Happy birthday alvaro!




・アルルSSです。
・1のアルバロED後の二人です。ワンド2のアルルではありませんので。






『waiting in vain』








「お誕生日、おめでとうございマス」

肩口から舞い込んだ祝いの言葉。
へらへらと愛想を良くしていても、背後を取られることは絶対にないと思うほど警戒は常に持っているのに。
それを容易にクリアし言葉をかけたのは、笑顔を浮かべたビラールだった。

「…殿下。ひどいなあ、わざとだよね?」
「何のことでショウ?ワタシはただ、お祝いを述べただけデス。」

王族たる笑みを絶やさずに、アルバロの言葉をついと交わす淡々とした様はさすがである。
この男は――と胸の奥でちろっと燃えた闇の心をすぐに収め、アルバロも笑顔で答えた。

「誕生日…ああ、そういえばそうだった気がするね。俺でも忘れていたのに、まさか祝われるとは思わなかったよ」
「ハイ。ワタシもつい先日までは知らなかったのデスが……」

ビラールはここで何故か沈黙を挟み、何かを思い出していたのかふふっと柔らかい笑顔を浮かべる。

「アナタの可愛い恋人が、教えてくれたものデスから」
「…ああ。そう。ルルちゃんが覚えてくれていたってわけ」

ビラールが思わず素の笑顔になるとは、ルルは自分の誕生日をどんな風にふれ回ったのだろうか。
相変わらず行動の先が予測とはずれる恋人の行動をアルバロが頭に浮かべていると、ビラールは「では」と体を翻した。

「今日は日曜日デスし、ゆっくり二人で過ごすのデスね。ワタシは退散しマス」

仲良く、デスと最後に余計な言葉を付け加えたビラールに、適当に言葉を返したアルバロはルルの元へ、と言うわけでもなく歩き始めた。
誕生日のことは本当に頭になかったのだが。
そう言われてみれば、ここ数日ルルがいつも以上に落ち着きがなかった気はする。

……俺の誕生日の準備?まあ、そういうの女は好きだろうが―――

今日は特に約束もしていない。
日曜日はどうする―といういつもなら聞かれる予定も、そういえば聞かれていない。
そういえば今朝は珍しくする事もない――と思い、起きた後すぐに窮屈な寮を出たことを思い出す。

……何かするなら、午後か――?

ふと、アルバロは歩みが止まっていた事に気が付いた。
約束もしていないのに(約束はしていてもあまり関係ないのだが)、ルルの行動を考えて自分の予定をどうしようか、と考え始めていたことに失笑する。

「まあ、俺は何も知らないって事になっている訳だし……」

考えるのも馬鹿らしいと思いながら、正門の方に足を向ける。
平日とは違って制服さえ着ていれば、堂々と外に出られる日を逃すのも馬鹿らしい。

「それに……あの子なら俺がどこにいても、見つけるだろうしね――」

自分が夜に街を彷徨っていた時に、犬のように名前を呼びつけ続けたご主人を思い出し、フッと溜息に似た笑を漏らしながらアルバロは門を抜けた。



***



必要以上に人通りの少ない通りを選び、街を歩き回るのは仕事の時の癖だろうか。
いや、そうじゃあない。

軽く空腹を覚え立ち寄った店は、裏通りにある一軒飲食店とは思えない店。
暗い店内の中に申し訳ない程度に漂う食べ物の匂いと、寂びれた雰囲気が嫌いではなく、時々寄っている。
こういう雰囲気の違う店に、一度だけルルも連れて行った時には「ずるい!こんなお店内緒にしてて!」と何故か怒られた。
寂びれた雰囲気におよそ似つかわしくないルルだが、出されたケーキセットをおいしい!と嬉しそうに頬張る様は、こんな事くらいで――と思う位に幸せそうだった。

今日はそんなルルもいない中、ここはルルも知らない店。
見つかる筈もなく、今頃探しているだろうか?と思いながら軽食を口につまむ。
ひらひらと飛んでくるメサージュの気配も全くないが、歩いて探し回っているのだろうか。
カンカンに怒って見つけた自分のマントを掴むルルの姿が目に浮かぶ。

どれだけ逃げて隠れて、その度に捕まって来ただろうか――?

「捕まってしまうのは、本気で逃げようとはしていないから――か……」

休日、今までは何をして過ごしていただろうか。
あんなに望んでいた一人の時間が、刺激もなく、退屈で――

求めるものがどこにあるかわかっているかのように、アルバロは空に目を向ける。
約束を告げるメサージュは、一向に見えなかった―――



***



「今日はとっても楽しかったわね!アミィ!!」
「ええ、そうね。ルル。私もとっても楽しかったわ。」

夕暮れの中、満足そうに微笑み合い。
今日買い物したたくさんの小物やグッズ、アクセサリーなどなど…パンパンに詰めた紙袋を抱え持つ姿は仲良しそのものだった。

「今日ね、珍しい木の実を買ったの。それでお菓子を作ろうと思っているの」
「わあっ!お菓子!?」
「ええ。焼けたら一緒に食べましょう、ルル」
「うんうんっアミィの作るお菓子は最高だもの!!楽しみだわ!!」

何とか片手で荷物を持つと、空いた手でギュッとアミィの手を握る。
嬉しい楽しいをいっぱいに表したルルに、アミィも嬉しそうに繋ぎ返したのだが、夕焼けに染まったアミィが困ったように首を傾げた。

「アミィ、どうしたの?」
「…え?えっと…その…あそこにいるのはアルバロさんじゃないかしら?」
「え?」

アミィの向けた視線の先にルルが目をやると、そこには確かにアルバロらしき影が座っているように見える。
少し角度を変えた目には、夕焼けに染まらない、アルバロの特徴的な色が映えて見えた。

「本当だ…あんなところでぼーっと何しているのかしら?」
「……ルルを、待って…いるんじゃないかしら?」

…アルバロが私を?
そんな訳ない…とは思うけど、あんな風にただただ時間を流しているのも珍しい。
例え自分に用ではなかったとしても、そのまま放っておくことは出来なかった。

そんなルルの気持ちを察したのか、アミィはルルの買い物したものを受け取ると、優しく送り出そうとしてくれる。

「私、先に部屋に戻っているわ。ルル。あんまり遅くならないようにね」
「アミィ…うんっありがとう!少し話したら、すぐに戻るわ!」

両手いっぱいの荷物を運んでくれた親友の背中に、精一杯腕を広げて手を振った後。
振り返って目に捉えたアルバロもまた、間違いなくルルの事を捉えていた。
重そうに腰を上げる姿に、ルルは軽快に近付いたのだったが―――

「アルバロ!何をしているの?」
「…それはこっちのセリフ、ってベタに言っちゃう状況なんだけど」
「……?何って…アミィと今日はお出かけしていたのよ。買い物にちょっと足を伸ばして…そうだ!あのねアルバロにもお土産を買って……」
「お土産?」

それが、プレゼントだったのだろうか――
待たされた割には普通だな、と小さく呟くもルルには聞こえていないようで、次々と言葉を口にしてくる。

「うん!ドラカーゴの発着場に、今日お気に入りの雑貨屋さんの新商品が届くって聞いて…そこでも少し売るって聞いて行って来たの!」
「へえ。あんな所まで、ね…」

それじゃあすれ違うこともなかっただろうと思いながら、アルバロは乱暴に片手を出した。

「そうなの!どれも可愛くて!アミィに似合うリボンも見つけて……って何?この手」
「だから、お土産、だっけ?俺のもあるんだよね。」
「あっ…うん……ああっ!!アミィに全部渡しちゃったわ……」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「そ、そんなに怖い顔で睨まなくてもいいと思うの!!……だって、アルバロがいけないのよ」
「俺が?」

さも、本当にアルバロが悪いようにルルがじっと見上げてくる。
蜂蜜色の瞳は濁らず澄み切ったまま、アルバロの真意を問うように顔を近づけてくる。

「すごく、寂しそうに座っていたわ。あんな様子珍しいから……気になるでしょう?お土産の事忘れてしまったって当然だと思うの!」
「……寂しそう?」

ハッと顔を歪ませて息を吐いたアルバロはいつも通りのアルバロだったのだが。
ルルはそれでもおかしい事なんて言っていない様に、同じ事を重ねて言ってきた。

「そうよ。勘違いなんかじゃないんだから。……言いなさいっ言わないと……」
「言わないと…?」
「お土産、あげないんだから!」

好きなオモチャをねだって買ってもらうしかないガキじゃあないんだから、そんな手に誰が乗るのか。
なのに本気でそれを言うルルに、アルバロは差し出した片手をひらひらさせて意味深に笑って言った。

「何かを画策していたらしい飼い主様は、律儀に待ってやっていた飼い犬に餌もくれずに文句を言うわけ?」
「……?画策?待っていた?私を?」
「……お土産、受け取ってやるから早く取って来い。それで誕生日はもう終わりだ」

あまりに通じないルルに、若干の苛立ちを紛れさせ放ったアルバロの言葉にルルの目が見事に丸くなっていく。
口をぽかんと開いた後、事態をようやく把握したようにふるふる震わせた。

「……おい、まさかおまえ―――」
「ご、ごめんなさいっ!!!アルバロ…そうだわ!今日誕生日……っどうしようプレゼントも何にも――っ」
「誕生日のことは知らなかった、と言いたい訳」
「だ、だって!最近休みに補習入ることも多かったし、アルバロと鬼ごっこするのに忙しかったし、
日付なんてずっと見てなくて…ようやくまともな休みでアミィに雑貨屋のこと聞かされて――」
「……ルルちゃん、ストップ――」

止めなければいつまで経っても弁解を述べただろうルルに釘を刺すと、アルバロは午前中に余計な一言をくれたビラールを思い出して頬を引き攣らせた。

「……最近、殿下と話した事、ない?」
「ビラールと?…そういえば…日曜日は何か予定が入っているんでしょう?って聞かれて、アミィと買い物に行くって話したけど?」
「・・・・・・・・・・・・」

『日頃ルルを大事にしない罰デス』

などと、無駄に説教めいた空言が聞こえてきそうだった。

「……ごめんね?ゆっくりお祝いしたいから今度のお休みに…」
「祝ってもらいたいなんて露ほども思ってないから大丈夫だよ。お土産とやらも明日でいいから。じゃあね」

事の次第が明瞭になればなんてくだらない――
全く無意味な時間を過ごした時間を押しつぶすように足を踏み出した身体は、つんのめって戻される。
理由なんて歩き出した瞬間に片方の手に繋がった温もりから明らかだけど、それを聞き返す手間すら面倒そうにアルバロが振り向いた。
声を出さずに表情で今の感情を伝えるアルバロに、ルルが口を開く。

「もう、お出かけする時間じゃないわ。寮に帰りましょう」
「俺にとっては今からが楽しい時間なんだけどね。どうせ今帰るフリしてもすぐに出かけるのわかっているよね?」

はあと、溜息をつきながらもそれが意外に重くはない。
形ばかりの軽い溜息だった。

「そんな事言って、居づらいだけでしょう」
「居づらいね。ここは窮屈だし。早く出かけたいよ」
「そういう意味じゃないの。」

飼い主が走り出そうとした犬を嗜める為にチェーンを引っ張るかのように、繋いだ手をくいっと引っ張られる。

「いつも逃げてばかりなのに、今日は私のこと、ずっと待っていたのよね」
「誰が待っていたって?」
「寂しそうに、ポツンと座っていたのは、本当に寂しかったのね。うんうんっ!」
「都合のいい解釈で、終わらせないでくれる?」
「誰が聞いたって、そうだって言うと思うの!」

こんな時は一般の恋人の尺度を持ち出してくる。
面倒な恋人の言うことに、でもそれを覆すような言葉が思い当たらない。
ますます調子づきゆるゆる笑顔を振りまくルルに、アルバロは繋いだ手を加減しないで握り潰した。

そう、文字通り。

ギュッ…なんてものじゃない。

「……っ痛いっ!!!…っもう!負けを認めたくないからってこういうのはよくないと思うわ!」
「別に、そういう意味じゃないんだけど、ねえルルちゃん」
「何……」
「俺はね、さっきプレゼントを頂戴って、この手を差し出した訳」

一度緩めた後、言葉尻にもう一度力を込めて

「その手に君は自分の手を差し出した。それって、そういう意味でいいんだよね」
「……え?」
「うんうん。いやあ嬉しいよ。俺もいい大人だし、むしろよく待っていたと思うんだよね」
「…ちょ、ちょっと、ちょっと!!」

手繰り寄せたルルの身体をアルバロは一度強く抱きしめた後、冗談ではないと伝えるように首筋から耳へとゆっくりと息をかけ、唇でなぞっていく。
耳に届いた唇は、吐息交じりの冷たく熱いアルバロの意思をルルに伝える。

絡め取るように

逃げられないように――


「おまえをもらおうか―――」



一息に縮まった距離、血の刻印をさらに刻み付けるように――――










END














アルバロお誕生日おめでとー!!

アルバロさんものすごいごまかしてます。
本当は、本当は寂しかったのバレて居づらかったのよね…と思いたい(笑)
黒バロこんなキャラじゃない。
こんな事しないとか思わないでもないけど。
誕生日くらい、いいかなあと。

殿下とバチバチ対決させるのが好きです。面白い^/^
きっと翌日、殿下とアルバロになんとも言えない空気が漂っていそうです(笑)

読んでくれてありがとうございます!!