続!艶姿をもう一度

「雪村千鶴禁止!!」





「・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・」

部屋の主である土方がいなくなっても二人はお互い黙ったまま、放心状態で。
それはそうだ、あんな沙汰は聞いたことがない。
もっと…常識的な沙汰が下されると思っていた。が・・・・

今の二人には本当に堪える沙汰だった。
満足そうな土方の表情を思い出し、総司は顔を歪める。

「・・・絶対・・・土方さんの提案だ。近藤さんはこんなこと言わない」
「そうだとしても、それを許可したんだ。同じことだろう」

ふうっと斎藤は溜息をつくと、ゆっくりと立ち上がった。

「・・・・・疑問なのだが、見るな、と言われても会ってしまった場合はどうなるのだ?」
「さあ・・・ようするに見るような位置に行くなってことでしょ。部屋の近くとか…」
「だが、食事時などはどうしても共の部屋に着くわけだし・・・いれば・・・」
「見ちゃう?・・・結構言うね。斎藤君って暇さえあれば千鶴ちゃん見てたんだ。ふうん~」

小馬鹿にするような軽い声色で、からかうような口調に斎藤は思わずむっとしたけど、ここで口論してはいつまで経っても、この禁止令は解けない。ぐっとでかかった言葉を飲み込んだ。
代わりに、総司に同じ言葉を投げ返す。

「総司は、千鶴がいても…目で追うことはないんだな?」
「見るに決まってるじゃない」
「・・・・・・・おまえ・・・」
「僕は暇さえあれば千鶴ちゃん見てるけど、斎藤君がそんなことするとは意外って思っただけだよ」
「・・・・・・・・・・っ!?」

総司の言葉に黙って耳を傾けていた斎藤が、急にそわそわとしだしたのに総司は目を開く。

「何?」
「いや・・・今・・・」

廊下を気にする斎藤に、合わせて注意を向けてみれば・・・この足音・・・・
思わず障子戸を開けようと無意識に手がかかるけど、その手を斎藤が止める。
足音の主、千鶴は何も気がつかず通り過ぎようとしたのだけど・・・


「千鶴~今日オレ非番だから、一緒に過ごそうぜ~!!」
「あ、平助君!いいよ!・・・何して過ごす?」
「そうだな~・・・じゃあさ「平助、抜け駆けか?」
「さ、左之さん!何だよ!悪いかよ!」
「いや?邪魔者がいないから、よかったな」
「・・・邪魔者?邪魔ものって?」
「い、いや、何でもない!左之さん、余計なこと・・・」
「へいへい、千鶴、今度は俺と遊ぼうな?いい処連れてってやる」
「はい!楽しみにしてます」



し~~~ん。

「・・・総司」
「何?これ、思ったよりキツイね・・・あの二人と顔合わせたら手が出そう・・・「出すな」
「・・・わかってるよ」

斎藤の声はいつも以上に抑揚がない。俯いた表情は何を考えているのか。

「任務も、これまで以上に真面目にこなせ。態度が目に見えて改善されれば…」
「禁止令解除も近いって?・・・・・・はあ」
「俺は行く、指南稽古をせねば・・・」

・・・・・怖っ何あの表情。
真面目君ほど怒らせたら怖いものなんだな・・・

この時点では、斎藤の方が千鶴禁止のことを重く見ていた。
総司は、禁止と言えども、見ないとか無理だし、すぐに解ける。とどこか楽観した気持ちも生じていた。

が、世の中そんなに甘くない。

食事も、完全に別にされていた。
総司や斎藤が非番の時は、千鶴は大体、土方の部屋で雑用の手伝いで。
他の幹部の協力があるせいなのか、すれ違うこともなく。。。

つまり本当に禁止状態が一週間続いたのである。


・・・・・・一週間か・・・・

隊士の剣術稽古をぼうっと見つめながら、斎藤がついつい考えてしまうのは・・・

どうしてこんなことになったのだろう?
千鶴のことになると、つい・・躍起になってしまう自分がいる。
嬉しくても、動揺しても、冷静さを保てるようにならねば・・・・
会いたくて、声も聞きたくて、笑顔を向けてほしくて、伸ばせばそっと繫いでくれる手を思い浮かべて自分の手を握りしめる。

その日の為にも、今はまず目の前のことを・・・・

「斎藤組長、終わりましたが・・・」
「ああ、それでは各自の指令に従え。休めるものは休んでおけ」
「はい!・・・・あ、組長!これを雪村に渡しておいてください」
「・・・・・・・千鶴に?」

隊士たちは斎藤と総司にそんな禁止令が出ているのを知らない。
この隊士としては、どうやら組長のお気に入りである千鶴への用事を頼むことで気を遣ったつもりなのだが・・・

「はい、この間町で原田組長といるところを見かけまして」
「・・・・・・・・左之と」
「私がちょっとその時気分悪くてふらふらしていたのを、心配してくれて」
「・・・・・・・・ほう」

隊士は斎藤の表情がどんどん無になっていくのに気が付かない。

「それで介抱してくれたので、その御礼を・・・これなんですが・・・って、く、組長!?」

ぱっと嬉しそうに顔を斎藤に向ければ、何故か木刀を構えてこちらを見据えている。

「まだ稽古は終わっていない、構えろ」
「えええええ~!?」

隊士の悲鳴が響き渡ったのである。


その悲鳴が響き渡る同時刻。
斎藤と同じく、気分が一向に冴えない男が一人、刀の手入れをしていた。

・・・・・一週間。一週間だよ・・・
何で解除されないの?・・・まさか近藤さん忘れているんじゃ・・・まさかね・・・

近藤さんのことがなかったら、とっくにこんな命令聞かずに飛んで行っていただろうな・・・会って、声聞きたい。こっち向いてほしい。抱きしめたい。
考えれば考えるほど、落ち着かない。

・・・千鶴ちゃんは、どう思っているのかな。
さみしい、と思ってくれてるかな。
それとも・・・土方さんや、平助、左之さんに気が傾いていたりして・・・

そんなことを頭によぎらせて、ブンブンと首を横に振る。
いや、ない。あんな冷血漢で人を不幸にして喜んでいるような・・・僕が非番の時はちゃかり千鶴ちゃん独り占めして・・・(かなり恨んでる)

『これから、いいと言うまで、千鶴に近づくの禁止、話しかけるのも禁止、未練がましく見るのも禁止。わかったな?』

土方の言葉を思い出す。
むかむかしてくる気持ちとともに、どうにか出来ないかと頭を捻る。

・・・・・・・・・・・・そうだ、文なら・・・・・・・・

でも、渡すのダメなんだよね。
部屋の前に置いて・・・いや、誰に拾われるかわからないし、それに近づくの禁止だし…
となると・・・誰か他の者に頼む・・・うん。それがいい。そうと決まれば・・・

先ほどまでの表情とは一転して、少しだけ顔を緩ませながら総司は筆をとったのだった。

「雪村、これを預かっている」
「はい、ありがとうございます・・・」

何だろう?文?あの人、一番組の、沖田さんが目をかけてる隊士の方よね?
不思議に思いながら千鶴が文を広げれば、差出人は総司となっている。

・・・・沖田さん!?

一週間。千鶴だって何も思わなかったわけではない。
やっぱり、二人に会えないのはさみしくて。でも自分が不満を言ってはいけない。と我慢していたのだ。
だから、文はとっても、とっても嬉しくて。
会いたい。さみしい。声が聞きたい、と正直に書かれる総司の気持ちが込められている文は、とてもくすぐったくて。
空っぽになってきそうだった胸の中が、温かいものでいっぱいになる。

・・・文なら、大丈夫なのかな。・・・返事、返事書こう!

千鶴も嬉しそうに顔を緩ませて筆をとったのだった。


そしてまた一週間。

総司は一番組の隊士で、信用出来るものに、千鶴に渡してもらい、千鶴からの返事をもらう。
それを続けていた。
ずっとずっと話したくて、話したいことはたくさんあれど、千鶴への想いばかりが先走って、ついつい、願望ばかりが文字になる。完全に恋文だ。
それでも千鶴からの返事には、私も早くお話したいです。とか、今、沖田さんがいたら…と同じようなことも、書かれていて、嬉しさに胸が躍ってばかり。
禁止令は嫌だけど、恋文を交わしあうのも(千鶴のは別に恋文では…)、いいかもしれない。

でも、声に乗せた言葉で、同じことを言ってくれたら・・・
そんな想いが募るのも仕方ないことで、千鶴からまた先ほど届いた文をにやけながらも、さみしい気持も添えて読んでいた。

しかし、こんな小細工というのは露見するものである。

目に見えて元気がなくなっていく斎藤はそれでも健気に任務を、与えられた以上にこなして。
総司は与えられた任務を忠実にこなしてはいるが、こちらは目に見えてウキウキしている時がある。

・・・・・・・・怪しい。

そう事情を知る者が見れば思うのが当然で。
結局、総司の行動を監視しろと言われた山崎によって、文のことがばれたのである。

「総司!!てめえ~文なんぞ交わしやがって!!」
「・・・監視なんて全然気がつかなかった・・・くそ・・・」
「聞いてんのか!?」

早速土方に呼ばれて、お説教をくらう自分はともかく、、何故か同じく呼ばれている斎藤に、総司は首を傾げる。
斎藤は総司が千鶴と文のやり取りをしていた、と知って不満を表情に漂わせている。
ということは、斎藤はそんなことしていないのだ。ならば何故?

「どうして斎藤君も呼ばれているんですか?」
「あ?そりゃおまえ・・・「私がお願いしたんです」

そっと土方の後ろの戸を開けて、千鶴がおずおずと姿を現す。
二週間ぶりに姿を見て、思わず二人は無言になる。
久しぶりに見る千鶴はやっぱり可愛くて…

「二週間経って・・・お二人より私の方が音をあげちゃいました」
「・・・会いたかったです」

向けてくれる笑顔の瞳から、柔らかい涙が落ちている。
その涙が嬉しくて、胸が締め付けられる。

「土方さん、無理言ってすみません」
「いや…そろそろだな、とは思っていたしな」

そう言うと、土方は斎藤の方へ近づき、ぽん、と肩を叩く。

「禁止令解除だ。斎藤、よく我慢したな」
「副長・・・ち、千鶴・・・」
「斎藤さん、大丈夫ですか?顔色悪いみたい・・・」

たたっと傍によって、斎藤の顔を覗きこむ千鶴に、ずっと会いたかったその笑顔に。
見つめられることがこんなに嬉しいと思わなかった。
頬を染めあげる熱も今は気にならない。ただただ、千鶴を見ていたくて・・・

「ちょっと待った、・・・僕は?」

甘い雰囲気になりつつある二人を苛々しながら見ていた総司は、耐えられずに口を挟む。

「おまえはまだだ!!」
「何でですか!?僕は言われたことは守ってます。見てないし、近づいてないし、話してもないし」
「文は会話のようなものだろ!ダメだ」
「納得できません」
「総司、そう言うな、おまえも同じ日に解除だと、平等ではないだろう?」

いつの間に来ていたのだろう。近藤が四人のやり取りを苦笑いしながら見つめていた。

「近藤さんっ!・・・・で、でも・・・・・」
「総司も明日になれば、解除でいい。今日は・・・我慢だな」
「・・・・・・・・・・・・はい」

落ち込む総司を見て、千鶴が何か言いたげに近藤を見て、近藤はこくっと優しい笑顔で頷いた。

「沖田さん、明日・・・明日いっぱいお話しましょうね?私待ってますから・・・」
「千鶴ちゃん・・・うん、いっぱい話そ「よし!斎藤!今日は非番だろ?千鶴と出かけていいぞ」

「よろしいのですか?」「え~~~~~!?」

「土方さんあんまりですよ、今だって二人の会話を邪魔して・・・「おまえはまだ禁止の身だろうが!!」

ギャーギャーと騒ぐ二人を背に隠して、近藤が斎藤と千鶴の背中をそっと押す。

「ほら、行ってきなさい」
「はい!・・・斎藤さん、じゃあ、一緒に・・・」
「ああ、行こう」

見るのも、言葉を交わすのも、並んで歩くのも、全てが千鶴といることで愛しい時間に変わる。
門を出たところで、きょろっと辺りを見回した後、斎藤はそっと千鶴に手を差し出す。

ずっと思い描いていた表情以上の笑顔で、千鶴はその手を預けてくれた。



明日からは、また総司と斎藤の戦いが始まる・・・





END






た、楽しく書かせて頂きました!!
ちょっと最後は斎藤さん寄りかもですが、沖田さんがずるするから(笑)

艶姿、千鶴禁止。出来ればもっともっと苦しむ二人を書きたかったのですが(←)
やっぱり可哀想だし、長くなるし・・・

次の日から、沖田さんこれでもか!!ってくらい甘えたくると思います。
そして屯所には元通り、賑やかな三人の声が聞こえてきそう・・・^/^


ここまでお読みいただきありがとうございました!