Having sinserely hoped



3



アルバロ、真剣だったな…あの人強そうだし、大丈夫かな…

自分は無力で、あんな世界には覚悟も何もない。
下手に手を出したら邪魔になる。大人しくここで待つのがいい。
それはとってもわかる。わかるけれど…胸の中に秘める想いは、彼を心配して、自分にも何かできないかと悲鳴をあげそうで。

・・・・魔法で補助とか・・・ううん、でも、アルバロの気が逸れたらいけないし…
地面にへたり込みながら、ぎゅっと自分の体を抱くように腕を掴んでいれば、何やら戦闘音のようなものが響いて来た。

冷たい目、冷たい声、道化じみた声は優しいけれど、温かく聞こえるけど、それは一時的に嘘で固められたもので。
それについ縋りそうになる自分を、今まで自分なりに必死に止めて来た。
けれど、背中にかばってくれた。その背は本当に暖かくて、何故だか、必要とされている気がして、嬉しくて、手が伸びていた。
その手を振り払うことなく、今もまた戦うアルバロ。

・・・・人に命を閉ざされるのは嫌だから。
きっとそんなことだろうとは思うけど、でも胸に疼く微かな期待はどうしても収らなくて。

聞きたい。
どうしてそこまでして守ってくれるの?

きっと、笑顔の仮面をつけて、それなりの言葉をくれるのだろうけど、でも・・・

そこまで考えた時に、キンッと鋭い金属音が耳に痛いくらいに入ってくる。
それとともに「ぐっ!!」と何かに耐えるようなアルバロの声・・・・

…っアルバロ

動くな、と言われているけど、そんなこと関係ない。
へたりきっていた体をすぐに立たせると、状況を把握しようと路地裏から通りに出ようとして、それは見えた。

どうみてもアルバロが劣勢で、押されている。
あと少しでとどめを刺されるのではないか・・・そんな思いが、不安がルルの心を掻き立てて。

気がつけば魔法の詠唱に入っていた。




・・・・・・・・結構やるな、すぐにはやらせてもらえない。それなら・・・・・・

相手の実力は自分の思った以上だった。
実力が拮抗とまではいかないけれど、これでは時間がかかりそうだ。仕方ない。
そこでアルバロが考えたのは、わざと自分を追い込ませること。
相手がこれで勝ちだと確信して、とどめを刺そうとして近づいたその時が・・・好機。そこで決める。

考えながら、追い込まれる振りをしながら、なんだか最終試験を思い出す。
ルルもこうして、自分が近づくのを待っていた。
こんな、戦いになど身を置かない少女が、とった手段。
つらそうな表情を見せてやらなければいけないのに、何故か顔が笑ってしまいそうだった。

・・・・・・そろそろかな・・・・・・・
無情な一撃が落とされそうになったその時、アルバロがそれを避けて、死の鉄槌を下そうとした瞬間、背後がぱっと明るく光り、その光に男が一瞬気を逸らせた。

光はアルバロを守護するように、アルバロを包んでいく。
これは・・・・・ルル・・・・・くそ、馬鹿な真似を・・・・
目で背後は確認せずに構わず、目の前の男に刃を向けた。
その表情にはアルバロらしからぬ焦燥が浮かんでいた。



・・・・・・見つけた!!
アルバロを庇護する魔法でも使ったのだろう。自分の居場所をわざわざ知らせるとは・・・馬鹿なやつ!

ルルの気配をずっと探っていた男は真っ直ぐにルルのもとに向かう。
多少の魔法は使えるのだろうが・・・必ず仕留める・・・・

先刻怯えきっていた男とか全く別人のようにその瞳には、確実に任務を、という落ち着いた眼光。
音もなく、ルルの背後に迫る男の手には暗器。
迷いない死の宣告がルルに振りかかろうとした。





・・・・・・・・・・・・どうして、こうなっているの?

ルルの表情は悲しいくらいに歪む。
瞳には涙。後から後から溢れて、もうアルバロの顔も見えない。・・・見えないよ・・・・・アルバロ・・・・・


自分が愚かだった。
魔法を使って、居場所をわからせてしまった。
魔法で補助をした後、すぐに劣勢を跳ね返して、あっという間にその男を仕留めたアルバロがこちらに駆けてくる。

無事でよかった…と安堵して、顔を緩めたのもつかの間、彼の元から魔法が放たれた。
刃のように尖った風が、自分の頬の横を抜けてすぐ後ろ、何かを切り裂く音。

「くっ!」と一瞬洩れた声に振り向けば、体を切り裂かれた男がそれでもためらわずにルルにめがけて刃を振り落とそうとしている。

間に合わない。そう思った。
自分は死んでしまう。そうなったらアルバロも・・・・・・・

一瞬が長く感じられ、それでも咄嗟に杖で身を守ろうとしたのに。
ルルの視界に赤が広がる。

でも私は痛くない。私の血じゃない。
きれいなアクアマリンのような髪が、緋に染まる。

アルバロを血で染めた男はそれに満足したように倒れて、動かない。
その動かない男に、低く、切れ切れに何とか声を呟くと、完全に息の根を止めるようにその男が闇に包まれた。
それを確認して、一瞬こちらを振り向くアルバロ。

血を流しながら、なのに何か面白そうに笑って、そのピンクの瞳を和らげる。

「ルル…俺の・・負け・・のようだ・・・」

それだけ言うとルルに倒れかかるように、力をなくした体は動かなくなる。


「アルバロ・・・・嫌、嫌・・・すぐに運ぶから・・・待ってて・・・・・」

力をなくした一人の人間はこうも重いものなのか。
運ぼうとするのに、背負って歩くのもままならなくて。…早くしないと、血が止まらない。
こんな時に役に立つ魔法・・・・・どうして思い出せないの!?

震える体。
怖い。怖い。いなくなったら・・・嫌だ・・・誰か・・・・誰か・・・・

「誰かっ・・・・・・来て!!助けて!!!!」

ルルの涙まじりの悲鳴が、悲しいほどにシンとした通りに響き渡った。