70000hit御礼 沖千SS



「強風にご用心」



ヒュ〜…ガタガタ…
今夜は一段と風が強いみたい…
でもまあ、明日の朝には収まるだろう、と千鶴は手を止めることなく繕いものを進めていく。

それをつまらなそうに見ている子供のような男が一人。
見ているだけでは耐えられなくなり、相手をしろ、とあの手この手で千鶴の気を引くのだけど…
これまでその手段に乗せられて、繕いものをつい放棄してしまった毎日だった。
今では溜りにたまったものを何としても片付けなくては!と、今日ばかりは千鶴も頑固にチクチク繕っていた。

「・・・強情〜千鶴、僕がさみしがっているのに…繕い物をとるの?」
「・・・総司さん、この横にある繕い物を見て…どうしてそんなこと言えるんですか」

今日は先に寝ててくださいね、私も頑張って終わらせてから寝ます。と優しく微笑まれても…
寝るのには千鶴が横にいなきゃ意味がない。

「千鶴、僕はね、いくら着物がほつれていても構わないから。だから一緒に寝よう?」
「総司さんにそんな格好してほしくないです!それに着物だけじゃなくて…色々…手拭いとかも足りないし」

・・・あくまで、一緒に寝る気はないらしい。
千鶴はこうなったら頑固だ。

「じゃあ・・・終わるまでここで寝「だめです。今日は風も強いですし・・・寒いですよ?」

千鶴は繕いものを一端止めて、総司の顔を見上げると・・・

「総司さんが風邪ひいたら大変です。だから・・・」
「え〜でも・・・」
「総司さんが傍にいないと、私もさみしいから・・・頑張って早く終わらせますね」

千鶴はにこっと微笑んで…特にそんな気はないのだろうけど。
・・・ずるい。そんな顔で言われたら強く言えない。
それに、これでお話はおしまい、とも言われた感がある。

総司は口を尖らせて、ふと、玄関の方に目を向けた。

「・・・ねえ、千鶴?トントンって誰か戸を叩いてない?」
「・・え?・・・・・・・・・・・・・聞こえないですけど・・・今日は風が強いのできっとそのせいですよ」

千鶴がそう言っても、総司はまだ玄関の戸の方をじっと見て・・・

「ほら、また聞こえる。誰か来たんじゃない?」
「え・・こんなところに、しかもこんな時間に誰も来る人なんて・・・」
「僕、見て来るね」

そう言ってその場を去った総司はなかなか帰ってこない。
ふと、心配になって千鶴が玄関の方へ向かえば、ちょうど部屋に戻ろうとしていた総司とばったり。

「総司さん、何していたんですか?」
「うん?だって、どうしても音が聞こえた気がして・・・ちょっと家の外も見てた」
「本当に風邪引いちゃいますよ!もうお布団入ってください」
「はあい、おやすみ、千鶴」

やれやれ、仕方ない、と千鶴にちゅうっと口付けを落とすと、無理しないんだよ?とそのまま総司は床についた。
千鶴はよし、と再び気合いを入れてチクチクと繕いものを始めたのだけど・・・

ビュ〜・・・・・ガタガタッ・・・・ひゅ〜…トントン…

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ん?トントン…?き、気のせい気のせい…

ひゅ〜…ガタガタガタッ・・・トントントン…

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・風強いな…

ゴ〜…ゴトンッ・・・・トントン…

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・やっぱり気のせいじゃない!トントン聞こえる…

一度恐怖を覚えると…気にしていなかった風の音まで怖くなる。
トントンと戸を叩く音は…まだ聞こえ続けていて…

ううっ千鶴!様子見に行ってみる・・・?
意思は玄関に向かっていたのだけど、震える足は総司が寝ている寝室の方へ向かっていた。

「・・・総司さん、もう眠りました?」
す〜・・・・穏やかな寝息が返事をするばかり。
「ううっ総司さん今日寝るの早い・・どうしよう・・」

もう音は鳴り止んだだろうか?そっと耳をすませると、まだトントンという音は聞こえる。
あれはどう考えたって…誰かが戸を叩いているようにしか聞こえない。

恐怖で繕い物のことはすっかり忘れた千鶴は、そっと総司の横に入る。
怖さを紛らわせるように総司の手を探してキュッと掴むと身を寄せた。

「・・・・・ん?・・千鶴?終わったの?」
「・・・え?あ・・・終わってないんですけど・・・あの、トントンって音が私にも聞こえて・・・」

掴んでいた手を引っ張られ、胸の中に引き寄せられる。

「怖くなったの?」
「・・・・はい・・・・・あ、ほら、また聞こえた!聞こえますよね?総司さん」
「ん?ん〜…聞こえないなあ」
「え!?」

暗闇の中、首を傾げているのか、そんな総司の様子に千鶴はおさまってきていた恐怖が再び頭をもたげてきて…

「き、聞こえますよ、ほら・・・い、今も・・・」
「?風の音はするけど・・・もう寝なよ、寝たら怖くないよ」
「でも、こんなに怖かったら・・眠れません・・・」

ううっと総司の胸にしがみつく千鶴に、千鶴の見えない頭上で顔を緩めまくっている総司さん。
千鶴の頭に音をたてて口付けをすると、そのまま少し体勢を変えて、おでこに、瞼に、鼻に、頬に、耳に…順番に優しく口づけた後に、じらすように唇の端に一度、その後深い口付けを落とした。

「ん・・・・・」
「・・・千鶴」

吐息交じりの声を出して、息継ぎ間に優しく名前を呼べば、はい、とかわいらしい返事と共に、しがみつく腕がとても愛しい。

「怖くて眠れないなら…僕が、怖くないようにしてあげる」
「・・・・・・え?あ、あの・・・・」

何となく意味を察して、千鶴が慌てだしてももう遅く、すでに総司の頭は千鶴の首下に埋められていて。
何度されても慣れない優しい愛撫に、恐怖はどこかへ飛んでいき、頭の中は総司でいっぱいになる。

暗闇の中、相変わらず風の轟音が鳴り響く。
けれど二人の耳に届くのは、お互いの吐息だけ。
朝まで繰り返された愛の営みが、眠りに必要なけだるさをもたらしていく。



朝、千鶴はすっかり戸を叩く音のことを忘れて、幸せそうな寝顔を総司にさらしていた。
何も身につけずに、綺麗な白い肩を上下させて穏やかな寝息を立てている。
千鶴よりも早く目を覚ました総司は、そんな千鶴をもう一度抱きしめて顔を摺り寄せた後、千鶴が起きないように、唇をそっと落とした。

…もうちょっとこうしていたい…千鶴の傍を離れるのは嫌だと思う。けれど…仕方ない。
総司はゆっくり布団を抜け出るとそのまま、忍び足で玄関へ向かった。
昨夜問題であった戸を開いてすぐ上にある、何かを手に取った。
板に紐を巻きつけて、剣玉のように紐の先に丸いものがついた…何の用途に使うかよくわからないもの。
それはもちろん…音の正体である。

「う〜ん・・・ちょっと怖がらせ過ぎちゃったかな…あそこまで怖がるとは・・・」

申し訳なさそうに表情を曇らせた後、それでもにこにこ顔が笑ってしまうのはやはり昨夜の可愛い可愛い嫁を思い出したからだろうか。

「でも、まあ、千鶴が一緒に寝るって言ったらこうはならなかったし」
「・・・風が強い日は・・・また使おうかな」

あんなに怖がって、自分に縋ってきた千鶴。
恐怖でいっぱいだったのに、恐怖を忘れて…自分だけを見て、自分だけでいっぱいになる千鶴が…可愛いくてたまらなかった…やっぱり…また見たい。

そうだ、そうしよう。
そう思えば行動は早く、千鶴が起きる前に、とその仕掛けをこっそり隠してしまったのだった。

恐怖を消し飛ばしてくれた夫に、感謝しつつ寝入った妻は、夫がまたそんなことを画策しているとは知らず。
種明かしを理解するまで、風の強い日をこっそり心待ちにしていた夫にずっと感謝していたのであった。







END






ノリで書きました!
ED後の二人です。だから何しても…問題ない、ですよね?^/^
仲睦まじい二人のところは…頑張ってあっさりにしました(笑)最初の文章なら下手したらゆるく年齢制(自粛)

種明かし、知った千鶴はどうしたんでしょうね(笑)
でも千鶴愛すればこそなので…許してあげてほしいですv
結局、沖田さんの方が一枚上手。みたいな感じにしたかったんですが、どうでしょう?
沖田さんが仕掛けを設置したのは、もちろん…音がするって様子を見に行った時。

屯所時代、子供とよく遊んでいた沖田さんなら、こういうのすぐに作れそう・・とか思ったり(笑)
思いついてすぐに実行、大成功となったのでしたv