不器用な気持ち

5





じっとしていても起きていたら、落ち着かない。
いろいろ考えなきゃいけないかもしれない。けど、今は少しだけ全部忘れて、休みたい。
一人寮部屋に戻ったラギは、自分のベッドでうつらうつらと眠りに意識が飛びそうになっていた。その時・・・

ゴンッ!!

「いってーーー!!な、何だ!?」

一気に現実に押し戻されて、手加減なく殴られたのだろうか、頭に割れそうな痛みを感じながらがばっと跳ね起きると、そこにはルームメイトの・・・

「ビラール!!てめーオレに何の恨みがあるんだよ!」
「恨みなら山ほどあるかもしれまセンよ?」

ラギの怒りにも全く堪えずしれっと言い放つビラールに、自分こそ文句を山ほど言いたいのに、なぜかその圧倒的な気に押されて何も言えない。

「ワタシは、言ったでしょウ?放っておくと、誰かにとられるっテ」
「・・・・・・アルバロのことか?」
「アルバロ?それは知らないですケド・・・何かあったんですカ?ソレでふて寝・・・」

はあ、と呆れたように溜息をつき、そのまま無言で自分の机に向かうビラールにラギは慌てて声をかけた。

「ちょ、ちょっと待て!アルバロじゃないなら何なんだよ!言い逃げするな!」
「・・・・別に、ワタシには教える義務はないと思いマスけど」

冷めた目線を遠慮なくラギに向けるビラールに、ラギはうっと言葉に詰まる。

「そ、それはそーだ・・・けど、気になるだろーが!」
「・・・今日はルルとデートじゃなかったんデスか?ユリウスと一緒でしたヨ?」
「ユリウスと?い、いや・・・それは知らない・・・」
「ルルの作ったご飯を一緒に食べていまシタ。とても楽しそうにネ?」
「・・・・・・・・・・・・そーかよ」

むっとした表情を隠さずにそのままビラールに向けてくるラギに、ビラールは苦笑いを浮かべる。

「嫉妬をするくらいなら、最初から離れなければイイんデス。ルルは・・・楽しそうにもしてまシタけど・・・」
「・・・・・けど?」
「・・・・泣いてましたヨ?ラギとこんな風に食べたかったト」
「・・・・・・・・・・・」
「泣かすくらいなら、ワタシも我慢しませんヨ」
「!?っそこは、が、我慢しとけ!もう泣かせねーよ!」
「・・・・・・・大丈夫大丈夫、泣かさないなら・・・我慢しマス」

全然大丈夫じゃなさそうに、隙あらば手加減しないというような鋭い視線を言葉とは裏腹に向けてくるビラールに、負けじとラギも見返す。

『ラギとこんな風に食べたかった』
ビラール伝に聞いたそのルルの言葉が嬉しくて。それと同時に申し訳なくて。
すぐに会いたい。きっと、きっとルルもそう思ってくれてる。
他の男がどう思おうと関係ない。自分がルルを好きで、ルルも自分を好きでいてくれているのだから、それ以上に何もいらないのに。

行動を起こすなら今。時間が経てば経つほど、きっと素直に言えなくなる。
そう思ったラギはパピヨンメサージュを飛ばして、急いで部屋を出た。




「ラギと、仲直りできなかったな・・・う〜・・・明日までこのままなんて嫌だよ・・・」
寮の部屋に戻るとアミィはいなくて、話し相手もいないのでついつい気が滅入ってきてしまう。
枕に顔を押し付けて一人暗くふさぎこんでいると・・・

ひらひらひら・・・

「・・・・パピヨンメサージュ?こんな時間に誰・・?」
見てみるとそれはラギからで。

「日が暮れたら湖のほとりに来い」
たったそれだけ。だけど、会える。話ができる。もう怒ってないのかな?
期待に胸をふくらませて一気に気持が上がったのに、そんな時にラギの言葉が頭に響いてきた。

『女はめんどくせー』

・・・・・大丈夫だよね?嫌いになったとか、そんな話じゃないよね?うん。大丈夫!ラギを信じなきゃ・・・
そう思おうとはしても不安は拭いきれなくて、日が暮れるまでの時間がいつまでも続くようにルルには感じられた。




日が暮れかけた頃、はやる気持ちを押さえて、湖のほとりの辺りを見回す。
「・・・ラギ?いないの?」

きょろきょろしながらそっと腰をおろす。おろした途端に遠くの方から走ってくる足音が聞こえてきて・・・

「ラギッ!」
「わ・・・わりー・・・お、遅くなって・・・・」
「だ、大丈夫!私も今来たところだし!」
「そ、・・そうか・・・・」

ぜーぜー息をきらしているラギが、時間に遅れないように走ってきたのだと思うと、そんな単純なことで嬉しくなる。
・・・大丈夫、嫌なお話じゃないみたい・・・

ほっと胸を撫でおろしながらルルはふとラギが持つ包みに目をとられた。

「・・・・・ラギ、これなあに?」
「ちょ、ちょっと待て!話には順番があるんだよ!」
「・・・・話?話なら私もあるの、あのね・・・」
「だ、だから、オレの話をまず聞け!」

口を手で押さえられて、話すな!と態度でも示されて。
・・・・早く謝りたいのに・・・そんな急く気持ちをぐっと押さえながらルルはコクコクと頷いた。
ルルが頷くのを見てからようやくラギは手を退けて、ふうと息を吐いて、深呼吸してから、

「・・・・・・飯、うまかった」
「ラギ・・・」
「においは〜・・・あれだけど、味は、よかった」
「うん・・・においすごかったよね・・・ごめんね」

ちらっとルルに視線を向けてから、ラギはそっと持っていた包みをルルに差し出す。

「・・・・・くれるの?」
「・・・一緒に食おーと思って・・・つ、作ってみた」
「作ってみた?・・・ラギが作ったの!?」
「う、うるせー!適当だけど・・・」

ルルがそっと包みをほどいていくと・・・少し焦げているけど、大雑把に盛られているけど、お肉ばかりだけど、ラギの手作りというのがよくわかるお弁当がそこにはあった。

「・・・ばっちゃがよく作ってくれたのを思い出して作ろうと思ったんだ」
「うん」
「けど・・・いざ作ってみると全然うまくできねー」
「・・・ううん!上手だよ!」
「…作ってみてわかったんだ、ルルが、オレのためにどれだけ頑張ってくれたかって」
「ラギ・・・・」
「それなのに、あんな態度で悪い」
「ううん!私こそ・・・ごめんね!ラギ全部食べてくれたでしょう?勝手に怒って出てって・・・ごめんね」

二人で謝りあって、そっとお互いの顔を覗きこめば、似たようなバツの悪い顔をしていて。
何だかおかしくなってくすっと笑いあう。

「・・・腹減った!食おーぜ」
「そうだね!食べよう!・・・・あっこら!ラギ、いただきますは?」
「・・・オレが作ったんだからいいんだよ」
「ダメ!ちゃんと言わないと・・・」
「わ、わかったから・・・いただきます」
「いただきます!」

二人でぱくぱく食べていく。
やっぱり、ラギと食べる時間は楽しくて、ラギがいるから楽しくて。
そんなことを実感して、自分の中がどんどん満たされていくのを感じながら、ルルはぽつっと呟く。

「・・・・よかった、ラギに嫌われてなくて」
「はあ?いきなり何言ってんだ?」

突拍子もないことを言い出すルルに、ラギは訳がわからないというような顔を向けた。

「だって、ラギが私のことめんどくさいって言うの聞いたんだもの」
「は?何だそれ・・・そんなこと「言った!!絶対言った!!ノエルに言ってたもの!!」
「ノ、ノエル?・・・・あ〜そういえば・・・ってルル!おまえ聞いてたのかよ!?」

あの時、何か余計な事を言わなかっただろうか?嫌な汗をかきだすのを感じながら頭がぐるぐるする。

「うん。ねえ、めんどくさい?喧嘩した時、そう思う?」
「そ、それは・・・・・」
「・・・・そうなの?・・・めんどくさいの?・・・」
「何だよ、そんなの当たり前だろーが!」

そんなことないよ?ルルが大事だよ・・・みたいな甘いことをもしかして、と期待したのに。
それなのに・・・めんどくさいの当たり前って言いきった・・・言いきった!!

「ひ、ひどいっ!!そんなにはっきり言わなくたって〜!!」
「だってそうだろーが。・・・他の女はどうでもいーけど、おまえは・・・どうしても放っておけない分、めんどくさい」
「ひどい!!・・・・って、え?」
「会えないと・・・さ、さみしいとか、おまえが他の男と話してるのとか見て勝手に、嫌な気持ちになったりとか・・・」
「・・・・・・・・・・・」
「傍にいないと、落ち着かないとか・・・・そういう感情にどんどん振り回されて・・・めんどくさい・・・け、けど、それがいーんだからな!そうじゃないと困るんだから・・・勘違いするなよ!?」
「・・・・・・・・・・・うん」

ラギに、好きだと言われて、嬉しくてドキドキしたあの日から。
ずっとそんな雰囲気にはならなくて、今までと変わらない二人の時間を過ごしていたように思っていたけど。
そんなことなかった。ゆっくり、ゆっくりだけど・・・ちゃんと二人で歩いていたんだ。
そう思うと、ラギへの気持がどんどん溢れていって我慢できない。

「ラギ・・・ありがとう、私も同じだよ?ラギとおんなじ。・・・大好き!ごめんね!ラギ!」
「え?ちょ、ま、待て!」

ラギの制止も聞かずに、ラギの胸に飛び込んで。
ドラゴンになってもかまわない。今は、ぎゅうっと思い切り抱きつきたかったから。
だから・・・ごめんね?そう思いながら、ラギの背中に思い切り腕を回して抱きしめたのだけど・・・・

・・・・・・・・・・・・あれ?ドラゴンにならない・・・・・・・
そっと上を仰いでラギの表情を見ようとすると、見んな!と言われそっと手で目を覆われたけど・・・

隙間から見えるラギの顔は髪と同じで真赤。
ドラゴンにならないように必死で耐えてるのか、顔はすっごくつらそうで・・・歯まで食いしばってる・・・

「ラ、ラギ・・・ドラゴンになってもいいんだよ?無理しないで」
「馬鹿か!おまえは!・・・・・オレだって、おまえを・・・抱きしめたいんだ」

ぎゅっと抱きしめる腕に力を込められて、耳許でそんなこと言われたら・・・
私だってきっとラギみたいに真っ赤になってる。
それでも嬉しくて、そのままラギに抱き締めてもらえるように動かないように私も努力していたら・・・

「う、動くなよ、絶対!動くなよ?」
「うん!動かな・・・い」

返事の途中に頬にそっと優しく感じられたものは、ラギからの初めての・・・

「う、嬉しいよ・・・すっごく嬉しい・・・・ラギ〜大好き!」
「ばっ!!う、動くなっって言っただろ〜が!!!」







END




不器用な気持ち、いかがでしたか?
ラギルルが書きたいんだ!とその一心で書きましたが。終わってみれば・・・オールの要素が強いですね(汗)
みんながルルに→向いているので、途中他のメインキャラがかなり出てきていますが・・・
それでも最後はラギルルっぽく、甘めにできた!と自分では思っています。
最後、きっとラギは変身したんでしょうね(笑)もうほっぺちゅうでいっぱいいっぱいでした!
ちなみに・・・本当はおでこにだったんだけど、どこかの誰かさんがでこチューしてたから、意図的に避けたラギ君です(^^)/