桜、夢匂い立つ。





このお話は、未来(ED後)の総司さんと、屯所時代の沖田さんの意識が一時的に入れ替わるという内容です。
受付られない方もいらっしゃると思いますので、無理だと思われた方はお戻りください。
甘めのお話ですv







近藤さんに頼まれた使い。
何故か屯所に居候する千鶴を、一緒に連れて行ってあげなさい。と言われて。
近藤さんの頼みなら断る理由もなく。千鶴を一緒に使いに連れ出した、その帰り道。

どてっと思い切り転んだ音がすぐ後ろでする。
振り向かなくても何が起こったのかはすぐにわかる。

「・・・・君って本当に鈍いんだね、ただついて歩くことも出来ないの?」
「…っすみません」

急いで起き上がる少女は、起き上がるのに手伝おうとして差し出した手に、一瞬戸惑ったような表情を見せて素直に応じない。
手を取らない千鶴の腕を、遠慮なく掴んでそのまま引き起こす。
起こした瞬間に、うっと軽く眉間に皺を寄せて、それを慌てて隠すように俯いた。

「怪我したの?」
「いえ、大丈夫です」

大丈夫ってことは、やっぱり怪我したんじゃないか、と心の中で思いつつ。
う~んと何か考える振りをすると、ビクビクしながらこちらを覗っている。
そんな態度をするから、からかって、遊びたくなるのがわからないのだろうか?

「おぶっておげようか?」
「えっ!?そ、そんな、いいです!大丈夫です!」
「そう、じゃあちゃんと付いて来てよ?迷惑かけないでね」
「はい」

にこっと形だけの笑顔を見せるとそのまま、歩む早さを変えれば途端に千鶴は付いて来れなくなる。
ちらっと後ろを振り返れば、想像した通り足をひょこひょこさせて、それでも必死に後を追いかけてきてる。

「ひとつ、ふたつ、みっつ、よっつ・・・・・・・・・・・・・・」

ようやく追いついた千鶴が、表情を変えずに何やら数を数える総司に、首を傾げて口を開いた。

「・・・沖田さん?何を数えているんですか?」
「君が僕に追いつくまでの時間。とおを軽く超えたね」

千鶴が申し訳なさそうに、すみませんと頭を下げる。

「迷惑かけてるよね」
「はい・・・」
「じゃあ、素直に言うこと聞いたら?はい」

千鶴の前に背を向けて座りこむと、戸惑いながらもその体を背に預けてきた。

「お、お願いします」
「うん、いいよ・・・・・・・・運びにくいからもっとちゃんともたれてよ」
「え、も、もっと?」

千鶴は今、総司の肩に軽く手を置くだけで、体重がそのまま総司の腕に乗っているようなもの。
別に重いと言うわけではないけど、これだと歩くたびにふらふら揺れて歩きにくい。

「こう、ですか?」

遠慮がちに頭を背中に乗せるように。
確かに先ほどよりはもたれているけれど…

「違うよ、腕ちゃんと僕の首に回して?それでちゃんとひっついてよね」
「ええっ!それはちょ、ちょっと…」
「千鶴ちゃん、おぶってもらっているのは誰?」
「・・・私です」
「迷惑かけているのは?」
「私です・・・・」

弱々しい声でぽつっと呟くような返答の後、おずおずと回される腕。
自然に体をぴったりと預ける形になった。

回された腕は少し小刻みに震えているように見える。

「・・・・・・・僕が怖いの?」
「え?ち、違います!これは・・・」

慌てる千鶴に、吹き出しそうな息を耐えていつものようにからかっていく。

「わかってるよ、緊張してるんだよね、君男慣れしてないし」
「・・・・わかってるなら聞かないでください!」

千鶴が恥ずかしさに頬を赤くして困る様を見るのは、自分の中では最近一番のお気に入りで。
その状態までもう少し、と言ったところだろうか?

「ところで、千鶴ちゃんご飯食べてる?」
「はい。頂いてますけど・・・お、重いですよね、すみませ「違うよ、そうじゃなくて・・・」

一呼吸置くと千鶴の顔を視界に入れるように、顔だけ向きを変えた。

「可哀想なくらい・・・痩せてるから。僕と変わらないんじゃない?」
「・・・・・・・・~~~~~お、下ります!!下ろしてください!!!」
「えっ!ちょ!!千鶴ちゃん動かないで…」


無理やり下りようとした千鶴を、下ろさせまいとしたのがいけなかった。
均衡を崩して、そのまま後ろにひっくり返りそうに、咄嗟に千鶴をかばおうと動いた体はそのまま頭を打ち付けてしまった。






・・・・・痛くない。あれ?結構頭を強く打ったと思ったけど?
薄く目を開けると、青空が真っ先に目に入って。頬が何だかくすぐったいのは風に揺られた葉が、自分を撫でていたから。

「・・・・ん、夢?」
「あ、総司さん、お目覚めですか?」

とたんに視界が女の人でいっぱいになる。
下ろした髪、きちんと女性の格好をして、見たこともないような柔らかい笑顔で自分を見つめるのは…

「――千鶴ちゃん?」
「…千鶴ちゃん?ふふっ昔の夢でも見たんですか?」

さっきまで首に腕を回すだけで震えていた子が、慣れたような手つきで、優しく僕の髪を梳く。
その小さな手を見て、やっぱり千鶴ちゃんだと何故か確信出来た。
すごく現実に見える夢だと思う。

…夢にまで出て来るって…しかもこんな実感のある…

千鶴がしたように、同じように髪に手を伸ばせば、いつもびくっとする千鶴は嬉しそうにされるがままになっていて。
こんな笑顔、見たことないのにどうしてこんなに鮮明に、夢に浮かんでくるのだろう。
何故だかからかうことを忘れて、自分を見つめる千鶴をじっと見返す。
髪を梳いて、頬を同じようにゆっくり優しく撫でると、千鶴が総司の手をそっと握った。

「・・・総司さん、桜、見に行く約束ですよ?」
「桜?約束なんかしてないけど」
「もう、寝ぼけてるんですか?」

少し頬を膨らませて自分を見る千鶴に、ドジで、鈍くて、からかいたくなる千鶴が垣間見えた気がした。
「千鶴ちゃん」を頭に浮かべると、目の前にいる「千鶴」に総司は悪戯っぽい微笑みを浮かべた。
この千鶴ちゃんも、同じ反応をするだろうか?

「桜、見に行こうか」
「はい!」

立ち上がった総司の横に自然に立って、そっと手を繋いでくる。
寄り添うようにする千鶴に、からかうどころか主導権を握られたようで。

「あのさ、手を繋ぐのもいいけど。おぶってあげる」
「?え、どうしてですか?」
「どうしても、千鶴ちゃんは嫌?」

きょとんとした顔で自分を見上げる千鶴は、一瞬間を空けた後、嬉しそうに頬を染めた。

「はい、沖田さん」

悪戯っぽい微笑みで逆にこちらの顔がのぼせそうになる。
『沖田さん』と呼ぶから、現実の千鶴のような気がして。

・・・これは僕の願望?・・・まさかね。
総司は千鶴に先ほどしたように背を向ける。

千鶴の腕は何も言わなくても総司の首にしっかり回された。







「沖田さん!沖田さん!」

・・・・うっ・・・・寝ていただけの筈なのに・・・頭が痛い・・・
というか、沖田さんって・・・・昔の千鶴みたい。

ぼんやりする視界が良好になるにつれ、心配そうに泣きそうな目をした千鶴がいる。
千鶴がじっと見ている、けど・・・・・

「千鶴?どうしたのその格好・・・」
「え、ち、千鶴?あああの…さっきと格好変わっていませんけど」

赤くなったり、困ったり表情を一変させる千鶴に自然に笑みが湧く。
可愛いなあ~男装しててもやっぱり可愛い。

「千鶴、おいで」

・・・どうして沖田さんは急に呼び方を変えたのか、わからない。
わからないけど、ここで近づいてはまたからかわれる気も・・・・

「・・・・・?どうしたの?おいで?」
「・・・・・・(お、おいで!と言われても!やっぱり頭を強く打って変になったのかな)」

一向にその距離を縮めない千鶴に、我慢できなくなった総司が千鶴に歩み寄ると・・・

ぎゅうっ

「・・・・や、やっぱりからかうつもりで!!」
「からかってなんかないよ、夢とはいえ、千鶴ひどいよ」

・・・・・夢?夢だと思ってるの?

「あの、夢なんかじゃ・・・」
「でも夢にしては妙に現実感が・・・ま、いっか」

よくないです!!!
抵抗しようとした千鶴に、総司からいつもとは違う警戒を解くような優しい声。

「…好きだよ、夢の中にも出て来ないとさみしいから・・・今すごく嬉しいんだ」

・・・・・・・・・・・・・・え?

「時々…考えるんだよね、もっとこの頃の千鶴に優しくして、一緒にいる時間を増やしてればよかったって」

・・・この頃?

「千鶴も、一緒の夢見てたらいいのに・・・そしたら同じ思い出になるのにね」

・・・沖田さんってこんなに優しい表情するんだ…
いつもからかわれてばかりで、顔をみれば口を弧に描いて何か悪企みするような顔。
だから最近は目が合えば逸らすようになっていたけど・・・

「千鶴、何かしたいことない?」
「え、あの・・・・」

千鶴はそう言われて、素直に考えて、したかったことを口に出来た。
きっと、視線がものすごく優しいから・・・

「あの、桜見たいです。この近くにまだ1本咲いているところがあるって・・・」
「うん、いいよ。行こうか」

総司は千鶴の手をきゅっと繋いで、絡ませる。
その速度がゆっくりで、痛い足もこれなら…と歩いていたのだけど。

「・・・・・・・何かさ、遠い」
「え?」
「遠い。ほら、何でこんなに距離空けるの?もっとこっちにおいでってば」

くいっと総司に引き寄せられるように引っ張られた時、痛めた足に思い切り力を入れてしまった。

!!

つい顔に出してしまった・・・でもおんぶは嫌だな・・・
そおっと総司を見ると、総司は何故かじっと千鶴を見て、考えこんでいるようで。

「お、沖田さん?すみません、足・・・・せっかくゆっくり歩いてくださったのに」
「・・・千鶴、あのさ、これ・・・・夢じゃない?」
「え?」

何かにはっと気がついたように、総司は自分の後頭部を押さえている。

「頭痛むんですか?夢じゃないですよ。沖田さん私がおぶさっている時にその・・・均衡崩して倒れて・・・」
「で、頭を打った、と・・・・・・・・やっぱりこれ・・・・・」

夢じゃないと思えたのは、今から見る桜が、その時のことが自分にとって、大切な思い出だからだ。

「そっか、うん。そっか・・・なるほど」
「?沖田さん?」

総司の様子を覗う千鶴は心配そうな色を浮かべている。
千鶴は、昔から心配性だったな・・・

安心させるように、そっとゆっくり頭を撫でて。

「うん。大丈夫。桜見に行こうか」
「・・・・はい」
「千鶴、足怪我してるんだよね、僕がおぶって・・・」
「い、いいです!それは遠慮します!」

真っ赤になって首をブンブン横に振る。
ああ、そんな顔見たさに、いっぱい意地悪したっけ・・・今でもか、とつい口を緩ませてしまう。

「じゃあ、ゆっくり歩こう。はい」
「・・・・はい」

差し出した手は、戸惑いながらも繫れた。
先ほどよりは近くなった距離。
二人でゆっくり歩く先には・・・一本の桜が見えてくる。

「あっ・・・まだ咲いてましたね!!見られて嬉しいです・・・・沖田さんありがとうございました」
「・・ねえ、千鶴、御礼ならさ・・・」

本当は口付けを、と言いたいところだけど、我慢しよう。
過去の自分に、ちょっとだけ餞別でも・・・とゆっくり口を開いた。

言葉を告げて、まだ少女の面差の千鶴に、僕を好きになってね、と願いを込めて繋ぐ手に力を込めた。






「・・・・・あれ?」
「沖田さん、目が覚めました?」

視界の隅に映るのは、自分がよく知る千鶴。
ズキっと痛む頭を押さえながら起きるともう辺りは夕方で、いつの間にか桜の木の下にいる。

「何でここに…」
「覚えてないんですか?・・・・桜を見たいって私が言ったから連れて来てくれて・・・」
「僕が?・・・そんなの言った覚えないけど」

眉を寄せて、桜を見上げる総司の表情はいつもと同じ。
大体さ、と口を開きかける総司に、千鶴はよし、と拳に力を入れて。

「言いましたよ…あの、ありがとうございました。外の空気に触れられて・・・桜まで」
「御礼なら近藤さんに言いなよ、僕は言われなきゃ使いに君を連れてないし」
「でも、桜を見せてくれたのは沖田さんです」

いつもなら、すぐに目を逸らす千鶴が、逸らさずに夢で見たような笑顔を見せる。

「・・・・・・っいいよ、そういうの。…これくらいで、喜んで・・・馬鹿な子だね」

すくっと立ち上がる総司に千鶴も慌てて立ち上がった。

「もう十分見たよね?帰るよ・・・・・歩ける?」
「はい」

見えないけど、きっとまだ歩くには痛いんだろうと思う。
足をかばって歩いているのがバレバレだ。かと言って、おんぶは嫌と言うだろうし・・・

ゆっくり歩こうとは思うけど、千鶴のこれなら無理じゃない、という配分がわからない。
手をつなげば・・・
無言で、手だけを後ろに差し出す。顔は前を向いたまま。

『手を・・・』
言おうとした言葉が出る前に、千鶴の手が自分の手に重なる。
思わず振り返ると、【千鶴ちゃん】の今まで見たことのない笑顔。

「ありがとうございます。沖田さん」
「・・・いいよ、これくらい」

不意に見せる総司の笑顔は、さっきまでの総司のものと重なるけど。
でもその時以上に、今の総司の表情は千鶴の胸に残るもので。



『桜見ながら僕が寝てしまったらさ…起きた時、その時御礼の言葉頂戴』
『ちゃんと目を見て言ってね?』
『そしたらきっと…』





きっかけは不思議な出来事。
二人の音が重なったのは今、この時。







END








60000hitの小説がこれです。
こんな無茶な設定の小説を読んで頂いてありがとうございます!!
沖田さんはED後の優しさが、甘さがすごいので・・・
そんな沖田さんを絡ませたくなったんです。

ここまでしっとりとした感じにしようと思いました。
楽しんで頂けたら嬉しいですv






ここから、…ED後の沖田夫妻のその後の話です。
一転ちょっと雰囲気変わって甘で笑いに走るので、それでも大丈夫!という方のみどうぞv









「総司さん、今日はよく寝ましたね」
「うん、とってもいい夢見たよ・・・千鶴、おいで」

桜の下、目が覚めると愛しい妻が自分を覗きこんでいた。
すっと両手を広げると、にこっと微笑んでそのまま胸の中にゆっくりおさまってくれる。

「う~ん・・・・幸せだよね、夢とはいえ…千鶴がおいでって言っても来てくれないなんて。あれは嫌だったな」
「そんな夢を見たんですか?」
「うん。でもいい夢だよ、自分孝行したし」

総司の言葉を考えているのだろうか、黙りこむ千鶴に総司は何だか聞いてみたくなった。

「ねえ、千鶴はさ、初めて二人で桜見た時のこと覚えてる?」
「覚えてますよ!そんなの…当たり前です」

千鶴は体を起こすと、うっすら頬を染めて総司を覗きこむ。

「沖田さんは…総司さん」
「・・・・・・・・・・・・・・は?え、ちょっと・・・何?」

今度は総司が???と考えこむ番になってしまった。

「私の中で、桜見た時の・・・『沖田さん』の笑顔はとっても大切な思い出なので、よく覚えていたんです」
「あの時、どう考えても態度おかしかったし、それに・・・」

言葉をとぎらせて、胸に顔を寄せてくるのは、きっと照れているからだ・・・何だろ?

「総司さん、好きとか言うし…あれは今考えればどう考えても総司さんです」
「…・うん、最初夢だと思ってたから…でもさ、それって・・・」

胸に顔を寄せる千鶴をそのまま閉じ込めて、どんな隙間もないほどにぎゅうっと抱きしめて、嬉しそうに・・・

「同じ夢見てたってことになるのかな、思い出・・・増えたね」
「はい!」


桜の下、二人はひらひらと舞いおりる幸せに満たされる・・・・・・





「あ、でもちょっと待って。ということは・・・・千鶴、僕が昔に戻っている間・・・」
「はい、沖田さんが来ましたよ」

にこにこ話す千鶴に総司は途端に口を尖らせた。

「ってことは・・・え、何!あの夢で見たこと全部したってこと!?」
「そ、そりゃ・・・」
「何それ!君は僕のお嫁さんでしょう!?何あんなことさらっとしてるの」

総司の雰囲気がどんどん黒くなっていっています。

「え、で、でも同じ総司さんですよ!?最初は沖田さんって気づかなくて。途中で気がついて・・・」
「それなら!途中でやめてよ!あ~・・・・・昔の自分に苛々する・・・」
「総司さん・・・自分にまで嫉妬ですか?」

ふふっと笑う千鶴に、そんな笑顔ではだまされないと、総司は千鶴に深く口付けを落とすと・・・

「君がそうやって微笑んでいいのは・・・今の僕だけ。わかった?」
「総司さん・・・・はい」
「ん・・・じゃあ家に帰ろう?体も冷えてきたし・・・」
「そうですね、ご飯作ります」

立ち上がる千鶴をひょいと総司はかつぐと・・・

「ご飯は後、千鶴が先」
「え、・・・そ、総司さん!ちょっと待って、待っ・・・・・・!?」


千鶴さんの叫びが届く筈もなく♥