君の欲しいもの
 
※アルル寄り?のドタバタオールです。
 
 
 
 
「ふふっ、次のお休みが楽しみだわ!」
 
ある日、ルルは上機嫌で食堂で食事をとっていた。
美味しいご飯を食べながら、込み上げてくる笑みを抑えられずにいた。
 
すると、頭上から聞き覚えのある声が降ってきた。
 
「ルル」
「あ、ユリウス! それにノエルも!」
「やぁ、ルル! こんなところで奇遇だな」
「奇遇って、さっきルルの姿見て隣で食べようって言ってたよね?」
「う、煩いぞ、ユリウス! 細かいことを掘り返すな!」
 
ユリウスに指摘されたことで、ノエルが慌ててルルに「何でもない」と説明にならない説明をする。
 
「何だかよく分からないけど、良かったら一緒に食べましょ!」
「そ、そうか? ルルがそう言うのなら────」
「ありがとう、ルル。隣座るね」
「って、おいユリウス! 人の話を遮るな!」
「え? 何が? ほら、ノエルも早く座りなよ」
 
きょとんとしたままのユリウスに座るよう促され、ノエルは渋々ルルの前に腰を下ろした。
 
「そういえばルル。君は何かいいことでもあったのか?」
「え?」
「あ、それ俺も気になってた。何だかルル、すごく嬉しそうに見える」
 
ノエルとユリウスがぐっとルルの顔を覗き込んでくる。
ルルは少しそれを気恥ずかしいと思いながらも、その理由を話した。
 
「実はね、最近授業での失敗が減っているの!」
「失敗が?」
 
ユリウスが聞き返すと、ルルは嬉しそうに頷いた。
 
「そうなの。ちょっと前まで、失敗続きで少し落ち込んでいたんだけど、ここ2、3日失敗が少なくて。ヴァニア先生も『あなたが日々頑張って努力している結果ですのよ』って褒めてくださったの」
「すごいじゃないか、ルル!」
「ありがとう、ノエル!」
「そういえばルル、最近自習室や図書館でも一生懸命に勉強してたよね。俺、それ見てもっと自分も頑張ろうって思ってたんだ」
「ユリウス……、うん、ありがとう!」
 
二人の言葉でさらに笑みを深くするルルに、ユリウスもノエルも嬉しそうな笑みを浮かべている。
 
「でね、そのことをアミィにも話したら、今度のお休みの時にカップケーキを作ってくれるって言うの!」
「カップケーキ?」
「えぇ! それでまた一緒に勉強頑張りましょうって。だから私、すごく楽しみで!」
 
パクリとシチューを口に運ぶとその美味しさにまたルルの顔がにんまりとしてくる。
ご飯も美味しくて先の楽しみもあって魔法の勉強も上手くいっていて。
 
ルルの幸せそうな顔に、目の前に座るノエルはポッと頬を赤く染めていた。
その時────。
 
「ぐへっ!」
 
ノエルの肩が思いきり押さえられ、吃驚したノエルはおかしな声を出してしまった。
三人がノエルの頭上を見ると、そこにはルルとはまた違った笑顔を浮かべている男が立っていた。
 
「アルバロ!」
 
ルルが名前を呼ぶと、アルバロはニコニコとした笑顔のままで口を開く。
 
「やぁ、ルルちゃん。それにユリウスくんも。何だか楽しそうにしてるみたいだけど、何話してたのかな? 俺も入れてよ」
「あぁ、アルバロ。実はルルが────」
「ええい、アルバロ! いい加減に僕から退いてくれ! そして僕の名前も呼んでくれ! それからユリウス! 貴様は僕のこの状態をスルーして話を進めようとするな!」
「さすが、ノエルくん。相変わらずツッコミが早いね」
「そ、そうか? それほどでも────」
「いや、何で嬉しそうな顔してるかな、ノエルくん。俺は別に褒めてないよ?」
 
アルバロはようやくノエルから退くと、その隣へと腰掛ける。
 
「ねぇ、何だか楽しそうな声が聞こえてきたけど何か面白いことでもあったの?」
「そうなのアルバロ。実はね────…」
 
ルルは先程二人に話した内容を、アルバロにも聞かせた。
 
失敗が減ってきていること。
それをヴァニア先生にも褒められたこと。
そしてアミィが次の休みにカップケーキを焼いてくれること。
 
それらを先程同様にニコニコしながら説明すると、アルバロは頬杖をつきながらぐいっと前のめりになった。
 
「ふ〜ん? それはそれは。ルルちゃんの日頃の頑張りが結果になってきてるって訳だね」
「そうだと嬉しい!」
「謙遜することはないぞ、ルル。君も僕のように常日頃────」
 
ノエルの言葉を遮るように、背後から可愛らしい声が降ってきた。
 
「あ、ルル。ここにいたのね」
「あ、アミィ! どうかしたの?」
「あのね、エルバート先生がルルを探していたみたいなの。急ぎではないようだったけれど、一応言っておいた方がいいと思って」
「エルバート先生が? 一体何の用かしら」
「内容は分からないけれど、何だかニコニコされていたからいいことだと思うわ」
「分かったわ、善は急げって言うし、今から行ってみる! わざわざありがとう、アミィ!」
 
アミィが部屋に戻っていくのを見届けると、ルルは残っていたシチューを大急ぎで食べきった。
パチンとごちそうさまをすると、勢いよくスックと立ち上がる。
 
「ごめんなさい、私エルバート先生のところに行ってくるわ!」
 
ルルがそう言って三人の元から遠ざかっていく。
ルルの姿が見えなくなってから、ようやくアルバロが口を開いた。
 
「────ねぇ、俺たちもルルちゃんを祝ってあげようか」
「え? 俺たちも?」
「僕たちも?」
 
ユリウスとノエルの二人の視線がアルバロに集まる。
アルバロはいつものにやにやした笑みを貼り付け、大きく頷いた。
 
「そう、さっき言ってたでしょ。休みにカップケーキ作ってもらうんだ〜って。俺たちも話を聞いちゃったことだし、ルルちゃんを祝ってあげない?」
「うん、それきっと、ルル喜ぶと思う。俺は賛成」
「でしょでしょ? ユリウスくんならそう言ってくれると思ったよ。────ノエルくんは?」
 
アルバロがノエルに賛同を求める。
するとノエルは隣に座るアルバロをジトリといぶかしむような視線で見つめる。
 
「ルルを祝いたいっていうのは賛成だが……その……アルバロ? 君は何か企んでやいないだろうな?」
「やだなぁ、ノエルくん。俺が何を企むって言うのさ」
「あ〜…ほら、例えば祝いだと称して何か得体の知れない魔法薬をルルにやったりとか────」
 
自分で言っておいて、そうなったら困るとばかりにノエルが首をぶんぶんと左右に振る。
 
「得体の知れない魔法薬だなんてノエルくんは失礼だなぁ。俺はいつもちゃんとしたものを作ってるよ」
「ちゃんとしたものだと!? この前僕に渡そうとしたものは、銀色だか泥色だか訳の分からない色をしていたが!?」
「良薬口に苦しって言うでしょ。ああいうものほど効果は期待できるって相場が決まってるんだよ」
「風邪薬ならそれもありだが、貴様の場合は何か違う! 根本的に違う!」
「ノエル、落ち着かないとシチューが零れるよ」
「ん? うぉぉ! あと少しでひっくり返すところだったじゃないか、アルバロ!」
「やだなぁ、ノエルくん。それは俺のせいじゃないと思うけど」
 
テーブルの縁にまで移動していた皿を元に戻すノエルを眺めていたユリウスは、素朴な疑問をぶつけた。
 
「ねぇ、アルバロ。アルバロはルルを喜ばせてあげたいんだよね?」
「? そうだけど?」
「それってどうするの? 具体的に何かするの?」
「俺はルルちゃんが本当に欲しがっているものをあげるつもりだよ」
「ルルが本当に欲しがっているもの……?」
 
それをアルバロは知っているんだろうか?とユリウスは首を傾げる。
 
「ルルが欲しがってるものって何? アルバロ」
「それを教えたらダメじゃない?」
「え? 何で? 意味が分からない。祝うなら俺も知っておくべきだと思うんだけど」
 
ますます首を傾げるユリウスにアルバロはこう言った。
 
「だって、女の子が一人でカップケーキを作るのに、俺たちは複数で〜ってのはフェアじゃないと思わない?」
「フェア? それってどういうこと?」
「そ、そもそも祝うことにフェアだとかそういうことは必要なのだろうか」
 
ノエルがボソリと呟くとアルバロはにんまりとしてそれを肯定した。
 
「必要だよ。祝うって言ってもそれぞれ何をしたいかは違うだろうし、それならばそれぞれで考えたお祝いをしてあげるのがいいと思うんだけど。プレゼント然り、気持ち然り」
「う、ううむ……そう言われるとそんな気がしてきたぞ……」
「ノエルくんは素直だからね」
「それは褒めているのか?」
 
疑問を浮かべるノエルにアルバロはニコニコと笑うだけ。
それがノエルの疑問に答えをくれているように感じる。
 
「どうせ祝うなら、人数は多いほうがいいよね? ってことで、俺から殿下やラギくん、あぁ後はエストくんとかにも声を掛けてみるよ」
「この面子で果たしてエストが来るかが疑問なんだが……」
「大丈夫だよ、ノエルくん。きっと嫌な顔はするだろうけど、なんだかんだでエストくんはルルちゃんに弱いからね。ルルちゃんを祝う為って言えば、絶対参加するよ」
「……アルバロに先の行動を見抜かれているというのは心穏やかではないな」
 
他人事とは思えないのか、ノエルは苦笑いを浮かべる。
その隣でアルバロは目の前に座っているユリウスの様子を眺めていた。
 
「ユリウスくん、さっきから黙ってるけどどうかした?」
「え? あぁ、うん。アルバロは既にルルをどうやって祝うか決めてるみたいだし、俺はどうしようかなって」
「何だ、ユリウス。まだ決まってなかったのか」
「え? ってことはノエルはもう決まってるの?」
「もちろんだとも!」
「俺、何となくっていうかほぼ100%でノエルくんがルルちゃんに何をする気か予想出来たよ」
「なんだとぉ!?」
 
ガタッと椅子が動くほどにノエルのオーバーアクションが炸裂する。
アルバロは動揺するでもなく、淡々と笑顔のままで大きく頷いた。
 
「もちろん。ノエルくんは素直だからね」
「おい、ユリウス。まさか貴様もじゃ────」
「え? 何のこと? ごめん、全く聞いてなかった」
「全くとか言うな、全くとか!」
 
考え込むユリウスに楽しそうなアルバロ。
そしてそんなアルバロに既に祝う内容を見抜かれているであろうノエル。
がやがやと煩い食事時間は、あっという間に過ぎていった。
 
 
 
◇◇◇
 
 
 
────そして、数日後。
 
食堂でお昼を食べていたルルの元に、アルバロを始めとするいつものメンバー六人が集まってきた。
 
「やぁ、ルルちゃん」
「アルバロ……に、みんなも! お休みの日に勢ぞろいでご飯?」
 
ぞろぞろと集まってきた面々を見て驚くルルをよそに、アルバロはいつもの彼らしい笑みを貼り付けていた。
 
「ね、俺の言った通りでしょ? パピヨンメサージュなんて飛ばさなくてもルルちゃんのいる場所分かるって」
「ホントにアルバロの言った通りだすごいよねぇアルバロどうやってルルがここにいるって分かったの?お昼の時間だから?でもお昼だからって必ずここにいるとは限らないよね」
「おい、ユリウス! 興奮してるのは分かったから少しは句読点つけてしゃべろ!」
「ノエル、ノエル。コレがいわゆる『マシンガントーク』というやつデス。ねぇ、ラギ?」
「うるせー、ビラール! オレの耳元で囁くよーに言うな! くすぐってぇんだよ!」
「……はぁ、相変わらずあなた方は騒がしいですね」
 
ニコニコしているアルバロとビラール。
目をキラキラさせているユリウスにツッコミを入れるノエル。
耳元を押さえているラギと、そんな面々に溜め息を漏らすエスト。
 
いつもの面々がそれぞれに喋り出す。
ルルはそんな様子を一人眺めながら、ようやく落ち着いたところで口を開いた。
 
「ねぇ、もしかしてみんな私のことを探していたの?」
 
そんなルルの質問にアルバロが「そうだよ」と是を示した。
 
「そうなの?」
「うん。ルルちゃん、こないだのこと覚えてる?」
「こないだのこと……?」
 
唐突なアルバロの質問に首を傾げるルル。
思い当たる節がないのか、きょとんとしているルルにアルバロは数日前のことを口にした。
 
「ほら、こないだルルちゃん言ってたでしょ。授業での失敗が減ってきて先生にも褒められたって」
「あ、うん。言ったわ」
「それを聞いて、俺たちもルルちゃんを祝いたいねって話になってさ」
「え? 私を?」
「えぇ。ワタシとラギとエストは、後でアルバロから聞きまシタ。ルルが日頃頑張っている成果をワタシたちも祝いタイと思ったのデス。そうですヨネ? ラギ、エスト?」
「オレは半ば無理矢理頷かせられたようなもんで────って、そんな目でこっち見んな、ビラール! あぁ、はいはいそーですよ! それでいーよ!」
「……僕はどちらでもよかったのですが、あなたの失敗が減っていくことで少しでも日々を穏やかに過ごせるのなら……と思ったまでです」
「うんうん、エストくんもぜひルルちゃんの頑張りを傍で応援したいって言ってるね」
「……今のどこをどう聞いたらそうなるんですか」
「まぁまぁ。ま、そんな訳で、各々ルルちゃんを祝おうって色々準備したんだよ」
 
皆の話にポカンとしていたルルだったが、六人の笑顔を見て、ようやく今の状況を理解したらしい。
顔中を笑顔いっぱいにすると、元気よくお礼を言った。
 
「ありがとう、みんな! その気持ちがすごく嬉しい! でも私、失敗が少なくなっただけで、失敗がなくなった訳じゃないから……。なのにみんなに祝ってもらうだなんて」
「ルル、大丈夫大丈夫」
「ビラール」
「アナタはいつも頑張っていマス。そんなルルはミンナにやる気を与えてくれマス」
「……ビラール」
「ですから、ルルはいつものように笑顔で、祝われて欲しいデス。これはワタシだけではなく、全員からのお願いデス」
「ビラール……ありがとう。それにみんなも。私、今すごく幸せかも!」
 
丁寧にお辞儀をするルルに、ノエルがゴホンと咳払いをする。
 
「いやなに、頑張っている君を応援したいという気持ちは当然だからな。────というわけで、良ければ僕からのほんのささやかなプレゼントだ。受け取ってくれ!」
「え? ノエルから? いいの?」
「いいに決まっているとも! 僕が君の為に、と思って探しに探し抜いた逸品だ!」
「そうなの? 物をもらうなんてもったいないかも」
「何を言っているんだ、ルル! 君にもらってもらうことが僕の喜びなのだからな!」
「ノエルがそう言うなら……。ホントにありがとう、ノエル。開けてもいい?」
「いいともいいとも! ぜひその目で堪能してみてくれ!」
 
ノエルの言葉にウキウキしながらルルは包みを開けていく。
中には金色に輝く綺麗なランタンが入っていた。
 
「わぁ……! すごく綺麗!」
 
箱の中を覗いたルルから歓声が湧きあがる。
取り出したランタンを手に取り、まじまじと眺めていた。
 
「でも、何だか装飾もすごくて高そうなんだけど……」
 
心配そうにノエルを見つめるルル。
ノエルは彼らしい立ち振る舞いで「ノープロブレム!」と言い切った。
 
「確かにこれはおいそれと手に入るものではないかもしれないが、そこは気にしなくてもいい! この僕も魔法具店で見つけた際には驚いたものだが、安く提供してくれたんだ!」
「それならいいんだけど……。で、ノエル、これってランタンだよね? どんな使い方をすればいいの?」
「よくぞ聞いてくれたルル! これは『アラジソの魔法のランタン』と言って、どんな願いでも叶えてくれる素晴らしい、魔法具なんだ!」
「そうなの! すごい!」
 
手に持っているランタンをキラキラとした目で見つめるルルに、ノエルも満足そうに頷いている。
 
「このランタンのサイドを2、3回擦ると、ランタンの精が現れて願いを叶えてくれるらしい。まだ僕も使ってみたことはないのだが、これは以前書物で見たランタンそのもの────」
「ねぇ、ノエルくん」
 
ノエルが話している途中でちょんちょんとアルバロが肩をつついてくる。
ノエルがアルバロに視線を向けると、何故かアルバロはルルからランタンを受け取って擦っているところだった。
 
「なっ!? あ、アルバロ! 君は一体何を────! それは僕がルルに────」
「ねぇ、ノエルくん。擦っても何も出てこないけど?」
「………………え?」
 
ノエルは慌ててアルバロの手からランタンをもぎ取ると、自分の手でそれを擦ってみる。
 
「………………」
「えぇ、なにも起こらないデス」
「……つーか、あれはどう見てもアレ、だろ」
「僕は敢えて何も言うつもりはありません」
 
後ろで三人がこそこそと話している横で、アルバロは非常に楽しそうに微笑んでいる。
そしてその隣ではユリウスが気難しそうにノエルのランタンを見つめていた。
 
「ねぇ、ノエル。もしかしてそれって────」
 
ユリウスが何を言おうとしたのか分かったのか、ラギが慌ててユリウスの口を塞ぐ。
 
「おい、ユリウス! オレが言うことじゃねーかもしれねぇが、ここはお前も空気読んどけ!」
「何言ってるの、ラギ? 意味が分からない」
「意味は分からなくてもいーから、とにかくアレがニセモノだってことは言うなよ」
 
そう言ったラギだったが、ユリウスは首を横に振ると自分の意見を述べた。
 
「ニセモノ? 違うよ、俺が言いたかったのは、もしかしてあれはランタンに火をつけないとダメなんじゃないかってことなだけど」
「はぁ? 火?」
「うん。だってランタンなのに、火をつけないっておかしいと思わない? もしかしてランタンの精じゃなくてランタンに宿る火の精かもしれないよ。うわ、それってすごく魅力的かも!」
 
段々と勝手に目をキラキラさせるユリウスに、ノエルは最初から知っていたかのように同意した。
 
「そ、そうだった気がする! ルル、もしかしたら魔法で火をつけてみないといけないのかもしれない」
「そうよね、何てったって魔法具だもの」
「そうとも! あー…だから良ければぜひ、時間のある時にでもこっそりと試してみてほしい。このような人のいる場所ではその、他の者たちが驚くかもしれないからな」
「そうね、分かったわ! ノエル、こんな素敵なもの、ホントにありがとう!」
 
互いに笑い合う二人の後ろで、ユリウスを除いた四人はまたこそこそと顔を突き合わせている。
 
「ねぇ、あれってホントのところどう思う?」
「どうって……大体ノエルが買うもので本物だったことってほとんどねーだろ」
「えぇ、僕もラギに同意します」
「しかし、ルルが喜んでいるのデスから、ワタシは今回こそはホンモノだと信じたいデス」
「……おい。今回こそはって、何気にぐさっと来る一言だな」
 
とりあえず、ルルの笑顔を優先するということで、本物か否かについては何も言わないことにしたらしい。
落ち着いたところで、今度はユリウスが一歩前に出た。
 
「ノエルの次は俺がいいかな。ねぇ、ルル。俺、ルルの面白い魔法ってすごく好きなんだ。何が起こるか分からなくていつもドキドキさせられる」
「それって褒めてくれているのよね? ユリウス」
「もちろん! そんな君がいつも頑張る姿を見て、俺ももっと頑張ろうって思うんだ」
「……あれ以上、ユリウスが魔法にのめり込んだら同室のマシューは大変だろ」
「……ラギ。ユリウスの探究心を止めることはできませんから、気にしたら負けだと思いますよ」
「アハハ、エストくんは何気に言うなぁ」
「確かにあのユリウスの好奇心を止めることはこの僕でも非常に難しいが……」
「僕は思ったことを言ったまでです」
「そうデス。エストは正直者。とても、イイ子デス」
「……イイ子と言われるのには非常に抵抗感がありますが……」
 
後ろで囁かれていることなど微塵も気にせず、ユリウスはルルへ後ろ手に隠していた花を差し出した。
 
「これ、この辺じゃあんまり咲いてない花なんだけど、偶然湖の近くで咲いているのを見つけたんだ」
「えっ? そんな珍しいお花、持ってきちゃって大丈夫なの?」
「あ、それは大丈夫。ここら辺では見掛けないってだけですぐに成長する種類らしくて、花を抜いてもすぐに次の芽が出てくるんだって。実際俺がこの花を見つけた時もそうだったんだ」
「へぇー、すごいのねこのお花! それにすごく可愛くていい香りがするわ!」
「うん、俺もそう思う。この花の香りはすごくリラックス効果があって、気持ちが落ち着くんだって書物に書いてあったんだ」
「うんうんっ! 何だかこの匂いを嗅いでいるとすごくゆったりとした気持ちになるの」
「よかった。あ、でね。もっと香りが嗅げるようにと思って、実はその花に魔法を掛けようと思ってるんだ」
「魔法を?」
「うん、ちょっと見てて。……レーナ・ベントゥス。清き風よ。香りを紡ぎだし、己が中に閉じ込めよ」
 
ユリウスが杖を構え、呪文を唱えると、紡ぎだされた【風】がルルの持っている花に纏わりついた。
ごくごく小さな風は花弁を散らすことなく、花の周りで吹いており、その度にいい匂いを漂わせている。
 
「わぁっ……! ユリウス、すごいわ! さっきよりも香りがたくさんこっちに向かってくるの!」
「ホント? よかった!」
 
嬉しそうに笑うルルに、ユリウスも同じように微笑んでいる。
 
「ナルホド、ユリウスは考えましたネ。ルルがとても喜んでいマス」
「さすが、魔法オタクのユリウスくんらしいお祝いって感じだよね」
「くぅ〜〜! 僕もあれくらい容易く────」
「ノエルくん、君のお祝いも素晴らしいものだと俺は思うよ」
「……そういえばアルバロ。前に僕が用意するものは予想出来ると言っていたが……」
「あぁ、あれ? うん、俺が予想していたのとほぼ間違いなく同じものをノエルくんは用意してたね」
「何だと!? つ、つまり貴様はこの僕があのランタンを用意すると分かっていたと言うのか!?」
 
驚くノエルにアルバロは笑顔を崩さない。
 
「まぁ、ランタンかどうかはともかく、用意したものがああいう結果になるってことだけは分かってたかな。ねぇ、エストくん?」
「……何故僕に振るんですか」
「君もきっと同じことを思ったから」
「勝手に決めつけないでください。僕はあなたとは違います」
「エストくんは言葉を飾らないなぁ」
「アルバロ、エストは正直者。とても、イイ子デス」
「……ビラール。この発言には非常にデジャブを感じるのですが……もういいです」
 
はぁ、と溜め息をつくエストは、これ以上は言うまいと口を閉じた。
 
「ねぇ、ルル。この花には花言葉ってのがあるんだって」
「花言葉?」
「うん、その花の持つ意味みたいなものらしいんだけど、この花には『真実の心』『高まる意欲』って意味があるらしいんだ」
「そうだったんだ! すごい! 何だか前向きになれるお花なのね! ホントにありがとう、ユリウス!」
「そうなんだ。だからさ、ルル。よかったら今度俺と一緒に図書館で勉強しない? ぜひ、今俺が勉強してることで君の意見も聞いてみたいんだ。ねぇ、どうかな」
「私と? えっと、ユリウスが良ければ私は────」
「いいに決まってるよ。だって俺が誘ってるんだもん! よかった、約束!」
 
勝手に指切りをし始めるユリウスにノエルが「あぁああああ!」と大きな声を出した。
 
「ゆ、ユリウス貴様……! 勝手にルルの手に────」
「ノエル、落ち着いてくだサイ。大丈夫大丈夫。後でノエルも握ってもらえばイイのデス」
「そ、そうか! なるほど!」
「……何でそういう結論になるのか、オレにはさっぱりだ」
 
ラギは疲れた様子でどさっと椅子に座りこんだ。
それを合図に、今度は静かにエストがルルに近付く。
 
「エスト! もしかしてエストも私に────?」
「えぇ、そういう風に話を聞きましたから。あなたの失敗が少なくなることは僕としても非常に有り難い話ですので。失敗が減れば僕も穏やかに過ごせるというものです」
「うんうん、私も失敗が減ってすごく嬉しいの!」
「……あなたは僕の話を聞いていましたか?」
「もちろんよ。エストが私のことを応援してくれてるって分かって────」
「はぁ……そう捉えましたか。実にあなたらしいですね」
「……?」
「いえ、こちらの話です。────ルル、最近あなたは頑張っていると聞きました。そんなあなたに少しでも後押しが出来ればと思い、これを差し上げます」
 
エストはルルにある一冊の魔導書を渡した。
分厚いそれを受け取ると、ルルは早速開いてみる。
 
「魔法の属性について、という基本的なことが書いてあるものですが、内容についてはとても深いところまで掘り下げて書いてあります。読んでみる価値はあるかと」
「わぁ……! これ、いいの? エスト!」
「えぇ、元々僕が持っていたものですが、僕は既に読み終わっているものですから」
「嬉しい! ありがとう、エスト!」
「ちなみに、その魔導書にはユリウスのように魔法が掛けてあります。集中力を高める魔法ですが、それを読んでいる間は少しでも頭に入りやすいようになっているのであなたのようなタイプにはいいかと思います」
「至れり尽くせりって感じね! エストはホントに優しいのね!」
「……今の言葉のどこに優しさを感じてくれたのでしょう」
 
遠まわしな嫌味は通じないと理解したエストは、渡したことで終わったと思ったのかクルリと後ろを向いた。
だが、ルルの言葉によってその場に足を止めさせられる。
 
「ホントにありがとう、エスト! 今度、この本で一緒に勉強しましょ!」
「……あなたは僕の話を聞いていたんですか?」
「えぇ、もちろん聞いていたわ! エストは教えるのが上手だし、この本で一緒に勉強したらきっともっと頭に入ると思うの!」
「……僕はあなたが一人でたくさんのことを勉強出来るように、とそれを渡したのですが」
「でも、私、エストに教えてもらうとすごくすんなり頭に入ってくるの。ねぇ、ダメ?」
「……っ! そ、そういう捨てられた子犬のような目をしないでください。僕が断りにくいじゃないですか」
 
だが、そうは言いつつもエストは既に観念しているのか、溜め息をわざとらしくついた後「分かりました」と言葉を紡いだ。
 
「ホント? 約束よ!」
「えぇ、これであなたの失敗が少しでも少なくなるのなら……と思うことにしました」
 
そう言いつつも悪い気はしないのか、エストの顔には少しばかりの笑みが浮かんでいた。
 
「ねぇ、殿下。エストくんって自分では気付いてないだろうけど、ルルちゃんにホント甘いよね」
「ホントにエストは正直者。とても、イイ子デス。ルルにとても優しイ」
「おい、ビラール。その台詞、既に三回目だぞ」
「ラギ、ワタシの言葉をそんなにも気にしてくれているのデスか? 嬉しいデス」
「ちげーよ! 何でそうなるんだ! 燃やすぞてめー!」
「ねぇ、ノエル。俺、思うんだけど、あの魔導書以外にもああやって魔法を掛けてみるってどうかな」
「何を言っているんだ、貴様は! 貴様の言う本はどうせ図書館のものだろうが!」
「そうだけど?」
「借りている本に勝手に魔法を掛けるやつがあるかあぁああ! しかも貴様が読むということは少なからず僕も読むということだろう!」
「でも集中力が高まるんだからいいんじゃないの? 違うの?」
「うっ……そ、そう言われると返答に困るが……って、もし違う魔法が掛かったらどうする! ええい! 僕に近寄るな! いいか、ユリウス。皆が使うものに勝手に魔法を掛けてはいけない。もし掛けたいのならイヴァン先生かヴァニア先生辺りにでも相談してみることだな」
「そっか……。じゃあ、今度聞いてみることにするよ」
「聞くのか!?」
 
後ろでごちゃごちゃと外野が煩くしている様子にエストが大きな咳払いをする。
皆の視線が自分に向くと、エストはビラールへ言った。
 
「僕は終わりましたから、どうぞ」
 
その言葉にビラールはニコリと笑い、隣にいたラギを促した。
 
「ラギ、次はワタシたちの番デス」
「わかってるっつーの! いちいち袖を引っ張んな!」
 
笑顔のビラールと不機嫌そうなラギがルルの前に来る。
ルルは二人の顔を交互に見ると、少し姿勢を良くした。
 
「ルル、そんなにかしこまらないでくだサイ。リラックスリラックス」
「そ、そう?」
「えぇ、それで大丈夫デス。実はワタシたちは二人でルルをお祝いするコトにしまシタ」
「……ビラールがそうしようって言ってきたからな」
「そうデス。私がラギを誘ってお願いしまシタ。食べモノについてはラギは得意デスから」
 
そう言うと、ビラールとラギの二人はルルへ可愛らしいリボンのついた箱を手渡した。
 
「何かしら、開けてみてもいい?」
「もちろんデス。早くルルの喜ぶ顔が見たいデスから」
 
その言葉を合図に、ルルが丁寧に箱を開ける。
すると中から何とも美味しそうなマカロンが飛び出してきた。
 
「マカロンがいっぱいだわ!」
「どうデス? ルル。喜んで頂けましたカ?」
「えぇ、とっても! ホントにもらってもいいの?」
「いいに決まってんだろ。おまえの為に用意したんだからな」
「うんうんっ! ホントにありがとう、ビラール、ラギ!」
 
甘い香りを漂わせて、ルルは満面の笑みで二人にお礼を告げた。
それを見て、ビラールはさらにニコニコと、そしてラギは少し照れくさそうにそっぽを向いた。
 
「甘い食べモノは頭を休める効果がありマス。これでまたお勉強を頑張ってくだサイね」
「これがあったらすごく頑張れそうよ!」
「ルルはエストと同じでとてもイイ子イイ子。頭を撫でてあげたくなりマス」
 
ビラールはそう言うと、ルルの頭を優しく撫でた。
少しくすぐったそうにするルルを見て、ラギが少し早口で告げてきた。
 
「ま、まぁ、お前最近頑張ってるみてーだし、その調子でいけばいいんじゃねーの?」
「ラギ……! 私、ラギの目から見て少しは成長したって思う?」
「はぁ? 何でんなことオレに聞くんだよ」
「だって、ラギに聞いてみたいと思ったから」
「答えになってねーんだよ!」
「ラギ? 女性の質問には正直に答えナイと。それが紳士のあるべき姿デス」
「何で紳士の話になってんだこら! 燃やすぞてめー!」
「ラギ、怒らナイ怒らナイ。一休み一休み」
「ビラールてめー! オレの頭まで撫でんなちくしょー!」
 
今にも掴みかかりそうなラギに、ビラールは至極楽しそうな笑みを向ける。
それに毒気を抜かれたのか、ラギはビラールのマントから手を離すと、顔を赤くしながらルルへ答えた。
 
「……ち、ちったぁ成長したんじゃねーの?」
 
小さくて、食堂という喧騒の中ではかき消されてしまいそうな声だったが、近くにいたルルにはしっかり届いたらしく、非常に嬉しそうな顔をしていた。
 
「ありがとう、ラギ! ラギにそう言ってもらえるとこれからも頑張ろうって思うの!」
「わぁああ! おいルル! その勢いでオレに抱きついたりするんじゃねーぞ!」
「ルル、これは裏を返せば『オレに抱きつくんだぞ』ということなのデス」
「おいこらビラール! 何で今の言葉を裏返す必要があんだよ! 燃やすぞてめー!」
「ラギ、今の言葉、既に三回目デスよ?」
「うるせー! いちいち数えんな!」
 
顔を真っ赤にしながら、ラギがビラールに文句を言い放っている。
その後ろでは、うんうんと頷くアルバロの姿があった。
 
「さすが殿下。ラギくんを自由自在に扱ってるよね」
「僕は……さすがにラギが可哀相に思えてきました」
「そう? 出来たら俺も混ざりに行こうかと思っていたんだけど」
「アルバロ、そう言いつつもこの僕の肩に体重を掛けている理由を20字以内で述べてみろ!」
「ちょうどいいところにノエルくんがいたから?」
「僕は肘置きじゃないぞーーーーー!」
「……ノエルも不憫に思えてきました。────ユリウス、あなたは先程から何をしているのですか」
「ん? さっきルルにしてあげた魔法、もっと効率のいいものがあるんじゃないかって思って」
「……その心意気はさすがですが、出来たら僕から離れてくれませんか。非常に身の危険を感じます」
 
ランタンに花に魔導書にマカロン。
皆からお祝いの言葉と共に、色んなものをもらったルルは申し訳ないやら嬉しいやらで、すごく照れ臭そうに笑っている。
他の者たちも、そんなルルを見て同様に笑顔を浮かべている。
 
そんな中、ふとビラールがあることに気がついた。
 
「そういえばアルバロ。アナタはルルに何かお祝いをしてあげないのですカ?」
 
その言葉に、ノエルが口火を切って話し出す。
 
「そ、そうだぞアルバロ! 元はと言えば貴様がルルを祝おうと言い出したんじゃないか!」
「うん、それは俺も聞いた。アルバロはルルが本当に欲しがっているものをあげるつもりだって」
「え? そ、そうなの? アルバロ」
 
当のルルは不思議そうに首を傾げている。
ルルが本当に欲しがっている物をアルバロが分かっているのか?という疑問が浮かんでいるらしい。
アルバロはいつもの笑みのままで、楽しそうに口を開く。
 
「そうだよ、俺はルルちゃんが一番欲しがっているものをあげるつもりだよ」
「……? でもそれにしては別に何か用意しているような感じじゃないけど……」
「ユリウスの言う通りだ、アルバロ! 僕たちに話を振るだけ振っておいて用意出来なかったとかじゃないだろうな!」
 
ノエルの問いに、アルバロは静かに首を横に振った。
 
「まさか。こんな楽しい時間を俺が何も用意しないだなんてある訳ないじゃない。────ま、用意するってのはちょっと違うかもしれないけどね」
 
意味深な発言をするアルバロに、他のルルを含めた六人はさらにきょとんとしている。
いつもは煙たそうにするエストでさえ、アルバロが何を用意したのか気になるらしく、珍しく自分から耳を傾けていた。
 
「ねぇ、ルルちゃん。俺は君が魔法で面白い事件を作ってくれるのが楽しみで仕方ないんだ」
「……じ、事件」
「事件じゃなくても君が魔法で何か仕出かす度に俺はウキウキしてしまう」
「それは何だか、ふ、複雑な気持ちだわ」
「でも君が最近頑張ってるって聞いて、それを素直に喜ばない訳じゃない。特にルルちゃん、君が頑張ってる姿はね」
「そう、なの?」
「あぁ、そうだよ。ルルちゃんが頑張れば頑張るほど、何か起こる可能性もまた増えるってものだからね」
「うっ……やっぱり何だか複雑だわ」
 
ユリウスのそれとは違って、素直に「ありがとう」と言っていいのか分からず、ルルは困ったような笑顔を見せる。
アルバロは意に介さず、ルルの顔をじっと楽しそうに見つめていた。
 
「そんなルルちゃんにこれからも頑張ってもらってほしいという気持ちは本当にあるんだよ? だから、俺からルルちゃんを祝おうって言い出したんだし」
「そ、そういえばアルバロが言ってくれたのよね。ホントにありがとう!」
「いえいえ、どういたしまして。君が頑張る姿は見ていてホントに楽しいからね。何が起こるか分からなくて、俺の予想をいつも上回る」
「楽しくないって言われるよりはマシだと思うけど、喜んでいいのかしら……」
 
ルルがチラリとビラールの方を見る。
するとビラールは笑顔で「ルルは可愛くて頑張り屋で、そして面白いデス。アルバロもそう言っていマス」と言ってくれた。
 
「殿下、解釈どうも。────でね、ルルちゃん。本題に戻ろうと思うんだけど、ご褒美の定番って何だと思う?」
「え? ご褒美の定番?」
 
そう問われて、改めてルルはみんなから受け取ったものを見直した。
ランタンに花に魔導書にマカロン。
どれももらってすごく嬉しかったものだし、どれが一番かも分からない。
強いて言えばどれも一番だし、定番なのかと言われるとそれもよく分からなかった。
 
「えっと……みんなからもらったものは定番とは違うの?」
 
そう聞いてみると、アルバロは何も言わずにニコリと笑った。
その笑顔にルルは余計に頭をこんがらせる。
 
「まぁ、定番なようで定番じゃないって感じかな」
「……?」
「物を送る中では定番かもしれないけどね。ただ、お祝いって物をあげるだけじゃないと思わない?」
「それはそうだと思うけど……」
 
確かに「これからも頑張ってね」なんて言葉を貰えただけでもすごく嬉しい。
実際、もっと頑張ろうって思ったのは、ヴァニア先生に褒められたからでもあったのだから。
すると、後ろでノエルが口を挟んできた。
 
「アルバロ、君はルルが本当に欲しがっているものをあげるつもりだと言っていたが、つまりそれは物ではない、ということか?」
「その通りだよ、ノエルくん。別に俺は形ある物をあげるなんて言ってないからね。俺はご褒美の定番をルルちゃんにあげるつもりだよ。きっとルルちゃんもそれをほしいと思ってるだろうしね」
「よく分からないんだけど、アルバロはルルに言葉をあげるってこと? 頑張れって」
「ユリウスくんの言う通りならもう俺は終わってるよね。だってさっきから俺はルルちゃんに『頑張ってほしい』って言ってるし」
「……全然素直な言い方じゃねーけどな」
「それはラギも同じだとワタシは思いマス」
「うるせービラール!」
「……何でもいいですが、何をするつもりなのか早く明かしてくれませんか」
 
エストの溜め息に、アルバロも「そうだね」と同意する。
同意したと同時に、ぐいっとルルへと近づいた。
 
「……っ!? あ、アルバロ!?」
 
急に距離のなくなったことで、ルルがぎゅっと身体を硬直させる。
アルバロはそんなルルを楽しそうに眺めながら、先程と同じ質問を繰り返した。
 
「さてルルちゃん、ここでもう一度聞くよ。ルルちゃんがほしいと思うご褒美の定番って一体何でしょうか」
「え……? え?」
 
あと10センチも近づけば、アルバロとぶつかりそうな距離でそう問われ、ルルは困ったように視線を泳がせる。
周りでノエルたちが煩く「離れろ!」と言っている声すらよく聞こえず、何かを答えなければという思いに駆られていた。
 
「さてルルちゃん。ここでもし正解したら、俺はルルちゃんに二重の意味でご褒美をあげるよ」
「……ま、間違ったら?」
「間違っても、ルルちゃんが最近頑張ってるってことに関してはちゃんとご褒美をあげるよ?」
「それって、結局ご褒美をくれるってこと?」
「うん、そうなるのかな。で? ルルちゃんは何だと思ってるの?」
 
そう問われても定番が何かなど分かるはずもなく。
ルルは考えて考えて、ポツリと自分の中でのご褒美にあたるものを一つだけ口にした。
 
「…………頭を撫でてあげる、とか?」
 
先程ビラールにしてもらったことなのだが、ああいうのはご褒美みたいなものかもしれない。
頭を撫でてもらうってことは決して嫌じゃないし、してもらうと嬉しいって思う。
してほしいかと聞かれたら、してほしいと思う。
そう思ったからこそ、言ってみたのだが────…。
 
「うーん、残念。不正解だね」
「えっ、違うの?」
「まぁ、あながち間違いではないけど、もっとこれっていう定番があるじゃない」
「もっと……これっていう……定番? ねぇ、アルバロ。ホントに思い付かないの。正解を教えてくれる?」
 
根負けしたルルがそう言うと、アルバロはにっこりとしてそっとルルに顔を近付けた。
あと10センチ近づけばぶつかる距離にいた二人の距離は一気になくなり、気付けばルルの頬に、アルバロの口唇が押し付けられていた。
 
「────っ!」
 
驚いたルルは一歩後ろに下がろうとしたのだが、いつの間にか後頭部にアルバロが手を回しており、自分の頭なのに一歩も動こうとしてくれない。
どうしよう、と思っていると、アルバロと目が合い、ルルにしか分からない程度に目をニヤリと細められた。
 
「…………っ」
 
全身がゆでダコになったかのように熱く、なのに身体が動かせない為にどうしていいか分からず。
両手でアルバロの身体を押してはみるものの、上手く力が入っていないのか、ウンともスンとも言わない。
一方のアルバロはそんなルルを見て、至極満足そうな笑みをその顔に乗せていた。
調子に乗って反対側の頬にも同じように口付ける。
そして、その様子をポカーンと眺めていた面々だったのだが、ようやく思考が自身の頭に戻ってきたのか、わなわなと震えたノエルとラギが大きな声でその空気を壊した。
 
「な、何をしているんだ、貴様はああああああああ!」
「おいこらてめー! いきなり何してんだ!」
 
どちらも顔を真っ赤にしながらアルバロとルルと勢いよく引き剥がす。
 
「あっ、ちょっと二人とも。どうして離すのかな」
「どうしてだと!? おいアルバロ! 貴様は今自分が何をしているのか分かって言っているのか!?」
「もちろんだよ、ノエルくん。だって、俺言ったじゃない。ルルちゃんが一番ほしいと思ってるものをあげるって」
「だ、だからと言って何故それが、き、きき、き、キスになるんだぁああぁあ!」
「だって、ご褒美の定番と言えば好きな人からのキスでしょ?」
「な、ななななな、何を言っとるんだ貴様はあぁあぁあああ!」
 
ノエルの叫びをアルバロは一つも気にせず受け流していく。
その横で、ビラールはルルに声を掛けていた。
 
「ルル、大丈夫ですカ? ボーっとしていマス」
「……う、うん」
 
頷いてはみたものの、頭が上手く働かず、ルルはボーっとしていた。
ご褒美の定番って、好きな人からのキスなの?
 
「ルル、大丈夫デス。深呼吸してくだサイ」
「……何を用意しているのかと思えば」
「えぇ、ワタシもとても驚きまシタ。────しかしエストはあまり動揺していまセンね?」
「……動揺は人並みにしていますが、僕もルルと同じく思考が追いついていない状態のようです。僕よりもビラールの方が落ち着いているかのように思いますが」
「ワタシはそういうのを見せないだけデス。今、とても動揺していマス。ワタシもルルの頬にキスすればよかったと……」
「……そちらの意味で、ですか」
 
エストがビラールの言動に今までで一番大きな溜め息を漏らした頃、ユリウスは未だにぼけーっとしていた。
 
「……? おい、ユリウス。生きてるか?」
 
ラギがユリウスの様子に気付き、顔の前で手のひらをブンブンと振ってみる。
 
「……あ、うん。生きてるよ」
「ならいーけどよ、あー…なんつーか、あんま見たくないもん見ちまった感じだから気持ちは分かるっつーか……」
 
なんと声を掛けていいのか分からず、ラギが言葉を濁す。
 
「ねぇ、ラギ。アルバロがルルにキスしたってことは、ルルはアルバロが好きなの?」
「はぁ? 何でだよ」
「だってさっきアルバロ言ってたよ。ご褒美の定番は好きな人からのキスだって。ルルが好きな人からキスをもらうってことは、そういうことだよね?」
「……って、オレに聞かれても困る質問すんな! 本人に聞け、本人に!」
 
そうラギに言われると、ユリウスは素直にルルとアルバロの元へ歩み寄る。
 
「ねぇ、ルル。ルルはアルバロのことが好きなの?」
「へっ? ゆ、ユリウスそれってどういう────」
「だって、さっきのアルバロの言葉通りなら、好きな人ってアルバロってことだよね? 違うの?」
「ちょっと待てユリウス! 貴様はアルバロの言葉を鵜呑みにしてるようだが、まずはその考えを外せ!」
「え? どういうことノエル。ご褒美にキスは違うの?」
「ち……違うかと言われれば違わなくもないが……って、何故僕がおまえの代わりに悩まなくてはならないんだ!」
 
ちょんちょん。
 
「な、なに……アルバロ」
「そんなに警戒心むき出しにされると俺、寂しいなぁ」
「だ、だってアルバロが急にあんなことするから────」
「あんなことって言ってもほっぺにキスしただけだよ? それに俺はご褒美のつもりでしたんだから、そこはルルちゃんも『ありがとう』って言ってくれなきゃ」
「え? そ、そう……なの?」
「うん、そうだよ? それとも、俺のこと、嫌いだったりする? そうだったら俺がキスしたのは間違った行為になっちゃうけど」
「アルバロの……ことは、嫌いじゃないわ」
「じゃあつまり好きってことだよね? だったら俺がルルちゃんにキスしたことは間違いではないってことだから、ルルちゃんが動揺することはないんだよ」
「そ……そうなの?」
 
混乱するルルにうんうんと頷くアルバロ。
何となく言いくるめられているような気がしてならないが、反論する要素をルルは用意出来ていなかった。
 
「……えっと……だったらその……あ、ありがとう?」
「どういたしまして。俺のご褒美はルルちゃんにしかしないから。ルルちゃんがもしまた面白い事件を起こしてくれたら、今の倍はしてあげるよ」
「お、面白い事件なんて起こさないわ……た、多分」
「言い切れないところを見ると今後が楽しそうだよ。────まぁ、今日のこともそれなりに楽しめたしね。ルルちゃんもみんなの反応も面白かったし」
 
一人勝手に満足するアルバロに、何となくというかものすごく面白くない他の者たち。
だが、そんな中、一人だけおかしな……いや、むしろ本人にとっては真面目な行動に出た者がいた。
 
「ねぇ、ルル」
「何? ユリウス」
「君はアルバロのこと嫌いじゃないって言ってたけど、俺のことはどう? 好き? 嫌い?」
「え?」
「どうなの?」
「えっと……どちらかを選べって言われたら、それは『好き』だわ。大事な友達だもの」
「ホント? だったら俺もルルにご褒美のキスしてもいいってことになる?」
「えっ!?」
 
「「「「はぁ!?」」」」」
 
「アハハ、ユリウスくんそうきたか」
 
「ちょっと待てい、ユリウス! 貴様まで何を言い出すか!」
「何で俺を捕まえるの? ノエル。だって今の話からするとそういうことになるんじゃないの? 何で? 意味が分からない」
「意味がわからねーのはおまえだっつーの! だったら、ルルが嫌いじゃねー相手ならだれでもこいつにキス出来るって意味になんだろうが!」
「ということは、ワタシもルルにキスできるということデス」
「ビラール、あなたはそこで乗っからずに止めるほうに回ってください……」
「アハハハハ、そろそろエドガーくんあたりが聞きつけてやってきそうなくらいの騒ぎだね」
 
そんなこんなでドタバタしたルルの成長を祝う時間は過ぎていく。
ルルはもらったものもそうだが、みんなの自分を祝ってくれるその気持ちが何よりも嬉しく、もう一度だけ、心の中でそっとお礼を言うのだった。
 
(ありがとう、みんな。私、これからも頑張るから。────でも、あ、アルバロのお礼はやっぱりど、どうかと思うの! い、今だってこんなに胸がドキドキしてどうしたらいいか分からないんだもの!)
 
 
END








さすがアルバロ(笑)
アルルでも〜とお願いした時はまさかこんな力作が送られてくるとは夢にも思わず…っ!!
もうワンドならではのオールの世界にどっぷりと浸り堪能しました!!



文月様

本当にありがとうございました!
ワンドの楽しさがそのまま伝わって!そしてアルバロの美味しい展開がたまらなくww
その美味しさに便乗するユリウスがたまらなくww
ノエルのツッコミスキルにたまらなくww
殿下の隙あらばな感じ!!エストの素直じゃない可愛さ!!
全部通してラギが愛しいという…っ!!(アルルなのに笑)

ずっと顔緩ませて読んでおりましたvありがとうございますvv