艶姿をもう一度

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「この間潜入した揚屋は、うちのもんもよく世話になってる店なんだが…」
「はい…」

緊張した面持ちで土方の言葉を待つ六人は、その言葉の続きを静かに待つ。

「店主がどうしてももう一度店に出て欲しいと泣きついてきてだな・・・」
「「「「「「・・・・・・・・・・・・・・・・」」」」」」

その言葉に皆が一斉に…キレた。

「ふ、ふざけんなよ!どんな理由かと思えば!!そんなの受ける必要なんか全くないし!!」
真っ先に立ち上がって、土方に突っかかるのは平助。その言葉に続くように左之も口を開いた。

「土方さん、んな冗談は面白くないぜ?」
「冗談じゃない」
「・・・冗談じゃないなら尚更面白くないな、そんな理由で店に向かわすなんて潜入でも何でもねえじゃねえか!」
「土方さんらしくない提言だな、なんだよ、何か弱みでも掴まれてんのかよ」

嘆息しながら言葉を漏らす新八に、土方はそうだ。と睨みながら言葉を吐いた。

「どっかの三馬鹿が拵えた借金が膨れ上がって、…その督促がきてる」
「「「・・・・・・・・・・・・」」」
「・・・というわけだ。千鶴、大丈夫か?」


そして話は冒頭に戻る。


「ぐだぐだ文句言うな!おまえらのせいだろうが!!」
「オレら、じゃない!新八っつぁんが吞み過ぎなんだよ!!」
「いいいいや~だからって何もそんな…金ならちゃんと返すからよ!」
「そうだよ!金さえ払えばいいんだろう!?何も千鶴を・・・」
「「うるさい」」

シーーーーーン・・・・・

ずっと話し合いを傍観していた総司と斎藤が、言葉を合わせて、その場の空気を一刀両断する。

「・・・こんな馬鹿げた茶番につき合わせるために、わざわざこの部屋に集まったとか・・・そんなことないですよねえ」

底冷えするような瞳で薄く、無理に微笑みを作って、総司は委縮する三人を無視して、土方を見据える。

「・・・総司、副長には何か考えのあってのことなのだ、口答えはするな」

そう言いながら、何故か斎藤の手は腰の刀に携えられて、千鶴を背にかばっている。

「どうなんですか?」「お考えがあるのですよね?」

じっと土方を見やる二人の視線は、言葉ほど甘くない。
今にも斬られるのではないか、というぴりぴりした空気を感じる。

「それは・・・・・・・」

そのまま口を閉ざす土方に、総司と斎藤はさらに土方に詰め寄っていく。
土方ははあっと溜息をつきながら、ちらっと二人に目をくれる。

「…そういうことで、千鶴を預ける。…それが表向きの理由ってことだ。」
「じゃあ本当の理由は?」「やはり・・・」
「・・・まあ、前と同じ理由だな、新選組のことを嗅ぎまわるやつらが、性懲りもなく出てきたってことだ」
「・・・それだけ、ですか?」

それで納得だろう?と言うような土方の言葉に、総司は不満気な顔をする。

「それだけ、とは何だ。十分な理由じゃねえか」
「大体、確かな情報なんですか、わざわざ千鶴ちゃんを店に出す理由があるんですか?」
「・・・・・・・・」

その総司の質問に土方はぐっと詰まる。
それは土方も思ったことだ。しかも今回、情報元となっているのは監察方の報告書、ではなく・・・その店主や芸者の供述のみ。
そんな証言だけで、はたして動いていいものなのか、それはそう思う。今でも強く思う。むしろ…店に出すのは反対だ。けれど…

「…どうも浪士だけじゃない、京の連中…ただの町民も何やら嗅ぎまわってるみたいでな」
「町民?…町民と見せかけて、薩長に協力するものなんか探せばいくらでも出てくるんじゃないですか?」

何を今更…と、総司が顔をゆがめて土方をじっと見る。

「はっきり言ってくださいよ、千鶴ちゃんが会議に参加している理由がそれじゃ全然わかりませんよ」

言葉とともに、返事を促すように尖った視線を送ってくる総司に、人の話は最後まで聞けよと、土方は小声でぽつっとこぼしてから、諦めたように言葉を吐いた。

「その町民と思われる連中の口から千鶴の名前が出ることがあるらしい。」
「え?私の?」

思いもよらない言葉に、千鶴はびくっと肩を揺らす。

「…それに、千鶴に似た容姿の女を…その中に見た、という報告もある、扇動していたのもそいつじゃないかって話だ」

その土方の言葉に原田のは一瞬眉をひそめる。
少し前にあった制札を引き抜くという犯人を捕まえた時、ふと目に留まった千鶴に似た容姿を持つ人影を見た。
それと何か関係があるのだろうか?

「・・・それに最近屯所の周りに怪しいと思われる奴らをよく見るんだ・・・だから・・・「ちょ、ちょっと待ってくれよ!土方さん!」」

たまらず平助が土方の言葉に割り込んできた。

「それって、千鶴を疑ってるのかよ!千鶴がそんなことするはずないだろ!!」
「…平助、落ち着けって」

興奮して立ち上がる平助を、左之は無理やり押さえこんで座らせる。
それでも目は不満げに土方に向けられていた。
その視線を正面から受けて、それでもびくともせずに、見据えるように土方は…

「事実を言っているだけだ」
「土方さん!」
「落ち着きなって平助、…土方さんは千鶴ちゃんを疑ってなんかないよ」
「え?」「総司・・・」

総司の言葉に二人は口をつぐむ。

「要は、こそこそ嗅ぎまわる鼠の頭を押さえるための潜入…ですよね?」
「そうだな、真犯人を捕まえればいい」

総司の言葉に斎藤も頷く。
え?ちょ、ちょっと…と話の展開についていけずに落ち着かない平助を置いて、土方は千鶴にゆっくりと目を向けた。

「まだ詳しいことはわからねえが、おまえに全く関係のない話じゃないってことはわかったな?」
「はい・・・」
土方の言葉に千鶴はそっと頷く。

「…千鶴がそいつらに姿を見せることによって…」
「その一味も自然に集まってくる」
「一網打尽・・・ですね」
「ああ」

土方の言葉に総司と斎藤も納得したように頷く。
新八と左之も了解、と言葉を漏らす。
ただ平助は…・

「で、でも…それなら尚更千鶴を島原に行かせるの危ないんじゃないか?」
「そりゃあ・・・安全じゃあないだろうな」
「なら!やっぱりオレらだけで・・・」
「平助、あそこは場所の性質上調べにくいって言っただろう?」
「・・・・・・・・・・・・」

それでも何か言いたげに押し黙る平助だけど、でもその不満を断ち切るように土方は言い放った。

「よし、それじゃあ千鶴にはまた潜入任務を任せた」
「は、はい!がんばります!」

その千鶴の返事に続いて、一斉に声が上がった。

「「「「「じゃあ、俺(僕、オレ)も一緒に」」」」」







3へ続く