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「斎藤さん、おかえりなさい」

土方に頼まれた任務を終えて、屯所に戻れば千鶴が嬉しそうに駆け寄ってきて。

「ああ、ただいま」

いつもなら、駆け寄る千鶴が自分の少し手前で止まる距離。
そこまで来るのを見計らって、ただいま、と言ったつもりだった。

けれど、その言葉を告げた時には、千鶴と斎藤の間に距離はなかった。

「ご無事で何よりです」

遠慮がちに、でも、弱弱しくても斎藤の背中を掴む千鶴に、内心の動揺は隠すことが出来ず。
自然、口をつく言葉はどもってしまう。

「ぶ、無事と言うのは大袈裟だ。ただ、とと届け物をしただけだからな…」
「それでも、今は浪士がまた京に集まってきているって話だし…心配なんです」

何だか。子供が甘えるように胸に頭をすりつける千鶴。

恥ずかしい、どきどきする。そんな気持ちが強い。
だけど、根底にある気持ちは一つ。
時間が経つにつれ、それが…自分を満たしていく。

嬉しい――

気がつけば、千鶴の頭をそっと撫でていた。
純粋な好意は、自分では思いもしなかったような心の部分をくすぐって。
愛しさが込み上げて来る。

「俺は大丈夫だ。心配をかけたな・・・」
「いえ、私も大袈裟で・・・すみません」

自分のしたことを考え直して、少し恥ずかしくなったのか千鶴が離れようとする。
頭を撫でていたのとは反対の、もうひとつの手がそれをさせない。

甘い気持ちは、心をどんどん温かく疼かせて、
いつもの斎藤一を保つ精神をしびれさせていく…






・・・

・・・・・

・・・・・・・・・・・


斎藤一はしばらくぼんやり考える。
何故あんな夢を見たのか。

それは千鶴は心根のいい娘で、悪くは思っていない。
むしろ、好意的に思ってはいる。

けれど、けれど・・・・・

考えても所詮は夢の話。詮なきことだとは思いつつも…
何故かそのことばかりを考えてしまう。

忘れろ、忘れろとブツブツ思えば、余計にその夢が頭に根付いていく。

・・・今日は千鶴とはあまり顔を合わせない方がいいかもしれない。

そう思ったところで土方からの呼び出しがかかった。
もちろん、斎藤はすぐに土方の部屋に向かったのだが…


急な使いを頼まれて。
屯所に戻ってきて。
千鶴が駆け寄ってきて。

そこまではいい。
いつもと一緒だと思う。

けど、今日違ったのは…千鶴が止まる寸前に蹉いたこと。
きゃっと小さい悲鳴を咄嗟に出した千鶴を支えようと手を伸ばせば。

今朝見た夢のように、彼女は自分の腕の中にいる。


「・・・・っ!?すみません斎藤さんっ」

すぐに離れようとする千鶴は、いつもの千鶴で。
だけど――

「・・?斎藤さん?」
「・・足を捻っているかもしれない。急に動くな」

離したくないと思ったのは、あんな夢を見たせいか―それとも・・・

「斎藤さんが支えてくださったからどこも…斎藤さんは大丈夫――」

ずっと気付かない振りをしてた気持ちを、押さえられなくなったのか。



いつもなら、千鶴の肩において、お互いの体を引き離していただろう自分の腕は、

今日は、千鶴の背中を包みこむ――




END