沖千斎漫画に置いてあるバレンタイン漫画のおまけです。




甘くも何ともありません!!
ギャグ漫画です。

漫画の後にさらに後日談をSSでつけています。
後日談の都合上、沖田さんが本命だった前提のお話になっております。

















↑漫画続きSS



【新八厄日】



※新八が主役です
2/15で、沖田さんと千鶴は恋人設定です。





「くそ〜っまだヒリヒリしやがる…ってうぉ!?何だ唇まで腫れてんじゃねえか!!」

放課後、仕事終わりにいつもの居酒屋に土方と左之と入った。
あの二人はモテるせいか、バレンタインという日を全く気にしない。
そのせいか、千鶴一人からの義理チョコで満足して酒を呑むことが出来たのだが――

土方の持つ袋の中からどことなく甘いにおい。

・・・なんだ?土方さん…さてはチョコでももらったな?

興味本位で聞いてみれば、総司からもらったものだと言われた。
左之は眉を寄せて、後ずさりしていたが、俺は酒がたんまり入ってると聞いて食べてみたくなった。

だから、つい見た目悪いそのでこぼこなチョコレートを…ガッと掴んで、ガッと口に入れた。
それがヤバかった。

口に入れた途端、脳天を突き抜くような、酒独特の辛さじゃあない、とにかく刺激物でいっぱいになった。
目の前がチカチカして、一気に目を守るように涙が出てきて。
肌の表面全部に唐辛子でも塗られたんじゃないかって思うくらい、ヒリヒリした感覚をどうにかしようと汗が噴出して。

もう散々のバレンタインだったのである。

「くそ〜…土方さんだけじゃなく、俺まで被害に巻き込むなんて、総司のヤツ許せねえっ!!!」
(いえ、あなたが手を出したのが悪いのです)

俺は適当に買って帰った材料を、適当に鍋に放り込んだ。

「目には目を〜歯には歯を〜だ!!総司…ふっふっ…覚えてやがれー!!!!」

深夜、新八の部屋から不気味な笑い声が響いたらしい。





「で、これがその復讐チョコレートか?」

以外に器用に包んであるチョコレート、一体何が入っているのやら…と一通り目にした後、左之は新八の机にそれを戻した。

「おう、俺はやられっぱなしは性に合わねえからな」
「…総司はお前がやられたなんて、思ってもいないんじゃねえか?」

むしろ復讐したところで、倍返ししそうな相手である。それに――

「あのよ、新八…バレンタインは昨日だぜ?今更総司に渡すっておかしくないか?」
「いや、でももらえるもんは、とりあえずもらうだろ?」
「いや…あいつはきっと怪しんで…受け取らねえと思うぞ。受け取ったとしても…」

焼却炉にでもチョコを放り込んでいそうな総司が思い浮かぶ。

「…があああっ受けとるもんだとばかり思ってたからな…どうすっかなあ…」
「諦めろ、放っておいても…土方さんが復讐してくれそうだぞ?ほれ、見てみろよ――」

左之に言われたままに土方に目を向ける。
きっと、まだ唇が腫れているのだろう…マスクをして隠れた表情なのに血走った目がその怒りを表している。

「いや、けどよ。俺は俺でやり返すって決めてっからな…仕方ねえ…数学教師である俺様が計算づくな作戦を考えるか」
「ま、適当にやれよ」

親友の言葉に、おう!と勢い頷いて、その後珍しく競馬以外で頭を働かせた。

「総司のやろうの警戒心を解く相手、そんなの…一人だな。うっしゃ!」

そう考えた新八は都合よく千鶴のクラスの数学を受け持った後、千鶴を呼び寄せた。

「なんでしょうか、永倉先生」
「おう、いや千鶴ちゃんに頼みたいことがあるんだけどよ」
「私に?」

はい、出来る事なら。と笑顔で頷く千鶴に、新八はそれ以上の笑顔で頼んだのだった。


放課後。

「沖田先輩」
「千鶴ちゃん、びっくりした…教室まで迎えに行こうと思ってたんだけど…君が来てくれるの初めてじゃない?」

君の彼氏になったんだって、実感できる、と嬉しそうに腕を絡めてくる総司を千鶴は慌てて離した。

「ろ、廊下です!公衆の面前ですよ!?」
「わかってないね、だからだよ?」

グっともう一度詰め寄られる距離に千鶴は慌てて、新八のチョコを間に突き出した。

「もう〜大人しく抱かれててよ…これ、チョコ?」
「は、はい。これ先輩にです」
「僕に?」
「はい」



『頼む!これを総司に渡して食べさせてやってくんねえか?』
『これ、チョコ…ですか?』
『お、おう!いや総司のヤツがな?昨日・・・お世話になった先生方にもチョコをってくれたんでな〜お返しってわけだ』
『そうなんですか、沖田先輩が…』

にこっと笑う千鶴に、新八はホっとしつつ言葉を続けて。

『俺からじゃあよ、受け取りそうにねえから…千鶴から渡してくれねえか?』


そんなやり取りがあったから、千鶴はそのチョコを持って来ていたのだ。
お世話になった先生にもチョコを―という新八の言葉を純粋に信じて、そんな総司を愛しさを込めた目で見つめる。

それは総司の『これは千鶴からのチョコ』という勘違いを助長させた。

昨日もらった本命チョコ。
すっごく美味しかったけど…それとは別にまた作ってきてくれたのだろうか?

千鶴といることで浮かれた総司は、普段の警戒心を失っていた。

「ありがと」

すごく想われているようで、素直にそこは照れておきながら笑顔で受け取って、早速包みを開けてみる。


千鶴が作ったにしては珍しい…ただの型に流したチョコを手にとって。
不恰好なチョコを文句も言わずに口にする――


「〜〜〜〜〜っ!?」
「・・・?先輩?ど、どうかしました?」

途端、喉を押さえて…
飲み込めないチョコを涙目で必死に飲み込もうとする総司に、千鶴が慌てて声をかける。

「・・・こ、これ・・・君、からのじゃないの?」
「あ、い、言ってませんでした?永倉先生からです…」
「…ゴホッ…新八さん?(…そっか土方さんのを一緒に食べたんだ―くそ、やられた――)」

口を手で覆い座り込む総司に、千鶴はおろおろと様子を窺ってくる。

「あの、チョコ…どうかしたんですか?」
「んー…辛い…すごく、辛い――」
「え」

千鶴は昨日総司が作ってくれたチョコレートを思い出した。
きっと、新八も悪気はなくて、失敗したのかもしれない―(全く違うけど)

「あの、待っててください!飲み物買ってきます!」
「え、いいよ行くなら僕も一緒に…」
「すぐですから!!」

そのまま、千鶴とは思えない速さで自販の方へ走っていく。

その様子を腹を抱えて、声を押し殺しながら笑って見ている者がいた。
新八である。

「く〜…っ腹痛ぇ!!っとやべえ。声が聞こえる…見たか総司〜悪は滅びるんだ!!千鶴ちゃんには心配させて悪いことしたけどな…」

新八も十分悪になってんぞ、と…左之がいたらツッコんでくれただろうか。


新八はもう一度廊下を見やると、千鶴が走って戻ってくる。
手には牛乳を持っているようだ。

「辛味を和らげるには牛乳だと思って、嫌い…じゃないですよね?」
「うん。ありがと」

千鶴がいない間に飲み込むことなく、口にしたチョコは出してしまったから、そこまでひどい事にはならなかったのだが――
心配そうに顔を覗き込んで、背中を何故かさすってくれる千鶴に、つい出来心――

「…千鶴ちゃん、何かフラフラする」
「だ、大丈夫ですか?保健室に…」
「こうしてれば治るから、しばらくこうさせてて?」

千鶴に寄りかかる総司に、今は恥ずかしがっている場合じゃないと、千鶴も真っ赤になりながら頷いた。
肩に寄りかかる総司の顔が見えていたなら、体調など悪くなくピンピンしているのがわかっただろうが―

「先輩、本当に大丈夫ですか?飲み物、もう少し買ってきましょうか?」
「大丈夫。こうしてるほうがいいから」
「そう、ですか…あ、あの…」
「うん?」

総司の髪が優しく揺れて千鶴の頬をくすぐる。
くすぐったさから、髪を押さえるようにゆっくり手をあてて、そのまま…一つ年上の、だけど子供のような総司の頭をゆっくり撫でた。

「永倉先生から聞きました。先生方にもお世話になってるからってチョコをあげたって」
「あ〜…そう、なんだろうね(正確には土方さんだけだったんだけど)」

撫でる手に、もっととねだるように頭を小さく動かした。
それがわかったのか、くすっと笑いながら撫でる手は止めず、小さく小さく、総司にだけ聞こえるように――

「先輩は優しいですよね。…ま、ますます…好きになります
「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・あ、あの・・・キャッ!?」

肩に頭を置く程度だった総司が、身をよじってそのまま千鶴に腕を絡ませて。
廊下の中、二人の影がひたと寄り添う。

「せ、先輩ったら!!」
「無理、フラフラするって言ったでしょう?起きられないし」
「…もしかして…具合、もっと悪くなったんですか?じゃあ…山南先生呼んできますから」

先ほどより自分にかかる総司の身体に、意識してしまうのを心配が吹き飛ばす。
キュッと背中を掴む手が、不安そうに縋る。

「…嘘だよ、具合悪くない。大丈夫だけど、そのままでいてね」
「…だ、大丈夫なら…離れて…」
「いいの。片思いしてた時間の分、これから取り戻す予定なんだから」
「・・・・・・・片思いって…先輩・・・こっそり両思いだったじゃないですか」

嬉しそうに恥ずかしそうに呟く千鶴に、「うん」とだけ呟いて。

抱き締める手を緩めてゆっくり顔をあげる。

見つめ合う二人、総司が目を細めてゆっくり近づいて――








「どーした新八、作戦は失敗か?」
「い、いや…成功したけど…負けたみてえな気がするからよお・・・」
「何言ってんだ?」
「いや、実はよ……」

チョコを総司が食べたこと。
苦しんでいたのを見て喜んだこと。
だけどその後の二人の甘ったるさに(もちろん、途中で戻ったぜ!?)、何故かむなしさが漂い、敗北感でいっぱいなこと。

それを聞いた左之は、どこか無表情だった。
静かな怒りを湛えているともいう。

「な?こんな筈じゃなかったのによ〜」
「おい新八…」
「おう、何…」

ガッっと頭を拳でどつかれた。

「い、いきなり何すんだてめえ!!」
「何すんだ、じゃねえ!!自分の復讐のために千鶴を使うなんて…最低だって言ってんだよ!!あいつはお前の道具じゃねえだろうが!!」

・・・・・・しまった、左之の『女は大事に』の信念に背いたらしいっ(今更、遅い)

「い、いや…でもな?」
「言い訳無用!!今は総司と一緒か…邪魔すんのもあれだしな、明日…謝れよ」

ギロっと睨まれて。
もう一度どつかれた。


・・・・・痛え・・・くそ〜・・・っ俺には復讐なんて・・無理か・・・土方さん、後は頼んだ――

土方よりも怖いと思う鬼の形相の左之に怒られて、新八は心の中で土方に託したのだった。







END







SSまで読んでくださった方、感謝ですvv
新八はこんな…男じゃないよって思ってますけど。
漫画の案を頂いた時に、ああ、絶対新八も食べそうだなって思って。
食べたら絶対、沖田さんにやり返してくれそうな気がして…(笑)

途中、沖千が恋人になって出ています。
本命が沖田さんだった場合ですね。
付き合い始めてまだ1日なので、最後はほっぺにチューくらいでいいんじゃないかとも思うけど。
沖田さんのことだから、口でもいいんじゃないかとも思ったり(←)

楽しんでいただけますように。