Having sincerely hoped




7




「おせーな、どこで道草くってんだ?」
「広場や大通りに寄っているのでハないデスか?」
「くそ…オレらが待っているって知って…「ないデス」

さらっと答えるビラールにラギははあ?と眉を寄せた。

「ルルに言伝したんじゃなかったのかよ?寮の案内するからって・・・」
「いえ、言えバきっと、遠慮して…すぐに帰ると思ったのデ」

にこっと微笑んでそう言われれば、もっと言おうと思っていた文句は喉を超えずにそのまま胸の中へ。
それに…と思ってしまうのは、近頃いつもの元気に陰を落とす少女を思い出したから。

「あいつ、大丈夫か?空元気が痛々しーけど・・・」
「そう思うのなラ、もう少し、気を遣ってハいかがデスか?」
「わ、わかってる、それくらい…」

玄関前で賑やかに?会話する二人の耳に、静かな足音と、それと共に二つの影が見えて来る。
どちらも、街の散策を楽しんだ、とは程遠い表情に見える。
特にルルは・・・・・二人に気がついて顔をあげた時に見えた赤い瞳が、泣いていたことを如実に語っている。

「どうしたの?ラギ、ビラール!もしかしてお出迎えかな?」
「ハイ。アルバロは寮のことも忘れているようデスし、ワタシたちが案内することになっていマス」

ルルの瞳のことに触れずに、会話を進めるビラールに、そうか、そっとしておくのか、とラギは納得した。

「案内、助かるよ。よろしく」
「おう。じゃ、早速行くか」

ユリウス、エストだけでなく。
ノエル、ビラール、ラギも入院中に顔を出しているので、そういうところで少しでも気が楽なのではないか、と案内役を買って出たのは正解だったようだ。
二人の姿を見て、心なしかアルバロもほっとしていたように見えた。

無理もない。全く覚えのない寮で、これから暮らしていかなければならないのだから。

「あの・・お願いね!じゃあ、私これで・・・」
「あ・・・ルルちゃん」

ぎこちない笑顔を浮かべるルルに、アルバロはどうしようかと迷いながらも、声をかけた。

「ん、なあに、アルバロ?」

さっきまでの沈んだ表情を瞬時に消して、笑顔を張り付けたように見えた。

「いや、今までありがとう。いろいろ教えてくれて・・・」
「ううん。私がしたかったから!」

・・・それは本当の気持ち。
アルバロを、放っておくことなんてできない。

・・・今までってことは、もう・・・傍にいたらいけないのかな。
やっぱり・・・迷惑、なのかな・・・

そんなことが頭をよぎり、それ以降言葉が途切れてしまう自分が情けない。
・・・・元気が取り柄の、明るいルルはどこにいったの?

「じゃあ・・・「あ、アルバロ!あの、あのね」

進みかけた足は止まって、もう一度ルルに振り向いた。
迷惑そうな表情だったらどうしよう?不安でいっぱいになって、でも、とそっと顔を仰ぎみれば・・・
不安は杞憂に過ぎないと思えるような、微笑み。

「明日、朝、ここで待ってて、いいかな」
「朝・・・?」
「うん!ま、まだ学校に慣れていないし・・・(う〜違う、そうじゃなくて…)」

アルバロは、どうするべきか悩んでいた。
ルルが求める過去の自分ではない、今の自分が、傍にいれば辛いだけではないのか?
ずっと厚意に甘えるべきではない、とそう思った。だから・・・

彼女を、自分から解放するように御礼を言ったつもりだった。
けれど、行きかけた自分を引き留めた言葉を、嬉しく思ったのも・・・事実で。
また、傍にいる約束を出来たことに、安堵する気持ちが胸の奥にある。

「・・ありがとう、じゃあ一緒に・・・」
「う、うん・・・アルバロ、あのね?」
「うん?」

ぱっと自分を見上げる表情は、素の笑顔な気がした。

「アルバロが心配なのもあるんだけど・・・でも違うの」
「・・?違う?」
「うん。私が・・・傍にいたいから。だから一緒に行きたい!」

無垢な、周りを明るくするその笑顔は、どこか懐かしい気がした。
俺はきっと、この笑顔を見てる。絶対に、見てる・・・

「うん、俺も・・一緒だよ。ルルちゃんと、一緒。君と一緒に行きたい」

じっと目を見て、言葉を返せば、ぼっと頬を赤く染めあげて、
少し気恥ずかしそうにしながら、嬉しそうに一層目を細めての笑顔。

俺はきっとそんな君の反応をずっと見てきたはずなのに、何故だろう?素直な反応が久しい気がする。

「それなら…お昼も一緒に食べていいかな?」
「え?う、うん!待ってる・・・・じゃなくて、迎えに行くね!」

会話の流れでつい、言葉にするのは、きっと今までの俺たちの日常の会話で交わした言葉なのだろう。

「・・・いや、いいよ。俺が迎えに行く」
「え、でも・・・場所わからないでしょう?」
「ううん。何となくわかる気がするんだよね、それに…何でも教えてもらうのもいいけど、探すのも楽しそうだし」

にこっと微笑むアルバロに、前よりも何故か、昔のアルバロがちらついてくる。
それでも、もう気持ちは揺らがない。アルバロは、アルバロ。

「うん。待ってる…」



微笑みあって見つめあう二人を…遠くから忘れ去られた二人がそっと見守っている。

「・・・絶対オレらのこと、忘れてるよな?」
「デスね・・・まあ、イイじゃないデスか。ルルも幸せそうデス」

先ほどから少し離れた場所でアルバロを待つ二人。
なんだか一向にこちらにくる気配がない。
むしろ二人の雰囲気はどんどんよくなっているようだ。

「・・・気のせいかもしれねーけど、前より、なんつーか・・・」
「ハイ。仲が良くなっているようニ、見えますネ」
「だろ!?・・・すげーな、あいつ・・・」

感心したようにルルを見つめるラギに、ビラールはそうデスね、と頷く。

「ラギも手なずけているのデスから・・・すごいものデス」
「・・・ちょっと待て、オレは別に手なずけられてなんかいねー!」
「そうデスか?あれだけ女なんて…と言っていたのニ・・・今でハ、ルルのことを毎日気にかけているでショウ?」

ちらっと視線をラギに移すビラールの表情はからかうわけではなく、至極真面目なものだから、きっと余計に腹が立つのだろう。

「うるせー!!てめー!!燃やすぞ!!」

玄関に響き渡ったラギの声に、ビクっとお互いに体を震わせたアルバロとルルは、おかしそうに目を合わせて笑いあっていた。