不器用な気持ち
2
ラギはかなり不機嫌だった。
ここ一週間、ルルは話しかけても逃げるように自分から離れていく。
何か怒らせるようなことでもしただろうか?そんなことも考えてはみたけれど、さっぱりわからない。
言いたいことがあるなら言ってくれなければ、自分はそんなに聡い方ではないからわからない。
せっかくの日曜日を目の前にして、ルルに約束をとりつけることすら出来ず、ラギが一人寮部屋のベッドにふさぎこむように横になっていると、そこへビラールが戻ってきた。陰気な雰囲気をまとっているラギに一瞬眉をしかめると、
「ラギ、どうしたのデスか?元気ありませんネ」
朝からずっとこの調子のラギに一応声をかけたけれど、
「うるせー…ほっとけ」
ぼそっと呟くように、顔を伏せたまま言葉を投げやりに放つラギに、ビラールはくすっと笑いを漏らした。
「・・・・何がおかしいんだよ」
そんなビラールの態度にむっとラギが反応すると、ビラールは耐えかねたように笑顔を前面に出して、
「ラギがそんな様子でいるナラ、理由は一つでしょウ?」
「・・・・・なんだよ」
「言ってイイんデスか?」
「・・・・・言わなくていい」
慌てて起き上がり部屋を出ようとするラギの背中にビラールは声をかける。
「ラギ、そんなに気になるナラ、ちゃんと話したほうがイイですよ?」
「んなことはわかってるんだよ」
「・・・あんまり放っておくオクと、誰かに取られマスよ?」
「誰かって誰だよ」
「たくさんデス。ワタシもその一人デスよ?」
にっこり笑うビラールにラギは反対に苦い顔。
「・・・わかってるけど、避けてるのはあっちなんだよ」
「ルルが?・・・ラギ、何か無理やりことを・・・」
「だ〜!!!違う!!したくてもまだ体が〜・・・」
そこまで言いかけて、はっと我にかえったラギはバッとビラールを振り返ると、あまりに素直でわかりやすいラギの反応にお腹を抱えて笑う姿が目に入ってきた。
「〜〜〜〜〜」
とたんに真っ赤になってビラールを怒鳴りつけようとした時、ひらひらと何かが部屋に舞い込んできた。
「・・・パピヨンメサージュ?」
頭の中にルルが浮かんで、すぐにメッセージを確認する。
「ラギ、明日のお昼にちょっと食堂へ来てくれないかな?」
ずっと避けられていたルルからのメッセージに一瞬心が浮いたものの、何をするとかはっきりわからないメッセージに少しだけ不安になる。
「・・・・大丈夫大丈夫。別れ話とかナラ、食堂デハしませんヨ?」
「う、うるせーっ!そんなことわかってんだよ」
ビラールを手で制しながらすぐにルルに返事を送る。
とにかく、明日会える。その時まとめて話聞いてやる!と心の中でラギが決心して、さあ昼寝でもしに行こうかと思った時、またパピヨンメサージュが飛んできた。
「よかった!じゃあ、ご飯でも一緒に食べようね!お腹、空かせてきてね!楽しみだね!」
最後の「楽しみだね!」の一言に不安でいた気持は吹っ飛んでいき、ラギの表情には自然に笑顔が戻っていく。
ラギの表情がみるみる緩んでいく様を見たビラールは、「ラギは単純なところがいいデスね」とぽろっと洩らしたために(悪気は全くない)、そのあとラギのお怒りを買ったとか。。。
日曜日、平静を装いながら、食堂へ来たラギはそこに漂う異様なにおいに顔をしかめる。
・・・・なんだ?プーペのやつ、料理でもしくじったのか?
思わず鼻をつまみながら適当なところに腰をおろす。
するとたたたっと足音が聞こえて、「ラギ!お待たせ!」とルルの声に振り向けば・・・
にこっと首をかしげながら、・・・・異様なにおいを放つものをルルが持って、ラギをじっと見ていた。
「・・・・・・・言いたいことが山ほどあるんだが・・・どこからツッコめばいいんだ?」
「言いたいこと?何?とりあえず、座ってご飯食べよう!」
「ちょっと待て!飯って・・・それか?」
「うん!あのね・・・見た目は悪いけど、においも悪いけど、味は・・」
「飯には両方大事だろが!プーペが失敗したのなんか食べる必要ねーだろ」
「え?」
「そんなもの食えるか!作り直してもらうのがふつーだろ!」
「・・・・・・・・・」
「おら、言いに行くぞ」
「・・・私が作ったの」
「ほら、ルル早く・・・って、・・・え?」
「私が作ったの〜!!悪かったわね〜!失敗作で!でも味見はちゃんとしたもの!おいしくできたもの!」
ルルのあまりの剣幕にラギはたじたじとなりながらも、
「な、何でおまえが飯を作るんだよ」
「だって!ラギいつも足りないっておかわりおかわり言うから・・・たまには最初からどーんとご飯を並べて食べさせてくて・・」
「そ、そうなのか・・・」
「うん・・・せっかく作ったのに・・・」
「・・・・た、食べないとは言ってないだろう!?」
「言った!」
「・・・ぐっ・・・た、食べるから・・ここに並べろよ」
「本当?」
「ああ・・・」
「じゃあ、待っててね!」
先ほどとはうって代わってルンルン気分で厨房に向かうルルの背中に、はあっと溜息をついて席に着く。
目の前に置かれた料理はどうみてもおいしそうには見えない。。
異様な・・・辛いような酸っぱいような、変なにおいを醸し出している。
・・・・本当に味見したんだろうな・・・
今からこれを食べるのかと思うと気が重いけど、ルルが自分のために作ったのなら仕方ない。
覚悟を決めた時に、その覚悟を打ち砕くように山盛料理が次から次へと・・・
「なっ・・・・これ、全部食うのか!?」
「ラギ、いつもこれに近いくらい食べてるよ?大丈夫!」
そうなのだろうか?どう考えても見積もりを間違っている気がする・・・
「・・・ところで、これ何の料理なんだよ・・・」
「これね、ラギの故郷の料理をラティムにある材料で似たように作って、それをヴォルカノ・ボッカみたいな辛い味付けでまとめたの!どう!?」
・・・聞いただけで頭が痛くるのはきっと自分だけではないはず。。。
「俺の故郷の料理ってなんで知ってるんだよ」
「それは、いろいろ調べて・・・」
「・・・おまえ、まさかこのために最近そっけなかったのか!?」
「えへへ・・・そうなの」
「・・・ったく、こんなもんのために・・・」
ラギは嬉しくて照れていたのだけど。それを隠すように言ったその言葉に、ルルが繞う空気にひびが入る。
ぱくっと恐る恐る一口食べたラギは、その意外な味に驚いた。
「こ、これ・・・見た目もにおいも殺人的なのに食えるじゃねーか!」
デリカシーのかけらもないその言葉に、ピシっと取り返しのつかないひびが入る音がした。
「な、何よ〜せっかく作ったのに!さっきからそんな言葉ばっかり!素直にほめられないの!?」
「誉めたじゃねーか!」
「誉めてない!・・・もういい!ラギなんか知らない!」
せっかく喜んでくれると思ったのに!うっすら涙を浮かべてルルは食堂を後にする。
足早に食堂を出ていくルルを見て追いかけようとしたけれど、目の前には大量の料理が・・・
「・・・どうすんだよ、これ放っておっかけるわけにはいかねーよな?」
立ち上がりかけた腰をおろして、座ったこの選択にこのあと、ラギは参ることになる。
3へ続く