相性は?
「あっやっぱりここにいた」
そう言っていきなり背後から話しかけられて、びっくりして急須を落としそうになる。
振り向くと薄い微笑みを浮かべて沖田さんが立っていた。
・・・いつの間に後ろに?
気配を察知するのもすごくて、気配を消すのもすごくて。
いきなり話しかけられるのにはなかなか慣れない。
「お茶飲みたくて、ちょうどよかった〜千鶴ちゃん、お茶請けもなんかある?」
「あ、はい。今日は大福が。急いで皆さんに用意するので、もう少し待っていてもらえますか?」
するととたんに笑みを消してムっとした表情になる。
「別に、みんなと一緒じゃなくてもいいから。僕の分先に入れて」
そう言いながら側にある盆についと目をやって、腰かけに座って、大福を一つ手に取りながら食べ始める。
何もこんな炊事場で食べることないのに…
チラっと横目で見るとばっちり目が合って、ニコっと笑った顔を見せられる。
そんな顔見せられたら、しょうがないかって気持になるから不思議だなと思う。じゃあ用意します、と茶葉に手を伸ばすとふいに、
「ねえ、千鶴ちゃんって大福に似てるね?」
大福を一口パクっと食べながら私を下からじ〜っと見上げてくる。
急に何を?と思ってポカンとしてたら、ケラケラ笑いながらまた一口。
片方の口の端だけあげて意地の悪そうな笑みを浮かべてるから、きっとあんまりいい理由じゃないんだろうな・・・
「ど、どうせ、まんまるだから〜とか、そういう理由でしょう?わかってますから!!」
顔を突き合わせたら沖田さんに、手のひらの上で転がされそうだから(顔を合わせなくても、そうだとは思うけど)後ろを向いて顔をそらす。
「え〜そんな理由じゃないよ?千鶴ちゃん全然まんまるじゃないし」
「え?違うんですか?なんか、悪口みたいな理由じゃなくて?」
ぱっと振り向いて、沖田さんを見ると邪心のかけらもないような顔をしてこっちを見てる。
「悪口って・・・そんなんじゃないよ〜知りたい?」
こくこくとうなずいたら、沖田さんはじゃあ教えてあげるって立ち上がった、と同時に
「千鶴〜!!いる〜?」
いきなり平助君が入ってきて、こちらを見たとたんうっと気まずそうな顔をしてる。
「どうしたの?平助君」
「い、いや…あの、その〜」
何やらあわてて、バツの悪そうにしてる平助君、どうしたんだろう?
すると、すうっと目を細めて、目で射るようにしながら沖田さんが低い声でブスっと言う。
「何、何か用があるんでしょ。さっさと済ましてよ」
「そ、総司!殺気を出すのはやめろ!いや、さっき土方さんからみんなで食えって、これ渡されて」
「土方さんが?」
一層顔をゆがませて嫌そうにしてる沖田さんを横目に
「わ〜何ですか?」
「いちごって言ってたぜ〜でも外国のものらしくて、オランダいちごってもんなんだって!」
外国のいちごなんて初めて見る。どんなものだろう?かわいらしい見慣れた苺を想像して、中を開けてみると・・・・
「「「・・・・・・・・・・・」」」
中には自分の知ってるいちごの3倍はありそうな、真っ赤ないちご。
なんだか、大きすぎてちょっと抵抗があるような…
「で、これを渡した土方さんも、もちろん食べるんだろうね」
「・・・・いや、土方さんはオレに渡したあと用事があるってどこかへ・・・」
「逃げたな」
「逃げるって、お仕事なんだからしょうがないですよ」
「違うよ、きっと中身見て逃げたに決まってるよ、あの人らしいよ」
ふんと息吐いて、僕もいらないと外へ出ようとする沖田さん。と、平助君が
「総司、これ近藤さんがもらったものなんだぞ?」
「え?」
出ていくのをやめてピタっと止まった沖田さん。
「近藤さんがもらったのを土方さんに渡して、それを俺に預けて、2人で出かけたんだよ」
「・・・・・そう、じゃあ本当に仕事かな」
「ちなみに、食べた感想後で聞くって言ってたから、総司も逃げるのは無理」
「・・・・・・・・・・」
「へ〜これがいちごね、こうも大きいと可愛くねえな」
「図体ばかりがでかくて、あんまり甘くねえんじゃねえか?」
さっきからみんないちごを見るだけで食べない。でも食べないわけにはいかないから、そのまま時間だけが過ぎていく・・・
「も〜見てないで食べろよ〜」
「あ?平助!こういうのは年の若い奴からいくんだよ!」
「そうそう、お前が食べて感想教えてくれたら万事収まるってこと」
永倉さんと原田さんにそう言われてがっちり体を押さえられて、平助君は腕を振って体をほどこうとしながら
「何でオレばっかり〜!!あっそうだ、一君!剣術指南で疲れただろう?遠慮なく食べなよ!」
我関せずでいた斎藤さんは無表情のまま、
「何故俺が…俺は千鶴の淹れた茶で十分だ…うまいな」
そういって優しい目をして私を見るから、なんだか照れる。穏やかな空気に一瞬で包まれて
「ありがとうございます」
と言えば口元もほころんで少しだけ微笑んでくれる。
「あれ〜斎藤君土方さんのご命令だよ?食べなくていいの」
突然放たれた一言は、なごんでいた場を一瞬にしてかき消すような声で。
「今は茶で十分だと言っている」
「ふうん、千鶴ちゃんの淹れたお茶が、好きなんだね〜いつもお茶より食べ物にいくのに」
「・・・・・・」
沖田さんの、ちょっと小馬鹿にするような言い方にムっとして、沖田さんをにらみ返す斎藤さん。
一瞬にして殺伐とした雰囲気に!!な、何でこんなことになってるの!?
その時更に雰囲気を悪くするような爆弾発言が・・・・・
「この、オランダいちごってやつ、総司みたいだな〜」
「・・・・・どういう意味?左之さん、喧嘩売ってるの」
「あ〜でもわかるよ!赤で、毒々しく見えてさ、食べたらなんかあたりそうだしな〜っておい!総司!刀抜くなよ!!何で左之さんじゃなくてオレ!?」
「おまえは一言・・・どころじゃねえな、余計なこと言いすぎなんだよ」
何だかだんだん大騒ぎになっていく場を見て、どうしたらいいのかわからない。
やめてくださいって言って、やめるような人たちじゃないし…もう、いちご食べるだけでどうしてこんな騒ぎに・・・・いちごを食べるだけで…いちごを食べたらいいんだ!
と、頭で考えた瞬間、もう行動に出てた。
「皆さん!やめてください!!さ、いちごを食べましょう!!」
勢いで言っていちごをつまむもその大きさにちょっとひるんでしまう。大きさを見ちゃうからいけないんだ!と、また考えた瞬間に
ぱっと大福を手にとって割り、その中にいちごを入れて見えないようにして食べる。手が粉やあんこでベタベタだけど、気にしないでもぐもぐ食べていく。
「な、何してるの千鶴!?気は確か!?」
「千鶴ちゃん!?やけになっちゃいけねえ〜よ!!」
「よっぽどさっきの騒ぎが怖かったんだな、かわいそうに。」
「・・・・・千鶴・・・」
「君って面白いことするね〜ふふ、潔い子は好きだよ」
みんながそれぞれ言いながら私を見てる。私はというと、もぐもぐ食べてるうちにあんこの甘さと、いちごの甘酸っぱさが調和されて、食べたことない、おいしい味にびっくりしてた。
「み、みなさん…これ、この食べ方…」
「あ〜わかってるよ、無理すんなよ」
「ち、違います!おいしいんです!!おいしい!!こんなの初めてです!!」
私の一言にみんなびっくりして目を見開いてる。それでも私が口を休めず、おいしそうに食べてるのをみて興味を持ったのか、原田さん、永倉さん、平助君が同じようにして食べてみる。
「うおっ!!こりゃうめえ!!不思議だな〜なんでこうなるんだ!?」
「ちょっ新八っつあん!!取〜り〜す〜ぎ〜!!オレももっと食べたいんだから!!」
「こりゃ、商品化したらきっとバカ売れだぜ?」
3人までパクパク食べてるのを見て、斎藤さんと沖田さんはぽかんとしてる。
このままじゃなくなりそうだったから、大福を2つ、同じようにいちごを中に入れて2人に差し出す。
「はい。だまされたと思って、食べてみてください」
千鶴に満面の笑顔で、ほほを少し赤くして、下から見上げられて、ニコッとされてはこの2人が断れるはずもなく。
「じゃあ、いただこう」
「斎藤君、僕が勧めた時にはそんなに素直に食べなかったよね」
「千鶴は良かれと思ってしてくれてるのがわかる。おまえとは違う」
「はいはい・・・」
2人でパクっと食べると2人とも先ほどの3人組と似たような顔してる。
「これは…意外な組み合わせなのに、こうもまとまるものなのだな」
「よかった!おいしいですよね!!」
「・・・・・・・・」
「?沖田さん?おいしくないんですか?」
食べた後、一言も発せず何やら考え込むように黙ってる沖田さんに、口に合わなかったのかと不安になって尋ねると、ああ違う違うと首を振って笑ってる。
「あんまりおいしくて、びっくりしたんですか?」
さっき食べたあとのちょっと呆けた顔を思い出して、自然と笑みがこみ上げてくる。
「うん、おいしいね。それもあるけど・・・千鶴ちゃんと僕は相性ぴったりなんだと思って嬉しくってね?」
・・・・・・????
「な、何のことですか?ちゃんと順序立てて話してください〜」
聞いたとたん待ってました!と言わんばかりに顔をに〜っとさせて話を続ける。
「さっき僕のこと、このいちごみたいって言ってたでしょう?」
「はい・・・あっでもそんなことないですよ!?」
さっきの殺伐とした雰囲気を思い出して、あわてて否定するけど、沖田さんはそんなことかまわないといったような平気な顔で、
「いいの、このいちごみたいだと僕も思うよ。で、千鶴ちゃんは大福だから、僕と、君との相性はいいってことでしょ?」
「え?」
「意外な組み合わせだけど、まとまるといい味だすんだよ?きっと」
沖田さんはそう言いながら、斎藤さんをちらっと見て、なぜだか勝ち誇ったような顔をしてる。
どんどん話が進んで、頭が追い付いていかない私より先に口をはさんだのは平助君。
「千鶴が大福って何!?そんなこと言ってたことあったっけ?千鶴はまんまるでも何でもないじゃん!!」
平助君、私と同じこと言ってる・・・
「まんまるとかじゃないよ、似ている理由は教えないけど」
「でも、理由を教えてくれなきゃ、総司と千鶴の相性がいい、なんて認めるわけにゃいかないよな〜」
興味津津な様子で聞いていた原田さんが横やりを入れてくる。
でも、本当に何で大福なんだろう?さっきは教えてくれるって言ってたのに・・・
〜〜〜〜聞きたい。どうしよう。ここで聞かなかったら多分、気になって何にも手につかない気がする。
「沖田さん!私も知りたいです。悪口じゃないなら教えてください!!」
「え〜知りたいの?」
「さっきは教えてくれるって言ったじゃないですか」
「う〜ん」
沖田さんは眉をよせてどうしようかな〜とぶつぶつ言ってたけど、私の周りにいる皆さんをチラっと見渡して、ま、いいかとボソっと息をつく。
「じゃあ言うね?千鶴ちゃんが大福に似てるって思ったのは・・・」
やっと教えてもらえる!と期待してジッと沖田さんを見てたら、ふいに沖田さんとの間が一気に詰まって、そっと抱きしめられる。
「なっ!?お、沖「やわらかくて」
そっと沖田さんが離れて、2人の間にまた空間ができたと思ったら、軽く触れる口づけが首に。
「白くて」
すごく大事なものを見るような、優しい目を私に向けて、慈しむように微笑んだと思ったら、今度はそっと唇に降り注ぐ口づけ。
「甘いところ」
口付けの合間にそっと呟かれて、最初は驚きすぎて身動きできなかったのに、徐々に体に熱が集まって、ドキドキが抑えられなくる。胸がキューっとしてどんどん、どんどんこみ上げるよう愛しさがあふれてくる。
こんな感情知らない、どうしたらいいかわからない。けど、このままでいたい…とそのまま気持に流されていたら・・・・
「総司!!何してるんだよ〜!!」
平助君のどなり声で瞬時に我に返って、みんなの前だったことに改めて気がついて、今度は恥ずかしさで体が熱くなっていく。
「なにって説明をしてたんだけど、納得した?」
悪びれた様子もなくまだ私の肩に手はおいたまま、沖田さんは飄々と答える。
「総司〜!!この間振られたばっかの傷心の俺の前で、見せつけんなよ!!」
「別に見せつけるつもりはなかったのに。だから僕は言いたくないって言ったでしょ」
「・・・は〜これを狙ってたんだな、乗せられたな」
「さすが左之さん、わかってるね〜」
いまだにぴったり私に寄り添いながら普通に会話していく沖田さん。なんでそんなに余裕な態度なの!?また掌で踊らされてしまったみたい。。。
その時チャっと刀に手をかける音が・・・
「・・・・・斬る」
「あっははは!!斎藤君なあに?やきもち?男の嫉妬はみっともないよ〜」
『『『おまえが言うな!!!!』』』
私から離れて刀に手をかけた沖田さんを見て仕方なく3人組が動いた。
「あ〜もう斎藤!気持はわかるがやめとけ!!私闘はご法度だぞ!!」
「総司も、もうこれ以上一君を怒らせんなよ!!」
「とにかく、土方さんが帰るまでに2人をなんとかするぞ!!」
またいつものようにわ〜っと騒ぎになってしまったけど、いつもと違うこと。
騒ぎ合ってる合間に沖田さんと何度も目が合う。
一瞬だけ見つめてくれるその時間が、どうしようもなく幸せに感じるようになっってしまったこと。
END
江戸時代、私たちが今食べてるいちごは、最初大きくて気味悪がられていた、というようなことをどこかで読んだような気がして、無理やり沖千小説にしてしまいました(笑)
個人的に斎藤さんは2番目に好きなんですか、それゆえにいつもこんな立場なキャラになりそうです。