不器用な気持ち

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・・・・・・追っても来ない・・・・・・
勢いで食堂を飛び出したのはいいけれど、ラギは言い方は悪いけど、おいしいと言ってくれたようなもので(多分)。
それなのに、勝手に怒って飛び出して来てしまった。

・・・・・・あきれちゃったかな・・・

この準備のために一週間ラギを避けるように行動してて、挙句自分が怒って飛び出してしまうなんて…

・・・・・謝らなきゃ。一緒にご飯食べよう!それに・・・・
さみしかったのは、ラギだけじゃない。一週間あまり話もしないことが本当にさみしく思えた。

ラギと一緒にいたいもの!
ルルは踵を返して、食堂の方へ戻って行った。




一方その頃一人山盛りの料理を前に黙々と食べ続けていたラギ。
辛さもちょうどよくて、心なしか故郷の料理を思い出すようなものもあって。

・・・これで・・・このにおいさえまともだったら、もう少し食えるんだけどな・・・
そんなことを思っていると、一人静かな食堂に響き渡った叫び声。

「な、何だこのにおいは〜!?」
・・・・ちっうるさいのが来やがった・・・
心の中で毒づくその相手は・・・

「君か!このにおいの原因は!少し小腹が空いて食堂に来てみたものの・・こんな状況では食べられないじゃないか!?」
「あーうるせーノエル!違うところで食えばいいだろうが!」
「それを言うなら君がこの料理の数々を持って出ていくべきだと思うが」
「こんなにたくさんどうやって運べっていうんだよ」
「・・・・・そ、それは確かに・・・・」

ふんと息まいて、また食べだすラギに、いやいやとノエルは首を振って、

「大体、こんな公共の場でこんなものを食べようということ自体がおかしいだろう!?ユリウスより迷惑だぞ!」
「何でユリウスが出てくるんだよ・・・」

うんざりしながらもぱくぱくと口に運んでいくラギを見て、ノエルにある疑問が浮かぶ。

「・・・・・それは、まずくはないのか?」
「うまい」
「こ、このにおいで!?し、信じられないが・・・まさか何かの魔法を!?いや、しかしそんな律は・・・」
「魔法じゃねーよ、ルルが…作ったんだ」

心持ち頬を染めて呟いたラギの一言にノエルはきょとんと目を見開いて。

「ル、ルルが?」
「そーだって言ってんだろーが」
「そうか・・・な、なかなか美味しそうだな!そんなにたくさんの量君一人じゃ大変だろう!?どうしても、と言うなら、手伝ってやらないこともないが」
「別に」
「・・・・・しかしこの量を・・・」
「いいって言ってんだろーが!・・・オ、オレの為に作ったんだから、オレが食う」
「・・・・・・・そうか・・・・ところで、その作ったルルはどこにいるのだろうか?姿が見えないようだが」

ノエルのその言葉に、ラギはぐっと食べ物をのどに詰まらせそうになりながらも何とかこらえて、

「知らねーよ・・・一人でどっか行った」
「・・・・ま、まさか喧嘩か!?そうだろう!そうでなければ君がここで一人で食事をしているのに理由がつかな・・「だ〜!!!」
「うるせー!勝手に怒って、勝手に出てったんだ!・・・女はめんどくせー・・・」

ガン!と音を立ててフォークをテーブルに叩きつける。
そんなラギの姿に驚いていたのはノエル一人のはずだったのだけど・・・・・





ラギ、まだいるかな?そっと食堂を覗き込むと、そこにいたのは・・・
ラギと・・・ノエル?なんだか珍しい組み合わせ!
何やら話しこんでいるようで中に入りにくい。気づかれないように、少しだけ距離を縮めて二人の会話を聞こうとした時、ルルの耳に飛び込んできたのはラギの怒った声。

『うるせー!勝手に怒って、勝手に出てったんだ!・・・女はめんどくせー・・・』

その言葉にルルは頭が真っ白になる。
元々女性を嫌がって近づこうとしなかったラギ。体が戻っても、自分以外の女性に近づこうとすることはなく、ちょっとだけ、私は特別って思ってもいいのかな?とそんな関係に甘えていたのかもしれない。
ふらっと立ち上がりそっと食堂を離れるルルに二人は全く気がつかない。


「確かにルルは、抜けてるし、ボケたところもあるし、頭に花が咲いたようなところもあるけれど・・・めんどくさいとは思っていないのだろう?そんなこと言うものじゃないぞ!か、仮にもライバルの前で!」
「・・・・・・・・誰がライバルだ、誰が!」
「この僕以外の誰がいるというんだ!君がそんな態度をとるのなら僕も気持を隠しはしないぞ!い、いいんだな!?」
「・・・・・・(どこが隠しているんだ、どこが!)」
「まあ、いい。今日のところは別の場所で食事をすることとしよう、それでは僕は戻るよ」

カツカツと足音を立てて戻っていくノエルに、ようやくうるさいのがいなくなったとほっとする。

・・・・・なんだかんだで食えそうだな・・・とても食いきれないと思ったのに。
自分よりも自分のことを知っていてくれたルルに、早く会って、今度はもっとちゃんとおいしかったと言おう・・・
そう考えてラギがもう一度フォークを手に取った頃、ルルは・・・・



「ルルちゃん?どうしたの?」
「・・・・・え?」

突然視界に入ってきたピンクの瞳に覗きこまれて、ルルはびっくりして後ろに体をのけぞろうとして倒れそうになった。
それをしっかり支えたのは、

「アルバロ・・・ごめんね、大丈夫」
「こういう時はごめんね、じゃなくてありがとう、がかわいいよ」

にこっと微笑むアルバロに、つられて笑顔になったルルは、

「ありがとう、アルバロ」
「うん、よくできたね、・・・・で、お姫様は何があったのかな?」
「・・・・・?」
「泣きそうなのを耐えてるって感じだね、口を挟まない方がいいんだろうけど・・・放っておけないかな」
「アルバロ・・・すごい、何でもお見通しなのね」
「ルルちゃんのことだからね、・・・ラギ君と何かあったの?」

ラギの名前を出されたとたんに、先ほどのラギの言葉を思い出す。
聞いてくれる人がいるからだろうか、先ほどまで耐えていた涙がぽろぽろっとどんどん、どんどん落ちてきて。

「どうしよう、アルバロ・・・・ラギに、ラギに・・・・」
泣いているのを止めようとして、目をごしごしこすりながら、必死で言おうとするルルの腕をアルバロはそっと掴んで、

「泣くのを我慢しちゃだめだよ、・・・気持ちを溜め込まずに話してくれると嬉しいな」

そんなアルバロの言葉にルルの気持は、はち切れてしまった。
引き寄せられるままにアルバロの腕の中に収まると、

「ラギに、き、嫌われちゃったよ・・・・嫌われちゃった!・・・どうしよう〜・・・」

泣きながらアルバロの肩に顔をうずめて取り乱すルルに、アルバロはそっと頭を撫でてから抱きしめた。








4へ続く