ちょっとずつ〜総司side〜

最近、暇ができるとすぐに足を向けてしまうところがある。
 今日は何をしてからかおうかなって、そんなことばかり考えてる。
 彼女の反応はいちいち大げさで、そんな反応をみると飽きないから。

 だから非番の今日も、子供達と遊ぼうかな・・・と思いつつも、彼女の真赤になっておろおろしている様を思い出して、やっぱり彼女をからかってからにしようと眼で探す。
 といっても、行動範囲の狭い彼女は大体いつもこの時間はここにいるってわかりやすいんだけど。

 
「見〜つけた」

 気配を消して急に声をかけると、予想通りにビクっと肩を揺らしたあと、振り向いてああと納得した顔をして

「おはようございます、沖田さん」

 こんないつもからかってばかりの僕にも、ニコッと微笑んでくれる。思わずつられて頬が緩みそうになるのも仕方ないよね?

「おはよう千鶴ちゃん、毎朝大変だね〜がんばって」
「いえ、お世話になってるので、これくらいさせて頂かないと申し訳なくて」

 いつもと同じ返事をする千鶴ちゃんに、じゃあね、と声をかけて去る・・・と見せかけて、彼女の洗濯物を干している様子をじっと見る。
 千鶴ちゃんをこうしてぼ〜っとみてるとなんだか落ち着く。この何でもない一時が、結構気に入ってる。

 それに・・・・見てるだけなのに彼女はそのうち耳が赤くなってきて、おろおろしだすのがわかるから。
 ほらまた、挙動不審になってる。
 期待を絶対裏切らない彼女の素直な反応が面白くてたまらない。


 仕事が終わって、さっと帰ろうとする千鶴ちゃんを金平糖で引きとめて、今日はからかわずにのんびり過ごしてみるのもいいかなって思いだしてたんだけど。。
 頬をほんのり赤くしながら嬉しそうに食べてる千鶴ちゃん。一つ一つを口に入れておいしいです!って小首を傾けてる様が、無性にかわいくてかわいくて… 
 
 
 気がついたら、無意識に千鶴ちゃんの唇をかすめてとっていた。悪気があったんじゃない、からかったつもりでもなかったんだけど。
 
 
 一瞬呆然とした彼女はすぐに耳まで真っ赤にして、ちょっと涙目で困惑した表情をしたまま喚いてくる。
 
「そんなに私のことからかって面白いですか!?」
「うん」

 千鶴ちゃんをからかうのは本当に楽しい。土方さんからかうより楽しい。それは正直な気持ちだけど・・・
 唇をさらったのはからかったつもりじゃない。でも、ならどうして?と聞かれたら何と答えたらいいのかもわからない。
 からかったわけじゃないよ?とはだから言えなくて、すぐにうなづいたのだけど。


「沖田さんなんかもう知りません!話しかけないでください!私に構わないでください!!」

 そう言い残して千鶴ちゃんは走り去っていってしまった。いつもなら追いかけて、僕にそんな口きいていいのかなあ?って言いくるめるんだけど。
 
 僕を見ないで目をギュっとつぶって、体をこわばらせながら言った千鶴ちゃんが頭から離れなくて。
 足が追いかけようとしない。

  
「おまえ、不器用だな〜」

 ふいに湧いてきた言葉に振り向くと、あきれた顔した左之さんがいた。


「左之さん、のぞき?趣味悪いよ」
「おまえらがあんなことしてるから通れなかったんだよ!つ〜か、俺がいるの知ってると思ってたんだけどな」
「・・・・・そういえば、全く気がつかなかったね」

 気配を察知するのは自慢じゃないけど、幹部の中でもひときわ優れていると思っている。それなのに全く気がつかなかった・・・

「それだけ千鶴の傍にいると気が抜けるってことだろう?いいんじゃね〜の?」
「何それ」
「だから、そういうことだよ」
「だから何が」
「・・・・そういうことは自分で気づかないとな?」

 左之さんのわかった風にニヤっとさせてる顔を見ていらいらする。
 左之さんの言うことがわからない自分にもいらいらする。
 黙り込んでしまった僕の様子を見てか、左之さんはため息をひとつつくと、

「しばらく、千鶴と話すのやめてみたら?そしたらわかるかもな」
「・・・・・」
「何で千鶴に話しかけて、からかっちゃうのか、ってところがわかると思うぜ?」
「面白いからだよ」

 まあまあだまされたと思ってしてみろって!とポンポンと肩を叩かれて。
 別にそれくらい、何ともないと思っていたから、ちょうど見回りも当分一緒に行く予定ないし、してみようかという気になった。けど・・・・・・


 いらいらする。



 たった、一日でそわそわして、二日目にはいらいらするようになった。
 自分から接さないようにしてわかったこと。千鶴ちゃんは自分からは僕に話しかけてこない。
 この間のことで、まだ怒っているんだろうか?それにしたって挨拶くらい・・・
 僕は暇があれば彼女を探してしまうくらいだったのに。
 
 暇があればどうしたって千鶴ちゃんのことを考えている自分がいる。
 これ以上いらいらして、彼女の知らないところで彼女に振り回されるのは振り回されるのはごめんだと思った。から、


「土方さん、ちょっといいですか?」
「あ?総司か。なんだ、またしょうもねえこと言うんじゃないだろうな」

 あからさまに嫌そうに顔をゆがめて防衛線を張る土方さんに、僕ってそんなに普段から変なこと言うかな〜って思いながら

「仕事、増やしてほしいんです」
「は?」
「だから、仕事。剣術指南とか見回りとかだけじゃなくて、遠方に行く使いとか。何でもやりますから」
「ちょ、ちょっと待て!・・・・おまえ今度は何考えてやがる・・・」
「何にも考えてませんよ〜仕事を・・・」
「嘘つけ!!・・・・そうか、後で連休でもどっさり取るつもりだな!?」
「違いますよ〜ただ、仕事を・・・」
「いや!違うならそうだな・・・あれか!?」

 あ〜…土方さんを説得するのに無駄な体力消耗した気がするよ・・・
 まあでもこれで忙しくなるし、千鶴ちゃんのことでいらいらすることもないかな〜と思ってたのに。


「平助!その構えからじゃ敵がこう上段から攻めてきたときに対応できない!こうだよ!」
「斎藤君、やる気のないやつに教えても無駄だって。自分の理論を僕に押し付けるのやめてくれる?」
「新八さん、いい加減女のことを屯所で愚痴るのやめてくれませんか」
「左之さん、腹踊りは結構だけど、新選組の風評落とさないでよね」
「土方さん、近藤さんと一緒の任務、わざとはずしてるでしょ」


・・・・・言ってることは普段とあまり変わらないのだけど、その振りまくまがまがしいほどの空気に皆閉口するしかなかった。


「総司!」
「何、左之さん」
「おまえその顔と雰囲気どうにかしろよ!」
「生まれつきだから無理」
「違うだろ〜?・・・・千鶴とまだ話してないのか?」
「左之さんがそう言ったんでしょ」
「ってことは、まだわからないのか?」

 ふうと一息ついたあと、あっと何か思い出したよう手を打って

「そういや、さっき廊下で平助が愚痴ってたんだよ、おまえが怖いって」
「それが何」」
「その時にさ、千鶴がおまえの名前耳にしてか、気にしてたようにみえたな」
「千鶴ちゃんも一緒にいたの?」
「いや、庭で洗濯物干してたんだけど、俺らが通って話してたらピクっと反応して、耳澄ませてたみたいに見えたから」


 彼女が本当に少しでも僕のことを気にかけてくれていたんだろうか、だとしたら・・・
 たったそれだけ。気にしていたかもしれない、それだけのことで体がふわふわする。
 今までずっといらいらしてた気持がす〜っとなくなって、変わりに芽生えた気持が妙に甘ったるくてくすぐったい。
 この気持ちは・・・うん。早く、千鶴ちゃんに会って、また笑顔がみたい。


「左之さん、ありがと。なんだかわかった気がするよ」
「おう!行って来いよ」

 僕の答えに満足したのか、笑っている左之さんに感謝して、まっすぐ彼女がいまいるであろう場所を目指す。
 なんて声をかけようかな?いつもどおり?話しかけるだけなのになんだかドキドキするな〜
 
 目的地が近付くにつれて胸が早鐘する。千鶴ちゃん、いるかな?
 廊下を曲がって庭が一望できる場所についてすぐ、探さなくてもわかる。いつもの場所に彼女はいた。

 ・・・・・・・斎藤君と一緒に。


 何話してるのかさっぱり聞こえない。見通しのいいところだから近づいてこっそり聞くこともできない。
 斎藤君なんて気にせず話しかければいい、今まではそうだったけど・・・
 今日は2人で話したかった。だからそのまま2人の様子を見てた。

 千鶴ちゃんは黙りこんだり、急に笑い出したり忙しい。
 楽しそうな様子に胸の中が黒ずんでいくような気がする。
 
 
 やっぱり気になる!!僕も行こう!

 ・・・・・・・・
 一歩進んだ足を戻してしまったのは、斎藤君の口から聞こえた「好き」という単語。
 「ありがとうございます」という千鶴ちゃんの嬉しそうな顔。

 
 気持に気付いたところでどうにもならない。
 もう何も考えたくない。
 胸の中が冷えた感情でいっぱいになって、立ちすくむしかできなかった。



「いただきます!!」

 相変わらず賑やかな食事が今の僕には余計に気に障る。
 目に入るのはちゃっかり隣同士に座って、親密そうな2人。
 これからずっとこれ見なきゃいけないのかな僕。
 情けないけど、初めて知った嫉妬という感情に押しつぶされて自分が壊れそうだった。

「もういらない、ごちそうさま」

 とても食べる気にならなくて、一人で部屋で酌でもしようと部屋を出る。
 すたすた足を速めて自分の部屋に向かっていると、後ろからドタドタ走ってくる音が嫌でも聞こえてくる。
 その足音が、振り向かなくても誰かわかる。だから無視して歩いていると思ったより早く追いついた彼女に腕を広げて立ちはだかられた。

 久しぶりに近くで見る顔は、僕におびえるような顔で。そんな顔見たくもなかった。

「何か用」

 千鶴ちゃんは予想通りの答え。
 ご飯を残してるとか、酒だけじゃ体に触るとか。そんなことどうでもいい。
 いつもはころころかわいい声で、耳に心地いいその声が、今は暗く震えてて。聞きたくなくて、早く去りたかった。

「待ってください!卵焼き・・・卵焼き食べてください」
「卵焼き?」

 唐突に話を変えて話し出す。
 
 ・・・あの時の「好き」って言葉は卵焼きのことかな?でも二人が仲良しってことは違いないし、ね。
 斎藤君、僕の好みなんて覚えてたんだ〜何これ、気を使われたの?
 まったく、二人していい人してて嫌になる。そんな気の使われ方いらない。
 いらいらする。もう放っておいてほしいのに!!そう思ったら

「いいから、もう話しかけないで、かまわないでくれる」

 突き放すように言葉が出てた。
 とたんに彼女の顔がクシュっと崩れて、ひどく傷ついた顔をした。これ以上話しても何の意味もない。そう思ったのに、

「私のこと!!前みたいに構ってください。沖田さんとずっとこんな状態いやなんです」

 
 投げやりな僕の言葉に千鶴ちゃんがかぶせてきた言葉は、僕の心を一瞬浮かせて。
 でも、この子はみんなに優しいから期待しちゃだめだ、だめだそれに・・・・、斎藤君がいるし。

「君には斎藤君がいるでしょ」

 千鶴ちゃんはえ?というような困惑した顔を見せたあと、何か決心したように口を結んで、今までずっと見ようとしなかった僕の目をまっすぐに見てくる。

「斎藤さんに聞かれたんです。私がさみしいって呟いてるの」
「は?」

 この子はまた突然何を言い出すんだろうか?
 でも、目がじっと僕のことを見て、とても真剣な話をしようとしてるのがわかったから、そのまま聞いていた。

「沖田さんにかまわれなくて、声が聞けなくて、さみしいって思ってて、呟いたのを聞かれたんです」

 凍った心に、春解けを促すような言葉。

「卵焼きはきっかけがほしかったんです。本当は、沖田さんと話すきっかけがほしくて作ったんです」

 涙を流しながらまっすぐ僕を見て。ぽろぽろ流れる涙が、本当にきれいだと思った。

「仕事が忙しくて、疲れて、だから話しかけてくれないんだと思って」
「甘い卵焼き食べたら機嫌直るかなって」
「・・・でも私が言った言葉に原因があるんですよね?ちゃんとそのことに気がついていたのに、違う、そうじゃないって気がつかない振りをしてたんです」
「こんな私に二度と関りたくないかもしれないけど・・・それでも・・・」
「行かないでください。行かないで・・・うっうう・・・」

 千鶴ちゃんの一言一言が桜の花びらのように僕の心に降ってきて。
 凍てついた心はとおに溶けて、どおしようもないくらいに温かくて。
 
 言葉もなく泣き続ける千鶴ちゃんが愛しくて、愛しくて、愛しくて。
 それとともに突き刺さる罪悪感。胸が、痛い・・・

「ごめんね!千鶴ちゃん」

 そういって抱き寄せたら、いつも以上に頼りなく感じられて。
 どこかに行ってしまいそうで不安になる。ギュっと抱きしめてどこにも行かないように腕の中に閉じ込めて。

「ごめんね」
 
 君の言ったことよりも、嫉妬でどうにかなりそうで、それだけで君にあたって。

「大丈夫、行かないよ」

 君を置いてどこにも行ったりしない。君の方が心配だよ?

「ごめん」

 君が大事なのに、大事にしたいのに、こんなに泣かせて・・・


 少しでも落ち着けるように、僕の気持が伝わるようにそっと頭をなでながら、しがみついてきてくれる君の温もりの心地よさに、僕の方が落ち着かされて。

 そっと腕を緩めて顔を見ると、見たことないくらい目が真っ赤で。
 自分の馬鹿さ加減にいやになる。

「僕は馬鹿だよね」

 聞こえるか聞こえないかくらいの小さい声で自分を戒めると、そんなことない。ってすぐに否定してくる。
 自分の方が悪いって言いながら、首を小さく振る彼女に彼女らしさを感じるけど…今回のはどう考えても僕が悪いよ。
 だから、つぐない、させてね?

 まだ止まらない涙をそっとぬぐって、腫れた目を少しでも癒すようにそっとまぶたに口づけをする。
 くすぐったそうに首をすくめたあとずっと見たかった花の咲くような笑顔を見せてくれて。
 あふれだす気持ちが抑えきれなくて、言葉になる。
 君がしてくれたように、じっと目を見て、


「卵焼き、食べるよ。ありがとう、千鶴ちゃん。・・・・好きだよ」


 顔を真っ赤にして、今まで見たことない僕を愛しむような顔を見られて、幸せでたまらないけど、でも。


「・・・・・・・・・・」
「?沖田さん?」
「千鶴ちゃんは?」
「え!?あ、あの・・・」
「ちゃんと言葉にして?」
「〜〜〜〜〜〜〜・・・・」


 
 まあ、その顔が十分な答えだけど。
 これからちょっとずつ、ちょっとずつ、僕のことを好きになって、きっと言ってね。
 
 ・・・・そお遠くはない未来だと思うのは自惚れじゃないよね?



END



まず、最初に。
総司さんへたれですみません!!!!こんなにかっこ悪い男じゃないんですけど。私が書くとどうしてもこんな総司さんになりがちです。。。
大体この話、最初は甘アマにするつもりなかったのに、あっという間に甘く…(-_-;)
こんなものでも最後まで読んでくださった皆様、ありがとうございました!