Having sinserely hoped



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『ルルちゃん、こんなところで寝てると風邪ひくよ?』

・・・・アルバロ?平気、だったの?もう、大丈夫なの?

『俺?俺は平気。あんなことでやられるほど軟じゃないよ、それより君の方が倒れそうだけど』

だって、だってアルバロがいなくなるのじゃないかと思って・・・

『俺が・・おまえの前から消えるときは死ぬ時。おまえも道連れだろう?むしろ、おまえの前から、ただいなくなるだけなら・・喜べばいい』

喜べない、喜べないよ、だって私は・・・・


ずっと素直に言いたかった、でも言えなかった言葉を言いかけて、周りがさーっと明るくなっていく。
ああ、夢、なんだ。
夢の中でくらい、素直に言いたい。
そう思いながら、笑顔を張り付けたアルバロがどんどん薄れていくのをぼうっと見ているだけ。
代わりに、覚醒していく意識は真実を瞳に映し出す・・・・


「ルル、ルル?大丈夫?」

呼びかけがようやく耳に届いて、ゆっくりと目を覚ませばそこには心配そうに見つめるユリウスがいた。

「ユリウス・・うん、私眠っちゃったのね、こんな時に・・・・」
「こんな時だからこそ休まなきゃだめだよ。アルバロが目を覚ました時、ルルが倒れていたらどうしようもないし」
「うん、わかってる、でも・・・」

まだ意識の戻らないアルバロの傍を離れたくない。そんな思いでそっと青白い寝顔に視線を移すと、いいえ、休むべきです。と否定を拒むような強い口調で言われた。

「エスト、来てくれたの?」
「・・あなたがこの場を離れないので、代わるように言われています。」
「でも、私のせいなの。私のせいだから・・・離れるなんて・・それに・・・傍に・・・」

いたい。という気持ちは、強すぎて、声がかすれてしまう。
そんなルルをじっと見るとエストは溜息をついた。

「僕が・・アルバロなら、目覚めた時にあなたのそんな表情を見たいとは思いません」
「・・・え?」
「あ、それには俺も同感。ルル、すごい疲れているのわかるよ、心配する気持ちはわかるけど、俺なら、いつもの笑顔で迎えて欲しい、と思うかな」
「ユリウス・・・そっか、そうだよね・・・でも、私そんなに疲れた顔しているかな?」

二人の気持ちが、優しく胸に染みていく。
久しぶりに、少しだけ張りつめていた気が緩んでいく気がする。

「うん、ひどいと思う」「ええ、ひどいです」

二人に同時に言われて、もう!と声が自然に出る。
確かにそうかもしれない。アルバロが倒れてから3日。ほとんど寝ずの番で・・・
アルバロの傍にいたいけれど、でも、周りに迷惑を、これ以上心配をかけちゃダメ。

「・・・うん、じゃあ、少し休むね、ありがとう・・」
「うん、目が覚めたら、すぐに知らせるから」
「・・・大丈夫です。命に別状はないそうですから・・」
「うん。ありがとう」

二人にアルバロを任せて部屋を出る。
寮に寝かされているわけではない。ミルスクレアの、病院の一室。

あの日、悲鳴をあげた私に駆けつけてくれたのは、他でもない。最近一緒になることが多いいつものメンバーで。
パニックになって、力の入らなかった私と、私が必死で支えるアルバロを見て、すぐに病院へ運んでくれた。
そして、それから・・・何かにつけて、こうして皆が励ましてくれる。

とっても嬉しい。ねえ、アルバロ、いい友達だよね?

そう心の中で声を投げかける。
そんな時思いだすのは、困ったような、話を逸らすように視線を外した笑顔。

・・・早く、みたいな。

後ろ髪をひかれつつ、ルルは病室を出たのだった。




「ルル、参っていたね・・・大丈夫かな」
「ユリウス、その会話何度目ですか?そう思うのなら、送ればよかったんじゃないですか」
「いや、きっと一人の方がいいと思って、本当は送りたかったけどでも、「少しは、周りの空気を読めるようになったんですか」

続きそうな会話をぴたっと黙らせると、エストはほっと一息ついた。

「・・・とっくに目が覚めてもいい状態の筈なんですが・・・何か特殊な攻撃でも受けたのでしょうか」
「いや、俺もそれは気になってイヴァン先生に聞いてみたんだ。何か呪いのようなそんなものを受けたりしてないか、とか。見えないけど、体の中に何か埋め込まれているんじゃないか。とか、何かの拍子に発動する魔法でも仕掛けられたんじゃないか、とか。それに・・・「もう、いいです」

え、と一瞬困ったように口を止めるユリウスに、エストはもう一度、深い溜息をついた。

「それで、何もなかったんですよね」
「うん、先生たちも不思議がってた。どうしてだろう?」
「目覚めたくない理由でも・・・あるのかもしれませんよ」
「・・・目覚めたくない?エスト、何か知ってるの?」

じっとアルバロを見る瞳は何かを知っているようで、そんなエストにユリウスは一歩近づいて、その先を促した。

「いえ・・・僕なら、目覚める必要などないなら、眠っていたい。と思っただけです」
「・・・そうなの?」
「アルバロも、いろいろしていたそうですし、そう思う理由があってもおかしくないかと・・・まあ、そんなこと考えそうにない人な気はしますが」
「アルバロはむしろ、早く起きたいと思っていると思うな。だってルルを心配させたままだし。俺だったらそう思うけど」
「・・・・・そう、ですね」

何のためらいもなく、そう言い放つユリウスを少し羨望の瞳で見つめてから、再びアルバロに視線を戻したその先には、まるでエストの言葉を否定するかのように、ゆっくり瞼を開くアルバロの姿があった。

「・・・・・あ、アルバロ!!気がついたんだね!?大変だ・・ああ、ルル戻すべきじゃなかったのかな!すぐに呼び戻して・・・メサージュ!・・・いやその前に走って呼び戻す方が・・・」
「ユリウス!落ち着いてください。・・・アルバロ・・・大丈夫ですか?あなたは3日間眠っていたんですよ?」

アルバロはぼうっとした表情で、病室の天井をじっと見た後、ゆっくり視線を二人に戻した。

「・・・ここは・・・・?」
「病院です。安心してください、命に別状は・・・「うん!ルルも無事だよ、さっきまでいたんだ・・なのに帰しちゃって・・ルルも立ち会いたかっただろうな。本当に悪いことした気分だよ」

目を覚ました安心からか、いつものことか、興奮してしゃべるユリウスをきょとんとした、表情でアルバロは見つめる。

「・・・・・・ルル?」

困惑した表情を隠さずに、どこか自分たちへもよそよそしい、いつものアルバロとはかけ離れた姿に、エストとユリウスの心が不安にざわめき立つ。

「アルバロ・・・とは、俺の名前か?ルル・・・とは?」

その一言に、二人は目を見開いて、その場に立ち尽くす。
震えそうな声を、精一杯絞り出すように、ユリウスは恐る恐る口を開いた。

「アルバロ、わからない?自分の事、ルルの事、俺達のことも・・・わからない?」
「・・・申し訳ないけど、今わかるのは、俺の名前がアルバロだってこと、くらいかな・・・」

本人すら呆然とした顔で、不安にまみれている。
冗談ではない。本気でわからないんだ、と二人は事実を重く受け止める。

そして同時に悲しい少女の泣き顔が頭に浮かんで、胸を痛めた。