ちょっとずつ〜千鶴side〜

うっ居心地悪い・・・どうしたらこの場から去ってくれるんだろう…
 飽きもせずに
ずっと後ろから人のことを観察している沖田さん。
 ただ洗濯物を干しているだけなのに、何が楽しいのかさっぱりわからない。


 たまらず、
「沖田さんは、今日は非番なんですか?」

 後ろを向いて話しかけると

「うん?どうなんだろうね〜千鶴ちゃん、僕のこと気にしないで続けて続けて」

 だから!!後ろにずっといられると視線が気になって仕方ないんです!!
 ・・・だなんて、言えない。。
 こうなったらさっさと終わらせて部屋に戻ろう、と心持ち手を早めて羽織を干していく。
 パン!とのばして干すと風になびいて気持ちいい。
 最後の1枚を終わらせて、それじゃあ失礼します。と何か言われる前に戻ろうとしたけど、

お疲れ様。これ一緒に食べようと思って待ってたんだ」

 そう言って差し出されたのはかわいい金平糖。

「え?いいんですか?」
「うん、どうぞ」
「あ、ありがとうございます!いただきます」

 居心地悪いなんて、失礼なこと考えて悪かったな…沖田さんって、たまにすごく優しい時あるもんね。
 ・・・・でもそういう時って必ず後で何かあったような・・・・・
 小さい金平糖を一つ、また一つ口に入れて、その甘さに知らず笑顔になりながらもそんなことを考えていたら、

「ねえ、僕にも頂戴」
「あっもちろんです。どうぞ」

 金平糖の包みを差し出せば、それを戻されておもむろに口をあ〜んと開ける。

「え、何でしょうか…??」
「見てわかんないの?口に入れてよ」
「そ、そんなこと!自分で食べてください!!」

 包みをギュっと沖田さんの胸の方に押しやって、やっぱりろくなことにならない、もう帰ろうと立ち上がろうとした瞬間、急に腕を掴まれて そのままぐいっと沖田さんのほうに引っ張られる。

「キャッ!?」
「じゃあ自分で食べる」

 そういってパクっと食べたのは金平糖ではなく…私の口・・・・口!?

「お、沖田さん!!!していいことと悪いことがありますっ!!

「千鶴ちゃんが自分で食べろって言ったのに」
「それは金平糖です!!もう、そんなに私のことからかって面白いですか!?」
「うん」

 即答されて、この人をどうしたらいいのか・・・全くわからない。とりあえずもう逃げたい。。

「沖田さんなんか・・・」
「え?」
「沖田さんなんかもう知りません!話しかけないでください!私に構わないでください!!」

 そう言って沖田さんの反応を見てしまう前にさ〜っと走って部屋に戻った。
 てっきり
走って追いかけて、鬼ごっこのようにまたからかうんじゃ…と思ってたけど、そのあと沖田さんは一切話しかけてこなくなった。



「だ〜!!総司のあのイライラっぷり!怖いんだけど、何なの?」
「あ〜・・・・・・まあ、あれだけ土方さんにこき使われたら、イラっとするんじゃね?仕事量すごいもんな〜」

 廊下を渡りながら平助君と原田さんがそんなことを話していた。
 沖田さんとは、1週間くらい話してない。もしかしてこの間の件で怒らせたんじゃ?と少しビクビクしていたんだけど、仕事が忙しいって言うのを耳にして、なんだかちょっと安心した。

「さ、洗濯物洗濯物」

 1枚1枚手ぬぐいや衣を干していながら、なんだかつまらない。と思う。
 いつもは晴れた日に干していたら必ず沖田さんがちょっかいだしてきて、からかわれて、怒って、でもかなわなくて、逃げて追いかけられて。
 そんな非日常的だと思われていたことが、日常的になっていたということを改めて感じる。

 そういえば新選組に身を置いて、さみしいとか思わなくなったのは、沖田さんの行動に頭を悩ましてからのような気がする。
 もしかして、1人でぼ〜っとしてた私のこと、気遣ってくれたのかな・・・
 それにしたって口づけはやりすぎだとは思うけど。沖田さん、あれ絶対口付けと認識してないし。
 からかって、私の困る顔見て喜ぶだけ。
 ・・・・・でも、声をずっとかけられてないと、なんだか心に穴があいたよう…さみしい、のかな?
 
 その時ふわっと裾を引っ張られた気がして、思わず

「沖田さん?」

 振り向いたけど、誰もいなくて。
 
 なんだ風・・・風を沖田さんと間違えるなんて。
 確かに沖田さんって、風みたいにとらえられなくて、自由って感じはするけど。
 それにしても…こんなことばかり考えて、私やっぱり、

「さみしいんだ」
「何が」

 ふと漏らした言葉を、急に拾われてびっくりして振り向くと、斎藤さんが1枚衣を持って立っていた。

「考えごとか?千鶴。落ちていたぞ」
「あ、す、すみません!ありがとうございます」
 独り言を聞かれて恥ずかしいと思いながら、あわてて受け取る。
 
「・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・」
話すこともなく、ただただ無言の時間が増えて気まずい。



「・・・・さみしいのか?」
「え?」

 突然切り出してきた斎藤さんに少しほっとするのもつかの間で、尋ねられたことに何と答えようか頭の中がクルクルまわる。

「今、言っていたろう?さみしいと」
「あ、あの・・・」
「父親のことか?」
「え、あ・・・あの、違います」

 てっきり父様のことだろうと目星をつけていたのか、斎藤さんはちょっとびっくりしたように黙っている。
 私もはっきり違うと言ってしまって、本当のことを話していいものかどうか困っていた。 こんなこと、斎藤さんに話すのはどうかとも思うけど、でも、斎藤さんなら大丈夫かな・・とも思って、

「あ、あの、沖田さんは今仕事そんなに忙しいんですか?」
「??総司か?そうだな・・・何を考えてるのか土方さんに片っ端から仕事を回せと言って頼んだんだそうだ」

 話題が急に変わったと思われたのか、少し詰まりながらも答えてくれる。 
 でも、斎藤さんの意外な答えに今度は私がびっくりする。

「沖田さんが、わざわざ土方さんに!?」
「ああ、副長も最初気味悪がっていたようだが」

 その場面を想像して噴き出してしまった。なんだか笑うのが久しぶりな気がする。

「・・・・総司のことか」
「え?」
「さみしいのだろう?」

 全部をわかってるみたいに優しくそう言われて、恥ずかしくて、きっと顔が真っ赤になってる。

「あの、変ですよね?あんなにからかわれて逃げてたのに。話すことがなくなったと思ったらさみしいだなんて…自分勝手だし」
「話かければいい」
「あの、でも・・・話しかけないでください!とか、かまわないでください!とか、ひどいこと言ってるので・・・」

 斎藤さんは目を見開いて、少しびっくりしたような表情で私をじっと見たあと、何か納得したように息をついた。

「・・・・・・・あの態度はそれでか」
「?」
「いや、何でもない。ことの成行きはよくわからないが、それも総司のせいなのだろう?」
「それは〜」

 金平糖を食べるかわりに口づけ?されたとはさすがに言えない。。。
 おろおろしてる私にかまわず、

「・・・・・それより、今日千鶴が食事当番だったな?」

 斎藤さんの言うことが唐突に変わって。結局何も解決していないけど、食事当番のことをすっかり忘れていたのを思い出して慌てて

「わ、忘れてました!!すぐに作りに行ってきます!」
「あっ待て!千鶴!」
「?何ですか?」
「総司は甘い卵焼きが好きなんだ」
「甘い?」
「ああ、1度食べたことがあるが、菓子のように甘いのが」

 斎藤さんの言わんとしてることを理解して、ありがとうございます!と答えて炊事場に走る。
 甘いものを食べたら疲れも少しはとれるだろうか?そしたら、またご機嫌になって話しかけてくれるだろうか?
 よし!とびきり甘いの作ろう!
 





「いただきます!!」
「あ〜腹減った〜!!」
「今日は千鶴ちゃんが作ったんだよな!うん、うまい!」

「ありがとうございます、永倉さん」
 ほめてくれてお礼を言いながらも沖田さんがちゃんと食べてくれるか気になってしょうがない。
 隣にいた斎藤さんが卵焼きを一口、口に含んだとたん、解せないと言いたそうな困惑した顔をして私を見た。

「千鶴・・・卵焼きは・・・」
「あの、みなさんのはいつもの味付けにしたんです。甘いの嫌いな方もいるかもしれないし」

 2人で周りに聞かれない位の声でこっそり話す。

「じゃあ、総司のだけ?」
「はい、お菓子みたいに」

 沖田さんが特別なのだと言っているようで、少し気恥ずかしい。
 食べたら、きっと喜んでくれる…そんな期待を込めて沖田さんに視線をのばす。
 
 ・・・・お酒をあおりながら、すごい不機嫌そうな顔で漬物をつっついてる。
 自分の考えが浅はかな気がして少し不安になる。
 顔色も悪いし、体調まであまりよくなさそうに見える。食欲もないのかもしれない。
 それでも…卵焼き、食べてくれるかな?気づいてくれるかな?ってつい沖田さんばかり見ていたら、急に沖田さんが立ち上がって

「もういらない、ごちそうさま」

 そう言ってお酒だけ持って部屋を足早に出ていく。
 誰にも目をくれずに行った沖田さんの残された盆の上を見て、ああやっぱり・・・と下を向いてしまう。
 

「千鶴、追いかけてもっと食べるように言え」
「で、でも・・食欲ないのに無理させてもかわいそうですし」
「あれは駄々っこのようなものだから大丈夫だ」
「????」
「いいから行け」
「は、は、はい!〜〜〜待ってください!沖田さん!」


残された一同は同時にため息をつく。。。。


「ちゃんと仲直りできるの〜?大丈夫か?」
「なるようになるだろう」
「・・・斎藤、総司がいらつく原因、おまえにも少しはあるのわかってるのか?」
「何故俺が」
「「「ふ〜・・・・」」」


 
 一方、すぐに走って追いかけて、曲り廊下の先に沖田さんを見つける。
 急いで沖田さんの前に回り込んで待ってくださいと、両手を広げて、顔を見る。
 見上げた顔は見たことないような不機嫌で、冷えた感情をむき出しにしたようで。
 もしかしたら、私のこと疎ましく思ってるかもしれない、それでも、このままでずっといるのは嫌で・・・

「何か用」
 久しぶりに向けられた声は、心が底冷えするような、くじけそうな声だったけど・・・

「あの、ご飯全然食べてなかったようですけど」
「口に合わなかったから」
「お酒ばかりだと、疲れもとれないですし、体にも触ります」
「僕がどうなろうと、君には関係ない」

 何を言っても、会話を切り上げようとするように答えて、私と話すのも嫌だとわかる。どうしたらいいのか正直わからない。
 前みたいに、笑って話したい。沖田さんの笑顔が見たい。そう思ったら涙があとからあとから湧いてきて、止めようとしてもポロポロこぼれてきて。沖田さんに見られないようにうつむきながら、袖で必死に涙をふきながら話しかける。

「わ、私今日食事当番だったんです」
「知ってるよ、もういい?」
「待ってください!卵焼き・・・卵焼き食べてほしいんです」
「卵焼き?」

 何を言いだすのか、と眉をよせて不可解な顔をして聞いてる沖田さんに、かまわず話しかけていく。今しか機会がない気がするから。

「沖田さんが、甘い卵焼きが好きって、聞いて。作ったんです」
「・・・誰に聞いたの」
「さ、斎藤さんに」
「・・・ふうん。で?何でわざわざ僕の好きな味付け?斎藤君はいつものが好きなはずだよ」
「皆さんのはいつものなんです。沖田さんのだけ甘く作って・・・」
「誰彼にも優しくしようとしてるのやめてくれる?僕は嫌だから」
「誰彼にもってわけじゃ・・・」
「いいから、もう話しかけないで、かまわないでくれる」

 

『沖田さんなんかもう知りません!話しかけないでください!私に構わないでください!!』 
 


 とたんに私が沖田さんにどなった言葉を思い出した。
 あの時は恥ずかしさで頭がカーっとなってたから、何にも思わなかったけど、
 胸が痛い・・・おんなじこと言われただけなのに・・・ひどいことを言ったんだ・・

「す、すみませんでした!私ひどいこと言って・・・今までいっぱい…いつも言ってたんですね、すみません」
「どうでもいいー「私のこと!!前みたいにかまってください。沖田さんとずっとこんな状態いやなんです」

 まくしたてるように放った言葉に、沖田さんは呆れた顔をしながら一言。

「君には斎藤君がいるでしょ」

 …沖田さんは何を言ってるの?どうして斎藤さんがでてくるのかよくわからない。
 でもここで考えてもわからないものはわからない。
 ちゃんと、自分の気持ちを伝えないと、きっと後悔すると思った。


「斎藤さんに聞かれたんです。私がさみしいって呟いてるの」
「は?」
「沖田さんにかまわれなくて、声が聞けなくて、さみしいって思ってて、呟いたのを聞かれたんです」
「・・・・・・・・・・・・・」
「卵焼きは、きっかけがほしかったんです。本当は、沖田さんと話すきっかけがほしくて作ったんです」

 ぽろぽろ流れてくる涙をぬぐいもせずに、今度はちゃんと沖田さんに顔を向けて、話し続ける。

「仕事が忙しくて、疲れて、だから話しかけてくれないんだと思って」
「甘い卵焼き食べたら機嫌直るかなって」
「・・・でも、私が言った言葉に原因があるんですよね?ちゃんとそのことに気が付いてたのに、違う、そうじゃないって気がつかない振りをしてたんです」
「こんな私に、二度と関りたくないかもしれないけど・・・それでも・・・」
「行かないでください、行かないで・・・うっうう・・・」
 
 だんだん言葉にならなくて、何を話しているのか自分でもわからなくなる。
 それでも黙ったら行ってしまうかもしれない、そう思って何かは言葉を紡がなきゃ、と思うのに、もう行かないでください。しか言えない。
 

「行かな「ごめんね!千鶴ちゃん」

 ずっと見つめていた沖田さんの顔がゆがんで泣きそうな顔に見えたと思ったら、あっという間に彼の腕の中にいた。

「ごめんね」
「大丈夫、行かないよ」
「ごめん」

 ぽつりぽつりと、言葉を漏らしながら、優しく頭をなでてくれる。
 嬉しくて、嬉しくて、沖田さんの上掛けが濡れることにも気がつかないで、泣きながらしがみつく。
 
 しばらくそうして頭をなでてくれた後、沖田さんはそっと腕の力を緩めて、僕は馬鹿だよねって言いながら私の顔を覗き込んでくる。

「ば、馬鹿は私です、沖田さんは悪くないです」
「君って人は・・・・・」

 すっと体が離れて、体温が離されて、不安になって沖田さんを見ると、そっと涙を舌ですくってくれる。
 まぶたにそっと口づけをされて、じっとのぞきこむように視線を合わせると、

「卵焼き、食べるよ。ありがとう、千鶴ちゃん。・・・・・好きだよ」


 嬉しくて、胸がさっきまでとはまるで違って温かくて、幸せでいっぱいになる。


「・・・・・・・・・・・」
「?沖田さん?」
「千鶴ちゃんは?」
「え!?あ、あの・・・」
「ちゃんと言葉にして?」
「〜〜〜〜〜〜〜・・・・」



 ちょっとずつ、ちょっとずつ増していく気持ち。この気持ちがあふれて素直に言えるようになるまで、もう少し待っていてください。



END




な、長いですか?大丈夫かな(ドキドキ)
このお話、総司sideもあるので興味のある方は読んでみてください。
ちなみに、後日談のようなおまけが、ギャラリーの卵焼きです。