艶姿をもう一度

3





合わせられた声の後、暫しの静寂。
名乗りを上げた五人は、お互いを牽制しあうように見合う。

「・・・・・おまえら、他の任務もこれくらい積極的に引き受けろよ」

半ば呆れながら土方が見回すと、我先にとばかりにまた一斉に声があがりだす。

「土方さん!やっぱりこういうのはよ、普段島原に慣れてるやつの方がいいと思うんだよ、だから俺を…」
「・・・・・おまえ、この間の潜入の時、千鶴の様子見に行って、…酔っぱらって寝たよな…」
「ぐっ…」

二の句を告げない新八に同情の眼差しを受けながら、左之は自信満々に、

「千鶴を一人島原に…なんて考えてねえだろ?護衛は必要だしな。ということで俺を・・・」
「は、はいはい~!!オレも!!左之さん一人だと何かあったら困るし、やっぱり二人一組じゃないとな~だから…」

すっかり行く気になっている左之と平助に、ちょっと待て、と口を挟もうとする土方だったが、その前にどんどん人が割り込んでくる。

「左之さんと平助なんて、島原お騒がせ組じゃない、ここは酒にも女にも興味ない僕が妥当だと思うけど」
「それは言える。あんたらは酒に弱いしな。任務中に酒に手を出すとも限らない・・」

ふんふん、と首を深く頷きあって、だから俺を、僕をと無言で目で訴えてくる斎藤と総司に、土方はだから、と声をかけようとしたのに、また人が割り込んできて…

「なんだよ!いくらオレだって、任務中に酒は吞…まない。吞まないぜ!?」
「そうだぜ?そりゃ仕事も終わって、ほっと一息ついた時の話だろう?」

何を言っているんだよ、なあ、と肩組みあう二人に、斎藤は一瞥の眼差しを向ける。

「だが、いつ何があるかわからない状況下では、任務時間は関係ない。酒は口にはできない。それがわかっているのか?」
「うっ…」「ぐっ…」

酒は口にはできない。

その斎藤の一言に二人はつい返す言葉がない。
島原で、周りでは酒を吞んでどんちゃん騒ぎをしている中で、いつまで続くかわからない任務をこなせるのだろうか…
そしてようやく訪れた沈黙、語らう機会に土方は、いや、ちゃんとそれについては…と言おうとするも…

「そうそう、だから僕に任せておきなよ」
「…総司一人では無理だ」
「なんで、僕って信用ない?」
「違う、こういう時には一人で護衛など定石から外れている。せめて二人一組で、屯所にも連絡を繫げなければならないし・・・」
「・・・つまり、斎藤君も行きたいってこと?」
「・・・そうだと言っている」
「ふうん…いいんじゃない?ねえ土方さん、僕と斎藤君で・・・」
「ちょ、ちょっと待て!酒が吞めなくても我慢するからオレも!土方さんオレが行く!絶対!」

総司と斎藤と二人でとんとん拍子に話を進めて、あわや決まりかというところで、慌てて平助が二人の間に身をすべり込ませて精一杯、はい!はい!と挙手をする。

先ほどから、皆の輪から少し離れてその様子をじ~っと見ていた千鶴は、
・・・どうしてみんなそこまで、護衛したがるんだろう…やっぱり島原が好きだからかな?きれいな女の人もいっぱいいるし…
でも潜入なのに・・・うん、私は気引き締めなきゃ!!などと全く見当違いなことを考えていた。

そんな千鶴の勘違いなど知るはずもなく、千鶴を守るための男たちの口争いは止まらない。

「だってさ、じゃ、僕と平助ってことで」
「え!?いいのか!!」
「・・・・・・・・・・・(怒)」

思わぬ総司の言葉に、平助が嬉しそうにぱっと顔を輝かせるのとは対照的に、斎藤の顔は苛立ちをそのまま表情に出している。

「何故俺が外れることになる」
「だって、斎藤君、この間も用心棒してたでしょ?一回したし、もういいでしょ」
「そ、そうだよな~!」
「回数は問題ではない。そもそも、総司に決められる謂れはない」
「もう決まり」
「やった!」
「決まっていない」
「・・・・・・・・・おまえら楽しいか?」


何でこんなくだらないことで、ここまで話が続くのだろう…新選組の幹部がこんなことでいいのか…と土方は情けなくなって怒る気もなかった。
そして、今までの会話全てが無駄だと切り捨てるように、それぞれに言葉を向ける。

「今回の護衛は、斎藤と、平助にしようと考えている」
「え?」

その土方の言葉に一人だけ猛烈に不満を表情に噴き出した男は総司。ちなみに新八と原田はすでに会話で士気低下していた様子である。

「・・・なんで、僕はまた屯所待機ですか?」
「おまえ、体調戻りきってないだろう?ずっと揚屋にいついて、気を張ってじゃ・・・」
「大丈夫です、見廻りだって、稽古だってしてるじゃないですか」
「しかし・・・」
「そんなのが理由なら、僕は認めません」

挑むような視線と、懇願するような視線を交えた視線を真向から受けて、土方も何も言えなくなる。
しばらく視線を交わしあった後、仕方ねえな…と呟きながら、

「じゃあ、総司と・・・・」
「僕一人でもいいですよ?ねえ、千鶴ちゃん?」

土方が折れたことに機嫌を良くし、にこっと笑顔を不意に向けられた千鶴は、えっと思考停止状態になる。
・・・・沖田さんと二人?それは・・・・・
振り回される自分を楽々と想像出来て…きっと、心がもたない。
さっと顔を横にそらした千鶴に、態度が悪いな~総司は軽く頬をつねった。
ううっとつねる手を離そうとする千鶴の必死な表情を見て、楽しそうに笑っている総司の姿。

「・・・・・・・土方さん、まさか総司と千鶴の二人なんて言わないよな?」
「安心しろ、二人で行かせる気なんぞ毛頭ない」

二人の様子を見ながら、平助と土方は確認しあうように言葉を交わす。

「では、残り一人は如何様に?」

平助と斎藤はきっと自分だと、期待と、あと緊張も込めて、じっと土方の返事を待つ。

・・・・・・・総司はなあ、千鶴にはえらい構うところがあるからな・・・
やっぱり人選をしくじったか?
心の中で今更後悔しても、あのように喜んだ総司を見ると取り消しなど言えないところは少し甘いのかもしれない。。
総司の暴走を止めるって点ではあきらかに斎藤の方が・・・だよな。

うん、と心の中で納得し頷くと、土方は改めて二人を見る(新八と左之はもう端から考えていない)

「・・・斎藤、頼むぞ」
「御意」「えええええ~・・・・そんなあ・・・・」

安心したように口元を緩ませて、早速後ろで千鶴にじゃれる総司を止めに入る斎藤と、
最初はオレだったのに…なんだこれ!!理不尽だ!!と、がっくり肩を落とし、心で泣く男平助。

こうして・・・島原潜入は沖田、斎藤、千鶴の三人に決まったのである。




4へ続く