Having sincerely hoped




12




今、ルルは何と言っただろうか?
二人の間にある強力な刻印。それだけでも十分驚く内容であったけど…

それは何となく、予感めいたものがあった。
調べても調べても、似たような内容ばかりが記されている蔵書。
調べながら表情に影がさすルル。

自分はそこまで馬鹿じゃないと思っている。
そんなに楽観的に考えていた訳じゃない。
だから、ルルから聞かされた内容に、ああ、そうか。とどこか納得して落ち着く自分が、素直に驚く自分を冷静に客観的に見つめていたような、そんな変な感覚があった。

それより、何より、気になることがある。

「・・・ルルちゃん、俺と君との繫りがそれだけっていうのは・・・」

『どういうことかな』

言葉を言い切る前に、涙を流したままルルが自分を悲しげに見つめるのについ口が噤んで。
すでに目が真っ赤になって、泣いている彼女にこれ以上問い詰めるのは酷なのかもしれない。
でも、ちゃんと聞いておかなければ。

「・・・この刻印がなされた経緯を、ゆっくりでいいから話してくれるかな。」

きっとそこが話の大元になっている。
そう予想をつけて、ルルが落ち着くようにそっと涙を拭う。
話をさせるために、とかそんなのじゃない。ただ、泣いているのをそのまま放っておきたくなかったから。

「・・・アルバロ、怒らないの?話を、聞いてくれるの?」

アルバロの優しい態度に、ルルは困惑したように首を傾げる。
そんなルルに、アルバロは困ったように笑った。

「ルルちゃんは怒って欲しいの?俺が話してって言ったんだし、それに・・」
「何を聞いても大丈夫って言ったよ」

その場の雰囲気を少しでも和らげるように、いつものように少しおどけて言う。
怯えきっていた瞳が少しだけ揺れた後、僅かに細められた。

どこから話せばいいのか思案しているのか、とても長く思えた沈黙の後、漸くルルが口を開いた。

「・・あのね、私の最終試験の時、私とあなたは勝負してた」
「勝負?」

最終試験の話は聞いてる。ルルが光属性を手に入れたのは・・・俺と一緒にいてその力を増したからだと・・

「うん。あなたに勝たなければ・・・私は試験に合格できなかった」
「最終試験は、パートナーとして一緒に協力したって聞いていた気がするけど」

そこでルルが困ったように俺を見上げる。

「うん、最初は…協力してうまくいってたの、でも・・・」
「でも・・・・・・?」

何だか胸がざわっとする。
この後に言われる言葉を、きっとわかってはいないのに、俺の一部は知っているから・・

「合格のためのものを、あなたに奪われたの」
「あなたと勝負しなきゃ・・・いけなくなって・・・それで、これと同じような刻印を刻まれたの」
「同じ…ような?」

どんどん知る情報に、きっと普通の者なら頭がついてこれなくなるはずなのに、何を聞いても、そうかと納得してしまう自分が、この話が真実だと如実に語っている。

「うん、でもそれは永遠的なものじゃなかった。最終試験の日まで・・」
「・・・・・・・・・」

「私があなたに勝つのなんて、到底無理だろうってわかるくらい、私と、アルバロの間には差があった」
「でも諦めるなんて出来なかったの。そう考えてから頑張って、それで調べて…」
「あなたに新たな刻印を、私が術者となることで・・・」

そこまで話して、また悲しそうな瞳をこちらに向ける。
今、彼女の瞳には俺がどう映っているのだろう?

「あなたには、私への気持ちなんてなかった・・」

全部が嘘だと言われた時の、あのアルバロの表情を、目の前のアルバロに重ねる。
あの時と考えられないくらい、瞳に温度があるけれど・・・それももうすぐ、きっとなくなる。

「だけど、私があなたを一生縛り付けてしまったから・・・傍にいるしか出来なくて」
「・・・・だ、からなの・・・ごめんね、アルバロ・・・・」

だから、繫りがそれだけだと、そう言ったのか、と漸く話を理解して。
目の前で今にも泣き崩れそうなルルに、どう言葉を言えばいいのだろうか。

「…できれば、知らない間に、刻印を・・・解除出来ればって思ったけど、でもやっぱり簡単にはいかなくて・・・」
「でも、・・・頑張って調べるから、もうちょっと・・・我慢して」

ひくっと泣きながら、一生懸命に言葉を伝えようとするルルの、手は震えてる。
もう顔もあげなくなってしまった彼女に向ける言葉なんて、考えつかない。つかないけど・・・

―――ぽすっ・・・

気がつけばその腕を手にとって、ルルが抵抗する間もないほどに引き寄せた。
指を、ルルのピンクの柔らかい髪にそっと插しこみ、軽く撫でた後、腕の中に閉じ込めた。

「・・アルバロ・・・ご、ごめんなさい・・・ごめんな「何で、ルルちゃんが謝るのかな」

うっうっと嗚咽が漏れる中、ルルが怯えないように、今の気持ちが届くようにと、

「俺が・・・もともと俺が悪いんだよ、その話聞いたら誰でもそう思うと思うよ」
「でも、一生・・・」
「・・・君を憎んでるって、俺は言ったのかな」
「・・・・・・・・・・・」

そんなことは言わなかった。
恨んでる、とか憎んでる、とかそんな言葉は一言も言われなかった。
そんなことないよっていつも、あの笑顔で言うだけで。
でも何が本当か、嘘かも、わからなくなってて・・・・

「言ってないんだよね?」
「うん・・・」
「・・・ルルちゃんは、俺との繫りは、これだけって言ったけど」

アルバロが少し離れて、刻印を目の前に翳す。
くっきり浮かんだ刻印は、消えることなどないとでも言うように、その威圧を増してぼんやり光っている。

「俺はそんなことないと思うよ」
「え・・・どうしてそう思うの?」

自信たっぷりに言うアルバロに、何か思い出したのだろうか?とルルはその表情をじっと覗う。
そんなルルの視線を目に留めて、一瞬絡ませると、小さく笑ってそのまま・・・・

「さ、片付けしてお茶でも飲みに行こうか、どこのお店行く?せっかくだから大通りの・・・」
「アルバロ?ど、どうしてそう思うの?」

そんなルルの言葉を無視して、山積みになった本に手をかけると、後でね。と視線だけを向けた。