拍手御礼イラスト&SS
「・・・忙しそう・・・」
ふと、政務室を通りすがりに覗いてみれば、山積の竹簡を傍らに、一つ一つを読みあげて。
その顔には疲労が色濃く見受けられる。
「蜀との同盟を進めてはいるけど、孟徳さんの国の勢いは衰えないし…心配ごともたくさんあるよね」
今まで、呑気に一緒にお茶でも飲みましょうと誘っていたことが、何だか無理させていたように思える。
出来る人だから、それだけ期待も大きいし。
肩にかかる荷も重い。
でもそれで呉を盤石にするための布石を打てるのなら、と日夜仕事に励む公瑾。
その忙しさをさりげなく、部下の人が教えてくれた。
だから様子を見に来たのだけど…
今日は…お茶の誘いはしない方がいいのかも――
「あっ花〜何やってるの?」
「あっシ〜っ……ちょっとお仕事の様子をね、見てて…」
気が付かれていないかな?と中をちらっと見れば、全くこちらも見ずに仕事に没頭している。
・・よかった、気が付かれていないみたい。
花は小喬の方に振り向くと、同じく部屋の中をなあに?と覗く小喬に小声で誘う。
「ね、小喬さん。一緒にお茶飲みませんか?」
「うん、いいよ〜尚香も誘おうっ!」
その日は久しぶりに、公瑾さんとはお茶をしなかった。
仕事、少しでも楽になるといいな、
お茶を飲みながらそんなことをぼんやり考えていたのだけど。
「今日はあなたの姿を見かけなかったのですが…」
ふと、琵琶の音が聞こえたような気がして部屋の外に出てみれば。
私の好きな公瑾さんの音、とはちょっと違っていて。
繊細な音が何かあったのだろうか?と思わせて音を辿って今は公瑾さんの隣。
「はい。公瑾さんが忙しいって…聞いて。邪魔しないようにって思ったんです」
「私はいつも忙しいですよ」
・・・何だろう。少し言い方が…
「そう、ですよね。ちょっと考えなしだったなって思ったんです。」
「考えなし?」
「はい。お茶とか、これからはなるべく大喬さんや小喬さんと一緒に…」
「私は、いつも忙しいのです」
「・・?あの、だから・・・」
話の腰を折られて、先ほどと同じことを言う公瑾さんに花が首を傾げる。
公瑾はどう言えばいいのか思案しているのか、琵琶を一音鳴らして、手を止めた。
「別に、いきなり忙しくなった訳ではなく、今まで通り忙しいのです」
「・・・はい、大変ですよね」
「ですから、お茶の時間も、遠慮しなくても今まで通りに取れます」
・・・・それは・・・
「いつも同じ時間に顔を覗かせていた人が、急に来なくなったら…そちらの方が気にかかって・・仕事が手に付きません。」
「・・・・・・・・はい」
「・・・花、本当にわかっていますか?」
「はいっ」
遠まわしな言い方。
でも、一緒にお茶を飲みたいと言ってくれているのだと・・
花が嬉しくて、笑顔を浮かべている様子を見て、公瑾も静かに微笑んだ。
奏でる琵琶の音は、花の好きな優しい音。
公瑾さんの音――
「公瑾さん、お茶、一緒に飲みませんか?」
「花殿・・ええ、少しだけお待ちください」
いつものように、誘いに行く。
仕事を一端止めて花の方に向かってくる表情は優しい。
それを望んでくれているのだとわかるから、だから・・・
「公瑾さん、少しだけいいですか?」
「・・?何をです?」
隣を歩く彼の腕に、ためらいがちに腕を組ませた。
「・・・・・・・・・・」
「・・・・や、やっぱり駄目ですか?」
無言で、その腕をみつめる公瑾。
立場的にも、こういうところを見られるのはよくないのだろうとは思うけど。
今は周りに誰もいなさそうだから、いいかなあとも思ったから…
「・・いえ、構いません。行きましょう」
「・・・・いいんですか?」
「あなたからしてきたのに、今更ですね」
優しい表情は曇ることなく。
花が傍にいることを喜んでくれる。
彼の心のように、触れた腕が温かい――
END