1 沖田さんの簪にしよう。

お店のお客に、私には想い人がいます。と主張しているようで、恥ずかしいは恥ずかしいけど…それでも確かにそういう人がいると思われる方が、私も安心な気がする。
誰が好き、とかまではきっとわからないだろうし……大丈夫だよね?沖田さんの家紋って有名なのかな…
新選組をよく思わない人たちが、知っていたら…それはそれで問題になるような気もするけど。。。
でもそれはそれで早期問題解決になるのでは?と思いなおして、そっと簪を髪にさす。
そのとたん、私の想い人は沖田さんです。と自分が言っているような気がして、胸の中がくすぐったい。

沖田さん、なんて思うかな?
身支度を終えた私は、そのまま二人が待つ角屋へと向かった。

角屋に着くとまず、二人の待機する部屋に案内される。
途中案内をする少女に、軽く話をした後、すぐに補助に入ってほしいと頼まれて、わかりましたと頷く。
お店の中に入って、久し振りにその独特の空気を感じて緊張しているせいか、自分でも声が硬いと感じた。

そう思いつつ、千鶴です、失礼します。と部屋の中に声をかける。
どうぞ~と総司の間延びした声が耳に届いて、その声に少しだけ緊張が和らいだ気がした。
沖田さんはどこにいても・・・沖田さんだな、と当たり前のことを思いつつ、それがなんだか嬉しくて、すっと襖を開ける。

そっとお辞儀をして、部屋に入り、顔をあげると・・・
本当の芸者みたいだね、と首を傾げて微笑む総司と、それに俯いたまま頷く斎藤。

「前と、お化粧の仕方とか、髪とか少し違うんだね」
「あっはい、手伝ってくれた方も違うし、着物も違うので・・・」
「そうなのか、不便はないか?」
「はい・・・」

相変わらず俯いたまま話す斎藤に、千鶴は気分でも悪いのかと思い、

「・・・斎藤さん、具合でも悪いんですか?」
「い、いや・・・違う」

心配されて、慌てて顔を上げるも、こちらは見ない。
・・・・どこか、変なところでもあるのかな・・・そう思い自分の姿を確認するように、着物に目を向け、帯などを確認する千鶴に、

「大丈夫、どこも変じゃないよ。似合ってる、特に…」

総司はちらっと千鶴の頭の方に視線を向けた。
その視線の先にはもちろん、総司の贈った簪がある。
簪をさした時の照れくさい気持ちが胸に湧いて、千鶴はさっと頬を染めていく。

「・・・残念、こんなに可愛い芸者さんには・・・もう想う人がいたみたいだね?斎藤君」
「何の茶番だ」

呆れたように総司を見る斎藤に、それでも総司は顔を緩めたまま、え?茶番?とにこにこしている。
そしてすくっと立ち上がると、一束だけ下ろした髪をそっと掬い、目をじっと合わせて千鶴を覗き込む。
千鶴を見つめる総司の表情はとても優しい。

「ねえ、君の想い人は誰なのかな?気になるな」
「~~~沖田さん!か、からかってばっかり!」「総司、千鶴にはすることがある、邪魔をするな」

二人の言葉に、はいはい、と肩をすくめて、そっと髪を手離す。さらさらと千鶴の肩に戻っていく髪をぼんやり見つめながら総司は、
そっと簪に触れて言った。

「この簪を…つけてくれて、ありがとう・・・嬉しいよ」
「・・喜んでもらえて、私も嬉しいです」

そっと顔をあげれば、意地悪でも、無邪気でもない、千鶴を慈しむような笑顔。
目に入れた途端にどくっと脈打った胸は自分の気持ちを正直に吐露しているようで。
頬紅ではごまかせないくらい、赤くなりそうな頬に気が付いて、慌てて声を出した。

「あ、あの!私そういえばすぐに補助に入るように言われてたので・・・い、行きますね!」
「ああ、何か不審な点があればすぐに知らせてくれ、俺たちも交代で独自に動いては見る」

千鶴の言葉に斎藤が頷き、千鶴もまた頷き返して部屋を出ようとした時、総司の声が耳に入る。

「絡んでくる人がいたら、私にはもう決まった人がいますって言うんだよ?」

その声は、もういつものからかい声。
それがなんだか悔しくて、知りません!と一言だけ言い放って部屋を出る。
廊下に出てすぐに、あっこちらです。と待っていてくれたらしい少女に導かれるまま、ありがとう、と声をかけて、案内について行く。

これから周囲に目も耳も、神経を尖らせなければいけないのに、まだドキドキしている胸。
そっと簪に手を触れながら、千鶴は客の待つ部屋へと入って行った。




沖田⇔千鶴♥1up





8へ続く