――

いつの間にか、壁に背中がある。
白いふわふわした檻の中に撫子を閉じ込めたのが満足なのか、円はひどく楽しげに言ってのけた。

「Trick or treat」
「……は?」
「『は』じゃないんですよ。
今日はハロウィンだと、厳密にはハロウィンに近いだけなのにものすごい発見をしたように喜んで、準備を始め出した誰かさんにあなたがそう言われたなら…
今ぼくが渡した、この飴をすぐに渡してください」
「……ああ、そういう、こと」

自分に捕らわれたままなのに、納得したように掌の上の飴を転がす撫子に、円は続けて言った。

Trick or treat」
「……だから、わかったわよ。鷹斗に渡せばいいんでしょう?」
「……と、うまい具合に仕事さぼって、この機に乗じてあなたに悪戯しようと画策している、一番大人なのに子供のような先輩が言って来たなら、
もう一つのを渡してください。まあ、今は忙しいみたいですけど、来ないってことは絶対ありえないですから」

「なるほど…だから2つなのね。もし、他の人が言って来たら?」

ハロウィンなんて、とは思うけれど。
強制的に巻き込まれることだってあるだろう。
ここには他にも人がいる。
お菓子は?と要求されれば、渡せるものは他にはあまりない。

「その点はご心配なく…あなたはクイーンですから。興味本位な感情はあっても目を盗んで近付けばどうなるのか、そのくらいは社員ならわかっているでしょう」
「……そう」
「っていうか、あなた無防備にも程がありませんか?ずっとこの状態なんですけどね。
ぼくが少しでもあなたに顔を寄せれば、うっかりキスだってしかねないんですよ
…ああ、それとも、それをお望みなんですか」
「あのねえ」

平気に振舞っているが、全く平気なわけではない。
だけどこの手の円の冗談に本気になって抵抗すると、一層絡め取られるのがオチだった(過去に経験済み)

かといって、すっと器用に抜け出すような隙を流々としゃべりながらも作ってはくれない円。
撫子はいい加減にしなさい、とばかりに目に力を込めたのだが、それを待っていたように告げられた。

Trick or treatです。さあ、ぼくの分はありませんが、どうしますか―――」


円がそう言い終えた瞬間、固まったのは何故か円だった。

その細い目を僅かに瞬きさせて動きを止め、次いで不機嫌により細め、食べたくもないものを仕方なく舌の上で転がす。


「美味しい?円。飴は好きかしら?」
「・・・・・・・・・・面白くありませんね、ついでに言うと可愛げもありませんね。あなたわかっていてずっと知らないフリしていたんですか」
「違うわ。あなたの説明で…ああ、そういう事だったのか。と思ったのよ。」

円の口にあるのは、間違いなく飴だった。
円が用意した2つの飴ではなく、撫子が何故か持っていたらしい飴。

「……どういう意味ですか。あなた知っていて飴を所持していた訳じゃなかったんですか」
「違うわ。円が来る前に、同じことを言って渡されたのよ、レインに。2つ――」


残念でしたねーと満面の笑顔のレインが、容易に想像出来る。
円は興が削がれたようにその腕の檻から撫子を出すと、まったくあの人はいつそんな暇が――と呆れた言葉に一種の感心さを込めて漏らした。

「レイン先輩と同じ事をしたと思うと、ちょっと、いえ、かなりぼくの自尊心が傷つけられた気がしますね。不愉快です」
「似たもの同士で気が合うってことかしら。不思議ね。まるでタイプが違うと思うのに」
「本っ気でムカつきますよ。あなたのその言い方」

円がさらっと撫子の頬に指を走らせたその矢先、通信機が二人の邪魔をする。

「…こちらビショップ」
『あ、ビショップ?ハロウィンの件なんだけど、ちょっとこっちに来てくれるかな。なんだか試作品が暴走を始めて…ああっ』
「了解です」

仕舞いまで聞かずともわかってしまうのが悲しいが、大方撫子を喜ばそうと、鷹斗がその努力を甚だ見当違いの方に向けているのであろう。
離れるには惜しいが、この場合は仕方ない。

「ぼくは行きますけど、ルークをあんまりさぼらせないでくださいよ。見かけたらすぐに上に来るよう言ってください」
「…どうして私に言うのよ」
「あの人。今は外に出ている筈なんですよ。だからキングは連絡をぼくにしかしていない。あのレインさんがそんな機会見逃す筈がないと思いまして」

あまりにも納得のいく答えだった。

撫子は一人になった後、ふとレインに渡された残りの飴を見る。
レインは訳も言わずに、ただ持っていてくださいーと渡してすぐに出て行ったのだが。

「2つってことは、きっと、円と同じこと考えているのね――」


円の気持ちもわからなくもない。
いつもこちらを罠にかけては楽しんで、当のレインは火の粉をいとも簡単に振り払う。

「・・・・・・・・ハロウィン、だものね。」

撫子は強く頷くと、足取り軽く簡単に調理できる場所へと向いて行った。



***



「撫子くん。キングがお呼びですよー?なんだかものすごくはしゃいでいるみたいなので、とんでもない事になりそうな気がしますねー」

飴を渡した後、数時間も時間が空いたとも思えないほど自然に、レインが部屋に入りながら撫子に声をかけてきた。
鷹斗が呼んでいると言うことは、きっと何か始まるのだろうが、
レインの格好はいつもと同じで、円とのやり取りがなければとてもハロウィンのことなど考え付かなかっただろう。

「まあ、それはそれとして…撫子くん。Trick or treat ですー」
「ああ、やっぱり言うのね。というか、今なの?みんなと同じ時じゃないのを狙っているのなら、ますます思考が円と一緒と考えていいのね」
「はいストップストップー……ははあ。ビショップにすでに言われちゃいましたかー
思考が一緒っていうのは、ボクは構わないですけど、ビショップが嫌がりそうですねー」
「事実、嫌がっていたわ。すごく。かなりね」

そこは確かにレインに伝えてあげよう、と撫子は円の代わりに気持ちを込めた。
堪えてないのに、微妙に堪えたようなフリをして、微笑むレインに、小さく「treat」と言いながら、こっそりと持っていた小袋を渡す。
出来る限りはラッピングをしようとは思ったが、今揃うものあまり色味のない、シンプルな色。
しかも透明な、質素な袋の中に、鮮やかな赤が映えていた。

「わあ、お菓子じゃないですかー。ボク、甘いものには目がないんですよねー」
「知ってるわ。だから…treat。残さず、食べてね」

最初の空気はどこへやら、撫子が天使のように微笑んで、食べてと促すその所作に釣られるように・・・


レインは食べなかった。


「……ちょっと。どうしてそのまま仕舞いこむの。食べようとしていたじゃない。もう口の中に入りかけていたものを出さないの!お行儀が悪いわ」
「だってだってだって!怪しいです怪しすぎますよー?何ですその笑顔ー
…それにボクがしようとしていたtrickに見当がつくのなら、キミがこんなことする理由が思い当たらないですしー」
「ごちゃごちゃ言わずに、食べなさい」
「ほらほらあ。絶対怪しいですよーむしろ強制になってきているじゃないですかー」

嫌なものは嫌。
駄々をこねた子供のように、白衣のポケットに押し込むレインに、最初はたまにはレインを…と思っていた撫子も次第に顔を曇らせた。

悪戯は悪戯でも、それでも作ったものは真剣に作ったお菓子だった。
変な味付けなんてしてない。ただのビスケット生地のタルトの上にジャムをのせたもの。

「……もういい。わかったわ。それ、返して。」
「あぁ〜違うんですよ、撫子くん。キミの気持ちはとっても嬉しいんですけど、でも、ですねー」

珍しく困ったような、本当に困ったように眉を寄せて顔色を変えるレイン。
レインにお菓子を作ろうと思った時なら、これで十分だったかもしれない。
でも、食べて欲しいと思ったのは中々の出来だったからなのか、それともわからない他に理由でもあるのか――

「いいのよ。私が食べるから」
「…キングやビショップに渡す、のではなく…?」
「そうよ。レインに作って、食べなかったから渡すなんて失礼でしょう」

それは言い換えれば、「レインにしか作っていない」という事になるのを撫子は気付いていない。
なおもポケットに手を伸ばす撫子の手を遮って、レインが諦めたのか、踏ん切りがついたのか、手を伸ばして袋から一枚のジャムタルトを取り出し、口に入れて――


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「美味、しい?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「……ふふっ真っ青になって、涙目ね。不味い?」

口に入れたきり、風味が広がるのをさける為か。
ピクリとも口を動かさずに、口いっぱいに詰め込んでいたものを思い切って噛み砕くと、一思いに丸呑みしたレインがようやく口を開く。

「…っ絶対、トマトだと思ったんですー撫子くん、これわざとでしょう」
「ええ。どうしてトマトってわかったの?結構青臭さを消したと思ったのに」
「…嫌いな者にしかわからない特有の何か、というものがあるんですよー……さっき、口に入れかけた時にああこれトマトだって思って、思った…のに…」
「食べてくれたのね。ありがとうレイン」

可愛げのある?悪戯も成功して。
何より食べてくれたのが何だか嬉しい。

撫子より大人の男性なのに、撫子と同じくらいの背だからだろうか。
すっと伸びた手は躊躇せず、いとも簡単に頭の頂に触れ、えらいえらいと…嬉しさと、堪えきれない可笑しさも一緒に伝えるように撫でた。

まだ口の中に残っているトマトの風味が気に障るのか、レインはまだ青い表情で残りのタルトをどうしようか思案しているようだった。

「トマトのジャム。煮詰めが足りなかったのね。あと砂糖も。
材料が急でなかったし、水分も多いから…時間をかければきっとレインだって食べられるわよ」
「また、ボクに食べさせる気なんですかー」
「ええ。いずれ食わず嫌いだったって、トマトをニコニコしながら食べているかもしれないわよ」

まあ、そんな事は今のレインなら想像つかないけれど、ここまで嫌悪せずに普通に食べられるようにはなるかもしれない。
そんなジャムをいつかまた、作ってみようかなと思いつつ、鷹斗に呼ばれていたことを思い出した。

「ねえレイン。そろそろ行かないと…2人とも待たせてしまっているわね、きっと」
「いえいえー。ボクがこうなる事を見こして、早めにココに来ていますから…大丈夫ですー」
「・・・・・・・・・・・え?」

何か、おかしな言葉を聴かなかっただろうか――

撫子が目を向ければ、いつの間にか、真っ青な顔は元に戻って。
いつものレインに戻っている。

「ビショップがきっと先に言っているだろうなーとは思っていたのでー、キミがボクに何か用意してくれているとは思っていたんですよー」
「トマトも、予想の範疇内だったの?」
「さあ、どうでしょう。でも…今からボクが取る行動は、ボクの予想の範疇内です。それもどうかと自分でも思うんですけどねー?」

何をするの?と聞く前に頬に指を滑らされ、白く細い指が頬についていたらしいジャムを掬って口に運ぶ。
瞬間、何とも言えない顰め面。

「得意ではないです。正直苦手ですけどー…こんな風に、手を伸ばしてみます」
「…?どういう意味?」
「ボクは恋愛なんてトマトと同じで、食指を動かされることなんてなかったんですけどー伸ばしてみます。という意味ですー」
「ちょっと、レインっ近いったら…!」

円の時と似たような状況にさらされる。
なのにこの心臓の落ち着きのない様はどうなのだろう―――

バクバクうるさい音に紛れて、熱くなった耳にいつもよりも低いレインの声が届く。


「I'll give you this in return」








END








***

ずっと黙って偉かったカエルくんの独り言。

「レインのヤローがアイツに何したかなんて、わかりきってんだろ!?アイツ、トマトみたいに真っ赤になってたぞ!」











微笑ましいハロウィンの一幕ということで^^

円完全に前フリで(ごめん)
キング撫子と会話すらなく(ごめんね)

CZはもう完全にレイン愛です…っ