艶姿をもう一度

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「ねえ、どっちと寝る?」
「はい?」

総司の質問に、千鶴がきょとんとしていると斎藤がはあ、と溜息を洩らしながら

「別々に決まっているだろう…からかうな…」
「斎藤さん、大丈夫ですか?なんだかお声がしんどそうです」
「何、あれしきのことで疲れたの?」

総司の情けない、というような響きをもたらされた言葉に斎藤はむっとして、

「違う、副長のお気持ちがよくわかる、と思っているだけだ」
普段、いつも総司に手を焼くあの人が、どれだけ大変だったのかを、ここ二、三日で痛感する。
「どういう意味?」

むっと睨みを利かせて斎藤を見る総司に斎藤は、そのままの意味だと言い放った。
バチバチと火花が飛び散りそうな雰囲気になってきた時、不意にお部屋の支度出来ましたと背後から声がかかる。
天の助けとばかりに千鶴は、はい!と勢いよく返事をして、二人に部屋に行くように促す。
二人はその場は苛つ気持ちを押さえて千鶴と共に部屋に向かった。


部屋に辿り着くと、すでに三つの布団が敷かれていた。
三つの布団を敷くとやっぱりもうぎゅうぎゅうになるようで、それぞれの布団はぴったりくっついている。

「・・・・・・・千鶴ちゃんは左側かな」
「左、ですか?」
「うん、で、僕が真中」
「…そう言うと思っていたが、まかり通ると思っているのか?」
「うん」
「・・・・・・・・・・」

斎藤がまた不機嫌を露わにしてきたので、千鶴は慌てて、声を発した。

「真中!真中がいいです!私も」
「まあ、そうなるだろうな…安心しろ、寝ずに番をするから」
「いえ…眠ってくれる方がいいです」

本気で一睡もしないような気がする斎藤に、千鶴は心配になりそっと袖を引っ張る。
甘えたな子供がおねだりするように。
その仕草に斎藤はふっと笑みを漏らして、心配するな、と声をかけた。

「…僕も寝ずに番をしようかな」
「え!?だめですよ、沖田さんも眠ってくださいね」
「・・・・なんで僕の時は、袖くいっがないの」

むっとして、そのまま右側の布団にごろっと横になる。

「僕ここ、ね」
「好きにしろ」

そう言葉を返した途端ににやっと笑う総司の表情が気になる。
・・・なんだ?何かあるのか?

ちょっと千鶴ちゃんこっちおいでと手を振って千鶴を呼び寄せる総司。
そのまま千鶴が警戒しない程度に近づいて、こそっと何かを小さく話せば、たちまち真っ赤になる千鶴の顔。

「総司!またおまえは変なことを…」

怒気を発して、斎藤が二人に近づこうとした時、すみません、とまたもや声がかかった。

「雪村様は白粉などを落とさなければいけませんね、着替えはありますか?」
「あ、着替え!・・・着替えは全部置屋に・・」
「では、何か用意しましょうか?」
「お願いできますか?」
「はい、では付いてきてください」

じゃあ、お二人とも、先に寝てて構いませんから。と声をかけて千鶴は部屋を出て行く。
残された二人は何とも言えない雰囲気であった。

「先ほど、千鶴に何を言った」
「気になるの?そうだな〜…教えてあげてもいいけど」

総司はにっと笑うと、話そうとして、ふと、止める。

「話しても、寝る場所は変えないからね」
「?ああ…わかった」
「千鶴ちゃんはね、大体左側を向いて寝るんだよ」
「・・・・・・・」
「だから、僕の方ばかり見て寝るってこと、それを言ったら真っ赤になって…可愛いよね〜」

楽しそうに、嬉々として話す総司に、これ以上ないくらい苛立つこの気持ちは何だろうか。

「一つ、聞きたい」
「何?場所は変わらないよ」
「…(場所も変わりたいけど)何故、おまえはそんなことを知っている?」
「屯所にいる時、いつも起こしに行ってたから」
「・・・・・・・・・・・・」
「傍にいると、手とか伸ばしてくるんだよ?だからこっちが…」
「変われ」
「は?」
「おまえがそちらだと、問題が起きそうだ、変われ」
「何言ってるの?変わらないって約束でしょう?」

バチバチと千鶴が戻る前にまたもや火花を散らす二人だった。






「密書の存在が新選組にばれただとっ!?」

深夜、ある屋敷内にの一室にだけぼんやりと行灯の明かりが灯っている。
静寂の世界に、静かな驚きの声が響く。

「はい、明日にでもご家老様に確認をとるとのこと。これでは計画は・・・」

淡々と話を進める男に、その主人らしき男はきっと睨みを利かせてくる。

「まさか…貴様が裏切ったのではないのだろうな?」
「私が?何故…私ではなく雪村千鶴の身請けを快く思わない者の仕業です」
「そいつらは何故、密書のことを知っていた」
「・・・・・・さあ、角屋の方で口を割らされたんじゃないでしょうか、腕の立つ者でしたし」

むうっとそれっきりその主人は黙りこむ。
報告した男は、これで計画は失敗に終わると思っていた。
それで・・・いい。そう思う自分に少し驚きを感じる。けれど、主人は不意に口を歪めるように笑う。

「まあ、いい。新選組が確認をとるなら・・・考えがある」
「・・・・考え?まだ、何か・・・・・」
「いや、いい。貴様は下がれ、雪村千鶴が貴様の報告通りの者なら・・・計画に支障はない。むしろ・・好都合だ」
「・・・・・・・・・・・」

ふふっと野心に満ちた表情を隠さずに、何か思案するような主人に、その男は無言で部屋を去る。
何を企もうと、新選組に気が付かれた今、事はそううまく運ばないだろう。
男はもうここにはいたくない、と言うように、足早に部屋を出た。