『 piece piece peace』



CZポータブルのレインエピソードの後のお話です。
鷹斗⇔撫子←レインになってます。
カエルくんも出ております^^





***





「ただいま」

偵察から戻って来るなり目の前にいる自分を通り過ぎ、家の中に視線を巡らせる鷹斗にレインは頬杖をついたまま、トントン、ともう片方の指で机を叩く。

「おかえりなさいー鷹斗くん。撫子くんならキッチンですよー。」
「キッチン?もう食事の支度をしているの?」
「はいー。今日はなんだかお裾分けをもらったと言って、張り切っていますよー。」

偵察から戻って来た鷹斗の情報をまとめようと、デスクの上に簡単に物を広げようとしたところで、レインは鷹斗がもう目の前にいないことに気付いた。
キッチンの方から「ただいま、撫子」と先ほどより浮いた声が聞こえてくる。
次いで聞こえる「おかえりなさい」という声は、初々しさを溢れさせながらも、嬉しさを言葉いっぱいに表現していた。

「まるで新婚夫婦ですよねー。ボクは一体何役なんだか」
「新妻の隙を狙う間男ってトコじゃねーの?」

まだ、本当の意味でこういう時に一人でないのは幸いかもしれない。
このようにものすごいツッコミを入れてはくるが、ボヤキを拾ってくれるというのは意外に助かるものである。

「間男、ですかー。ははあ…それはまた…ボクはそんなつもりはないんですけど」
「……だな。傍から見ればなんだかややこしーけどよ。オマエ別に害なくウロチョロしてっからなー」
「うろちょろって……これでもやるべき事はしているつもりなんですけどねー。」

警戒だの見張りだの、外への警戒は鷹斗が担っている。
自分は鷹斗からきいた情報を元に、次にするべきこと、注意を向けることへの着目点などを探し、警戒区域の指定をしたりしている。
キングと違ってルークとして顔を知られている可能性が高いので、そう簡単にはフラフラ出来ないからだ。
そして撫子は家の中の事を取り仕切ってくれている。

意外にそつなく家事をこなす撫子を、ぼんやりと目で追いかけるのは嫌いじゃない。
あれだけ時間が足りないと思われた日々が一転、時間を余すような生活になりはしたが。
そういう時間を撫子と過ごすことに、幾ばくかの居心地の良さを感じていた。

立候補してから、3人の間に目に見える変化はないように見えたが。
鷹斗がいない時に、何をするでもなく、ただ撫子の傍で落ち着く時間がレインは好きだった。

「レイン――」

キッチンに鷹斗といる筈の撫子から、不意にお呼びがかかった。
こういう事は珍しい。
味見は大抵鷹斗がしたがるし、手伝いも鷹斗がしたがるし(だが鷹斗が手伝うことは極めて稀である)、つまりは傍にいたがるのである。
撫子に立候補はしたものの、レインはそこで無理に二人に割り込むつもりはなかった。

鷹斗は鷹斗。自分は自分。
自分の中では、日常の中でたまに見つける小さな変化が、そんな緩やかなペースが性に合っているからだ。

「はいはいー。お呼びですかー?お嬢様」
「何その呼び方。」
「いえ、何となく言葉の流れ的にねー?それで、ボクに用事ですか……っと、これはこれはー。」

撫子の隣に立つ鷹斗の前には、どんな割合で調合したのか、と思うような黒い液体がボールに入っている。

「薬、ですかー?珍しいですねー薬草なんて無理に調合しなくても、薬自体は比較的安易に入手できると思うんですけどー。」
「…………レイン、わかってて言っているでしょう?これは薬じゃないの。ソースなの」

バツが悪そうに鷹斗が頬をかいている。
こういうところは成長しないらしい――と心の中で呟きながら、レインはにっこり頷いた。

「ああ、今日分けてもらったっていう食料パックに入っていたソースを、片っ端から混ぜたってことですかー。」
「おかしいな。撫子に言われた通りに混ぜた筈なんだよ。やっぱり俺一人でするとまだちょっと無理があるみたいだね」
「……これでちょっとって言うところが、鷹斗くんですねー。」

鼻のないカエルさえ、何かとんでもないものを臭ったように無言でそっぽを向いている。
中々に特徴のあるソースが出来上がってしまったようだった。

「レイン…これ、片付けて新しいの作ってくれるかしら?」
「ボクが片付け、ですかー?」
「お願いしたいの。鷹斗はほら……外を歩き回って疲れているから」

片付けも得意ではない。と言わないところは、撫子なりの気遣いなのか。愛情なのか。
鷹斗はシュンとした顔を、嬉しそうに染めている。

「…………お安い御用です。ボクはいつでも言ってくれれば動きますよー?」
「ありがとうレイン。鷹斗もありがとう。休んでいてね?」
「うん、わかったよ。じゃあ……君は俺と一緒だよ」

そう言うと鷹斗はレインからカエルを自分に移すと、レインに申し訳なさそうに微笑んだ後部屋に戻る。

「彼のこれは一種の才能ですねー。いやあ、中々ここまでする人は見つかりませんよー」
「ふふっそうね。考えてみればすごいことなのだけれど、今まで爆発したりとかもっとすごい事例を見ているから…そんなに大したことに感じないわ」

慣れって怖いわね。と撫子が続けながら、レインのあっという間に片していく様を見て目を丸くした。
片付けながら、何故か落ち着かない視線を指先にじ〜っと感じたレインは、何ですー?と手は止めずに声をかけた。

「……驚いた。レイン、やれば出来るのね。部屋をキレイにしているイメージとかなかったのに…意外にテキパキしていているから」
「はあ。一応仕事を寝る間もなく押し付けられた日々もありましたからねー。身についていたんでしょうか」
「これだけ出来るのなら、レインにはもっと手伝ってもらおうかしら?」

簡易保存スープを温めながら、何の気なくそう告げた撫子に、レインは気を含んだ言葉を返す。

「どうぞどうぞー。ボクとしてはキミといられる時間が増えますからね、喜ばしいことですよー。」
「…………」

小さな変化。こうした言葉に彼女は黙って答えるようになったこと。
立候補するまでは、軽く受け流されていたようなやり取りだった。

こういう彼女を見る時間を、もっと増やしたいと思うことは、レインの方にも自然に訪れた変化だった。

そしてレインは素直に、それを実行する。

「…………」
「…………レイン。見られているとやりにくいのだけれど」
「ボクがキミを見ていたいので、我慢してくれると助かるんですけどねー?」

傍に並んで立って、ふと撫子の髪から、あの日落としたキスの時と同じ香りが届いて。
注ぐ視線が強くなったのは、撫子には多分に居心地悪いものだったらしい。
耳まで赤く染め上げて、「もう、終わったのなら戻って」と漏れた言葉に、何故かレインが笑を深める。

「終わらないので、戻れません。いやあ困った困った。ボクって鈍くさいんですよねー?」
「レインっ棒読みだから!!もう……前を向かないと、いつまで経っても進まないわよ」
「はいはーい」
「……………横目で見るのもダメ」

困ったように撫子が顔を俯けて必死で視線から逃れようとする。
人は誰であれじっと見つめられたら、勝手に意識して逃れようとはするだろうけれど――

こんなに傍にいて、逃れよう筈がないのに――

「ダメと言われても、視界に入れたくなるのは人の性って言いましてね。撫子くんだってそうでしょう?鷹斗くんのこと、目で追いかけたりしますよねー?」
「…………それは…でも、それとこれとは……」

小さな変化。
同じじゃない、と言わずに、同じなの?と問いかけるような眼差しが向けられる。

どれだけの想いを、愛しさを募らせれば「同じ」だと言えるのかなんて、まだ、レインにははっきりとはしない。それでも――

「キミを見ていたい、と…思っている事に偽りはありません。」


日々日々、目にした撫子を思い辿る記憶は、心に以前よりも確かな変化を兆している。

小さな変化が1つ1つのピースを組み変えて、きっといつか――――











END












カッとなって書きました。
レイ撫で穏やかなお話とか、こう慎ましい幸せみたいなの……嬉しい^^

何よりレインの心の変化が嬉しいです。
幸せになって欲しい……