僕の。

「それでね・・・」

今日はいいお天気。暑くもなく、寒くもなく。
ふと気が緩んでしまえばいつの間にかうつらうつらと寝てしまうような陽気で。
いつもなら、彼女がここに来る前ならば、きっとお気に入りの場所で一人、まどろんでいたんだけど。

彼女が、千鶴ちゃんが「新選組」預かりになってしばらく。
最初は面倒が増えた程度にしか思っていなかった。
だけど、千鶴ちゃんの弱くて、おどおどして、どうしようもなくイライラしていたその中に、強い芯を持っているのを見つけてしまった。そんな相反した一面を何度も見て、そして少なからずその強さに僕自身が助けられたこともあった。

そんなことを自然に認識していくうちに、からかいの対象としてではなく、彼女の傍に自身の居場所を求めている時が増えた。

今日も、日中の見回りと隊士への剣術指南を終えて、一休み。という時に千鶴ちゃんの姿を認めて声をかけた。


「っていうことがあったんだよ〜やっぱり僕がいなきゃダメだってことだよね?」
「ふふ、そうですね」

先ほどから、今日起こった出来事などをかいつまんで話していく。
千鶴ちゃんはどんな話でもニコニコ聞いてくれる。決して否定的なことなんて言わない。むしろ否定的な話をすると・・・
「そんなことありません!」って目いっぱい否定して、気持ちを軽くしてくれるんだ。

だからかな、僕だけじゃなく…千鶴ちゃんと息抜きを楽しもうとする輩は多くて。
もちろん、僕が先に話しているときは誰も近づいてこないけどね?誰かに先に取られてることも最近多くて・・・
でもなぜか、僕が近付いて笑顔で話しかけると大抵みんなどこか行くけど、ね。
・・・・・・ただ一人を除いて。

「あ〜なんだか喉渇いたな…話疲れたのかな」
「沖田さん、最近いろんなお話してくれるから。今日もいっぱいお話しましたね!」

薄く開いた口をにっこり弧を引くようにふふっとほほ笑まれ、かわいいと思うと同時にやっぱりからかいたくなって・・・

「・・・お話したって、過去形?千鶴ちゃん今日はもう僕とお話しないの?」

そう残念そうな顔を作って、いかにもしょぼっとうつむいて落ち込む振りをすれば、手が何本あるのさってツッコみたくなるくらい胸の前で手を振って、

「違いますよ!そんなこと…お、沖田さんとお話しするの楽しいですし、確かに過去形にしちゃったけど、そんな深い意味とかなくて・・・」
「そっか〜僕と話すときはあんまり考えずに話すんだ、深い意味のある話なんてしたくないのかな」
「あ、あの〜う〜そうじゃなくて〜〜」

何かを言えば上げ足とって、そんな僕の言うことに、いちいち必死になって説明しようとする姿が何とも言えない。そろそろ切り上げてあげようかな?そう思って口を開こうとした瞬間、

「あっ沖田さんとこうして休憩中に話すときは、本当に感じたままに言葉が出てくるんです!」

やっとうまく言えて、ほっとしたような顔をしながら

「とっても落ち着くことができて…私の大好きな居場所なんです」
「・・・・・・・・・・・・千鶴ちゃん」
「はい?」
「それって、なんだか告白みたいだね」
「・・・・・・え、ええっ!?あ、あの、そんなんじゃっ!?」
「だって感じたままに言ってるんだよね?」
「・・・・・・・・・・」

ああだめだ、もうやめようと思ったのに、嬉しすぎて口が締まってくれない。

「でも、僕は嬉しいよ?・・・千鶴ちゃんとおんなじ気持ちだしね」
「え?」
「ここ、僕のお気に入りの場所。誰にも渡しちゃだめだよ」
「はい・・・・・・・あ、あの!喉!喉渇いてるんですよね!?お茶淹れてきます!」
「え〜いいよお茶は、もうちょっとここにいる」
「でも、そろそろ土方さんにもお茶淹れて差し上げないと」

ピシっと一気に空気に亀裂が入る。
僕と千鶴ちゃんの邪魔を堂々とする、たった一人の名前が出たから。

「お茶くらい・・・他の子に頼んだらいいのに」
「でも、私は土方さんの小姓ですし、それに・・・」

「お茶は千鶴の淹れてくれたのが一番だって言ってくれるんです」

少しのことでも誉められて、そんなことでも役に立てるなら嬉しいと、笑顔を綻ばせる千鶴に反して、総司の顔はますます顔面崩壊していくようにガラガラと不穏な空気をまとって崩れていく。

「・・・・あの助平親父」
「え?」

ぼそっと呟いた声は運良く?千鶴には届かず。

「千鶴ちゃんの淹れたお茶じゃなくて、千鶴ちゃんの持ってきたお茶に評価出してるんだよ、あの人。」
「ええと、それはどういう??私の誉める所を探してくれてるってことですか?」
「・・・・・まあ、そういうこと、だろうね」

本当は違うと思うけど、というか絶対違うけど、本当のことを言って土方のことで頬を染める千鶴の顔を見たくなくて黙っておく。

「ということで、試してみよう」
「?何を??」
「だから僕が・・・嫌だけど、本当に嫌だけど、どうしようもなく嫌だけど、土方さんにお茶を淹れる」
「そ、そこまで嫌がらなくても・・・」
「で、千鶴ちゃんが土方さんにそのお茶を持っていく」
「はあ」
「なんか、特別な淹れ方ってあるの?確かに千鶴ちゃんの淹れるお茶は…他の人と違っておいしいんだよね」
「いえ、そんなの全然……沖田さんにまで誉められて嬉しいです」

そんなかわいいことを言われ、湧き出てくる感情に素直になって、所構わずギュっと腕に閉じ込めてしまったから、千鶴は総司の淹れたお茶を持っていく時にも赤くなった顔が戻らなかった。


「土方さん、お茶をお持ちしました」
「おお、入れ」

すーっと襖を開けるとそこにはなぜか総司もいて。
さっきまでお茶を淹れていた本人がなぜ自分より先にここにいるのか!?びっくりしてひっくり返しそうになるのを、総司がそれを見越していたように支えて。

「どうしたの?千鶴ちゃん、せっかく淹れたお茶こぼさないようにね」
「は、はい・・・」

土方の反応が楽しみでしょうがない!と言わんばかりに口端をあげていつも以上にニコニコしている総司は、土方にとっては何か企んでいる悪童のようにしか見えず。

「で、総司。何の用なんだよ?さっさと言え、俺は忙しいんだ」
「やだな〜土方さんだって今から休憩でしょ?お茶も入ったことだし」
「・・・・いいから早く言えよ」

こめかみのあたりをぴくぴくさせて苛立ってきているのは丸わかり。用件なんてないんだけど、どうしようかな?とりあえず・・・

「千鶴ちゃん、僕にもお茶淹れてきて?千鶴ちゃんのお茶、おいしいから」
「え?あの・・・わかりました」

土方の反応をてっきり一緒に見るものだと思っていた千鶴は一瞬困惑した表情を見せたものの、きっと本当に何か用事ができたのだろう、とその素直すぎる頭で整理して、そのまま部屋を出た。

「なんだ、千鶴がいちゃ言いにくい話か?」
「いえ、まあ、そうですね…あっお茶冷めますよ」
「ん、ああ」

何も知らない土方はそのまま千鶴が淹れたお茶だと信じて飲む。千鶴が普段淹れている通りのやり方を教えてもらい、その通りに淹れたのだから味は変わらないはずだ。その様子をじっと見ていると・・・

「?何だこりゃ?」
「・・・・どうしたんですか?」
「いや、千鶴の淹れたお茶が、なんて言うか、違うような・・・」
「・・・気のせいじゃないですか」

なんだか自分の声がひどく焦って冷たくなっているのがわかる。
総司はお茶を淹れた後、試しにわかるかどうか、自分の湯呑にも淹れて飲んでみた。だが、何か違った。味は変わらないとは思うのだが何か足りない気がして…
それに気がつけたと思ったとき、やはり自分にとって千鶴が特別だから。と実感したのだ。
土方にはわからないと、高をくくっていた。なのに、土方は違いがわかってしまった、ということは・・・・

「うん、やっぱり違うな・・・俺は、前のほうのが好きなんだが」

鬼の副長と呼ばれるその形相を、その時だけといて、彼女の笑顔でも思い出したのだろうか、自然に優しい顔になる土方を見て、自分と同じなのだと確信した。
正直、土方を敵手に回すのはごめんだ。他の隊士なら今は自分のにらみが利くけど・・・
土方は女性の扱いにも長けているし・・・放っておいても女が寄ってくるような男だ。

土方さんがよりによって千鶴ちゃんを・・・・・

最近芽生えた温かい気持に今芽吹いた黒い感情。二つの気持はあまりにも大きくて。
この事態をどうしたらいいのだろう?見当もつかない。

「言いだしっぺが責任とらなきゃ」
前に自分が考えなしに言った言葉を思わず呪ってしまいたくなる。
彼女が土方の小姓になどならなければ、このようなことにはならなかったのかもしれないのに。


「・・・・・土方さん、僕の話なんですけど、」
「おお、早く言え」

三口ほど飲んだだけで手つかずのお茶がちらっと視界に入る。
こんなこと試さなければよかった。

「千鶴ちゃんを、僕の小姓にしてください」
「はあ?」
「千鶴ちゃんを、僕の小姓にしてください」
「んなもん一回聞きゃわかる!おまえ何言ってるんだ?」
「土方さんだって、最初嫌がっていたでしょう?僕は、嫌じゃない。むしろ小姓でも何でも傍にいてほしいんです」
「・・・・・・そりゃ、私情じゃねえか、そんなもの認められねえよ」
「土方さんだって、そうやってはねつけるのに私情がないって言えるんですか」
「なっおまえ何言って・・・」
「僕の小姓に無理って言うなら、土方さんの小姓をやめるってことでもいいです。」
「おまえ、本気か?・・・・・・」


それっきり二人して黙っている。総司だってもちろんこんなこと聞いてもらえるとは思っていないが、土方の反応は予想通りで。今、土方が黙っているのはきっと総司の気持に、そして土方自身の気持ちにも気付かされたから。

黙っているのがいい証拠だよ、まさか土方さんと女を取り合いするなんて・・・・
自分でも思ってみなかった事態に多少動揺はするけど、この場では自分の気持ちをまっすぐに伝えたほうがいい気がした。

一方土方も、初めて見る総司の様子に驚かされてばかりで。

千鶴を小姓に、ねえ・・・よっぽど俺といさせるのが嫌ってことか。
いつも近藤さんの後をついて、近藤さんだけを見ていた総司が、いつの間にか知らない間に恋心というのを知っていたなんて。
近藤さんが聞いたら大喜びかもな。
もちろん土方とて、総司の恋を客観的に見たら嬉しいと思う、ただ・・・
ふと千鶴の笑顔が浮かんで、あの笑顔が自分ではなく総司にだけ、向けられるようになるかもしれない。そう思うと素直によかったな、と言えない自分がいて。


お互い相手の様子を探るようにじっと顔を合わせていると

「お茶、お持ちしました」

その場にはそぐわないような小鳥のさえずりのようなかわいい声。
愛しく思うその声に二人が振り向けば、

「はい、沖田さん。喉渇いてますよね?多めに淹れときました」

総司は、千鶴が少し恥ずかしそうに微笑みながらお茶を差し出すのを見て、土方の所へ来る前の幸せな時間を思い出す。
ちらっと土方の方を見ると苦々しい顔をしていて、本人はきっと気がついていないだろうけど。
その様子に気がつかない振りをしながら一口。

「うん、やっぱり千鶴ちゃんの淹れたお茶はおいしいよね」
「あ、ありがとうございます。あの土方さんはどうでした?」

先ほどの結果が気になるのか、千鶴がふいに視線を総司から土方に向けてしまって

「あ、ああ・・・あの茶は・・」
「千鶴ちゃん」

土方が言ってしまう前に名前を読んで、こちらにまた目を向けさせてからそっと肩に手を置くと、千鶴はキョトンとした顔でこちらを仰ぐ。

「おい総司、何を・・・」
「土方さん」

土方の顔を一瞬刺すように見てからすぐに千鶴の方に顔を向け、戸惑った視線を投げかけている彼女に安心させるように微笑んだ後、肩に置いていた手をそっと千鶴の頬に添えてから

ペロッ

千鶴の唇をそっと舐めると

「お、沖田さん〜〜!!何するんですか!?」「総司!!!何してるんだ!!てめえ!!」

真っ赤になって慌てている千鶴と、我を忘れて怒っている土方をよそに、総司は一人満足げにしながら土方を正面から見据えると

「土方さん、千鶴ちゃんは僕のです。もう唾つけたしね」

そういって見せつけるかのように千鶴を抱きしめている様子は本当に大人か、と言いたくなるくらい子供っぽくて、素直に嬉しさで満ち溢れていて。

「唾つけたって・・・・私は物じゃないですよ!」
「・・・いや、千鶴ツッコむところはそこか?・・・・・はあ、わかったからもう行け、俺は忙しいんだ」
「わかったって…僕のさっきの件、聞いてもらえるんですか?」
「馬鹿言え!違うに決まってんだろ!・・・・・おまえの気持はよくわかった、と言ったんだ」
「ふうん、まあ、今はそれでいいですよ。我慢します」

真っ赤になった千鶴を後ろから抱き締めてるんだか、寄りかかっているんだか、どちらにしてもぴったりくっついてこちらには目もくれず、腕だけはしっかり千鶴を離さないと言わんばかりに巻きつけて。
何が、我慢します。だ!我慢なんてしてねえじゃねえか!!と胸の内で痛いほどに突っ込みながら

「いいから、もう行け。こちとら仕事が山ほあるんだ」
「あっはい、長居してすみません」「言われなくても用事済んだし♪」

あせあせと総司の腕から逃れつつ、部屋を出ようとする千鶴にお構いなしで、千鶴にべったり張り付いたまま廊下へ出ようとする総司。千鶴がかなうはずがなくて・・・

「「じゃあ失礼します」」

かたや恥ずかしさでいっぱいのゆでだこのような真っ赤な顔で。
かたや満足感でいっぱいで足取り軽く。

「総司!そのひっついたまま歩くのはやめろ!人の目があるだろうが!!」

部屋から出ても離れようとしない総司に呆れつつ、でも少しだけあの感情のままに動く子供のような男をうらやましくも思うが、それとこれとは話が別。
千鶴は男としてここにいるのだから、滅多な行動はしてもらっては困る。
そんなこと一番組の組長がわからないはずはないのに・・・・

「あっ大丈夫〜僕そういう趣味なんだって思われても何ともないですから」

あははは…
総司の最後の言葉と、何がおかしいのか全くわからないが響く笑い声を聞いて、頭が痛くてたまらない・・・

二人が去った後、土方は溜息をつくことしかできなかった。






END






土方さんごめんなさい・・・総司さんに振り回されて終ってしまいました(-_-;)
この話、拍手のVSに載せて沖田さんと土方さんと同位置くらいにつけさせようか悩んだんですが・・・
どうしても沖田さんにペロっとさせたかったので沖千SS になりました(笑)
それにしても私の書く沖田さんは本当に嫉妬深いですね・・・嫉妬しない男前な総司さんも書いてみたいですが・・・
無謀極まりないです(T_T)