『楽しければ何でも』


※ワンドオールかもです。




「うわ〜、よく似合ってるじゃない、ルルちゃん」
「そ、そうかな」

素直にアルバロに褒められて、ルルは頬を赤く染めた。
アルバロはコーディネーターのごとくルルの前に立ち、満足そうに頷いている。

「うんうん。さすが俺が見立てただけのことはあるよね」

楽しそうに笑っているアルバロに、照れながらもルルは口を挟んだ。

「あのね、アルバロ。褒めてくれるのは嬉しいんだけど……」
「ん? 何か不満でもあるの?」
「えっと、不満っていうかね、その……」

アルバロの真意が掴めず、ルルはその辺りを確かめようとしたのだが……。

「まぁ、いいからいいから。こっち来なよ」
「わっ! ちょっと、アルバロ!」

腕を引っ張られたと思うと、しっかりとアルバロの腕に抱き込まれてしまっていた。
ジタバタ動いてみるが、思ったよりも力が強くて解けない。

「は、離してよ。アルバロ〜」
「何で?」
「何でって……」
「俺はルルちゃんとこうしたかったんだけど……ダメ?」
「ア、アルバロってば何か企んでいるんでしょ!」

ルルがそう言うと、アルバロはその目を一瞬だけ細めた。

「俺が何を企むっていうのさ。言ったでしょ、俺はルルちゃんとこうしたかったって」
「あ、あのねアルバロ。だから何で────」
「ねぇ、俺の恰好はどうかな? 似合ってる?」

そういえばアルバロに対しての感想を述べていなかった。
ルルは慌てて口を開く。

「と、とっても似合ってるわ! アルバロは和服がとっても似合うのね!」
「ホント?」
「ホントよ。すごく大人っぽく見えるからかな。いつもと違って見えちゃうかも」
「それって、俺が普段は子どもっぽいってことでいいのかな?」
「え? あ、そ、そうじゃなくて、さらに大人っぽく見えるってことでね────」

ルルが弁解しようとすると、アルバロはルルの首元に顔をすり寄せてきた。
その感覚にルルがビクリと震える。

「ちょ、ちょっと、アルバロ!」
「ん〜? なぁに、ルルちゃん」
「なぁにじゃなくて! ち、近いと思うの!」
「あははは。それって今更じゃないかな」

それはそうなのだが、身体が近いのと顔が近いのはまた別の話だとルルは思う。

「アルバロっ、くすぐったいってば」
「せっかく二人で和服にしたんだし、もうちょっといちゃいちゃしてもいいんじゃないかな」
「せっかくって言われても私はアルバロに言われたから着替えただけで────」
「ルルちゃん。そんなに動くと、着物が崩れちゃうよ? いいの?」
「えっ!? そ、それはダメ! 」
「そう、じゃあやっぱり僕の言う通りにこのままこうしてれば大丈夫だよ」
「それも何だか違う気がするの……」

楽しそうなアルバロの腕の中で困った様子のルル。
そんな二人の雰囲気を壊したのはこいつらだった。

「ア、アルバローーーー! 貴様、ルルと一体何をしているんだ!」

突然大きな声を出して現れたのは、わなわなと震えているノエルだった。

「どうしたの、ノエルくん。そんなに震えちゃって。寒いのかな」
「そんな訳あるかーー! これは怒りで震えているんだ!」
「ノエル、ノエル。落ち着いてくだサイ」
「これが落ち着いていられるかーーーー!」

ノエルを落ち着かせようとビラールが間に割って入る。
が、ノエルの様子はおさまる感じ……ではない。

「少しは落ち着いてください。────それからアルバロ」
「ん? なに、エストくん」
「彼が怒っている原因はあなたたちがくっついていることでしょう。煩いので離れてくれませんか」
「あっ、そうだったわ!」

ルルは今自分がアルバロに抱き締められていることを思い出し、再度その腕から逃れようとジタバタし始めた。
アルバロはエストの忠告通りに離れるかと思いきや、ますます抱く腕を強くした。

「そんなこと言ってエストくん。もしかしてヤキモチ妬いているのはノエルくんじゃなくて君なんじゃないの?」
「……何でそういうことになるんですか」
「だってエストくん。さっきから俺たちの方をあまり見ないようにしてるよね」
「……気のせいでしょう」
「ふ〜ん?」

その様子にイラッとしたというか、反発したというか。
エストは近くの椅子に座ると、自分の世界に入るかのように本を読み始めた。
……頭に入ってきているのかは別として。

「ラギ? さっきから黙ったままデス」
「…………」
「ルルに見惚れているのデスね」
「うるせぇ、ビラール! 誰もんなこと言ってねぇだろうが!」
「へぇ? だったら、ルルちゃんに着物は似合わないってこと?」
「んなことも言ってねぇだろうが! そんな顔で見るな! アルバロ!」
「ラギは素直ではありまセンね」

ニヤニヤとした顔つきでラギを見つめるアルバロとビラール。
その表情に居たたまれなくなったラギが顔を真っ赤にする。

「うるせぇ! お前ら、いい加減にしろ!」
「仕方ないよねぇ? ラギくんはこんなことしたら変身しちゃうから」
「ラギ、ルルは変身したラギをとてもとても可愛がってくれマスよ?」
「う、うん! 私、ラギが変身した姿、可愛いって思うの!」
「そんなの、慰めにもなってねーよ!」

ラギはヅカヅカと大股で歩くとエストの隣にドンと腰を下ろした。
ふて腐れているのか、面白くないのか。
ラギはイラだった様子でカンカンと指で机を叩いている。

エストはその隣で小さく溜め息を吐いた。

「あ、あのね。アルバロ。みんなの目もあるし、本当にそろそろ離れてほしいの」
「何で? せっかくだから見せつけちゃおうよ」
「だから、そのせっかくの意味がね?」

困った様子のルルに、それまで黙ったままだったユリウスが近づいた。

「ねぇアルバロ」
「ん? なに、ユリウスくん。君もルルちゃんを抱き締めたいの?」
「あぁ、うん。それはまぁ、出来るならしたいけど」
「ユ、ユリウス!?」

ユリウスのさらりとしたとんでもない発言にルルが目を丸くする。
しかしユリウスはそんなルルとは対照的に、真面目な顔でアルバロに問い掛けた。

「ねぇ、アルバロ。何で着物着てるの?」

ある意味ルルを抱き締めていることはアルバロならなくもないことではある。
そう思うと、その状況よりも何故着物なのかという点に目がいったユリウスはこの中で一番まともだったのかもしれない。
……この時点では。

「そ、そうなの! 私もアルバロにさっきからそれを聞きたかったの!」

ユリウスに同意するようにルルもアルバロを見上げる。
アルバロはニコっと表面上は含みのない笑みを浮かべると、さらりと言ってのけた。

「知ってる? 着物を着ると女の子はしっとりと大人の雰囲気になるんだって」
「大人の雰囲気?」

ユリウスが?を浮かべてアルバロと、そしてルルを見ている。
ノエルもラギもエストも、気にしない素振りを見せつつも、耳だけはしっかりと反応している。
ビラールはもちろん、彼らしい笑みをその顔に湛えている。

「そう♪ いつもはね、活発的な女性でも着物を着ることで大人っぽくなるんだよ。それを確かめてみたくて、俺が見立てた着物をルルちゃんに着て貰ったって訳」
「そうだったの? アルバロ」
「そうだよ?」

ルルはそれを聞いて、何となくみんなの反応が気になり始めた。

(私……大人っぽく見えたりしてるのかな)

そんなルルの気持ちを察してか、ビラールがすっとルルの手をとる。

「ルル。あなたは何を着ても、とってもとっても素敵デスよ」
「あ、ありがとう! ビラール」
「いえいえ。女性が素敵なものを召した時は、男性は褒めるのが嗜み、というやつデス。ねぇ、ラギ?」

ビラールに指名されて、ラギの身体がビクリと震えた。
こちらを見ながらニコニコと笑っている。
その様子がラギの鼻につく。

「何だよ! そんな目でこっちを見んじゃねぇよ!」
「ラギ? 思ったことはその時に言っておくべきデスよ? そうでなければ、後悔しマス」
「殿下の言うことはもっともだね。ねぇ、ラギくん?」
「〜〜〜〜〜〜〜!!」

この二人に絡まれるとなかなか逃れにくくなる。
ラギは反発するかのように椅子から立ち上がった。

「おい、ルル!」
「は、はい! 」
「……その、だな。だから、その……」
「ラ、ラギ?」
「……あぁ、もう! 似合ってるよ! 悪いか!」
「ううん、すっごく嬉しい! ありがとう、ラギ!」

ルルが嬉しそうにお礼を言うと、ラギは顔を赤くしてそっぽを向いた。

「別に……礼を言われるようなことはしてねーよ」
「そんなことない! 私、今すっごく嬉しいもの!」
「……そーかよ」

そんな2人を微笑ましげに見つめるのはやはりこの二人。

「いや〜、青春だねぇ。ねぇ、殿下」
「そうデスね。青い春というやつデスね」
「うるせぇよ! もう黙ってろお前ら!」

ラギがアルバロとビラールに文句を言っている間に、近付いたのはエストだった。

「どうしたの? エスト」
「……この流れでいくと、僕にもとばっちりが来そうですからね。先に言っておくことにします。似合っていますよ、ルル」
「ホント!? ホントに似合ってる?」
「そうですね。アルバロの言う『大人の女性』かどうかはさておいて。その着物はあなたによくお似合いだと思います」
「わー、ありがとう! エスト!」

若干の嫌味を言ってみたのだが、似合っているという言葉の方が勝ったらしくルルには効果がなかったようだった。
しかし、嬉しそうにしているルルを見ていると、気分は悪くはなかった。
エストはバレないようにこっそりと笑んだ。
それから、隣に立っているノエルを突き出す。

「ほら、言いたいことがあるならあなたも言ったらどうですか?」
「そ、そ、そうだな! ───ルル」
「何、ノエル?」
「そ、その……とてもよく似合っている。す、素敵だ……」

目を逸らしながら言うノエルは、見ていて微笑ましい。
ルルは素直にお礼を述べた。

「ありがとう、ノエル! あのね、ノエルもきっと和服が似合うと思うの!」
「僕もかい?」
「うん、だからね。機会があったらノエルが着たところが見てみたいかも!」
「そ、そうか! そうか! あぁ、そうだな! 機会があったらぜひとも見せてやろう!」
「……何と言うか……単純というのは羨ましいですね」

そんなエストの呟きは有頂天のノエルには聞こえず。
最初の怒りから今や嬉しそうなノエルの横ではユリウスが興味深そうにずっとルルを見つめていた。

「ユリウス、一体どうしたの?」
「あぁ、うん。さっきアルバロが言ってただろ? 着物を着ると大人っぽく見えるって。でも僕にはいつもの可愛いルルに見えるんだよね。これってつまり僕以外の人間に魔法がかかってるってことなのかなって」
「うわー…。ユリウスのやつ、何言ってんだ?」
「……彼の思考は僕たちには読めません。気にしたら負けだと思います」

ラギとエストがそんな会話をしていることを知る由もなく。
ユリウスはうーんうーんと悩んでいる。

「ねぇルル。君はどう思う? 着物を着た君自身も大人っぽく感じたりしているの?」
「えーっと、そうだったらいいなとは思うけど……」
「それじゃあ、やっぱりよく分からないな。そうだ、アルバロみたいにルルを抱き締めてみたら分かるのかも。ねぇアルバロ。そこ、代わってくれない?」

「何言い出してんだ、てめー!」
「え? もしかしてラギも試してみたいの?」
「そういうことじゃねーよ!」
「僕は敢えて何も言いません。言いたくありません」

アルバロは、そんなお願いをしてくるユリウスに拒否を示した。

「ダメだよ。ユリウスくん。ルルちゃんは俺が選んだ着物を着て俺色に染まってくれてるんだから。と、なると……当然ここは俺の指定席だと思わない?」
「えっと、つまりどういうこと? 意味が分からない」
「ユリウス。アルバロは、ルルが素敵だからこのままでいたいのデスよ。誰にも盗られたくないのデス」
「そうなの?」
「まぁ、そういうことにしておこうかな」
「よく分からないけど、アルバロはどうなの? ルルが大人に見えるの?」
「そうだねぇ、俺には可愛いルルちゃんのまま、かな?」
「ってことはやっぱり、アルバロにも魔法はかかってないってこと、でいいのかな。それとも……」

ぶつぶつと考え出したユリウスは既に自分の世界に入っている。
そんな中、ルルは一人気落ちしていた。

「私って……やっぱり大人っぽくは見えないのかな」

決して大人っぽく見られたい訳ではなかったが、せっかく着物を着ているのだから少しはいつもとは違う感じを持ってもらいたかった気もするのだ。
すると、そんなルルにビラールが優しく声を掛ける。

「ルル、気にしナイ、気にしナイ。大丈夫」
「ビラール……」
「ルルがいつもと同じ、ということはそれだけルルがいつも素敵だということです」
「ありがとう、ビラール。お世辞でも嬉しい」
「お世辞ではありまセン。これは、事実デス。私も、もちろんそう思っていマスよ」

何故だろう、ビラールにそう言われると本当にそんな気がしてくる。

「何だか、殿下に美味しいところをとられちゃったな」
「そんなことはありまセンよ」
「ねぇ、ルルちゃん」
「何? アルバロ」
「せっかく俺たちこんな恰好してるんだからさ。それらしいことをしようよ」
「それらしいことって、たとえばどんなことなの?」

ルルが訊ねると、アルバロは笑顔で告げた。

「俺がルルちゃんの帯を解いてクルクル回すの。だから、ルルちゃんはそれに合わせて『あ〜れ〜』って言ってくれたら─────」

「「んなことさせるか!!」」

ノエルとラギのツッコミが入ったところで、二人がかりでルルとアルバロは引き剥がされた。

「あ〜あ、せっかくルルちゃんとくっついていたのに」
「あ〜あ、じゃねー! お前が変なこと言い出すからだろ!」
「そうだぞ、アルバロ! そんなことをしてみろ! ルルが────」
「ルルちゃんの裸が見れて嬉しいって? ノエルくん」
「そうそう、ルルの裸が見れて嬉しい───って、何を言わせるんだーーー!」

「……ルル。あなたは部屋に戻って着替えてきたほうがいいでしょう」
「エスト」
「そうしないと、この騒ぎがおさまらない気がします」
「わ、分かった。着替えてくる。あ、ねぇエスト」
「何ですか?」
「エストもさっきのビラールみたいに思ってくれてる?」

さっきの、とはつまりルルをいつも素敵だと思っているかどうか、ということだろう。
はぐらかそうと思ったが、ルルが期待を込めた目で見てくるため、エストは仕方なく答えた。

「そうですね、そう思ってくださって結構です」
「!! ありがとう、エスト!」

ルルは嬉しそうに部屋へと戻っていった。

「結局、僕も着物を着てルルを抱き締めてみたらいいのかな。あ、でもそうなると抱き締めるだけでルルを大人に感じるってこと? それってどういう魔法なんだろう。意味が分からない」
「……それはこっちの台詞です」
「エスト。こういうのを、団らん、と言うんデスよ」
「……………はぁ」

なんと騒がしい団らんだ。
エストはそう思ったが、言葉にはしなかった。
それは、少しでも楽しんでいた自分がいたからかもしれない。

「今度はどんなのをルルちゃんに着せて遊ぼうかな」







ワンドのSSまで貰ってしまいました(#^.^#)
お正月に企画で配布したアルルの年賀状も送ったんです。
風千だけだと…ちょっと初描きで不安だったので、えいってつけたおまけにまでSS…

夢心地とはこのことです^/^

これ、アルバロがずうっとルル抱きしめているんですよね!
それをみんなの前でも止めないのがアルバロですね(笑)

みんながルルのことをドキドキしつつ、褒めているのがいいですね!
特にラギっ!!!…ラギ好きな私には…あの態度がたまらないですっ(#^∀^#)
あとユリウスのマイペースながらにアルバロの位置に行こうとするのが…ユリウスらしくって(笑)

とっても楽しかったです〜ワンドはオールがすごい好きです!
ぜひぜひ、アルバロにはルルの着せ替えをまたして欲しいですねv

文月様。
こちらにまでSS…ありがとうございました!
土下座はこちらの言葉ですっ!嬉しすぎて慌てましたよ!
文月様の書かれるワンドが読めて幸せです。
本当にありがとうございました!