ワンドオブフォーチュン 


アルバロ+ルル+エストSS




『Seed of the enjoyment』





「ううんと…だから・・・こうっ!!」
「違います。…ルル、これで何度目ですか?いい加減にしてください」

溜息すら尽きたように、冷たい視線がルルに向けられた。
ううっすみません!とルルは教科書を読みふけりながら、問題を解こうとするのだけど。

「いきなり応用に手を出すからいけないんです。基本すら出来ていないでしょう?…ほら、ここを…」

どうにもこうにも、頑張ろうとする意思は感じるのだけど、その方向性を間違えるルルに、エストはしたくもない手助けをついしてしまう。
最初に勉強を教えて!とルルに頼まれた時に、ずるずる引きずられた自分のせいでもある、ということもある。
乗りかかった舟だとばかりに、結局こうして、まだ付き合っているのだから・・・

「そっか!ええとじゃあこれで…魔法の属性はこうで…その要素が……出来たっ!合ってる!?」
「ええ、ようやくですね。ルル、それほど喜ぶべき問題レベルではないですが」
「う~それはわかってるけど…でも出来たんだもんっ!ありがとうエスト!」

エストの皮肉など、どこ吹く風で。
素直に頭を下げられれば、そんなこと感じる必要もないのに、つい、言い過ぎだろうか?という考えが頭をよぎる。

「…御礼を言うにはまだ早いのでは?まだ光の応用が残っていますよ」
「え?…こ、こんなところにもう一問あったのね。頑張るっ!」
「・・・言葉だけで終わらないようにしてください」

言葉を投げかけながら、ルルの解く問題に目を通して。
…これは、理論だけでは難しいかもしれない。実践してみないと彼女には…
エストがそう思ったまさにその時。

「やあ、二人でお勉強?仲がいいね」
「…あなたの目にはどんな人でも仲が良く見えるのでは?」

背後からかけられた声に、思い切り面倒そうな声色でエストが返した。
「そんなことはないと思うよ」と軽く返されながら、近づく影はアルバロ。
ルルとエストの間から、顔を覗かせて問題を見る目は、見ていて不愉快になりそうなほど楽しそうだった。

「へえ、光属性の問題ね…これはちょっと難しいんじゃない?」
「わかる?アルバロ…実は全く、さっぱりなの…さっきのとは違うもの…うう~この時どんな現象が、なんてわからないわ…」

想像なら出来るけど!きっとキラキラ光って…などと、夢物語のような空想を語りだすルルに、
エストは「ルル」とその口を黙らせるように重い声で名前を呼んだ。

「わけのわからない論理を並べようとしないでください。…想像するより似たような条件で実験をするのがいいと思いますが」
「実験?似たような条件って言われても…これ、貴重な魔法薬草よね?どうしたら…」
「レベルが違おうが、効能が同じものを選べばいいんだよ。これなら光属性を増長させるもの、だから・・・それにこれは…」

アルバロにしては真面目にルルに教えている。
何か企んでいるのでは?とつい、エストがそんな視線を向けてしまっても…誰も文句は言えないとは思うけど。

「ということで、じゃあ簡単な実験してみようか。俺でよければ付き合うよ、ルルちゃん。君とするのは楽しそうだしね」
「うん!アルバロ、お願いね!」

実験をすることの、どこに…楽しさを感じるのか。
間違ったことでも教えて楽しむのか、それともルルの失敗を見たいのか。
アルバロの真意はわからないけど、このままルルだけを置いていくのは余計に面倒が起りそうで・・気が進まなかった。
変なことでも吹き込むのでは…?とエストは二人の様子を見てはいたのだが…

ルルは予想通り、簡単な実験を何度か失敗しつつ(アルバロ大笑い)。
それでも何とか成功させ、高度な問題を無事に解くことが出来て、傍目にもとても喜んでいるのがわかる。

「ありがとうアルバロ!すごくわかりやすかったわ!」
「どういたしまして、ルルちゃん。またわからないことがあったらいつでもどうぞ」
「…よかったですね、では僕もこれで」

ようやく、この場から離れられる、とエストが踵を返した時、そのマントをくいっと掴まれた。
思わず零れそうな溜息を、ぐっと飲み込んで、まだ何か?と振り返れば。

「エスト、ずっと付き合ってくれてありがとう!もっと基本を身につけるように頑張るから!」
「そうしてください。出来れば、一人で解けるようにしてほしいところですが」
「…そ、そうなるように頑張るけど…でも、わからない時はまた聞くかも。うん、聞くから!」
「断言はしないでください」
「ルルちゃんにかかると、エストくんも無視できないみたいだね」

何か含めたような物言いに、相手をすれば余計喜ばれるだけだと、エストはルルの手をマントから離させるとそのまま教室を出たのだった。


今日は周りが騒がしくない。
彼女が来るまでの日々が戻ったように静かで。
…つまり、騒がしくない、というのは、今日はまだルルには会っていない、ということで。

彼女がいないだけで、こんなに静かに過ごせたんですね…
確かに騒々しさと、人を巻き込むわけのわからない勢いは誰よりも強い気はしますが・・・

ふと、どこからか声をかけられるのでは…
そろそろ、どこかで…そう思って歩きながら身を構える自分に気がついて。
馬鹿馬鹿しい、と肩の力を抜いたところで…通り過ぎるだけだった誰もいない教室の奥に、嫌でも目立つ頭二つを目にしてしまった。
アクアマリンとピンクの髪が風に揺れている。

…アルバロと、ルル――



「…それなら、これはどうやったら連続発動するの?単体で唱えてもバラバラで…つなげようとしても…」
「これを連続で発動させるのは、ルルちゃんにはまだ無理だと思うよ。補助道具でも揃えれば出来ないこともないかな」
「補助道具?じゃあそれを集めれば…」

魔法のことで質問でもしているのだろうか、ルルは熱心に尋ねているようだが…
でも、何故アルバロに…?

「何でそんなに連続に拘っているの?別に単体でもすごくキレイだと思うよ」
「そうだけど、でも…エルバート先生が連続で繫ると幻想的になるって言っていたし…光の魔法だから・・・アルバロは出来るの?」

光の魔法…だからアルバロに。
・・・だから、と何故かほっと息を吐く。
また、面倒事を起こさなければいいと思うが、あの二人で何かをするのなら避けられそうにないかもしれないが…
それでもここは、気付かない振りをして、通り過ぎるのがいい――

そう思ってエストが顔をあげた瞬間、ピンクの瞳がこちらを捉えて、意味深に微笑んだ気がした。

「・・そうだね、これくらいなら出来ると思うよ。ルルちゃんにも見せてあげられると思うけど。見せてあげようか?」

いちいち、あそこまで顔を近づける必要があるのだろうか。と思うほどに顔を近づけて。
当然、ルルは反射的に一歩後退するけれど、後ろから見ても喜んでいる様子がわかる。

「いいのっ!?」
「うん、いいよ。週末…で、いいかな。ルルちゃんその代わりその日は朝からずっと俺の傍に…「ルル」

アルバロがルルの手を掠め取って、指を絡ませたと同時に、教室に響いたのは自分の声。
どうして、声などかけてしまったのか…

「エスト!エストから声をかけてくれるなんて珍しいね!なあに?」
「…いえ、その…」

用もないのに、声をかけないでください。
そういつも言うのは自分なのに、矛盾する行動。
アルバロがこちらを見て一層に目を細めているのが、とても気分が悪い。

「エルバート先生があなたのことを探していたようでした」
「先生が?エスト頼まれて探してくれたのね!わかった、すぐに行くから!」

ルルがアルバロの許を離れて、自分の方に向かって来る。
エルバート先生がルルのこと探していたというのはあながち嘘ではない。
実験で失敗したルルのことを気にして・・声をかけようとしていたのだと思う。
こうして、わざわざ呼び出すほどのことではなかったけれど、それを思い出したことで矛盾する行動に理由をつけられた気がした。

そんなルルに、言葉だけでルルの体を引き止めるような甘ったるい声がかけられる。

「待ってよ、ルルちゃん。週末、俺と過ごすのは・・承諾ってことでいいのかな」
「うん、いいわ!」

彼女は、アルバロの言葉をちゃんと、理解しているのだろうか?
朝からずっと、などと口にしていたのに。
ルルの背後に見え隠れするアルバロは、楽しげな色を瞳に浮かべている。
ろくなことを考えていそうにしか見えない。
だがしかし…アルバロのせいだけじゃない、ルルのこういうゆるいところが…問題を引き起こす原因にもなっているのだ、と・・

「エスト、先生はどこに…?エスト?どうしたの?」
「・・いえ…ルル、余計な口出しかもしれませんが…自分で出来るならば自分自身で…その方が身につくと僕は思います」
「・・自分で?あ、それって魔法のこと?・・・そういえばアルバロも補助道具使ってなら出来るって…」

私でも出来るかな、と小さく拳を握って、ぱっと顔を明るくするルルに、エストの眉間に込められていた力が和らいだ。

「・・・あなたは失敗も多いですから、成功するとは僕には言えませんが」
「・・そこは、大丈夫だと思うって言って欲しいと思うの」

ぶ~っと拗ねたように口を尖らせるルルに、確証のないことは口にしたくありません。と切り返して。
もうっ!と言い返すルルの表情はでも笑顔で。

「うん、よし!自分でしてみるっ!!え~と…じゃあアルバロ…補助道具教えてくれる?」

くるっとアルバロに振り返ったルルに向けられたのは、変わらない微笑み。
にこっと笑った口のまま、アルバロはゆっくりと口を開いた。

「いいよ。じゃあどっちにしろ…週末は俺と二人で過ごすことになりそうだね」
「?どうして?」
「補助道具、あれはソロ・モーンの店にでも行かないと揃わないよ。俺が一緒に行く方が確実だと思うしね」

どちらにしても、ルルと過ごすことは変わらないよ、と微笑み浮かべるアルバロに、エストは冷たい視線を返した。

「どういった道具があるのか、調べることも彼女の為だと思いますが…」
「エストくんはよっぽどルルちゃんの成長が見たいんだね、どうしてだろうね」
「少しは成長してもらわないと、これ以上巻き込まれるのは迷惑だからです。他に何か?」
「いや?何も…だけど」

カツっと靴を鳴らして、アルバロが一歩、また一歩と二人に近づいて来る。
愉悦を込めた瞳でエストを見ると、ルルの髪に指を插し入れて・・・

「ルルちゃんの成長はもちろんいいことだけど、俺は週末一緒に過ごせたらなあとも思うんだよね」

若干演技がかった声で、目の前で週末の誘いを申し込むアルバロに、ルルも「一緒に過ごすのは楽しいわよね!」と簡単に受け答えしている。

「…どうぞ、ご勝手に。僕には関係ありませんから」

これ以上関りあうのはごめんだとばかり、すぐに背中を向けた。

・・・本当にどうかしてる、声などかけるべきではなかった――

無駄な時間を費やしてしまったとすぐに足を踏み出そうとするも…また…

「エスト!エストも一緒に…」
「結構です。どうぞお二人で」
「でも、一人でしてみたらって勧めたのはエストだわ。それなら…エストに成功しているところを見て欲しいと思うのは当然だと思うの!」

ねえ、アルバロ?とアルバロに同意を求めるルルに、アルバロは簡単に頷いた。

「そうだね、エストくんがいた方が…ルルちゃんも張り切りそうだしね」
「・・・余計に行きたくありません。ルル、あなたが張り切るとろくなことになりませんから」

冷たく、懇願するようなルルの視線を背中で受けて、口は休む間もなく毒を吐いて。
なのに、どうして…

「きっときれいだと思うの!エストにも見せてあげたいな」

放っておけ、と頭の中で、何度も呟くのに。
どうして僕は、この人を振り切れない――

「・・・ああもう、わかりました。わかりましたから…」
「本当っ!じゃあ約束ね!絶対よエスト!」

突然後ろにいたルルがエストの前に回り込み、顔を覗きこんでくる。
何がそんなに嬉しいのか、満面の笑顔で…否定しないで頷くエストを見て安心したのか、ようやく離れたと思えば…

「ああっ!そういえば先生が呼んでいるんだった!急がなきゃ!!えと、じゃあ週末忘れないでね!」

嵐が去るように、廊下を急いで走りぬけていくルル。
先生がどこにいるか、わかってはいないでしょう?
廊下を走るのはどうかと思いますが。

背中に呆れつつも咄嗟に心の中でいくつも声をかければ、ふと、傍にいる気配が気安く肩を叩いてきた。

「週末、楽しみだね。エストくんが朝からルルちゃんに振り回される姿を見られるなんて、なかなか貴重だな」
「・・・朝からなんて言っていません。彼女が魔法を見せたいと言うから…それだけを見れば事足りるでしょう」

ふうん、そう?と空とぼけるような笑顔を浮かべる。
視線を逸らして、口元だけ笑みを浮かべるのは相変わらずだ。

アルバロを振り切ってこの場を離れようと歩き出したエストに、アルバロの声がかかる。

「じゃあ、朝からルルちゃんと二人きりで…過ごさせてもらうけど、いいかな?」

ルルがいた時に誘いかけた時の声色とは違って、アルバロにしては低く、抑揚のない声。
それだけに、普段のからかいとは違う雰囲気を嫌でも感じて――

どうぞ、ご勝手に

それだけ言えばいい。
それで解放されるのに…

さっき言えた言葉がどうして出ないのか――

「・・・・・」

アルバロの観察するような視線から逃れようと・・口は動かせど、声が出ない。
そんな自分を我に返させたのは、いつもの能天気な名前を呼ぶ声。

「エストー!!先生ってどこー!?」

姿も見えないのに、どこからか呼ばれる声だけが聞こえる。

大声で呼ぶなと、何度言ったら…

でもルルの呼び声が頭の中で響き渡れば…いつもの自分にすっと戻れた気がした。

「お呼びだね、エストくん。」
「・・・アルバロ、あなたが何を考えているのか・・大体の予想はつきますが、あなたの期待に応えるような返答を僕は持っていません」
「・・・予想がつくのに?」

からかいを込めたような問いかけにも、毅然とした声を投げかけることが出来る。

「ええ。これ以上の問答は無意味です。では」

背中を向けたまま、いつものように、何にでも無関心で、孤高の存在感を出して歩き去っていくエスト。
エストの背中をみつめるアルバロの表情は依然変わらず薄笑いを浮かべていた。

「無意味、ねえ…」

そうだろうか、何だかんだとルルには甘い。
今も、彼女の呼びかけに応じて、足を飜したというのに。
もちろん、そう言えば、名前を呼ばれ続けるのはごめんです、とでも言いそうだが…

「俺には色々…ひっかかりすぎるんだよね」

残念だけど、面白そうだと思ったものを…静観できるような器は持っていない。

「是非、特等席で拝見させてもらうよ」


退屈しかけていた学校生活に、面白くなりそうな種がいくつもまかれていく。
その全てに関るルルには自然、興味が惹かれる。

植えられた種が実って咲くたび、彼女は俺を楽しませてくれる――


傍観者でありながら、特等席で楽しむ。
しばらくは退屈しなくてすみそうだ、と高括りするアルバロだが…

いつの間にか傍観者でいられず、巻き込まれるようになるのは自然な流れであるとも言える。

エストと同じような戸惑いにさいなまれる日が来ることなど知らず。



とりあえずは週末。

二人はルルの言っていた様に、ルルが見せることになる光の魔法にではなく。

ルルの笑顔に魅せられることになる――









END








みく様。

お誕生日おめでとうございます!
…すみません!大分遅くなりまして…しかも最後グダグダ…orz

ルルは誰を好きと言う訳でもなく、エストもまだはっきりとは…アルバロは楽しんでいる感じを!
それだけは守ろうと思ったんですが、いかがでしょうか??^^;

それでもこれから一緒に過ごすたびに、エストもアルバロもルルに振り回されればいいよってそんな雰囲気で終わらせました。
アルバロとエストのバチバチ感は弱い、でしょうか?大丈夫ですかね?
エストは…ルルにわからないことがあれば聞くって宣言されたのを、アルバロとルルの姿を見た時にふと、思い出したんです。
だから・・・もやもやしたんじゃないかなあ・・・^/^

エストをこう争いに巻き込むのは大変でしたが…楽しかったですv

拙いものですが、お祝いとさせていただきます。
楽しんで頂けますように…!!