沖千SS

「君がいけないんだよ」

「あれ?どうだったっけ?あ〜どうしよう…時間ないな」

千鶴が新選組預かりとなってしばらく。
土方の小姓として細かい雑務を手伝いながら、今、頭を悩ませているのは食事当番。
何せ隊士の数も多く、作ることも大変なのだが・・・
少しでもおいしく食べてもらいたい。と、当番が回ってくるたびに献立に四苦八苦している。
贅沢なんて許されない。でも、少ない材料でも出来ることはあるから。

とはいえ、できることはほとんどしてきて、代り映えのないおかずを出すのもどうかと思い。
それならみんなが好きな味付けをしてあげようと思ったのだが・・・

「え〜と、土方さんは塩多めがいいんだっけ?それは永倉さんだった?・・・どうしよう、こんがらがっちゃった・・・」

もうあまり時間がない。どうしようかと思っていた時


「ち〜づるちゃん、いる?」

いつものように返事をする前にすーっと襖を開けて、目でいるのを確認して満足そうににんまり笑う総司は、千鶴との距離を詰めて、

「ちょっと時間が空いたから、暇つぶしに来たよ」

いつもなら「私は沖田さんのおもちゃじゃありません!」って反論しながらも結果暇つぶしの相手となる千鶴だけど、その日は…

「沖田さん!ちょうどいいところに!」
「え?」

予想外の千鶴の反応に一瞬ぽかんとなっていた総司だが、すぐに顔を緩ませて

「千鶴ちゃんも僕に会いたかったの」

嬉しそうに腕をのばして千鶴を抱き寄せようとする総司を、一蹴するように

「みなさんの好きな味付け!教えてください!」
「・・・・・・・は?」
「私、食事当番なんです。ちょっとひと工夫して出したいのに、肝心なことをちゃんと覚えてなくて・・・」
「沖田さんならわかりますよね?教えてください!ほらみなさん、甘いのが好きとか、酢の物に目がないとか・・・ありましたよね!」
「あっ紙にでも書いてちゃんと覚えなきゃ・・・」

総司が返事する暇も与えず立て続けに言葉を発して、紙と筆を用意しお願いします!と言わんばかりに総司に向き直ってじっと待つ。

「別にいいけど、僕幹部の好みくらいしか覚えてないよ」
「それだけでも!教えていただけるならありがたいです!!」
「あっそう・・・じゃあ、まず土方さんはね・・・・・・・」

こうして総司に、少なくとも幹部の好みは教えてもらい、千鶴は総司に深々とお礼をして、夕餉の支度をしにいったのだけど・・・



「沖田さん!!!!どういうことですか〜」
「え?何が」

わかっているくせにとぼけて知らんぷりして、でもおかしくてしょうがないという微笑みをたたえている総司に千鶴はなおも文句を言う。

「何が、じゃないです!みなさん困ってたじゃないですか…好きな味付けどころか、苦手なのばかりだったみたいで」
「そうなの」
「そうなの、じゃないです〜みなさん残したらいけないと思って必死に食べていたし・・・」
「あっはははは・・・そうそう!あの顔ったら面白かったね〜」
「沖田さん!知ってて逆教えたんでしょう!?」
「そんなことないよ、僕のは僕の好きな味付けでおいしかったし」

いくら文句を言っても堪えるどころかしれっとした態度に、もう相手にしない方がいいと、むなしくなりつつも・・・

「せっかく、少しでも皆さんが気に入ってくれるようにと思ったのに・・・」

つい下を向いてポロっと言葉をこぼしてしまうと

「だって、君がいけないんだよ」

先ほどまで面白そうな高らかな声が一変して、不機嫌そのものを滲みだすむっとした声。

「私が?」

総司の考えてることが全くわからなくて、思わず顔をあげてみると腕を組んで面白くなさそうに口を尖らせている。
なんで総司がそのような態度になるのか、逆ではないのか、混乱しながらも総司の続きの言葉を待っていると、

「僕が、部屋をわざわざ訪れてみれば、僕以外の男のことで頭いっぱいにして」
「ぼ、僕以外の男って・・・新選組の皆さんですよ!?」

千鶴の訴えは聞こえなかったように無視して、総司は話を続ける。

「一瞬喜ばせておいて、他の男の好み聞くって何」

喜ばせるようなこと言いました!?それにその男の中に沖田さん含まれてるじゃないですか!
言いたいことはあるけれど、言っても聞いてくれそうにないのでそのまま黙っていると、

「僕はようやく仕事がひと段落ついて、千鶴ちゃんのことで頭いっぱいにしてたのに」
「・・・・・・・・え?あ、あの」
「そんな僕の気持ちお構いなしでそんなこと聞かれたら、意地悪だってしたくなるでしょ?」
「・・・・・・・・それは・・・」
「僕ばっかり君のこと想ってて、僕ばっかり声が聞きたくて、僕ばっかり会いたくて・・・そう思ったらさみしくて、意地悪、したくなるでしょ?」

いつもの軽口のように言うのに、言葉には真が迫っていて・・・

「・・・ず、ずるいです!沖田さん!そんな風に言われたら・・・もう何にも言えないです」

顔を直視できなくて、多分真っ赤になってると自覚できる程熱くなった顔を見られたくなくて、手で顔を隠す。
ふふっと漏らした小さい笑いが聞こえたあとそっと手を掴まれて下ろされる。
下を向いてるのに、わざわざ目を合わせるようにしたから覗きこまれたなら、目が吸いつけられるようにそらせない。

そのまま目をそらすことを許さないというように、総司は千鶴の頬に手を添えじっと見つめながら

「千鶴ちゃん、千鶴ちゃんも・・・」
「僕のことだけ見て。僕のことだけ考えて、僕のことだけで頭いっぱいにして?」


そっと優しく唇が触れた。



END





むぅ☆様キリリクありがとうございました!
ご期待に応えられているでしょうか…(ドキドキ((+_+)))
何で嫉妬させるか悩みましたが・・・こんなものでよければ受け取ってください(*^_^*)




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